【藤津亮太の「新・主人公の条件」】
第12回 「Gのレコンギスタl 行け!
コアファイター」ベルリ・ゼナム

(c)創通・サンライズ ベルリというのはなかなか不思議なキャラクターだ。飛び級するほどの天才児ではあるけれど、それがキャラクターの強い個性になっているわけではない。出生の秘密もあるけれど、物語が貴種流離譚として構成されているわけでもない。設定の中にはドラマが仕込まれていないタイプのキャラクターなのだ。

 たとえば「∀ガンダム」のロラン・セアックは「どこにも所属しない」ということで主人公になっていた。「ムーンレイズでもなければ地球人でもない」「男でもなければ女でもない」「パイロットのようだがパイロットにもなりきらない(終盤、∀を奪われたら少し元気になっている描写があるところに注目)」。そういうフラットな立ち位置からすべてを見届けるのがロランという主人公だった。ベルリは、フラットな視線の持ち主ではあるが、ロランのような立ち位置というわけでもない。
 ここで思い出すのは富野由悠季監督が、ニュータイプを説明する時に「子どもをロボットにのせるための方便だ」という言い方をしていたというエピソードだ。すると、ベルリが天才だったり、出生の秘密をもっていたりするのも、全部G-セルフに乗せるための方便ではないだろうか。「G-レコ」は「∀ガンダム」よりも“メカもの”らしさを意識している節があるから、主人公がロボットに乗らないという選択肢はない。そのための方便。もちろん設定を書き割りにしないために、作中で天才であることや出生の秘密もちゃんと扱われてはいる。でもそれはベルリという主人公の芯をくったポイントではない。
 ではベルリはどんな主人公なのか。
 ベルリは地上のキャピタル・テリトリィから出発し、月の向こう側にあるトワサンガを経由して、金星方面にあるというビーナス・グロゥブに至る。ビーナス・グロゥブにはヘルメス財団があり、ここが現在の地球を制御するルールを作り上げた組織だった。だが、1000年の歴史の中でビーナス・グロゥブの人々は突然変異・ムタチオンにより、従来の人間とは異なる姿になり始めており、地球への帰還(レコンギスタ)を求める人々も現れてきている。
 「G-レコ」では、世界の謎があるべき場所に到達しても、そこで開示されるのはごく普通の“人間の事情”なのである。ベルリはいろんなそんなふうにさまざまな“人間の事情”にフラットに接していくことになる。
 つまりベルリは「旅人」という主人公なのだ。ただしこれは放浪者とイコールではない。ベルリには地球というホームがちゃんとある。そこに足を着けながらも、旅人のフラットな視線でさまざまな場所の“人間の事情”を観客に伝える。そして、観客こそがそこにある“事情”と向かい合うことになるのである。
 さて劇場版「G-レコ」ではベルリはどのように描かれるのか。第1部を見た限りでは、ベルリが旅人という点はあまり変わらないのではないか、と思えたが、果たしてどうなるか。それは今後のお楽しみだ。

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