新国立劇場バレエ団「Dance to the
Future 2020」アドヴァイザー遠藤康
行インタビュー「コンポジション・プ
ロジェクトに期待を」

新国立劇場バレエ団のダンサーたちが振付けた作品を発表する「Dance to the Future 2020」。元芸術監督のデイヴィッド・ビントレーの発案で2012年に始まったこのプロジェクトは、ダンサーたちの新たな才能や斬新な作品を目にすることのできる機会としてファンも心待ちにする、人気プログラムとして定着している。2020年の今回は新国立劇場のダンス公演「JAPON dance project」で振付家およびダンサーとして参加している遠藤康行がアドヴァイザーの立場から作品をセレクト。さらに遠藤の発案による初めての試み「コンポジション・プロジェクト」では、ダンサーらがアイデアを出し合いつくり上げた作品が披露される。遠藤康行に話を聞いた。(文章中敬称略)
遠藤康行
■アドヴァイザーは遠藤自身にとっても「チャレンジ」の機会
――Dance to the Future(以下DTF)ではダンサーたちの振付作品を選ぶため、まず内部向けにリハーサル室で作品を披露する「ショーイング」が行われると聞いています。そのショーイングの印象と、今回DTFで上演する作品を選んだ基準などについてお話いただけますか。
ショーイングは、聞くところによると今回は作品数がいつもより多かったということで、その中からのセレクトでした。福田圭吾君や紘也君、貝川鐵夫君など、自分でやりたいことがわかっていて、また興味深い作品を安定して作っているクリエイターがいる一方で、新たに作品をつくろうという人達もいた。そうしたなかで「新国立劇場バレエ団」として上演する以上、ある程度の域に達していることは必要だという、そうした観点から大原芸術監督と一緒に作品を選びました。
貝川鐵夫振付『神秘的な障壁』
渡邊峻郁振付『Seul et unique』
また選ばれた作品は選考後にアドヴァイスを加え、さらに練り上げられています。ただ僕は「こういう可能性もある」というものを伝えるのみで断定はせず、イニシアチブを取って作品をブラッシュアップしていくのは作り手自身です。
福田圭吾振付『Acorrdance』
福田紘也振付『福田紘也2020』
髙橋一輝振付『コロンバイン』
――遠藤さんはご自身で作品を振付けていますが、今回のように創作バレエのアドヴァイザーをしたという経験はあったのでしょうか。
初めてです。ですから今回のショーイングを通してのアドヴァイザーはもとより、DTFの第三部で行われる「コンポジション・プロジェクト」も、僕としては大きなチャレンジなんです。
木下嘉人振付『Contact』
木下嘉人振付『アトモスフィア
■「コンポジション・プロジェクト」をクリエイションのきっかけに
――その「コンポジション・プロジェクト」ですが、これはどういったものなのでしょうか。
これは今まで自分で作品を作ってみたいがきっかけがつかめないと考えるダンサーたちによるコラボレーション作品です。ダンサー同士が動きを考え、僕がその動きに対しアドヴァイスをし、導きながら作品を練り上げているところです。
――それをやろうと思ったきっかけはなんでしょう。
DTFも始まって何年もやっていると、やはり経験を積んで上手にまとめた人の作品が選ばれがちになりますよね。そうすると「やってみたい」と思っていても引いてしまったり、「自分にはあのレベルまでは作れない」と思ってしまう人もいるかもしれないし、そもそも作品をつくってみたいがどうすればいいのかわからない、という人もいる。僕はそういう人達にきっかけや、「私にもできるかもしれない」という可能性を見出してもらいたいと思ったんです。
何もないところから作品を作り出すのは難しいですよね。でもちょっとしたきっかけを与えることで、作品をつくり出せるかもしれないし、動きをつくることを通して踊りのボキャブラリーを増やすことで、振付家にインスピレーションを与えられるミューズになったりという、そういうダンサーになってもらえればと思いました。
――その創作のため2つのグループがあると聞いていますが、それぞれが即興ではなく、違った作品をつくり上げるということですか。
はい、作品はそれぞれのグループでしっかり、作り込みます。全員が振付家です。ただはっきり2グループに分けるのではなく、メンバーはそれぞれの動きや流れ、必要に応じて一部被っています。参加者は自発的に増え、今は23人で、2つのグループそれぞれが13~14人くらいになっています。グループメンバーの割り振りは、僕が分けたというより、動きやその性質などにより、自然にできてきました。
作品はダンサーみんながそれぞれアイデアを出し合いながら作っていますから、このコンポジション・プロジェクトの創作自体、彼らのものです。僕は彼等がつくった動きに対してどんどんクエスチョンを投げる。そして彼らがそれに対して答えを出し、そうしてできあがったものに対してまた僕がクエスチョンを投げる……という形で創作は進んでいます。
例えば、最初はデュオだったものが、僕が質問を投げかけたら次は人が増えていた。だったら今度はこれとこれを繋げてみたらどうなるかな、と問いかける……こんな感じですね。
コンポジション・プロジェクト
■若手が意欲的に参加。「普段の公演とはまるきり違う」新鮮な舞台に期待
――このコンポジション・プロジェクトの動画がバレエ団のSNSに掲載されていましたが、それによると、各グループにリーダーがいるのかなと思いましたが。
リーダーは僕の方であえて置きました。作品の印象から「ZA/座」と「DO/動」というグループがあり、「ZA/座」のリーダーが福田紘也、「DO/動」は渡部義紀です。
参加しているメンバーはこのほか渡邊峻郁、柴山紗帆、原田舞子、太田寛仁、中島瑞生、仲村啓、樋口響、西川慶、木村優里、飯野萌子、広瀬碧、益田裕子、赤井綾乃、稲村志穂里、関晶帆、関優奈、徳永比奈子、中島春菜、廣川みくり、横山柊子、伊東真梨乃(※順不同)です。
――若手がたくさん参加していて、それだけでかなり興味深いです。
普段新国立劇場バレエ団の舞台を見ているお客様には、すごく新鮮に感じられるのではないでしょうか。2人のリーダーのうち、紘也はDTFではおなじみですが、義紀も物怖じせず大胆にいろいろと作ってきて、すごく面白いですよ。例えば木村優里と渡邊峻郁の2人が作り、踊っているところに義紀がさらに動きを付け加えるなど、非常にフラットな創作現場ができています。
こうした創作は時間がかかり、またみんなリハーサルがあるなかでの取り組みですが、時間を惜しまずに取り組んでいて、とてもモチベーションが高い。モチベーションが上がると、つくり出していくことが喜びになるんですよ。
――とくに若手のダンサーたちは、クラシック・バレエとは違う新しい動きにふれるのは新鮮かもしれませんね。
動きについては僕自身がいいと思うことは伝えるようにしています。カウンターバランスのとり方や、身体を下に落とすとき、ちゃんと人の目を見ながら組むといったシンプルなことですが、でもそういう動きを知らない若手もいるわけです。ヨーロッパのバレエ学校ではコンテンポラリーの動きやインプロヴィゼーションを教えたりしますが、クラシックの動きだけをやっていると、そうしたことがなかなかできなかったりしますし。
――ダンサーたちにはすごくプラスになりそうですね。音楽は新たに作るのでしょうか。
音楽は僕の友人の平本正宏が、創作と同時進行で作っています。実は今回の作品の裏テーマは「日本」で、音楽もその要素を盛り込んでもらっています。先ほどグループは「ZA/座」「DO/動」という話をしましたが、それぞれに合わせた音楽もまた全然違ってくるのではないでしょうか。
――最後にお客様にメッセージをお願いします
コンポジション・プロジェクトの作品は毎日どんどん変わっていっていますし、ダンサー達はそのたびに新しい気付きを得ています。2つのグループそれぞれを見ていただきたいし、その化学反応や熱量は4公演とも全然違うものになると思います。もちろんショーイングで選ばれた作品の質も高いですし、きっと見たことがないものをご覧になれると思います。
――ありがとうございました。
「コンポジション・プロジェクト」。様々な動きが紡ぎ合わされ一つの作品に

取材・文=西原朋未

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