『人間失格』に見る
永久不変なスタイル
人間椅子の不思議な
感触の世界を惑溺せよ
楽曲全体の世界観も巧みに描く
その一方、M9「ヘヴィ・メタルの逆襲」では、メタルというよりもハードロック寄りのサウンドに乗せて、音楽ジャンルを相対化し揶揄するような歌詞を乗せているも面白い。
《ほとばしる 躍動感/それもそのはず ヘヴィ・メタル/見かけほど 強くない/みんな痩せてる ヘヴィ・メタル》《ベーシスト チョッパーは/使用禁止だ ヘヴィ・メタル/ギタリスト 得意技/ライトハンドだ ヘヴィ・メタル》《仕事には 苦労する/割とシビアな ヘヴィ・メタル/ビデオ屋と 楽器屋と/ビラ配りする ヘヴィ・メタル》(M9「ヘヴィ・メタルの逆襲」)。
スローなM10「アルンハイムの泉」を挟み、坂口安吾の短編小説からタイトルを拝借したであろうM11「桜の森の満開の下」では密集感の強いサウンドで締め括り、いろんな意味でズシリとしたアルバムであることを印象付ける。
バラエティーに富んだ作品ではありつつも、HR/HMというところで完全に一本筋が通ったサウンドで、歌詞はそれ以上にとことん和風──独特の世界観にこだわっていることは、やはり誰が聴いても明らかだろう。根強い固定ファンは全世界にいるものの、端から敬遠する人も多いヘヴィメタルというジャンルで、しかも前述した通り、歌詞も本能的に忌み嫌う人もいると思われる内容である。デビュー時は“イカ天”での露出も手伝って売れたことも分かるが、そのスタイルは変わらなかったわけで、次第にセールスが厳しくなっていったことも不思議ではなかったと思われる。しかし、彼らはその姿勢を貫いた結果、前述の通り、ここに来て人間椅子は人気のピークを迎えようとしている。2020年2月には初の海外ワンマンツアーも決定。日本を代表するヘヴィメタルバンドとして世界に認められる日もそう遠くないかもしれない。まさに“一念岩をも通す”である。本当に素晴らしい。
TEXT:帆苅智之