ミュージカル『サタデー・ナイト・フ
ィーバー』主演リチャード・ウィンザ
ーが語る“僕とダンス”

主演を務めたジョン・トラボルタの名ポーズと共に知られる映画『サタデー・ナイト・フィーバー』。そのミュージカル版がロンドンからやって来る! ディスコ・ダンスに青春を賭ける主人公トニーに扮するのはリチャード・ウィンザー。ダンサーとして活躍し、イギリスの鬼才振付家マシュー・ボーン版の『白鳥の湖』や『シザーハンズ』等の来日公演で主演を務めてきた彼の肉声が、舞台で初めて聞ける!
――今回、ミュージカル作品では初来日となります。
まずはダンサーとしてキャリアをスタートさせたけど、その後、役者業にも進出して、映画やドラマも経験したから、今ではオペラ以外のジャンルはほぼ制覇した感じかな。マシューの作品、ダンスを通じて僕を知ってくれた日本の観客に、違う分野に挑戦している姿を観てもらえるのがうれしくて。たとえ同じ言語を話しはしなくても、理解する、理解してくれようとする心にあふれている日本の観客の前で公演することは、僕にとっていつも大きな喜びだったからね。
リチャード・ウィンザー
今回の作品は絶対に楽しんでもらえる自信があるし、皆さんがどんな反応を見せてくれるのか、楽しみだな。ミュージカル作品だけれども、字幕もあるし、今回の演出、ステージング、演技は、主人公トニーの心の旅路をたどる上で非常にわかりやすいものとなっていると思うんだ。どんな年齢層でも楽しめて、ちょっとノスタルジックで、心にぐっと来るものがあって、観ていて歌い出したくなる、踊り出したくなる瞬間がいっぱいある作品なんだ。
――ビージーズの音楽が非常に有名ですね。
ビージーズで踊れるのは本当にエキサイティングで楽しい経験だよ。リズムもビートもいかしていて…。ステージ後方にバンドとビージーズのような三人組のシンガーがいて、演奏し、歌を歌う、それが今回の演出の特徴となっているんだ。バックからすばらしい演奏と歌が聴こえてくると、ちょっと疲れている日なんかでもものすごくやる気が出るんだよね。
過去公演の舞台写真  (c)Pamela Raith/オフィシャル提供
――映画版の日本公開は1978年、ほぼ40年前の作品です。
時代を象徴する作品の一つじゃないかな。1970年代の名作映画ベストなんかではだいたい上位にランクインしている作品だよね。この作品の世界的な大ヒットによって、当時のディスコ文化が今日まで伝えられることになった。そして、ビージーズとジョン・トラボルタも時代のアイコンとなった。そんな作品に主演という立場で携わることができて本当に光栄だよ。日本でも同じようなディスコ・フィーバーがあったと聞いているから、当時を懐かしんで観てくれる方も多いと思うし、70年代という時代をより知りたいと願う人たちにとっても魅力的な作品なんじゃないかな。

リチャード・ウィンザー

僕は10歳か11歳の頃にこの映画を観て、ジョン・トラボルタの踊りに憧れたんだ。男性ダンサーのこういうパフォーマンス、本当にかっこいいなと思った。映画で披露される彼の踊りは、パーフェクトと言いたくなるくらいすばらしいからね。同じように、『フットルース』のケビン・ベーコンや『ダーティ・ダンシング』のパトリック・スウェイジの踊りにも憧れた。それともちろん、マイケル・ジャクソンにも! 彼らは本当に楽々と美しく踊っていた。それを真似して踊ったりして…。彼らへの憧れが、踊りたいという僕の原点となっていったんだ。だから今、この作品のミュージカル版に主演できるということは、夢が一つ叶った感じなんだ。
――ディスコ・スタイルで踊るとなると、これまでとはまた異なるテクニックも必要となってくるのでは?
それは大いにあるよね。ただ、マシューのカンパニーでは作品ごとに必要とされるスタイルが異なっていたりもしたから、新しいスタイルのテクニックに対して柔軟でいようとはいつも心掛けてきていて。バレエ・ダンサーとして訓練してきた経験があるから、新たなスタイルを分析し、自分の身体をどのように動かせばいいか判断がつくものなんだ。『ストリートダンス/TOP OF UK』という映画でストリートダンスに挑戦したときも新たなチャレンジだったし、ディスコ・ダンスも楽しい挑戦だよね。映画版のジョン・トラボルタの動きを見て研究したし、当時のディスコ文化、「スタジオ54」(ニューヨークにあった伝説的ディスコ)についてのドキュメンタリーを見たりして理解を深め、ユニゾン(複数人で同じ振りを踊ること)で踊ることで陶酔感、熱狂が生まれる、その流れもわかるようになった。そんな当時の熱狂を、僕自身の肉体、踊りを通して観客にも伝えられたらいいなと思っていて。当時の音楽のシンコペーションを表現する上では、肉体がリラックスして見えるようにすること、そのための技術が大切なんだ。たとえ一生懸命踊っていたとしても、力が抜けているように見えなくてはならない感じで。
リチャード・ウィンザー
――ミュージカル版のウエストエンド初演は1998年、こちらの公演も非常に楽しいものでしたが、先ほどおっしゃった演出やステージングも含め、今回の新演出版ではかなり変更点が加えられているそうですね。
今回の振付は、映画版、当時のディスコ文化を参考にした上で、僕の技術や個性も大いに活かされるものとなっているんだ。主人公のトニーは野心を抱いたダンサーだから、その彼だったら挑んでいくだろうさまざまな踊りを取り入れていて。物語を語る上でも重要な変更が加えられているのは「Immortality」のナンバー。この場面でトニーは絶望の底にあるわけなんだけれども、彼はダンサーなんだから、歌い出すより踊るべきだと思ったんだ。そこで、コンテンポラリー・ダンスの文脈にあるソロの踊りによって、彼の心情を表現することにして。今回、全体的に、物語とキャラクターによりフォーカスを当てた舞台に仕上がっていると思う。
――作中好きなナンバーは?
ありすぎて選べないよ! 全曲かな(笑)。選ぶとすれば、一幕ラストの「You Should Be Dancing」は、曲が自分の身体にもたらす効用を感じながら踊るのが好きだな。「More Than a Woman」は、作中というより、ポピュラー音楽の中でもっとも美しいラブソングだよね。それを言ったら「How Deep Is Your Love」もすばらしい曲だし…。この曲では僕も歌を披露するんだけれども、感情をオープンにできる瞬間が訪れるのが好きなんだ。
――主人公の心の旅路をたどる作品だとおっしゃっていました。
二時間半の上演時間で、3曲をのぞいては僕、出ずっぱりなんだ。一つのシーンを次のシーンへ、そして次へと引っ張っていく役割を果たしていて。映画版を観ていても思ったことなんだけれども、この作品の芯として、さまよえる人間が描かれているということがあると思うんだ。登場人物はみんな、迷いの状態にある。人生で多くを得ようとして努力するも、得られない、その挫折感というか。

リチャード・ウィンザー

――1970年代らしいテーマですね。
そうなんだ。そして、苦闘の果て、登場人物たちは自分自身を再発見していく。自分をよりよき存在にしていこうともがくうちにね。トニーの家庭環境はあまり恵まれたものではない。彼の父は母にひどい仕打ちをしている。そのことで、トニーはクールさを装って人と接している。まるで、クジャクのオスが羽根を広げてみせるみたいにね。でも、実のところ、彼は繊細で傷つきやすい人間なんだ。女性蔑視の暴言を吐いたり、ひどい振る舞いもするけれども、そんな彼の偽りの鎧が取り払われてしまう瞬間が来る。そのとき、混乱した彼は、自分が本当に求めるものは何なのか、自問自答しなくてはならない。そして彼は、踊りによってよりよい人生を切り拓いていくことを決意するんだ。
――では、ウィンザーさんにとってダンスとは?
ダンスとは、究極的には、自分自身を表現する手段だと思う。人は、とりたてて踊る必要はない。どの音楽で踊りたいか、どの音楽で踊りたくないか、その選択はすべてその人自身に任されている。そして、音楽がどのように肉体に作用するか、その表現の手段でもある。大勢でユニゾンで踊っていたとしても、そこにいるのは個、人間一人一人だ。そして、踊ることによって人間は自分を発見することができる。もう何千年もの間、人間にとって、踊りはそんな意味をもつものとして続いてきた。だから、人々にとって、他人が踊っているのを観ることも非常に大切な経験なんだと思う。観ることで、心と身体で自由を感じることができるからね。
リチャード・ウィンザー
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=安西美樹

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