兵庫芸文開館15周年記念オペラ『ラ・
ボエーム』制作会見に芸術監督の佐渡
裕ら出席ーー「閉ざされた空間ゆえの
夢のような舞台を」

2020年7月、兵庫県立芸術文化センター(以下、兵庫芸文)が開館15周年を記念して、世界中で愛される華やかな歌劇『ラ・ボエーム』を上演する。兵庫芸文では2006年の『蝶々夫人』、2012年の『トスカ』に続き、3回目となるプッチーニ作品。指揮は開館した2005年より芸術監督としてオペラをはじめ、様々な作品を作ってきた佐渡裕だ。
震災から10年経った2005年に開場した兵庫芸文。阪急・西宮北口駅前に位置し、復興のシンボル的存在でもあり、地域をつなぐ役割を果たしている。それだけに地域の住民に愛されてきた。「毎年、オペラを上演するのですが、開催前日には前夜祭を行い、地域の皆さんと盆踊りを踊ったりします。西宮の地域の方のみならず、兵庫県の方、阪神間にお住まいの方が年に1回の行事としてオペラを楽しんでくださって。劇場という閉ざされた空間がこんなにも楽しいのかということを存分に伝えられる時間も担っていると思う」と、街と劇場がともに歩み、ともに文化を創造してきた実りある日々を振り返った。
先日、同ホールで行われた制作発表会見では、佐渡裕と演出補のマリーナ・ビアンキ、ヒロインのミミを演じるオペラ歌手の砂川涼子が登壇し、本公演に向けての意気込みなどを語った。
本作について「1つの劇場で、オーケストラや演奏者、全てのスタッフと共に舞台を作っていくという、一体感のある重要な出し物」と佐渡は語り、「劇場という閉ざされた空間だからこそ、夢のような舞台を作りたい」と意気込む。『ラ・ボエーム』はフランス・パリが舞台だが、本作ではエッフェル塔やシャンゼリゼ通り、凱旋門という観光名所は出てこない。描くのは学生街で知られるカルチェ・ラタン、そこで生きる若き芸術家たちだ。
佐渡裕(指揮)
パリのカルチェ・ラタンで生活する詩人ロドルフォ、画家マルチェッロ、音楽家ショナール、哲学者コッリーネという4人の若者。ロドルフォはお針子のミミと出会い、恋に落ちる。しかしミミの体は病に侵され、看病するお金もないロドルフォはミミを思うあまり嘘をついて別れを告げるのだった。一方、もう一人のヒロイン、陽気なムゼッタはマルチェッロの元恋人だが、今は年老いたアルチンドーロに囲われている。偶然出会ったマルッチェロとムゼッタの愛は再び燃え上がり……。
貧しくも夢を追う男女の恋と青春を描いた群像劇に、佐渡は「まるで売れない若手の芸人さんのようで」と例える。「団塊の世代の人たちが、私の学生時代はこうだったとか思ってもらえるような、そして、今の若い人たちにもその美しさを感じてもらえる作品なのではないかと思う」と語る。また、プッチーニは単に情景描写だけでなく、人の心理描写も優れているという。「ミミの体の状態がどの程度悪いのか、あるいは悪化しているのか、そうしたものまでがオーケストラに描かれています。そこがプッチーニの面白いところだと思います」と魅力を語った。
役はそれぞれがWキャスト。イタリアからは、オーディションで選んだミラノ・スカラ座アカデミー出身の若手歌手たちが来日。フランチェスカ・マンツォ、ソフィア・ムケドリシュヴィリら、近年スカラ座デビューを果たした逸材の歌声を堪能できる。「非常にレベルの高いオーディションになりました。初めて会う方ばかりでしたが、巡り合うことができました。すごく刺激的な舞台が繰り広げられるのではないかと思います」と佐渡は期待を寄せる。また、日本人キャストについても「演技や歌だけがうまいだけでなく、チームワークが素晴らしい。日本人キャストでしかできないオペラになるのではないか」と語った。
マリーナ・ビアンキ(演出補)
続いて演出・装置・衣装デザインのダンテ・フェレッティに代わり登壇した、演出補のマリーナ・ビアンキが演出プランや舞台美術について語った。「このオペラには、温かみと哀しみのふたつの色があります。最初の設定が冬のパリ。それが4幕になると春になる。そういった四季のコントラストもありますし、恋人たちの出会いと別れというコントラストも存在します」と、その対比を楽しんでほしいと話した。また、4人の男性キャラクターに対しては、「必ず一人は共感できると思う」と、人物描写にも親近感が持てそうだと語る。
本公演は美術にも注目だ。ダンテ・フェレッティは映画『アビエイター』『ヒューゴの不思議な発明』といった作品でアカデミー賞美術賞を受賞しており、『スウィーニー・トッド』『薔薇の名前』などの著名な映画の美術も手掛けている。ミラノ・スカラ座ではリリアーナ・カヴァーニ演出『椿姫』の装置デザインを担当し、高評価を得た世界的デザイナーだ。
原作は屋根裏部屋が主な舞台となっているが、本作では若者たちは船の上で生活する。「若者たちは家が借りられないとみんなで船を借りる習慣が今もあり、そのアイデアが元になっています。これは私の解釈で、ダンテとの打ち合わせの中で感じたことですが、船の上で生活をするということは、自由を象徴しているのだと思います」と明かした。
砂川涼子(ミミ役)
ミミ役を演じるオペラ歌手の砂川涼子は、兵庫芸文初登場となる。「『ラ・ボエーム』を初めて歌ったのは十数年前で、その後にたびたび演奏する機会や、コンサートでもリクエストをいただき、いろいろなところで披露させていただきました。それだけにミミという役は、私の中で特別なものとしてあります。声の変化もあるので、今作ではアプローチの仕方も変わってくると思いますが、ミミという1つの役を深めていけることは、歌手としてとても恵まれていることだと改めて思います」と出演の喜びを語った。
なお、砂川もオーディションでこの役を掴み取った。「(クリエイター、キャストは)スペシャルな方ばかりなので、すばらしい稽古を積めることが非常に刺激的で、新しい表現ができることも楽しみにしています」と声に熱を込めた。
最後に佐渡は「オーケストラとすべてのスタッフが1つのものを作り上げるというところに、兵庫芸文の魅力があると思っていて、今回はそこに世界を代表する演出家や歌手たちが集まり『ラ・ボエーム』という作品を作ります。クリスマスのシーンでは、賑やかなものも仕込んでいますので、悲恋の物語ですが、幸福感とか、そういったものを大事に伝えていきたいと思っています」と語った。「オペラ中のオペラ」と名高い傑作を、世界で活躍する豪華チームで紡いでゆく。
歌劇『ラ・ボエーム』は、兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールにて、7月24日(金・祝)~7月26日(日)、7月28日(火)~30日(木)、8月1日(土)、8月2日(日)の全8公演で上演される。
歌劇『ラ・ボエーム』
取材・文・撮影=Iwamoto.K

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