祝芸歴50周年の桂文珍が豪華ゲストを
迎え20日間の独演会に挑む!インタビ
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芸歴50周年を迎えた桂文珍が、国立劇場大劇場という大箱で20日間の独演会を開催する。まずその規模に驚くが、公演に参加するゲストの豪華さにも驚嘆せざるを得ない。
そのゲスト20人の名前を列挙しよう。笑福亭鶴瓶、桂南光、林家木久扇、柳家喬太郎、桂文枝、林家正蔵、柳家花緑、立川志の輔、春風亭小朝、三遊亭小遊三、柳亭市馬、立川談春、柳家三三、春風亭昇太林家たい平、桃月庵白酒、柳家権太楼、神田松之丞、春風亭一之輔、三遊亭円楽という面々だ。この20人の名前を前にすれば落語好きはもとより、それほど詳しくないという人でもその豪華さはわかってもらえるだろう。
東西の枠を超え、それぞれの所属団体や流派を超えて、現在の人気者、今聴くべき噺家の面々が勢ぞろいしていると言っていいだろう。このラインナップを集めて、国立劇場大劇場1,610席✕20日公演というチャレンジという規模は、落語界で前代未聞と言っていいだろう。芸歴50周年を迎えてさらなる高みを目指そうとする桂文珍にその意気込みを聞いた。
■2020年やし、オリンピックあるし、喋りのアスリートっていうことでね。
――芸歴が今年で50周年。年齢も71歳になられました。そのキャリアとお歳になりながらも常に精力的に活動されているイメージがあります。特に今回の20日間の独演会という非常に攻めの姿勢だと思います。このモチベーションというのはどこから来るものなのでしょうか?
やっぱり落語が好きなんでしょうね。好き以外の何物でもない。人の噺でもものすごく聴きますもんね。落語会で皆さんとご一緒する時がありますでしょ、その時でも最初から最後まで聴いているんですよ。好きなんですよ。寝る時も、先輩のいろんな音源を聴いたり、移動中も聴いたり、ずっと聴いているんですよ。
――寝る時までですか?
そうですよ。最近は困ったことにYouTubeに名人達の噺がいっぱいアップされていますから、断りもなくね、オレのも含めて(笑)。「快眠落語ってどういうことや!」って言いながら、聴きながら寝ていますよ。
――本当にお好きなんですね。
昨日、家族に叱られてね。「好きなことばっかりして」って。好きなことをして生涯を終えられたら最高でしょうって思うのに、すごく叱られましたね。もっと家の用事もしろって(笑)。ネタを練習しながら寝転んでても、練習しながら寝てしまうこともよくあります(笑)。すごく心地いいんですよね。体に良いんでしょうね。それぐらい好きなんでしょうね。
――入門から50年ですが、これは、あっという間という感じなんでしょうか?
あっという間の様で、最初の方はいろいろ上手くいかなくて、あっという間に感じ始めたのは40歳を過ぎてからかな。40、50、60と早いですね。
――入門されたころというのはかなり試行錯誤されたとか。
試行錯誤も何もないところで、いきなりテレビで人気がドーンとで、ね。自分は力がないのを知っているから、芸の力がない人気先行ですから、絶対えらい目に合うわと怖くて怖くて。で、勉強会をずっとやり続けました。人気って、人の気ですから。そんなものは移り気なものですからね。
――71歳になられて、20日間の独演会という過酷な挑戦に挑まれるわけですが、4年前の45周年の時点で「2020年には20日間の公演をやりたい」といわれていたと記憶していいます。
そうなんですよ。言っています。
――それが実現して、今回こうやって発表されて、本当に驚きました。
言わないとものは動かないですよ。5年前くらいから動かないと劇場は貸してくれないですし(笑)。いきなり20日間貸してくださいと言ってもダメなんで。それまでに(国立劇場)小劇場の方で会をやって、毎年実績を積んでね。そうすると、国立劇場の方々からも「前にも10日間あったんだから、上手く空けば20日間やりましょうか」という話を頂戴しまして、ようやっとやらせていただけることになりまして、ありがたいことだなと思っているんです。
――20日間やろうかと思いつかれたのはいつ頃の話なのでしょうか?
10日間やってから5年間くらいは「10日間やったし、いいか」って感じだったんですが、なんかやりたくなるんですよね(笑)。前は10日間やったので、今度は20日間やらんと面白くないよなぁ。2020年やし、オリンピックあるし、喋りのアスリートっていうことでね。喋りも大変なアスリートだと思っているんです。噺家は気楽な商売といいますが、気楽かもわからんけど、お喋りのアスリートさみたいなものを発揮できたら、それも東京でオリンピックの年にできたら面白いなと思ったんですよ。時期は、オリンピックの後だったら皆お金使ってないやろうから、オリンピックの前にやろうとかね、色々考えたんですよ(笑)。とにかく、面白いじゃないですか。自分を追い込む感じは、ちょっとM入っているかもわかりませんね(笑)
――自分を追い込むという意味合いと、これをやったら面白いんじゃないかという思い付きとどちらの割合の方が大きいのでしょうか?
後者ですね。きっと面白いはずや、ってね。前回の10日間公演は面白かったんですよ。ものすごい楽しくて、毎日毎日違うネタができて、お客さんも笑ろうてくれはって、これはおもろいなぁと。あの時のクスリを打ちたいな、みたいな(笑)。なんかね、興奮したいんですよね。本業で興奮するのは、面白いじゃないですか。
――10日間でも相当なチャレンジですよね。
ですです。
――それが単純に倍になってしまうという、本当にすごい振れ幅だなと思います。お持ちになっているネタ数から20日はいけるだろうという読みでしょうか?
そうです。40本ぐらいは鉄板にしないと飯食えませんので。やって楽しくて、自分がダレることのない、これは面白いわというネタで、皆さんと落語の面白さを20日間たっぷりと共有したいというか、ね。で、ゲストの皆さんも皆、一緒に高みを目指したいねという人たちが20人揃いましたし。
――この20人のゲストがすごく豪華です。
豪華ですね。こんだけ呼んどいたら、今度は彼らもオレを呼んでくれるんじゃないかってね(笑)。本当に、自分も聴きたいと思える人達、刺激になる、自分にないものを持っていて、ちゃんと世界をお持ちの方々にお出ましいただいて、落語って本当に面白いよねっていうのを一緒に表現できるのは嬉しいことです。長い間根回ししました(笑)。
――これだけの顔触れがそろうとは、相当ブッキングも大変だったと思いますが。
そうですね。これはうちのマネージャーは相当に頑張ったね。僕はね、こういう人とやりたいと言ったら、頑張りよったですね。
――想像以上に若い演者さんが揃っているのが印象的です。
そう。若いですよね。こういう人たちは、早目に潰しとかないとね。こらこら、違う違う(笑)。本当に年齢とキャリアは関係なく上手いんですよ、ここに名を連ねてくれた人たちは。本当に上手いし楽しいし、それぞれのネタに力がある、実力と人気を両方兼ね備えた人ばかり。もちろん先輩もいらっしゃいますが、先輩、同期、後輩、尚且つ、落語協会、芸協、三遊派、立川流、上方落語協会と、バランスが非常に取れているんですよ。
――確かに、すごくバランスがいいですね(笑)。
でしょ(笑)。
――この記念すべき20日公演に声がかかったというのはゲストの方々にも光栄なことなんだと思います。
そう思っていただいたら、ありがたいです。面白かったのは、皆さんそれぞれ、まずはお目にかかって、口頭でお願いしたんですが、談春くんとはなかなか会えなくて、彼が大阪で独演会をやっている時に楽屋へ訪ねて行ってお願いしようと思ったら、「来ないでください」って言われて(笑)。「出ますから、来ないで」って。楽屋で聴かれたら恥ずかしいから、って(笑)。いい感覚ですよね、つまり、こっちが先輩であるということもあるんでしょうが、彼のシャイさ加減がまさに出ているというかね。いい人やなぁ、と思いましたよ。楽屋に来るのはやめてくださいって、ものすごく面白かったですわ。
■落語でより救われてください
――ゲストが20人いらっしゃって、演目のネタだしを40されています。
ゲストとネタをカードに書いて、パズルみたいにして、この人の時はこれとこれをやったら、この人がもっと生きるとか、どうすれば全体の構成が良くなるとかを考えているんですわ。
――相当緻密な作業がおありなんですね。
(演芸研究家で落語作家の)小佐田定雄さんが構成してくれています。彼と、カードを並べて七並べのようにして、組み合わせを考えて、外したネタもだいぶありますし、そうやってバランスを考えて構成をしました。開口一番があって、私があって、ゲストが中トリみたいになって、中入りして、最後に私がまた上がってという構成になりますから、ゲストはちょこっとという訳ではなく、本気でやっていただける場所にポジショニングをしてありますので、聴きごたえがあると思います。
――文珍さんご自身も楽しみですね。
そうなんです。それぞれの人が得意ネタをお持ちですし、鉄板ネタをいっぱい持っている人にお出ましいただきますから、小佐田さんと、このゲストは、前にこのネタをやれば、こんな感じの噺を出してくれるのではないかとかシュミレーションをたくさんして準備しています。この作業が面白いんですよ。こちらが先にネタ出しをしておけば、ゲストの方もそれに合わせて両方が立つような噺を選びやすいかなとも思っています。やみくもに何でもいいからやるというような人は選んでおりません(笑)。バランスや構成を考えられる人たちにお願いしています。はい。
――40のネタが出されていまして、改めて向き合われるネタもあると思いますが、改めて多くのネタと向き合われるというのはどのような気持ちなのでしょうか?
昔元気いっぱいでできたのに今はできなくなっているとかね。歳いったから「百年目」の旦那が無理なく演じられるとかね。そのへんはキャリアで変わっていくんですよ。スポットライトのあて具合というか、どこに注目をしてどういう風にすれば今のお客様に喜んでいただけるのかを再発見する。で、今、帳面に改めて書いているんです。そうしたら、昔よりスリムになっているネタと、ちょっと肉付けてあげないともたないよなぁというネタがあったりして、とても面白い作業ですね。今の71歳の年でできるネタと、80は80の時のネタの状態とか、90になった時に何にも力入っていないのになんか面白いよなという風になれればいいなと思ってます。こないだも小三治師匠がもっと年いってどんな風な自分になるのか、出会えるのか楽しみやと言っていましたが、同じようなことなんだろうと思います。
――この20日間の独演会、ずばり見どころは?
落語はやっぱりおもしろい。生き辛い世の中やとおもうんですよね。やれ、コンプライアンスやの、お行儀やの、倫理観やの、でも落語の中の人物はもっと人間的でもっと自由でもっととんでもない。でも、自分の中にそういう部分もある、それをリアルな世界でやると犯罪になるけれど、落語の世界だったらフィクションですから、フィクションの言葉だけの世界でやると、ストレスがどこかへ行っちゃう。ずばり、一言でいえば、「落語でより救われてください」ってことですかね。落語狂なんでしょうね、きっと。
――お話を伺っていて、落語愛をひしひしと感じます。
愛というか、惚れているんでしょうね。変な言い方をするとね、このネタ出しした40のネタが、全員恋人なんですよね。「あ、ごめんごめん、君は長い間会ってなかったね」っていうのがあったり(笑)。そういう風に出会える楽しさというか、恋人に会う感じというか。
――また改めて多くの恋人に出会い直すというような公演ですね。
そうです、そうです。ですから、別に懐メロ大会ではないんですが、その恋人も成長しているだろうし、こっちもおじいちゃんになっているから接し方が変わっているだろうしね。もっとテクニックついたよっていう感じとかね(笑)。古典をやっている時に聴いて笑ってはるお客さんの向こうに、この噺が出来上がった時代からずっと色んな噺家が演じてきたその時代その時代のお客様がデジャヴのように、ずずっと多重的にいらっしゃるように感じる瞬間があるんですよ。江戸時代のちょんまげした人もいてはるように思ったり。それは噺が勝手に動いているんでしょうね。そういう瞬間が10年に1度ぐらいあるんですよ。そうゆう瞬間に出会いたいんですよ。それは、もう、鳥肌が立つというか、やっていていお客さんとピタっとあったなというか、そんなすごくいいなぁという瞬間にまた出会いたいです。

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