ジム・モリソンの遺作となった
ドアーズの『L.A. ウーマン』は、
自らのルーツを見直した秀作
本作『L.A. ウーマン』について
収録曲は全部で10曲。1曲、ジョン・リー・フッカーのブルース曲のカバーの他、オリジナルでもブルース曲は4曲とこれまでになく多い。これはロスチャイルド不在のせいもあるが、彼ら自身『モリソン・ホテル』で推し進めた原点回帰をもっと掘り下げたかったからだろう。本作にはサポートメンバーとして、モリソンが尊敬するエルビス・プレスリーのバックも務めたジェリー・シェフがベースを、レオン・ラッセルとアサイラム・クワイアを組んでいたマーク・ベノがギターで参加していることもあり、これまで以上に泥臭くアーシーなサウンドにチャレンジすることが可能となった。
本作には冒頭のご機嫌なソウルロックナンバー「チェンジリング」を始め、「ラブ・ハー・マッドリー」「L.A. ウーマン」「ヒヤシンス・ハウス」「ライダーズ・オン・ザ・ストーム」など、多くの名曲が収録されている。「ラメリカ」はオルタナティブロックのような新しいテイストを持ったナンバー。また、彼らにとって新境地とも言えるソフトな「ヒヤシンス・ハウス」はレイドバックしたやさしいサウンドで、ヴォーカルにはロックスターではなく素のモリソンの存在が感じられる。
僕はドアーズの最高作として、迷いなく本作『L.A. ウーマン』を選ぶ。このアルバムのようにベーシストとリズムギターを加えたスタイルで、続けてもらいたかった。残念なことに、本作のリリースから3カ月後、モリソンはパリで帰らぬ人となった。
残されたクリーガー、デンズモア、マンザレクの3人は、ドアーズ名義で2枚のアルバムをリリースする。その後、クリーガー、デンズモアのふたりはイギリスに渡り、本格派のソウルシンガー、ジェス・ローデンを迎えてファンクグループのバッツバンドを結成する。バッツバンドでは2枚のアルバムをリリースしており、1枚目の『バッツバンド』(‘74)はクリーガーとデンズモアの全キャリアを通して最高のアルバムだと言えるが、セールス的には失敗したので残念ながら現在はLPもCDも入手困難である。マンザレクはソロやグループで活動し、80年代にはプロデューサーとしてエコー&ザ・バニーメンなどを手掛けたこともあるが、2013年に死去している。
TEXT:河崎直人