「ゴジゲン」松居大悟と「万能グロー
ブ ガラパゴスダイナモス」川口大樹
が対談!劇団でコメディをやり続ける
理由と苦悩を語る

福岡を拠点に活動する劇団「万能グローブガラパゴスダイナモス」の作・演出を務める川口大樹と、慶應義塾大学内で結成されメンバー全員が地方出身者の劇団「ゴジゲン」の作・演出を務める松居大悟。ともに福岡県出身の同世代で、コメディを作り続けている川口と松居はお互いのことをどう思っているのだろうか。次回公演のことも合わせて、たっぷりと聞いた。
「万能グローブ ガラパゴスダイナモス」とは?
福岡を拠点にあれやこれやと手広く活動する劇団。“演劇をやっているから”という理由で劇団を名乗ってみたものの、4面ピンポンなるスポーツを考案してみたり、ロックバンドと対バンしてみたり、三輪車レースで惨敗し、翌年は本気で改造して(規則は守った)そこそこ善戦してみたりと、演劇に限らず“楽しむ”に手を抜けない集団。とはいえ、本業の演劇もコツコツ頑張ってはいて、気づけばもうすぐ15周年。ますます手が抜けない!
「ゴジゲン」とは?
2008年に慶應義塾大学内で結成。不器用にしか生きられない人間達が紡ぎ出す軟弱なシチュエーションコメディを上演していたが、近年は作るってなんだよ生きるだけだろとか言っている。メンバー全員が地方出身者のため、全国を視野に入れて活動中。
ライバルでもあり、仲間でもある「とてもいい距離感」
−−松居さんと川口さんは長いお付き合いだそうですが、そもそもの出会いを教えてください。
松居:まさにヨーロッパ企画です。まだ「ゴジゲン」という名前がつく前に、僕がヨーロッパ企画の『あんなに優しかったゴーレム』(2008年)という公演の文芸助手として入ったのですが、その時の福岡キャンペーンで、「松居くんの地元だからおいでよ」と言われて。多分その時だと思う。
川口:確かに、イムズ(※福岡のイムズホール)の楽屋で喋った記憶はある。
松居:同世代で福岡の劇団をやっているんだよということで、紹介してもらった。ガラパ(※万能グローブ ガラパゴスダイナモスの略称)主宰の椎木くん(※椎木樹人)と僕が同い年ということもあったし、コメディを作っているということで。その『ゴーレム』の稽古中に「ゴジゲン」という名前をつけてもらって、劇団を作ったので、そういう意味ではゴジゲンの最初の頃からの付き合いです。まぁ、それとは関係なく、僕は年に4、5回、福岡に帰るので、その時に呼び出して飲んだりしています。
万能グローブガラパゴスダイナモスの川口大樹とゴジゲンの松居大悟(左から)
−−最初に会った時の印象はどうでしたか?
川口:最初の印象ですか。いや、見たことない奴がおるなって思って(笑)。僕たちはヨーロッパ企画と2005年ぐらいから仲良くしてもらっていて、福岡公演で来る度に会いに行ったり、お手伝いにし行ったりしていた。そんなときに、松居と出会って。当時は割とね、物静かな人だなとは思っていた。
松居:遠慮していたんだよ(笑)。
川口:でもね、話をしていたら、結構共通点があったんだよね。男子校出身だったり、福岡出身だったり、コメディをやっていることもそうだし、あとは音楽が好き。
松居:そうそう、好きなところが似ている。言葉が響く日本語ロック、例えばandymoriとかフジファブリックとか。ガラパは結構劇中でもかけるよね。
川口:そうだね。共通点いっぱいあるよね。
−−松居さんから見た、川口さんの第一印象は?
松居:最初はね、すごく優しかったんですよ。東京でやっているんですね、とか言って。劇団をやっていく中で、すごく刺激も受ける。僕は高校まで演劇やっていなかったし、福岡にあまりそういう仲間はいなかったから。地元の友達でもあり、ライバルでもあり、でも東京に来たら応援もする。そんな関係です。
川口:そう、当時から、福岡で同世代でコメディやっている劇団って本当になかったんですよ。いたとしても、先輩だったりするから、こういう距離感で喋れる人はいなくて、本当に松居が初めてぐらいの感じ。だから、松居がちゃんとコメディやっていると、安心するんだよね。話していて楽だし、悩みも言える。
松居:悪口もね!(笑)
川口:そうだね(笑)。ちゃんとしたことも話せるし、とてもいい距離感です。
次回公演は、『ポポリンピック』と『甘い手』

『ポポリンピック』チラシ

−−次回公演の概要をそれぞれ伺います。ゴジゲンは『ポポリンピック』です。どのようなお話なのでしょうか?
松居:東京オリンピック・パラリンピックが決定した2013年から開催する2020年までの東京が舞台になっています。オリンピックの最終選考まで残ったけど、落ちたプレイヤーにまつわる話なんですけど...今ね、難航しています(笑)。今まで(劇団としての活動を)休止して、復活してから、割と今まで自分たちに近いような話を上演してきました。仲間たちでエチュードを組み合わせて作ってきたけど、今回は役がしっかりあったり、背景がしっかりしていていたりして...最終選考に漏れるなんていう設定も、詰めれば詰めるほど笑えなくなっていって...それがねぇ~(泣)
川口:あーわかるなぁ。そういうこと、あるよねぇ。
松居:稽古場でなんとかなるかと思って、脚本を持っていって試しても、なんねぇなぁ〜って(笑)。
川口:わかるわかる。きついよね。役者もどんどん考えだすと、割とシリアスな方にいったりするしね。
松居:俺がうーんとなっていると、役者も気づくじゃん。「あ、松居はこれじゃないと思っているんだな」って。
−−オリンピック・パラリンピックを扱うという構想はもともとあったんですか?
松居:2020年に劇をやるとなった時に、避けるのも変だし、自分たちもちょうど選手ぐらいの年齢だし、やってみようと思ったんですけど…難しいところです。社会派劇団みたいになっている(笑)。
川口:むずいよねぇ。
松居:メッセージ性をできるだけ排除しようと思っているんだけど...。
−−一方、万能グローブ ガラパゴスダイナモスの『甘い手』はどういうお話なのですか?
『甘い手』チラシ
川口:松居と反対で、ベタベタな話です(笑)。久しぶりに学園ものを上演します。高校が舞台で、文化祭の1週間前から、当日にかけての話です。
松居:絶対楽しいやつ!(笑)。
川口:群像劇というか、いろいろな人が出てきます。好きな人がいるけど、その人は先生と付き合っているらしいと聞いて悶々としている男子生徒の話とか、不良のサッカー部なんだけど、家で飼っているウサギが死にそうで悩んでいて、けど言えないとか…。普段はしっかりワンシチュエーションで、1つの空間で、暗転もせずにやるんだけれど、今回は群像というか、バンバン場面を変えて、2~3分でまわしていくスタイルに挑戦しています。
松居:へー!装置はどうするの?
川口:そこは悩んでいて、具象と抽象と間みたいなのを考えている。あんまり細かく、ドアから出はけをしたりはないかもな。ブツブツ切りながら、楽しいところだけやるみたいな。だって、(書く上で)出はけの理由が大変やん?(笑)。
松居:大変。僕はそこから逃げた(笑)。「(出はけの)動機は?」とか言われら、「うるせぇ!」ってなるよね。
川口:でも、ゴジゲンをみて影響を受けたっていうのは、正直ある。
松居:シーンを勝手に飛ばせるからね。照明変化させて、次のシーン行っちゃおうぜってできる。
川口:そう、楽しそうやな、いつかやりたいなと思って(笑)。今回、13人キャストがいて、人数が多いから、出はけがもう地獄だなと思って、やめました。稽古してて、(主宰の)椎木も「なんかゴジゲンっぽいな」って言っている。男子校ノリでわーっとやって、エチュードで思いついたバカな設定をバンバンやって、あとでシーンを並べてパズルをどう組み合わせていこうかなという感じで作っています。
万能グローブガラパゴスダイナモスの川口大樹
−−なんだか、対照的ですね。
松居:そうですね、今回に関しては。
川口:うん、どちらかというと(『甘い手』は)松居の得意な感じ。僕らはゴジゲンに影響受けていますよ。
松居:わちゃわちゃするやつでしょ?...そういうのやりたいなぁ(笑)。
−−ちなみに、今回はゴジゲンが福岡公演からで、ガラパは東京公演からですね。
松居・川口:なんか不思議~。
松居:基本的に東京から始めるのですが、今回は福岡からやってみようと思ったら、ガラパが逆に東京から。意図せず、ですよ。
川口:ね、本当にたまたま。
松居:僕らは、北九州では2回やったことがありますが、福岡市でやるのは初めて。不安だし、どれぐらい来てくれるかなって思うけど...まぁ何より、まずは劇を作らなければ(笑)。福岡で開けるのは楽しみです。
川口:僕も不安ですね(笑)。基本は全て福岡スタートで、良くも悪くも地元のお客さんなので、ある種安心感があるんです。でも、東京でお客さんがどういう風に見てくれるのか本当に想像つかないので、ドキドキはするんですけど...それでも東京公演は4年目ぐらいかな。公演によっては、福岡よりは温かく見てくれるなってという時も増えてきたので、不安もあるんですけど、ちょっと楽しみだな。このタイミングだったら、東京スタートというチャレンジも良い方に転ぶかも、ある意味自信つくかもなと思っています。ただ、装置とか忘れてきたらやばいなって(笑)。初回は絶対バタバタするから...。
松居:大丈夫、駅前劇場の近くには100円ショップがあるから(笑)。
「自分たちがやっていて楽しいことが一番」
松居:改めて思いますけど、こういうコメディを追求している劇団って同世代だと少なくなっている。東京でも僕はあんまり知らないから、力強いですね。
−−みんな辞めていくのですか?
松居:辞めて行かなかったですか?(笑)みんなどこかで力尽きるというか。それはそうだよなとも思うし。
−−お二人がコメディを作り続ける理由やモチベーションはどこにあるのですか?
松居:僕はコメディを辞めてみたりもしたけど、結局楽しくやりたいからですね。それが一番かもしれない。誤解を恐れずに言えば、面白いものは作らなくていいやと思っていて、自分たちがやっていて楽しいことが一番大きいです。
川口:僕、演劇の原体験がコメディなんです。初めて見た芝居は三谷幸喜さんですし、コメディが体に刷り込まれている。コメディ以外の作り方がわからないのもちょっとあるし、やっぱり松居と一緒で、作っていて楽しい。お客さんの反応が一番ダイレクトに感じられるし、やっていて達成感もある。俺も途中、コメディがしんどくなった時期もあったんですけど...
松居:うん、あったね。
川口:けど、上田さん(※ヨーロッパ企画の脚本・演出を担当する上田誠)が岸田國士戯曲賞をとった時(2017年)に、コメディをやり続けていたら、ちゃんとご褒美というか、演劇として認められたというのが分かって、励みになった。
松居:あれは励まされました。
川口:コメディでも、ちゃんとぶち抜けば、評価されるんだなと勇気付けられた。あれがなかったら、また苦しかったかもしれない。
松居:コメディやっていると、めちゃくちゃ侮られる。軽いとか薄いとか言われて、いつも歯がゆいです。
万能グローブガラパゴスダイナモスの川口大樹とゴジゲンの松居大悟(左から)
−−お二人にとってヨーロッパ企画や上田さんの存在は大きいのですね。
松居:僕は師匠だと思っています。
川口:作風もそうだし、劇団としてのあり方もすごく影響を受けている。全員で作って、演劇だけではなくて、映像も作ったり、企画をやったりしているし、それを東京じゃないところでやっている。地方でやっている劇団としては、そのあり方もめちゃくちゃ影響されているし、勇気付けられていますね。
−−何でもいいのですが、改めてお互いに聞きたいことはありますか?悩んでいることなどあればぜひ。
松居:...めちゃくちゃ、リアルな話ですけど、(今回の『ポポリンピック』が)コメディになっていない不安がある。話の構造で、ツッコミをわかりやすくいれた方がコメディにしやすいんだけど、そうするとストーリーラインから外れるな...とか。ガラパは割と「ズレ」で笑うもんね。
川口:今回、うちは逆にあんまりツッコミを入れていなくて。いわゆるシチュエーションコメディーの基本って、本人は真剣にやっているけど、周りから見たらズレていて面白いっていうやつでしょ?だから例えば、男子高校生は、可愛がっていたウサギが死にそうで妹と電話しているんだけど、それを知らない同級生には怒られるわけ。でも、お客さんは、男子高校生がプーちゃんというウサギのことを心配していることを知っている。ツッコミを入れなくてもお客さんはそこで面白いんだよね。
松居:お客さんの笑いがツッコミになる、と。...そこだよなぁ...(笑)。
川口:場面を飛ばせるから、ツッコミを配置しなくてもいいんだと気づいたのよ。ワンシチュエーションだと、電話の内容なんかも一人の言葉で説明しなきゃいけないけど、もう今回は電話している相手を舞台上に出して会話している。怒っている同級生からは電話の相手が見えないけど、お客さんには見えている。わかりやすく面白いんだ。
松居:めっちゃ楽しいじゃん!そんなにシンプルに面白くいくの久しぶりじゃない?これまではちょっと闇がありつつだったけれど、何かあったの?
川口:なんかね、単純にキャストいっぱい出そうと思って。劇団員と客演含めて13人だから、ワンシチュエーションが無理だなと思ったし、男子が増えたから、ノリが変わった。一時期女子の劇団員の方が多い時期があったけど、男子が増えたので、くだらないのができるようになった。
松居:なるほど。男子校ノリ的なね。
川口:そう。じゃあ、そういうのを久しぶりにやってみるかとなって。男子絡めると女子もバカバカしくなれる。役者の入れ替わりによってちょっとできるテイストが変わったんだよね。女子が豊胸したんじゃないかと男子がいうシーンとか、そんなのできなかったから(笑)。
ゴジゲンの松居大悟
松居:(ゴジゲンは)役者と話しながら作るスタイルで、これまでもいろんなテーマがあった。今回はオリンピックだから、「オリンピックについてどう?」って聞く。きっと4、5年前だとバカバカしいことを言っていたんだけど、結構みんなおじさんになってきて、そして思想があって(笑)。それらを入れると社会派になるぞと。
川口:そうだよね、それは面倒だよね...。
松居:役者が30代超えたからさ。
川口:うちは逆だ。若くて、思想がないから(笑)。
松居:それもあるよね。そのメンバーだからっていうのはあるよね。思想がなぁ...(笑)。
川口:密度のある感じなるよね。深くて熱いテーマがあるから、ここは松居っぽいなと思って面白いなと思ったよ。「オリンピック」という概念が難しくて強いんだろうね。福岡住んでいると、正直、遠い。マラソンの会場が札幌になったとか、バカだな〜という距離感なんだよ。違うんだろうね、都民の感覚は。
松居:そうそう、そういうので行きたかったんだけど。
川口:今度、博多座でCONDORSさんとやる公演(『WE ARE THE CHAMPIONS!』)もオリンピック。でもそれもいろいろあって、設定が途中で変わって、2030年に開催される「地球スポーツ大会」という設定に変わって、それがくだらない。名古屋で不祥事があって、急に福岡で決まって、準備ができていなくてバタバタ、金メダルもできていなくてやばい!というしょうもない話になって。そこから急に書きやすくなったな。五輪は、ドラマが強すぎるし、過去も歴史もあるから。
松居:何かをディスりたい訳ではないのにね。
川口:オリンピックって周りの人たちがちょっと敏感になっている感じはある。これをいじると危ないんじゃないか、失礼なんじゃないかってね。でもタイトルを『ポポリンピック』にしているから、俺はゴジゲンはオリンピックと掲げつつも、それをめちゃくちゃに笑い飛ばすぐらいの、もっとパーソナルな熱さを見せるのでいいと思うし、それを楽しみにしているけどなぁ。社会的な話ではなくて、超個人的な話になって面白いというか。むしろ社会と接していながら、そんなに小さなところにこだわっているんだ?っていう感じの話。
松居:メモします。
川口:そちらの方がオリンピックというものが相対化するんじゃない?オリンピックを描き出すとスケールに潰される。抱えきれないでしょ、一人で。華々しいところに行けなかった、主役になれなかった人たちの話でしょ。くすぶっている奴らを描かせたら、それは松居の右に出るやつはいないですからね。
万能グローブガラパゴスダイナモスの川口大樹とゴジゲンの松居大悟(左から)
−−では最後に、各公演のプロモーションとお互いに応援エールをお願いします!
松居:ガラパの公演はとにかく楽しみ。きっと今の川口くんの状態を見ると、トラブルは来ていないんだろうなって思います。でも、きっと何かある(笑)。トラブルは来ると思うけど、スカッと笑いとばせる劇を見ることが楽しみですね。怪我しないように頑張ってほしい。『ポポリンピック』も、最終的には楽しい劇にしようと思っています!
川口:松居の作品は単純に好きだし、この題材で、選ばれなかった人たちっていうのは松居が一番得意なところじゃないかなと個人的には思っている。熱かったり、ちょっと切なかったり、けどバカバカしかったり。オリンピックもいやな感じのニュースばかり聞くから、スカッとこの芝居で、笑い飛ばさなくていいけど、熱い気持ちで全然違う角度からやっている奴がいるんだぞっていうのが見えたりするといいなって。すごく楽しみにしています。
(ガラパは)今、バカなエチュードやって馬鹿馬鹿しいシーンがどんどんできていて、テーマも何も重苦しいこともないただの笑える芝居が出来上がりつつあると思うので、デートなんかで娯楽としてみてほしいなと、今回は特に思います。青春みたいな匂いはするかもしれないです。あの頃楽しかったなって。日々疲れている人には元気になってもらえると思います。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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