宝満直也が『狼男』を通して投げかけ
る、“存在”の意味~NBAバレエ団「
ホラーナイト」

2020年2月15日(土)・16日(日)、NBAバレエ団はダブルビル「ホラーナイト」を上演する。演目は2014年に同バレエ団が初演し好評を博したマイケル・ピンク振付『ドラキュラ』で、今回は英国ロイヤルバレエ団プリンシパルの平野亮一が2月15日14時・2月16日14時の2公演で主演を務める。もう1作はバレエ団ダンサーにして振付家である宝満直也の新作『狼男』。2月15日18時公演の『ドラキュラ』では主演も踊るという多忙な宝満に、新たな振付作品について話を聞いた。(文章中敬称略)
宝満直也

■『ドラキュラ』とは違った部分からアプローチ
――今作の『狼男』はNBAバレエ団での振付作品としては、振付助手として携わった『海賊』、『白鳥の湖』、そして振付作品『11匹わんちゃん』に続くものになります。『狼男』を振付けるに至ったのはどういった経緯からでしょう。
久保綋一芸術監督から昨年の『白鳥の湖』公演の頃、「ホラーナイト」の公演を行うにあたり、『狼男』というタイトルとテーマで作品を作ってくれないかという打診がありました。内容は自由にしていいということだったのですが、同時上演のマイケル・ピンク振付『ドラキュラ』にしても狼男にしても、アメリカで育ったモンスターなので、銀の弾丸が苦手など、似ている要素が多いんです。さらに『ドラキュラ』はパ・ド・ドゥの冒頭、まさに狼の遠吠えから始まるんですよね。あまりに似た要素がありすぎて悩みました。
だから僕の作る『狼男』は、いわゆる狼男が満月の夜に遠吠えをして変身して狼になり……という描写は一切出てこないです。「ホラーナイト」ということで、狼男が暴れるような作品を想像されていらっしゃると、もしかしたら肩透かしを食らうかもしれないです(笑)
――作品のテーマを決める上ですでに禁じ手が多く、チャレンジングな部分が多かったんですね。ではこの作品をつくるにあたり、どのようにアプローチをしていったんでしょうか。
まず狼男についていろいろ調べました。そして調べていくうちに、「狼男」というのが僕の中では人でも獣でもない、すごく悲しい存在に思えてきたんです。人にまぎれて暮らしてはいるけれど、大切な人ができても満月の夜にはその人を食い殺してしまうかもしれないという思いや不安を抱えていて、また人々からは猜疑の目で見られ続けるかもしれないなど、実は孤独で切なくて悲しい存在なのではないかと。では自分が狼男だったら……と考えた時に、そんな狼男が「生きる意味」って何なのかなと思ったんです。
例えば、ニュースで殺人犯が動機について「人を殺してみたかったから」と言っていたりしますが、狼男がそういう人物だったら(満月の夜に人を喰い殺してしまうことも)悩まないと思うんです。でも、そうではない、いわゆる"普通の人"がたまたま「狼男」だった場合、彼が生きるモチベーションって何なんだろうなと。ですから今作は狼男とその周りの人々に焦点を当てて、その存在意義を問うようなものにしてみようかなと思いました。
ただこの「存在意義」というテーマはおいおいダンサーに伝えていくことにしていて、まずはフィジカルの部分に重点を置いて、ガンガン踊り込んで振りを身体に入れてもらっています。
――最初はストーリーコンセプトよりもまず振付を、身体に叩き込んでほしいということですね。振付は結構ハードなんでしょうか。
振付自体はかなりハードですね(笑)。群舞が3、4回に、主人公「a man」、そのパートナー「a girl」の踊りがあるんですが、「a man」の踊りがハードすぎたので、今少し調整しているところです。
――物語は「a man」「a girl」を中心に進むのですか。
はい。登場人物に「狼男」という名称は、あえて使いませんでした。タイトルも「狼男」というよりは、僕的には「人狼(ウェアウルフ)」という方が適しているかな、と思うんですが。「a man」「a girl」の二人が中心となって、抽象的ではありますが、ストーリーが展開していく。「a man」「a girl」は互いに愛し合うパートナーという設定ではありますが、次第に「a girl」が男性――「a man」に疑いの目を向けていく。それぞれの踊りのほか、二人を取り巻く感情などを群舞が表現する場面もあります。ただ「a man」「a girl」という設定ではありますが、僕としては先ほど「人狼」と言ったように、その人物が男なのか女なのか、それも分からない、誰にでもあり得る物語、という感じでつくっています。その辺りは自由に見ていただきたいと思っています。
――ある意味性別もない、「人狼」という生き物の存在意義を問う、そんな感じの作品なのですね。主演ダンサーと音楽について教えていただきたいのですが。
森田維央
竹田仁美

今回は「a man」は森田維央君と高橋真之君、「a girl」はベテランの竹田仁美さんと、若手の勅使河原綾乃さんに踊ってもらいます。森田君は男性ダンサーの中でもコンテンポラリーが得意、また高橋君はクラシックが素晴らしいのでコンテンポラリーにも挑戦してほしいということで、主演をお願いしました。何より二人とも獣っぽいニュアンスが出せそうでしたので(笑) 。音楽はクロノス・カルテットとフィリップ・グラスのサウンドトラック『ドラキュラ』から使っています。この音楽は割と早いうちに決まりました。
――『狼男』の見どころはどういったところになるのでしょうか。
僕が一番やりたいことは、狼男を通してダンサーたちの何か生々しい感情や内面の部分などを舞台に出せれば、ということです。見ている人が「痛いな」「辛いな」と感じる、心の奥を突いていけるようなものにしたいなと思っています。
高橋真之
勅使河原綾乃

■ダブルビルでは「ドラキュラ」の主演も
――今回のもう一つの演目『ドラキュラ』では、英国ロイヤルバレエ団の平野亮一さんとダブルキャストでタイトルロールを踊りますね。
宝満直也『ドラキュラ』リハーサル
むしろそっちの方が大変です。年明けから『狼男』にかかり切りだったため、1月下旬からドラキュラのリハーサルに入ったのですが、作りながら振りを入れるのはすごくハードで、正直役作りはこれからです。冒頭から男性とのパ・ド・ドゥがあり、身体への負担も結構かかるんです。
またファーストキャストの平野さんは「ザ・漢!」というパワフルなタイプの方で、僕とは全く正反対。昨年夏、平野さんが来日した際にリハーサルがあったのですが、すごく刺激になりました。僕の場合はどちらかというと中性的な雰囲気のドラキュラになるんじゃないかなと思います。でも『ドラキュラ』は踊っていてすごく楽しい作品です。振付をやりながらなので時間はタイトではありますが、自分はどういうドラキュラにしていこうかと考え役を作りこんでいく作業はすごく楽しいです。
『ドラキュラ』リハーサル。宝満直也、宮内浩之
――楽しみにしています。ありがとうございました。
取材・文=西原朋美

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