鈴木勝秀×る・ひまわり第3弾公演 
3人の詩人の孤独と葛藤を描いたオム
ニバスストーリー『る・ぽえ』公開舞
台稽古レポート

鈴木勝秀✕る・ひまわり第3弾公演として、鈴木勝秀の26年に渡る実験的シリーズ最新作『ウエアハウス-double-』と、3人の詩人を描いた物語『る・ぽえ』が、2020年1月25日(土)~2月2日(日)に新国立劇場小劇場にて同時期に上演される。
初日に先立ち行われた『る・ぽえ』の公開舞台稽古の様子をお伝えする。
『る・ぽえ』公開舞台稽古
高村光太郎、萩原朔太郎、中原中也という3人の詩人の物語をオムニバス形式で描いた今作は、各詩人の実際にあったエピソードをベースに、彼らの詩が引用されたり、北原白秋、芥川龍之介、室生犀星、森鷗外、小林秀雄といった詩人や文豪、評論家も登場するなど、文学的な美学が漂う濃密な人間ドラマが展開される。
『る・ぽえ』公開舞台稽古
『る・ぽえ』公開舞台稽古
3人とも大正時代から昭和にかけて自身の作品を発表した詩人で、彼らに共通しているのは、自分が詩人として生きることの難しさや葛藤、孤独を抱え、そして自身あるいは身近な人物の「死」を強く意識しているという点だろう。高村は妻・智恵子の死と向き合い、萩原のところには後に自殺してしまう芥川龍之介がその苦悩を打ち明けにやって来て、中原は結核により30歳という若さでこの世を去ってしまう。
『る・ぽえ』公開舞台稽古
『る・ぽえ』公開舞台稽古
孤独や死の存在が身近だったからこそ、まるで心から血を吐くような切実な詩を書けた部分は否めない。創作者の悲しき運命ではあるが、彼らの死後も輝き続ける美しき詩の数々のことを思うと、ある種のカタルシスを感じることができる。この詩が生まれたその背景に、彼らのもがき苦悩した人生があったということを改めて認識させられる。
『る・ぽえ』公開舞台稽古
『る・ぽえ』公開舞台稽古
中原中也を演じる碓井将大は、恋人を奪われ、友人も失い、死と孤独の恐怖に一人立ち向かう姿を、ロックのリズムに乗せて攻撃的に見せる。彼が激しさをむき出しにするたびに、中原の寂しさがより際立つ。高村光太郎を演じる辻本祐樹は、智恵子への慈愛に満ちた優しさと、妻を失った虚しさを静かなたたずまいの中ににじませる。萩原朔太郎を演じる木ノ本嶺浩は、友人に囲まれ森鷗外にも作品を絶賛されるなど、一見すると華やかで幸せそうだが、人知れず不安を募らせ心を閉ざしている様子を、軽やかな肉体と明るさの中に常に陰りを宿した演技で表現する。林剛史は萩原の友人・室生犀星と中原の友人・富永太郎という、それぞれの詩人が心のより所にしていた存在を柔らかな演技で温かみのある人物として立ち上げる。加藤啓は萩原を評価する文豪・森鷗外と、中原から恋人を奪った小林秀雄をそれぞれ深みのある演技で見せ、存在感を放つ。
『る・ぽえ』公開舞台稽古
『る・ぽえ』公開舞台稽古
鈴木勝秀は3人の詩人を通して、人の孤独を鮮やかに描き出している。そこに見えてくるのは、“孤独”と一言で表しても、人によってその形や色は異なるということだ。孤独だからこそ得られるものもある。自身の抱える孤独とうまく付き合うことが、実は人生において重要なポイントになってくるのかもしれない。また、人間同士はどうしても傷つけ合ってしまう場面が出てきてしまうが、励まし合い労わりあうことができるものまた人間同士だ。人間関係の難しさと同時に温かさや愛おしさも描いている点が、3人の詩人を決して「悲劇の主人公」という型にはめ込まない生き生きとした人物造形にもつながっている。見終えた後、一人の人間として彼らのことが身近に感じられ、改めて彼らのことを知りたい、まずは詩を読み直してみようかな、と思わせてくれる作品だ。
取材・文・撮影=久田絢子

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