現代アートと古典美術が交じり合う『
古典×現代2020―時空を超える日本の
アート』記者発表会レポート

2020年3月11日から6月1日にかけて、国立新美術館で『古典✕現代2020―時空を超える日本のアート』が開催される。11月28日には記者発表会が行われ、現代側の監修者である、同館学芸員の長屋光枝氏、古典の総監修者、「國華」主幹の小林忠氏、そしてアーティストのしりあがり寿氏、菅木志雄氏、棚田康司氏、皆川明氏が登壇した。
左から、皆川明、棚田康司、菅木志雄、しりあがり寿
展覧会では、江戸時代以前の絵画や仏像、陶芸や刀剣の名品を、現代を生きる8人の作家の作品とペアにし、古典✕現代の計8組を計8つの展示室で紹介するという試み。8組の「古典✕現代」のペアは、次のとおり。
<古典✕現代>
・花鳥画✕川内倫子
・刀剣✕鴻池朋子
・北斎✕しりあがり寿
・仙厓✕菅 木志雄
・円空✕棚田康司
・仏像✕田根 剛
・乾山✕皆川 明
・蕭白✕横尾忠則
この組み合わせは、古典サイドがまず作家やジャンルを提案、それに対して国立新美術館が現代の作家を選出したのだそう。展示スペース(企画展示室2E)は、天井高が8mあるという。現代美術サイドの作家の多くからはこの空間にあわせた新作、大がかりなインスタレーションの出品も期待される。
いにしえの名品と現代作家たちが共鳴する展覧会に
本展の主旨を、国立新美術館長の逢坂恵理子氏は、次のように説明した。
「鎌倉時代から江戸時代にかけて作られた名品と、現代の表現を展示し、作品の時代を超えた対話をすることで、それぞれに新たな魅力を発見しようという試みです」
「先人の名品から得たインスピレーションや、誰もが知るイメージに基づくパロディ、古い作品をとりこんだ空間を合成するインスタレーションなど、現代と過去を照射する現代作家のクリエイティブな視点に焦点を当てます」「現代の表現は、歴史の中で培われた美意識や世界観を引き継ぎ、または拡張し、時空を超えて、今存在することを示すことにもなるでしょう。古(いにしえ)の名品と現代の作家たちが共鳴する展覧会にご期待ください」
逢坂恵理子氏。10月1日付で同館館長に就任。
8つの展示室に8組の「古典✕現代」
本展の見どころは、展覧会の企画者であり現代側の監修者である長屋氏より語られた。以下、長屋氏の解説を抜粋し、古典側の総監修者である小林忠氏からの一言コメントとともに紹介する。
小林氏が主幹の「國華」は、岡倉天心と高橋健三の二人が中心となり明治22年にスタートした、日本・アジア美術研究誌で、創刊以来、日本の古典美術研究を牽引し、現在に至る。国立新美術館が、古典美術を企画展示するのは、これが初めてのこと。国華とのコラボレーションがあったからこそ、実現した企画なのだ。
(左から)長屋光枝氏、小林忠氏
■花鳥画✕川内倫子
江戸時代の絵師、若冲は、身近な動植物を鮮やかな色彩で緻密に描写した。命あるものへの深い愛着、感受性は、川内倫子の仕事にも通づるところがある。思いがけない瞬間で切り取られた花、木、昆虫、鳥、動物たちは、日常に裂けめのように現れた無常の感覚をつきつける。写真、映像を組み合わせ、自然の節理、命の循環などを表現する予定。
小林:江戸時代は若冲や琳派など、花鳥画が華やかに展開した時代です。生きるものの華やかさと儚さを、川内さんの写真の中にも読み取れるということで組み合わせていただきました。
■刀剣✕鴻池朋子
日本刀の優美な曲線、地金に現れた複雑な模様、意匠を凝らした波紋などは、深い精神性や独特の美意識で人々を魅了してきた。鴻池は、刀が持つ「切る道具」としての本来の機能に焦点をあて、動物の皮に神話的のイメージを描いた作品「皮緞帳」と、平安から江戸に作られた短刀を組み合わせるインスタレーションを考案。芸術と生きることを繋ぎ、生命力を取り戻そうという試みでもある。
小林:刀剣は、原田一敏さんに監修いただきます。刀剣と鴻池アートがどのような火花を散らすのか、楽しみにしております。
■北斎✕しりあがり寿
いつの時代も人は、遊びや快楽の精神を通じ、生きる力を活性化させてきた。北斎の観察眼は、そのユーモアの感覚を豊かに伝えてくれる。しりあがりは、2018年に『ちょっと可笑しなほぼ三十六景』を発表。浮世絵版画の傑作と、しりあがりさんの奇想天外な風刺画から、時代を超えた笑いの創造力を伝えたい。
小林:2020年は、北斎生誕260年目。記念の年に、しりあがりさんがお相手してくださることを嬉しく思います。燃える太陽から地球を臨む。北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』は、大波をうけても必死に船をこいでいる向こうに、尊い霊山が臨まれる風景を描いています。自然、人間、神の取り合わせを、太陽に置き換え、はたして「富士山に値するような地球であるのか」という問いかけを感じます。
本展への思いを、しりあがりは次のように語った。
「北斎と並べて飾っていただけるのは凄いことです。スーパースターと2ショット撮るような思いです。北斎漫画と今の漫画は全然違うものですが、人を楽しませることに貪欲で、新しい表現に対する好奇心があり、何よりも自由である。そういう気持ちを現代に再現できたら。もし北斎さんがいらしたら、苦笑してしまうような作品を作りたいです」
しりあがり寿
■仙厓✕菅 木志雄
仙厓は、あらゆるものを禅画として描いた。仙厓は、悟りの境地を一つの簡素な円に託して描いたことで知られている。「もの派」の理論、方法論を確立した菅木志雄も、その膨大な思考の軌跡を、今ここにあるもの、もののありようにシンプルに集約させた。菅は、仙厓の『円相図』に応え、1985年の『支空』を再制作するほか、新作の発表も予定している。
小林:『円相図』で仙厓は、右側に丸い円を描き、左側に「これくうて お茶まいれ」という書をそえています。おかしのようでもあり、この宇宙、世界そのものを円相としたものが、菅さんの作品と、どのような組み合わせをみせてくれるのか。楽しみにしています。
菅は、学生時代から、「仙厓は、僕の中にありました。変な人だな、と思っておりました」と切り出し場を和ませ、本展に向けた思いを語った。
「僕は材料を、ぶらぶら歩いているうちに探します。ふと良いものが落ちていれば、拾ってくるという行為が日常にあります。今回のお話をいただいてから、自然の中に円も四角、三角があるかを注意してみていますが、純粋な丸、四角、三角はみつかりません。これらは人間が創り出した、シンボリックな図形な気がします。しかしそれに近い形のものを、日常空間で探すならば、ある意味無数に見つかります。それらを常にファイリングし、時々眺める。それが僕の楽しみであり、生活をするひとつの場でもあります」
菅木志雄
■円空✕棚田康司
諸国を巡り12万体の仏像を彫ったとされる円空も、現代作家の棚田も、どちらも一木造りという技法を用いる。棚田は、素材となる木に向き合い、大人になりきる前の、神の領域の近くにいる少年少女たちを、素材である期の揺らぎに重ねて表現する。
小林:日本の彫刻には、(石で作る大陸と異なり)木の持つ生命力や霊性を重んじて彫り出してきた歴史があります。新美術館さんが教えてくださった「円空✕棚田」という組み合わせは大変興味深く、楽しみにしております。
円空仏を円空彫刻と考え、日本の彫刻の歴史を大きなひとつの木と捉えるならば、繋がりを感じます。円空さんは年輪の中心に近いところにいらっしゃるのかなと。そして僕は一番外側の年輪になるかならないか、皮として落ちてしまうのではないか、というところで必死でやっている状態です。世界では「分断されるていく」という状況が多々見られると思いますが、展示の空間では「連なっているな」という感覚を、ご覧になる方々に感じていただけたら、うれしいです。
棚田康司
■仏像✕田根 剛
建築家の田根は、旧ソ連時代の滑走路跡地につくられたエストニア国立博物館の設計で知られている。滋賀県の西明寺に伝わる鎌倉時代の仏像《日光菩薩 立像》《月光菩薩 立像》に着想を得た新作を出品する。《日光菩薩立像》は太陽の光で苦しみの闇を消し、《月光菩薩立像》は優しい月の光で人々を慈しむ。「時間と光」「記憶」は、田根が長く追求してこられたテーマでもあり、現在新しいインスタレーションを考案中だ。
小林:「時間と光」で構想されているのですね。仕上がりがみられるのは、まだこれからとなりますが、期待しております。
■乾山✕皆川 明
尾形乾山は、陶器を芸術作品にまで高めた人物だ。京都の鳴滝に窯を開くと、そのディレクター的存在になった。皆川も、主宰するブランド「ミナ ペルホネン」において、良質なデザインを身近なものとするライフスタイルを提案している。シンプルかつ華やかな、自然に由来する有機的なデザイン、斬新な趣向、おもしろさなど類似が多々ある。
小林:現代作家の皆さんは、現代をリードされている方々ですが、乾山も他の古典作家たちも、当時は大変なアバンギャルドでした。乾山のうつわの模様と形も、前例を見ないようなもの。皆川さんとも時空を超えて、つながりあえるものと思っています。
皆川は、本展の企画を聞いたとき「斬新であり、興味深い」と感じたという。
「乾山と自分たちの共通点を、私たちなりに見つけられたらと、乾山の作品をみているところです。そして、物を作る時の気持ちについて、自分と乾山の共通点はないかとも。乾山が作ったものからどのような記憶が、イマジネーションが、作品と結びついたのかを想像し、とても楽しい時間を過ごしています。視覚的な共通点だけでなく、考えに至ること、形に至るところの共通点、そして時代背景として、乾山の生きた時代の暮らしと、自分たちの暮らしの違いや共通点を、展示の中でお見せできたらと考えております」
皆川明
■蕭白✕横尾忠則
横尾は、1970年代から蕭白に魅了され、たびたびオマージュを捧げてきた。蕭白と横尾に共通するのは、エネルギッシュであり、時にいかがわしい、圧倒的なイメージだ。命が高揚する感覚、不安や恐怖、怪しいものや奇怪なものへの好奇心など、生きることにつきまとう全ての感覚が作品に取り入れられている。蕭白作品は、《群仙図屏風》、《柳下鬼女図屏風》が展示される予定。横尾は、蕭白に捧げる新作オマージュを数点発表するという。
小林:曽我蕭白という人は、江戸時代、最もやんちゃな方だったと思います。この展覧会最後の展示室で紹介されるペアです。蕭白パワー、横尾パワーを浴びてお帰りいただくという仕掛けをしてくださっています。
新作の構想は?
登壇した現代作家4人は、新作の進捗について聞かれると、しりあがりは「アニメーション作ろうと思っています。以前に制作した北斎の拡大版。絵を描くことの楽しさが充分に溢れるようなアニメーションを」と語りつつ、「でもまだここ(イメージ)どまりです。いいアイデアがありましたら、皆さま教えてください」と会場に呼びかけ、笑いを誘った。棚田は「大きめの像を作っています。円空さんの三尊像も、当時観たら大きかったのでは? 今僕ができうる最大のものを作りたい」と構想を明かした。
8組をふり返り、小林氏は自身を「古い美術に浸ってきた」と語り、「この展覧会は、切り口の一つとして、現代と古典をつなげてくださっています。意識的にでも無意識にでも、過去の名作や作家の仕事を現代の作家が受け継ぎ、それぞれの方々がまったく新しい造形世界を切り拓いておられます。古いものから新しいものを生み出す。故きを温ねて新しきを創る。多くの方々に楽しんでいただき、創造的な世界を切り開く端緒にしていただけたら」と呼びかけた。
長屋氏は、現在、展覧会の準備中だ。合計8名の作家たちと対話を重ねる中で、「古典と現代作家の共通性が次々に見いだされている」と声を弾ませる。「合理的な意識で知っていたこと、企画の最初の段階で感じていた親和性を、軽々と越え、当初の想像以上に企画が広がっていくのを感じています」と期待を込める。
古典美術ファンも現代美術ファンも見逃せない、『古典✕現代2020―時空を超える日本のアート』は、2020年3月11日から6月1日まで、国立新美術館での開催。

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