名古屋演劇界の俳優たちが劇団の枠を
超えて出演する『煙が目にしみる』を
、神谷尚吾の演出で上演

平成17年度より、【舞台芸術創造事業】として音楽・演劇・舞踊・伝統芸能の各ジャンルから毎年度、ひとつのジャンルに焦点を当てて公演を行っている〈名古屋市文化振興事業団〉。5回目の演劇公演にあたる今年は、演出に〈劇団B級遊撃隊〉の神谷尚吾を、キャストには名古屋の演劇界で活躍するベテランから若手まで実力派俳優12名を迎え、12月13日(金)~15日(日)の3日間に渡って名古屋・大曽根の「名古屋市東文化小劇場」で公演を行う。
今回の上演作となる『煙が目にしみる』は、『機動戦士ガンダム』のブライト・ノア役などで知られる名古屋出身の俳優・声優・演劇プロデューサーである鈴置洋孝の原案・プロデュースにより、『劇場版 ONE PIECE』などの脚本も手掛ける堤泰之の脚本・演出で1997年に初演された作品だ。火葬場を舞台に、特殊能力を持つ“おばあちゃん”を介して生者と死者が最期の対話をする、笑いあり涙ありの名作コメディとして親しまれ、〈加藤健一事務所〉などによって、これまで幾度となく再演が繰り返されてきた。
名古屋の演劇人が贈る名作劇場『煙が目にしみる』チラシ表
「煙が目にしみる」といえば、映画『Always』(1989年)のテーマ曲としても知られる名作ジャズナンバーと同タイトルで、原曲の歌詞は「恋の炎が消えて、その煙が目にしみて涙が出る」といった意味合いだが、本作では“煙草の煙”も大きなモチーフになっている。今回の上演にあたり、時代背景を変えず戯曲が書かれた’ 90年代後半の雰囲気をそのまま生かしたという神谷尚吾に、演出プランについて、また、なかなか見る機会のない、劇団の枠を超えた俳優陣の顔合わせなどについて話を聞いた。

── 演出を依頼された時点で、作品は『煙が目にしみる』に決まっていたんですか?
そうです。これは〈加藤健一事務所〉がやった初演(2000年)を観てるんですよ。だからどんな話かは知っていて、僕があまりやったことのないタイプの作品なので、それをやってみるのもいいんじゃないかと思って。
── あまり馴染みのないタイプの作品ということで、戯曲を読んで演出しにくいな、と思うような点はあったりしましたか。
いい話なので、こういう作品はあまり演出したことがないので最初はちょっと困りました。でも演出していくうちに、人と人とのぶつかり合いのシーンやラストとか、ただただ無造作にいい話を網羅しているだけじゃない、結構計算されているホンだなと。いい話も嫌いではないし、自分にフィットするようにしていきたいなと思いました。
── 今回の上演に際して、元の戯曲を変えたりは?
ホンはもともと変えずに演出する方なので、そのまま。最初は時代設定を今にしようかと思って、ビデオをDVDにしたり物の価格を変えたりしてみたんですけど、ホン読みの段階でそれをやったら元の台本が持っているものと合わなかったので、書かれた時代のままに戻しました。
稽古風景より
── 演出的にポイントにされている点は、どんなところでしょうか。
そんなに変わった演出をするつもりはないというか、そうするとホンに元々あるものに良くないような気がして。煙草を吸うシーンが結構あるんですけど、たまに役者のキャラクターの印象付けのためだけに煙草を吸わせるシーンを入れた芝居とかあるじゃないですか。でもこの作品には煙草は本当に必要で、桜も必要。そういうところに気をつけて演出をしています。
あと、真っ直ぐでわかりやすい話なので、どうやって幅を広げるかですね。人の思いというのはいろいろなので、“お父さんの死”に対してそれぞれが違う思いでいる、というのを出す。「死んじゃったから悲しい」だけじゃなくて、人によって違うスタンスがあるので、それを同じお盆の上に乗せて多様性を出していく、というアンサンブルは考えてやっているつもりです。
── 生者と死者が並列に描かれた作品ですが、その辺りの見せ方については?
これがひとつの、このホンの仕掛けであると思うんですよね。生きている人から死者は見えない設定で、おばあちゃんだけは見えるという大きな仕掛け。普通は死んでる人が目の前に出てくると生きてる人がびっくりするんだけど、逆に死んでる人がびっくりするようなことがあるという。先の人生の短いおばあちゃんの方が他の皆より未来志向で、「死んだってしょうがないじゃない。先を見ていこうよ」という動きをする。家族はお父さんが死んだことを悼んだりするんだけど、おばあちゃんの行動とかでいろいろ変わってくるところもあるんではないかと。それが上手く出ればいいなぁと思いますけどね。
ひょっとしたらこの戯曲は、小津安二郎の映画『東京物語』(1953年)の影響があるのかなぁと。美容師の奥さんとか、働いてるのか働いてないのかわからない旦那さんが出てきたり、映画では老いた母親が死んで家族がバラバラになっていくけど、この作品はお父さんが死んで家族が強くなっていく。設定は違いますけど、どこか下地にあるのかなぁと。家族をもう一回、見直す作品なのかもしれないですね。
稽古風景より
── キャスティングについては、事業団のご担当者と一緒に決めていかれたとか。
そうです。年配の俳優さんたちはあまり知らなかったので、いろいろと相談しながら。あとは僕がこの作品で一緒にやってみたい人を挙げていった感じですね。
── 今回初めてご一緒する俳優さんも多いですが、作品創りをしていく上で発見する部分や触発されたことなどありましたか?
それはやっぱりありますね。みんな出どころが全然違っていろいろなバックボーンがあるから、役者が持ってくる役に対する考え方を聞くと、あぁそういう考え方でアプローチしてるのか、と思ったりします。そういう風な演劇の考え方があるんだと逆に教えてもらうところもあるし、その人たちを動かすにはどうしたらいいんだろうか、と考えたり。
ワークショップデザイナーの資格を取ったので、そこで学んだり思ったことが大きいですね。トップダウン方式やボトムアップ方式で教えるものではなく、ネットワーク的に役者と共に学び合うものとして作品を創る。なかなかそれは難しいんですけども、やりながら僕も学んでいきたいなと。今回はとにかく楽しみたいと思ってやってます。楽しい作品って、ここ数十年創ったことがないので(笑)。
── 実際には、いつもより楽しめている感じですか?
なかなかそうは思えない。修行が足りないんで(笑)。作品を公開するというプレッシャーを知ってる分、楽しむよりも怖さの方が強く出る。その分、手を抜けないのかもしれないけど、一方で冒険が出来ないところもある。そういうところの自分と向き合う時間は多いですね。こういう、いわゆるいい話をやるとき、どうやったら違う方向に持っていきながらいい話にできるか、とかね。映画の『パッチギ!』(2004年)とか、泣き笑いできますよね。ああいうものとか、落語みたいな世界観をどうやったら出せるんだろう、とか。頭ではそんな風に思っても具現化するのはなかなか難しい。自分としてはいつもより解釈をいろいろ考えたような気がします。

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