瀬戸康史インタビュー「どんな舞台に
なるのか想像できない」 松尾スズキ
の戯曲『母を逃がす』に挑む

2020年5月7日(木)~25日(月)Bunkamuraシアターコクーンにて、シアターコクーン・オンレパートリー2020『母を逃がす』が上演される。本作は、2020年1月よりシアターコクーンの芸術監督に就任した松尾スズキの作・演出により「大人計画」で1999年に初演、2010年に再演された作品で、今回演出を手掛けるのは、ENBUゼミナールの松尾スズキクラスを経て自身の劇団「はえぎわ」を旗揚げしたノゾエ征爾だ。松尾の教え子であるノゾエがどのような演出をするのか期待が高まる。
自給自足の共同生活を営んでいる架空の農業コミューンを舞台に、そこに生きる人々の切実な日常生活を痛烈な笑いで描いたストーリーで、この集落の頭目代行で住民たちをまとめるリーダー的存在の雄介役を演じるのは、俳優として近年映像をはじめ様々に活躍する瀬戸康史。これまで舞台にも数々出演し、近年ではケラリーノ・サンドロヴィッチ、前川知大、白井晃らの作品に参加し、存在感を発揮してきた。初めて挑む“松尾ワールド”でどのような演技をみせてくれるのだろうか、瀬戸に話を聞いた。
行動の根底にあるものは“愛”
瀬戸康史
――戯曲を読んで、観客的な視点としては面白い作品だと思いましたが、出演する側の視点として瀬戸さんはどんな感想をお持ちになりましたか。
読むだけじゃどんな舞台になるのか想像できない、やってみないとどうなるかわからないな、という感じですね。だからこそ稽古期間というのが非常に大事になってくると思います。それぞれの登場人物が何かに抗っている姿とかは、様々な人に共通している普遍的な所だと思いますし、彼らのとる色々な行動の根底にあるものは“愛”みたいなものだな、と僕は思っています、今のところは。
――瀬戸さん演じる雄介は、家族との関係性が人格形成にかなり強い影響を及ぼしているように感じられました。雄介をどのような人物だと思われますか。
人格がどう作られるかというのは、環境が大きいと思うんですよ。どういう場所で過ごしたか、どういう人と関わってきたのか、というところからその人の根っこの部分は作られると思うので、やはり雄介もそうなんじゃないでしょうか。でもその運命みたいなもの、しがらみみたいなものと戦おうとしているところはすごく共感できますね。彼の置かれている環境も、人によっては「窮屈だな」と思う人もいるだろうし、逆に「幸せだな」と思う人もいるかもしれない、そんなふうにいろいろな見方ができる人物だなと思っています。
瀬戸康史
試練を乗り越えないと豊かにならない
――今回この作品に瀬戸さんがご出演されるということに驚いている人は多いと思います。瀬戸さんにとって非常に挑戦的な舞台になるのではないでしょうか。
舞台に限らず作品を選ぶときには、自分が演じている姿を想像できないものを選びがちです。もちろん、新しいところに踏み出すというのはとても怖かったり、大丈夫かな、という不安な気持ちもあるんですけど、試練が欲しいというか、そういうものを乗り越えないと役者としても人としても豊かにならないんじゃないかな、という気持ちでいます。
――ノゾエ征爾さんの演出作品には初めてのご出演です。
お会いしてお話しさせていただいたら、ノゾエさんも想像できないことに面白さを感じていたりとか、この作品をやる上で“漠然とした恐怖心”のようなものが大事だと思っていたりとか、抱いている感覚がとても似ているのでちょっと安心したところはありますね。それから、共演者も初めての方がたくさんいらっしゃるので、みなさんとどういう感じになるのか楽しみです。

瀬戸康史

――ノゾエさんが公式コメントで出演者の皆さんのことを「素晴らしき珍獣たち」と表現していらっしゃいました。本当に個性的な方々が多方面から集まっていますよね。
多分、先輩方はどうかわからないですけど、若手はドキドキしてると思いますよ、僕も含めて。ノゾエさんが「この作品の出演依頼に首を縦に振るっていうことは、ちょっとおかしな部分を持っている人たちなんでしょうね」って言っていて、まあそうだなぁ、と思いました(笑)。
松尾ワールドに「果たして足を踏み入れていいのかな」
――作品の舞台となるクマギリは閉鎖的なコミュニティですが、そこについてはいかがですか。
僕は福岡の筑豊というところで育って、そこはかつて炭鉱で栄えた町だったんですが、地域特有のコミュニティみたいなものが子どもの頃にはまだ残っていたと記憶しています。だからこの戯曲を読んだときに、設定とか割と想像できましたね。
――初演が1999年ということで、当時の社会も色濃く反映されている部分があると思いますが、今回の上演で観客はどういう見方をするのかも興味深いです。
僕みたいにこの世界観というか設定がスッと入ってくる人もいるだろうし、まったく想像できないという人もいると思います。だから観客それぞれがこの作品を観てどこに共感するのか、どこに思いを馳せるのか、という部分はすごい気になりますね。
瀬戸康史
――松尾ワールドに観客として観る側ではなく、役者として出演する側に行く思いはいかがでしょう。
松尾さんの作品はこれまでも観ていますけど、作品に参加できるという嬉しさと、果たして足を踏み入れていいのかな、この場所に行っていいのかな、っていう感じはすごいあります。でもその先が見たい、というような思いですかね。
――瀬戸さんにこの作品のオファーが来たということは、瀬戸さんなら松尾ワールドでやれる、というにおいのようなものが出ているのかもしれないですね。
だとしたら、僕のどこにそのにおいを感じたんだろう。でも、松尾さんの作品を観に行ってる、っていうこと自体が多分そういうことなんでしょうね。
瀬戸康史
――松尾さんの作品は、演技力とは別の何かがプラスアルファとしてないと、なかなか成立させられないように感じます。瀬戸さんご自身にとって、その“プラスアルファ”の部分は何だと思いますか。
それこそ「野生感」みたいなものですかね。あとは、普通そうじゃないよね、みたいな異質感とか唯一無二感とか。
――なかなか際どい表現や、生々しい表現も多く出て来ます。そういう表現を舞台というライブ空間でやることに対しては、プレッシャーみたいなものはあるのでしょうか。
特に気にならないですね。なんか若いときは恥ずかしいとかありましたけど、そういう見られていることに対する羞恥心みたいなものはなくなりました。
――ト書きを読むと役者への無茶ぶりみたいなのもあったりして「こういうの瀬戸さんやるんだ」みたいな、観る側としては楽しみでもあります。
本当ですよね。どうすればいいんですかね。いやでも、ほんと流れに身を任せるしかないというかね、考えて出るかっていうとそういうものでもないと思うし。
瀬戸康史
舞台はお客さん含めて作品になる
――この作品は内容的に映像ではやれない作品だと思います。それを生身の人間でライブでやれるというところが舞台の面白さでもありますね。
そうですね、可能性がまだまだたくさんあるっていうのはどの舞台作品もそうかもしれないですね。芝居という部分では映像も舞台もあまり僕の中では変えているつもりはないですけど、舞台はすごく生きている場所というか、そこがやめられないところでもあるし、生きているからこそ怖い部分でもあるし。
――瀬戸さんはデビュー以来、映像のみならず舞台へも多くご出演されてきました。これまで舞台へ出演してきた経験を、今振り返ってみてどのように感じていらっしゃいますか。
事務所に入ったときから舞台をやらせてもらえる環境があったことにはとても感謝しています。一人じゃできないことでも誰かがいてくれることで乗り越えられたし、役者だけじゃなく照明とか音響とか演出とか、いろんな人の思いやエネルギーが合わさって一つの作品って出来ているんだな、みんなで創り上げるエネルギーってあったかくていいな、ということは当時から感じていましたね。

瀬戸康史

――今も舞台への出演をコンスタントに続けていらっしゃるのは、やはりその経験があったからでしょうか。
やれることの多さみたいな部分で言うと、それは映像よりも舞台の方がはるかに多いし、鍛えられるところもあるので舞台が好きです。あとはお客さん含めて作品になるという、そこがやっぱり魅力なんじゃないかなと思います。
――最後に、公演を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
なんでしょうね、ちょっと一言では言い切れないんですけど……。でも、傍観しようと思ってこの作品を観ていると、いつの間にか中に取り込まれているっていう感覚に多分なると思うんですよ。そこを楽しんでいただければいいのかな、と思います。それで、観終えた後にどう感じたかを僕に教えてください(笑)。
瀬戸康史
ヘアメイク=CHIHIRO(TRON)
スタイリスト=森保夫(ラインヴァント)
取材・文=久田絢子 撮影=iwa

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