舞台『イノサンmusicale』東京公演閉
幕~激動の18世紀フランスを舞台に中
島美嘉、古屋敬多ら熱演

人類が作り上げた美の都で、相反する「死」の世界を謳歌する人間たちの過酷な運命を描く、歴史大河舞台『イノサンmusicale』が2019年11月29日(金)から12月10日(火)まで東京・ヒューリックホール東京にて上演された(この後、2020年2月9日には、パリ公演が「パレ・デ・コングレ・ド・パリ」にて行われる)。この舞台の原作は坂本眞一によるコミック『イノサン』『イノサンRougeルージュ』。ミュージカル舞台化にあたっては、脚本・歌詞:横内謙介、演出:宮本亞門、音楽監督・作曲:深沢桂子、美術:松井るみ、衣裳:前田文子、振付:KAORIalive、という錚々たる布陣が敷かれた。
舞台は18世紀のフランスはパリそしてベルサイユ。代々に渡ってパリの死刑執行人を務めるサンソン家四代目当主・シャルル-アンリ•サンソン(古屋敬多/Lead)と、サンソン家の次女であり、死刑執行人として天賦の才能を持つ女、マリー-ジョセフ•サンソン(中島美嘉)を主人公に据え、彼らと交わる人々との関係を描くと共に、「血筋=生まれ」の運命から逃れられない様々な身分の人々がそれぞれの立場でもがき苦悩する姿を描く。
舞台では現在出版されている原作のほぼ全編から、シャルルとマリーの人生に特に影響を与えた人々との出会いと、時に別れをダイジェストでまとめていたが、実に無駄なくピックアップされており、原作ファンの一人として感心した事を先に触れておきたい。
死刑執行人の家に生まれたシャルルは、その職を継ぐことに苦悩しながらも心に秘めたかすかな理想を目指して家業を務めあげようと邁進する。演じる古屋は家長としての責任感と一人の人間としての苦悩をその痛々しい表情ににじませていた。また、苦悩を抱えているからこそ、後日巡り合うルイ-オーギュスト、後のルイ16世(太田基裕)が抱える苦悩にも共感でき、身分を超えて理解し合える優しさをも感じさせた。
一方、サンソン家に女として生まれたが、幼き頃から死刑執行人になることにあこがれ、やがて“プレヴォテ・ド・ロテル"(ベルサイユ宮廷の死刑執行人)の職を勝ち取ったマリーは、美人なのに不愛想ではねっかえり。自分自身の“自由”を常に最優先し、目的のためには邪魔するものを容赦なく蹴散らす強さを見せる。マリー役の中島のビジュアルは原作から飛び出したかのよう。ぶっきらぼうに台詞を吐く様もマリーさながらだった。初舞台だからこその荒さも感じられたが、伸びしろも期待させる演技だった。アラン•ベルナール(筆者の観劇日は梶裕貴が務めた)との間で見せる心の通い合いでは、一瞬だが一人の女性としての心の揺れ動きも感じさせるものだった。
シャルルと偶然巡り合うルイ-オーギュスト役の太田はまさに王子そのもの。巻き毛の間から見える憂いを帯びた瞳と、張りと伸びのある美しい歌声で劇場を魅了していた。対してマリー-アントワネット役の小南満佑子が原作通りのイマドキ女子を底抜けに明るく演じていたからこそ、余計に太田の影を感じさせる王子ぶりが際立つ結果となっていた。
マリー-アントワネットと言えば、彼女の愛人といわれるスウェーデン貴族、ハンス•アクセル•フォン•フェルゼンの存在も忘れてはいけない。鍵本輝(Lead)が演じるフェルゼンは予想の斜め上を行くぶっ飛んだキャラクター。インパクトに残る名キャラが誕生したことをここに記したい。
ベテラン陣も見ごたえあり。お針子から高級娼婦となり、先王ルイ15世の愛妾の座に上り詰めるデュ•バリー役の貴城けい、そしてサンソン家の女傑、アンヌ-マルト役の浅野ゆう子は出番こそ少ないが見事に爪痕を残しており、また、ストーリーテラーとして物語を導いていく老婆役の池田有希子の邪魔にならない存在感が非常に頼もしく感じられた。
オープニングとエンディングの演出は賛否を呼ぶものだったが、本番を観た方のみの楽しみとしてあえてここでは触れないでおきたい。ただ、そこで描かれた作り手の“強い想い”はどこかでハッキリ観客に伝えたいものだったのだろう。
取材・文・撮影(ゲネプロの舞台)=こむらさき

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