avecビーズ第15回公演は、幾度となく
再演されてきた北村想作品『もろびと
こぞりて』を四人芝居バージョンで

年に一度、2月の公演が恒例となっている〈avecビーズ〉の第15回公演『もろびとこぞりて Ver.4.0』が、まもなく2月20日(木)から4日間にわたって名古屋・丸の内の「損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール」で上演される。
ガーデン・カフェで誰かが来るのを待っている女優2人の会話を中心に展開する『もろびとこぞりて』は、かつて北村想が率いていた〈プロジェクト・ナビ〉時代の1996年に、劇団員の金原祐三子と中島由紀子のために書き下ろされた二人芝居で、作者の北村は当時のチラシに「女流作家のような気持ちになって書いてみました」と記している。
その後、ウェイトレス役(実は彼女も女優)を追加して改稿した『もろびとこぞりて Ver.2,3』が〈劇団青い鳥〉に提供され、こちらは2006年に初演。以降、外部でもたびたび上演されてきたこの作品が、今回はオリジナルキャストの金原・中島に、〈劇団ジャブジャブサーキット〉からウェイトレス役に荘加真美を迎え、さらに彼女たちの隣の席で新聞を読む謎の紳士役として黒一点・小林正和も登場する“Ver.4.0”として上演されるのだ。
“北村想の意欲的新作を発表する場”である〈avecビーズ〉では珍しい、再演作品である本作を上演するに至った経緯やキャスティングなどについて、演出も担当する北村想に稽古場で話を聞いた。
avecビーズ『もろびとこぞりて Ver.4.0』チラシ表
── 〈avecビーズ〉では過去作品を取り上げること自体も珍しいですが、この作品をまた上演しようと思われたのはなぜですか?
『もろびとこぞりて』は、当初『殺人事件』(こちらも〈プロジェクト・ナビ〉に所属していた女優3人のために書き下ろされた作品)と一緒に書いて上演したんですけど、本番を欠かさず観てるんですね。そういうのは唯一『もろびとこぞりて』だけで、自分の作品中でも観るのが好きな作品なんじゃないですかね。今回はそれをやろう、ということで。
── いつ頃決められたんでしょうか?
2年前ですね。その時に書いた初稿から、出演者が2人変わっちゃってるんです。『もろびとこぞりて Ver.2,3』は〈青い鳥〉に書いたものですけど、〈avecビーズ〉でも一回やっておこうかということで、本当は女優3人の芝居だったんですけど4人芝居になったもんですから、“Ver.4.0”と。当初出演予定だった劇団員が退団したので、火田詮子さんに客演していただくことになって書き直したんですよ。こういうものはだいたいその人に合わせて書くので。ところが、火田さんがお亡くなりになってしまったので(2019年5月に他界)、荘加ちゃんに出てもらうことに決まって。
名古屋の役者事情というのはあまり知らないんだけど、ジャブジャブサーキット(劇作家・演出家のはせひろいちが主宰)の公演は観ているので荘加ちゃんだったらわかっているといえばわかってるんですけどね。でも一応、書き直しはしたんです。というのは、“はせ文法”というのがあって、文法というのか、独特の言葉の流れがあるのでそれを直そうと。ずっと同じ劇団でやっているとそうなるので感触の違いが生じるのはしょうがないんですけど、とりあえず彼女のイメージに合わせてホンの上では直したんです。でも、わりと彼女はいろんなところに客演もしてるからあまり困らなかったですね。そのままの台本でも良かったかな、と思うくらい。要するに荘加ちゃんは火田詮子領域の人で、面白いんですよ。
── 火田詮子領域というのは?(笑)。
具体的にはね、上演を観ればわかると思いますよ。なかなかスゴイです。あれぐらいじゃないと【俳優A賞】は獲れないんじゃないかな(笑)。
稽古風景より
── 台本としては、具体的にどの辺りを書き換えられたんでしょうか。
『もろびとこぞりて Ver.2,3』からは、ガラッとは変わってないんですよ。基本的には二人のやりとりにウェイトレスが加わって、誰かを待っている。そこに妙な紳士が来て加わるという、そこが変わってるだけで、セリフはいろいろ直したんです。直したんですけど、実際にやってみたら時間が掛かっちゃうからカットしなきゃしょうがないなと切っていったら結局、直したセリフが全部カットになっちゃったんですね(笑)。バカバカしいなと思いましたが、でも販売台本にはカットした部分が残ってますから、どこをどうしたかということを見比べてもらうのも面白いかなと思います。書き換えといっても、相変わらず誰かを待ってるというのと、ちぐはぐな会話の面白さの芝居ですから、その路線で書き換えたっていうところですね。なぜ小林を出したかというと、私はプロンプターも演出助手も使わないから、その代わりになるように。だからセリフがほとんどなくて、しょうがないんで劇中劇の「奇跡の人」を荘加ちゃんと小林がやることにしました。
── 小林さんは全体も見なくてはいけないので大変な役ですね(笑)。
全体を見るためにキョロキョロしてるのがバレるといけないんで、新聞を持たせてるんですけどね(笑)。
稽古風景より
── 今回、演出的に工夫された点などはありますか?
こちらからこうだ、と指示したものはほとんどないんですよ。皆さんやっぱり、ここではこういう風にするというようなことは心得ていて、金原と中島は前にやってることもあるし、荘加ちゃんも結構長く芝居をやっているから。最初の稽古で私はずっと、どうやって動いているか見ないで、ホンを見て間違いがないか聞いているだけだったんです。というのは、セリフの面白さが上手くいってるかどうか、ということだけを点検しながらやっていたからですけど、それはそれでいいということで動きも見たら、皆さんきちんとこちらのイメージ通りにやっていらっしゃるので、演技の問題より見た目として具合が悪いところを直したぐらいでね。だから演出というほどのものはほとんどしてないですね。
強いてやったことといえば、覚えてもらってセリフを語ってもらうと段取りになっちゃうから、なるべくセリフを覚えないでほしい、と言ったんですけど、しょうがないんですね。役者っていうのはセリフを覚えちゃうんですよね。しかしここに、強い味方があったんです。火田詮子領域の人が一人いましたから。百万の軍勢を得たような感じで(笑)。もうね、突然自信たっぷりに違うことを仰いますから、可笑しくてたまらないです。でね、小林は新聞を持ってるから、クシャッて顔を隠して笑ってるの。それが楽しくてしょうがない。それで毎回楽しませてもらってます(笑)。
稽古風景より
尚、北村の話に出てきた【俳優A賞】とは、〈日本劇作家協会東海支部〉が主催している俳優に対して贈られる賞で、毎年9月~12月に東海圏で上演されるエントリー作品に出演した俳優の中から審査によって選ばれた1名に授与されるもの。去る2月8日に行われた同支部イベント『劇王2020』内で行われた発表で、見事、荘加真美が【第5回俳優A賞】に輝いた。この様子はまた、本サイトにて別途レポート予定なので、こちらもお楽しみに。本作は荘加の受賞後初出演作品にもあたるため、その辺りもぜひご注目を!
取材・文=望月勝美

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