俳優・小林直己はEXILEに“値するも
の”であるために何を経験し、どう変
化していくのか? Netflix『アースク
エイクバード』インタビュー

11月15日(金)よりNetflix映画『アースクエイクバード』の世界配信が始まった。イギリス人作家スザンナ・ジョーンズによる同名ミステリー小説を『ブレードランナー』などのリドリー・スコット製作総指揮のもと映画化した同作。劇中では、1989年の東京を舞台に、死体となって発見された女性・リリー、容疑者となった友人・ルーシー、ハンサムでミステリアスなカメラマン禎司ら3人の愛憎と、異国で暮らす女性の心理をサスペンス・ミステリーとして描かれている。メガホンをとったのは、『アリスのままで』のウォッシュ・ウエストモアランド監督。
佐渡や東京など、ほとんどのシーンを日本で撮影した異色のハリウッド映画である本作で、主人公のルーシーを演じたアリシア・ヴィキャンデル、ルーシー役のライリー・キーオ(『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』)らと並んでメインキャストに起用されたのが、EXILEのパフォーマーであり、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのリーダーとして知られる小林直己。2人の女性を翻弄するオム・ファタール=カメラマンの禎司を、日英の2言語を使い分けながら見事に演じ切っている。小林はいかにして同役を勝ち取ったのか。俳優としての大きな転機となった本作での役づくりや、国際色豊かなキャスト・スタッフたちとの共同作業、そして、俳優・ダンサーとしての未来まで、じっくりとインタビューで語ってもらった。
「英語でも日本語でも、結局は芝居に変わりはない」
小林直己 撮影=iwa
――小林さんが2017年からLDH USAのスタッフとして活動されていることは知っていましたが、現地での俳優活動がここまで進んでいたことに驚きました。本作には、オーディションを経て参加されたのですか?
そうです。『HiGH&LOW』も含め、自分の中で芝居に対する興味がどんどん強くなっていって、日本に限らず素晴らしいクリエイターと作品を作っていきたいと思い、4年ほど前から言語やアクティングのトレーニングを始めました。同時に、現地でそうした活動が出来るような組織づくりも始めていました。色々なオーディションも受けるようになり、2年前に本作の募集を知りました。ビデオオーディションだったので、ワンシーンを演じて撮っては送り、撮っては送り、監督の指示にぼくが応えるということを繰り返しました。そうしたプロセスがだいたい2ヶ月くらい続いて、出演が決まりました。
――かなり長い時間を使って審査されたんですね。現在は、完全にアメリカに拠点を置かれているのでしょうか?
行ったり来たり、という感じですね。ちょうど今は三代目 J SOUL BROTHERSのツアーで日本にいますし、来年の頭はEXILEのツアーもあります。
――英語での演技がとても自然でした。発音だけではなく、感情が伝わるイントネーションが素晴らしいと思いました。
英語でも日本語でも、結局は芝居に変わりはないので、人と人とのやりとりだと思っています。ぼくらは字幕で映画を観ても、感動できたり、楽しいと思えるわけですから。おそらく、セリフがなかったり、言葉自体がめちゃくちゃであっても、心のやり取りを見て取ることは出来ると思います。本作ではアリシアとすごく信頼関係を築けたので、かなり緊張感のあるシーンも多かったんですが、役としても、役者同士としても、お互いに信じて飛び込んで行けたと思います。役を分析して、日本に来たアメリカのクルーとも話すことはありました。3人のキャストの中で唯一の日本人ですし、1989年の日本を舞台にすることに責任を感じるところはあったので、監督のウォッシュともコミュニケーションを取りました。彼もちゃんと話を聞いてくれたので、準備は入念に行うことが出来ました。単純な英語力という意味では、文法やスピーキング=発音、アクティングとして感情を伝える言葉、それ以外では、カメラマンである禎司に必要な撮影についての知識や経験、そば屋としての技術といった要素を自分の中で項目分けして、一つひとつ準備していきました。
Netflix映画『アースクエイクバード』  11月15日(金)より独占配信開始
――アリシアさんとのシーンでは、お二人が日本語と英語を交えて会話されていたのが印象的でした。
英語で質問されて日本語で返したり、日本語で質問して英語で返されたり、というやりとりですね。アリシアとのシーンでは、「ここは絶対に日本語で」「ここは英語で」と、それぞれのキャラクターや感情から生まれる、明確な理由づけがありました。役を踏まえてそうした部分を整理するため、監督とアリシアでかなり話もしています。日本語を話す方や、日本で生まれ育った感覚をお持ちの方なら、「この違和感は何だろう」「ここではなぜ納得できるんだろう」といった感覚で、より楽しめるんじゃないかと思います。
小林直己 撮影=iwa
――監督とは、アメリカでもランチをとりながらディスカッションされた聞いています。
日本の文化や精神性について、自分は役についてこう思うんだとか、禎司はこういうことは言わない・こう言うだろうとか、個別のシーンでも「ここは違和感がある」「これはすごくいいね」とか、そういったことを沢山話しました。印象的だったのは、LAでランチをしていたときに、「直己のバックグラウンドをもっと聞かせてくれ」と言われたことです。ぼくは生まれ育ちや、これまでの経験、今の状況、何を求めてパフォーマンスしてきたか、「ここだけは譲れない」といったこと話しました。
――監督は何を聞き出そうとしたんでしょうね。
原作ではルーシーの一人称で物語が語られるので、禎司はほとんど台詞がないキャラクターなんです。その中で、どういう人間なのかがほとんどわからない。だから、ウォッシュは小説を脚本にするにあたって、ぼく自身のバックグラウンドからワードを引き抜いて、禎司の台詞に起こしたところもあったそうです。劇中の台詞は、禎司の人間性をとてもよく表したものになっています。そういうところから、ウォッシュはぼくの中に禎司を見ていたんだな、と気づきました。
過去の小林直己と対峙すること
小林直己 撮影=iwa
――写真を勉強したり、鹿児島に足を運んだりといった役作りは、小林さんご自身が自発的にやったことですか?
特に誰かにやれと言われたことではないですね。最初にウォッシュに会ったときには、すでにカメラで撮影した写真をプリントして渡していました。撮影の5ヶ月前には、劇中でも使われている80年代モデルのカメラ=オリンパスOMシリーズと同じものを買って、東京の街並みを撮り始め、フィルムを自家現像しました。
――そこまでする理由は?
ぼくはメソッドアクティング(メソッド演技法)というスタイルをとっています。これは、自分の経験、過去の記憶や感覚などをもとに役を作っていく手法なんですが、今回は禎司を作り上げていくときに、自分のネガティブな部分に向き合わざるを得ませんでした。とてもタフなことでしたが、それがシーンに活かされることによって、過去の後悔などが昇華していくような感覚がありました。これは芝居でしかできないことだろう、と。ぼくがダンスを始めたのは、自分の中にあるものを叫びたいと思ったときに、言葉にすると何かが失われてしまう気がしたからなんです。表現としてダンスが自分にあっていたから選んだわけですね。ぼくはダンスのトレーニングを重ねて、想いをそのままナチュラルに出す。禎司の場合は、自分の感覚をカメラを通して表に出している。だから、ぼくにとってのダンスと同じく、禎司にとってのカメラは第二の本能(second nature)と言えるくらいのものにならなければいけなかった。何も意識せず、気になったらカメラを自然と構えてしまうくらいに。鹿児島に行ったのも、禎司が何を見て育ち、何を思ってそこで過ごし、どうして東京に出てきたのかを知る必要があったからです。
Netflix映画『アースクエイクバード』  11月15日(金)より独占配信開始
――これまでの作品とは違った役作りをされたのでしょうか?
今回は特に強く意識して、感じたということですね。最初に脚本を読んだときから、禎司には強い共感を覚えました。彼自身は一見ミステリアスで、心をオープンにしない人。でも、それは彼の価値観があってのことなんです。彼自身の真実を追っていて、それを言わない、あるいは不器用で言えない。そういうところが自分に似ていました。「これからの人生に必要なものが見つかるかもしれない」と思えたので、この役はアクターとしてだけでなく、個人的なものとしてやりたいと思いました。だから、彼の色んな要素を拾い上げていって、自分の過去とも向き合う必要があったんです。その過程で多くのことに気づかされましたし、役者としても人間としても、非常に成長させてもらえました。
――本作に登場する人々は、性に対する考え方、家庭環境、人種など、一人ひとりがとても多様で複雑に描かれています。これまで小林さんが参加された作品と毛色が違うので、刺激になったのでは?
そうですね。もともとイギリスの小説が原作の作品ですし、監督のウォッシュもイギリス人です。彼は3年間福岡に住んでいたこともあって、日本への理解と尊重の気持ちを持っていました。これは、とてもありがたかったですね。この作品には、自分の価値観を揺るがされたところはあります。自分が当たり前だと思っていた感覚は、実は少数派だったんだ、と。この物語はサスペンス・ミステリーですが、人と人との関係性の話でもあります。自分の持っていないものを相手が持っていて、嫉妬や愛情といった感情が生まれる。そこから、相手との距離が近づけば近づくほど、「自分とは何なのか?」と考えることになる。この作品に関わることで、ぼく自身も同じような感覚に陥りました。この映画をご覧になった方が共感を覚えるとすれば、そういったポイントなのかな、と思います。
小林直己 撮影=iwa
――ステレオタイプな“外国人”と“日本人”の関係を描いたものではない、と。
ウォッシュも、「あまり記号化したくない」ということは言っていました。「西洋と東洋」といった“違い”を描きたかったわけではなくて、“繋がり”を強調したかった、と。そういう意味では、ルーシーが「日本人の女とは違うな」と言われて、「違わない」と答えるシーンは象徴的です。撮影中はアリシアがスウェーデン出身であることは、全く意識しなかったですし、彼女=ルーシーの心に何があるのか、ということしか興味がなかった。ぼく自身も、役作りや脚本を読み解く時こそ意識はしましたが、撮影中には「日本人だから」とは考えなかったです。禎司とルーシーがぶつかりあって生まれる感情にこそ意味があるし、人間関係というものは本来そういうものなんじゃないかな、と思います。
“値するもの”であるために
小林直己 撮影=iwa
――国際色豊かな制作チームとの仕事は、いかがでしたか? 撮影監督のチョン・ジョンフン氏は韓国出身で『新しき世界』や『IT/イット』などを手掛けてきた方ですし、制作チームはアメリカ・日本のスタッフで構成されています。世界に展開するNetflixらしい体制と言えるかもしれません。
それぞれ異なるバックグラウンドを持つ、インターナショナルなクルーやキャストと一緒に作れたことは、とてもいい経験になりました。映画というもの自体が、色んな専門職が集まって作るものですし、そこに俳優部として参加して、クオリティの高いものをプロフェッショナルとして届けなければならない責任はありましたが。それでも、言語も文化も背景も異なる人々が、色んなものを持ち寄る環境は、それはもう刺激的でした。そんな作品が190ヶ国1億超の人々に同時にアプローチできるNetflixで配信されるということは、怖くもあり、興奮もします。しかも、届ける題材がフィルムカメラだったり、心と心のやりとりだったり、自己の再認識という、とてもアナログなもの。このアンバランスさは、今の時代を表しているようですね。
Netflix映画『アースクエイクバード』  11月15日(金)より独占配信開始
――日本映画とくらべて、撮影の環境やスケジュールなど、Netflix特有のやりやすさのようなものはありましたか? 
どうでしょう。ぼく自身が日本映画の現場をたくさん経験しているわけではないので……ただ、とても丁寧に作ることが出来たのは確かですし、全てが監督のウォッシュに集まるように、みんなの気持ちが一つになっていた感覚はあります。昨日もスタッフと食事をしながら話をしていたんですが、みんな「こんなにお互いが身近な現場は、なかなかない」と言っていました。家族のように食事を共にできる、そんな距離の近さが制作環境にも表れていたんじゃないかな、と。それはスタッフだけじゃなく、ウォッシュやアリシア、ライリーの寛大な人柄によるところも大きかったと思います。
――これから俳優としてさらに活躍されて、さらに環境も変わると思います。小林さんとEXILE/三代目 J SOUL BROTHERSの関係は、これからどう変化していくと思いますか?
ぼくの中でダンスと芝居は地続きなので、表現の形態が違うだけで、それほど大きく異なるものではないんです。そのうえで、グループ……これは組織や集団と言い換えてもいいと思うんですが、そういった“帰る場所”があることは、ぼくに大きな安心感をもたらしてくれます。今作でもメンバーがすごくサポートしてくれて、とても助かりました。そして、応援して下さるみなさんの存在があるから、ぼくも挑戦し続けられるんです。だからこそ、ぼくも何かを返したい。肉体やダンサーとしてのピークというものは自分が一番わかるので、その価値がいつまでも(サポートや応援に)値するものでありつづけられるのか?ということは、とても考えるところです。ダンスの先に、芝居で「これだけのものが提供できる」とわかったときには、それが“返すための手段”になりうると思うし、もしかしたら(ダンスと芝居が)逆転することもあるかもしれない。グループがともに戦ってきた仲間であり、ライバルであるということは、ぼくのモチベーションになっています。この作品での経験は、そういった関係とあらためて向き合うきっかけになったと思います。
小林直己 撮影=iwa
Netflix映画『アースクエイクバード』 は独占配信中。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=iwa

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