ロザリーナ シンガーソングライター
としての決意も滲む新曲と、デビュー
から1年半を経た現在の心境

初めてロザリーナの歌を聴いたとき、はっとした。キラキラとしたサウンドにのせて、少年のような中性的なボーカルで紡がれる、どこか寂しげな歌。ファンタジーのようで、人間の心の明暗を丹念に捉える歌詞がとても生々しくて魅了された。まだ無名だったインディーズ時代に、キングコングの西野亮廣に見出され、西野作の絵本とコラボしたことで大きな注目を集めたロザリーナは、昨年4月に『タラレバ流星群』でメジャーデビュー。以降、アニメ『からくりサーカス』の主題歌や、NHK『みんなのうた』に起用されたほか、最近では、THE ORAL CIGARETTESとのコラボ曲「Don't you think feat. ロザリーナ」が話題になったことも記憶に新しい。そんな彼女が10月24日に配信リリースした「百億光年」は、現在放送中のアニメ『歌舞伎町シャーロック』の主題歌であり、プロデュースを亀田誠治が担当。シンガーソングライターとしての決意も滲む楽曲について紐解きつつ、メジャーデビューから1年半を経た現在の心境を語ってもらった。
――最近はTHE ORAL CIGARETTESとコラボした楽曲が話題になりましたね。
とにかくオーラルのみなさん、良い人たちでした。
――どういう経緯で実現したんですか?
もともと知り合いだったわけじゃなくて。ボーカルの(山中)拓也さんが、女性ボーカルを探してたらしいんです。そのなかで、ロザリーナを発見してくれて。
――その話がきたときは、どう思いましたか?
即答で“やります!”っていう感じでした。
――オーラルに対してはどんなイメージを持ってたんですか?
激しく盛り上げる、強めのバンドっていうイメージですね。偏見なんですけど、そういうロックバンドって、遅刻したり、人の話を聞かなかったり、打合せに来なかったり……みたいなイメージが勝手にあったんです(笑)。酔っぱらったままレコーディングにきちゃう、とか。いろいろ想像しちゃってたんですけど、全然そんなことなくて。
――あはは、みんな真面目ですよね。
そう、拓也さんとか、レコーディング中はブースから離れないんですよ。ほぼ休憩もとらずに、ちゃんとディレクションをしてくれて。すごくストイックでした。いままでロザリーナの現場しか経験したことがなかったから、他のアーティストさんがどういう風にレコーディングをするのかを知れたのは、良い経験になりましたね。

――意義深いコラボレーションだったんですね。メジャーデビューから1年半が経ちますけど、自分で振り返ってみて、どんな期間だったと思いますか?
特に変わったことはないですね。いままでと変わらず、制作をして、レコーディングしてっていう感じなので。ほとんど変わらないと思います。
――それは、あえて気持ちが変わらないようにしてる部分もあるんですか? たくさんの人に自分の音楽を聴いてもらえる機会も増えたと思いますけど。
そういう意味で言うと、ありがたいことに、たくさんの人と関わっていく機会が増えて、“本当に自分がやりたいことって何だろう?”っていうのをなくしちゃいけないなって思いました。いままでは、“メジャーデビューしたい”っていう気持が強かったんです。でも、結局、何のために音楽をやってるのかを考えたときに、自分がかっこいいと思う音楽を作って、それを聴いた人もかっこいいと思ってくれることが、やってる意味だなと思って。前よりも曲作りに対するこだわりが強くなったかもしれないです。
――そういうふうに感じだしたのは、作品で言うと、どのぐらいの時期ですか?
「Stereo」ですね。『マリオネット』のカップリングなんですけど。リード曲の「マリオネット」はタイアップ曲でもあるから、こういう感じで作ってほしいっていう(先方の)イメージもあって。自分の曲だけど、自分だけの曲じゃないところがあるんです。でも、「Stereo」に関しては、自由に作ったんです。
――現代っぽいサウンドも取り入れた新機軸になった曲ですよね。
そう、やっぱりこういう曲をやりたいなと思いましたね。

――最初は“変化はない”って言ってたけど、気づいたら、シンガーソングライターとして、より能動的に自分がやりたい音楽に向き合うっていう変化はあったんですね。
たしかに。実は心のなかでは変化はあったんですね。
――ロザリーナさんの声って、男の子っぽくも、儚くも聞こえて、ミステリアスなところが魅力的だなと思うんですけど。自分の声に関してはどう思ってますか?
THE ORAL CIGARETTESさんとコラボした曲を聴いて、“あ、自分の声って、ちょっと中性的だな”と思いました。
――え、あのタイミングで初めて思ったんですか?
はい(笑)。ずっとこの声で歌ってきたから、自分の声はよくわからないんです。でも、初めてTHE ORAL CIGARETTESさんとやったときに、拓也さんは、女性が歌うメロディの下を男の人の声が支えるっていうのをやりたかったらしいんですけど、実際に聴くと、少年と大人が歌ってるように聴こえるなと思ったんですよ。本当は女性ボーカルを探してたのに、“大丈夫かな?”って思ったんですけど。
――じゃあ、あんまり自分の声の使い方に対して、自覚的ではなかったんですね。
そうなんです。
――あと、楽曲の振り幅が広いのもロザリーナさんの特徴だと思います。初期はファンタジックな曲調が多いけど、そこからロック、バラード、アーバンなアプローチまで広がってて。一体、どんな音楽に影響を受けてきたのかな?って興味があるんですけど。
まさに雑食ですね。もともと音楽を掘り下げて聴くというより、友だちと騒ぐために音楽を聴くっていう感じだったんですよ。
――周りの人と話を合わせるために聴く感じ?
そうそう。カラオケでみんなが歌ったり、車で流すから知ってたりとか。たぶん中高生ぐらいまでは流行ってたものを聴いてたんです。
ロザリーナ 撮影= 菊池貴裕
楽しかったことは“ああ楽しかった”で終了だから、曲を作るうえでは、自分のなかで引きずってる悲しみと向き合うことになりますよね。
――自分で好んで聴くようになったのは、どういう音楽だったんですか?
高校ぐらいから洋楽を聴くようになって、まずはビートルズでしょ?みたいなところから広がりましたね。そこからオアシスとかコールドプレイ、マルーン5が好きになって。マルーン5はいまもかなり聴いてます。あと、アウル・シティーと出会ったのが大きいかもしれないです。デジタルとロックの融合がすごく気に入って。
――特にシンセポップ系の曲では、影響が大きいかもしれないですね。
わかりますよね。もともとギターしか弾けなかったから、自分のなかで似たような曲になっちゃうことも多かったんですけど、最近は、パソコンを使って打ち込みでデモを作るようになって、そこはアウル・シティーの影響も大きいと思います。あと、トロピカルハウス系も好きだし、チェインスモーカーズは大好きです。最近気づきはじめたのが、レゲエ好きかもしれない説(笑)。特定のアーティストが好きっていうより、好きなラッパーが歌ってる曲のなかに、レゲエの要素が入ってたりするのが面白いなと思ってますね。
――へえ。
本当にいろいろ聴くから、たまに“自分は何を作りたいんだろう?”って迷うときはあるんですよ。かっこいいものは取り入れたいし。困ってるんです(笑)。
――あはは、たぶんジャンルとして音楽を聴いてないからですよね?
そう、ジャンルじゃないですね。
――きれいなメロディのなかに、どこか憂いがある曲が好きなんだろうなとは思いますけど。
それはあると思います。明るすぎるのは、あんまり得意じゃないんです。いま、Aiasっていうアーティストがすごく好きなんですよ。スペインのバンドですけど、Aiasが作るメロディは、日本人も聴きやすいと思うんです。アップテンポなのに何か物悲しさがある。それが理想ですね。
――それは言い換えると、悲しみを書きたいっていうのが、ロザリーナさんが音楽を生み出す原動力だからですか?
それもあるし、そもそも悲しいこととか怒りって、みんな引きずると思うんです。簡単には忘れられないし、トラウマになってしまうような出来事もたくさんあるし。逆に楽しかったことは、“ああ、今日楽しかった”で終了なんです。だから、どうしても曲を作るうえでは、自分のなかで引きずってる悲しみと向き合うことになりますよね。
ロザリーナ 撮影= 菊池貴裕
進路を迷ってるタイミングで家族に相談したんですよ。“マッサージ師か歌手になりたいんだけど、どっちがいいかな?”って。
――ロザリーナさんが最初に曲を書こうと思ったきかっけは何だったんですか?
曲を書けないと、歌手になれないと思ったからです。歌手=曲が書けるっていう認識だったから、“よし、とりあえず曲を作ろう”みたいな。
――最初に作ったのはどんな曲だったか覚えてます?
「サラマンダー」っていう曲ですね(笑)。伝説の火を吹くとかげの歌なんですけど、受検シーズンに書いたんですよ。みんなカリカリしてるじゃないですか。それに関連させた歌でした。いま、歌えと言われても、絶対に歌わないですけど(笑)。
――処女作が「サラマンダー」と聞いて、ロザリーナさんの初期作にファンタジックな曲が多いのともつながる気がします。やっぱり空想の世界を描くのが好きなんですか?
大好きです。大好きなんですけど……でも、最近はそれを自分の表現として貫くことには迷う部分もあるんです。ディズニーランドみたいな世界も好きですけど、チェインスモーカーズ的なポップスも好きなんです。で、私はどっちをやりたいかな?と思ったときに、歌詞にはファンタジーな部分も残しつつ、サウンドとかメロディの部分は、今風なものをやりたいんじゃないかなと思ってますね。
――いまでも迷いながら、自分のなかのロザリーナ像を摸索してるんですね。
よく迷子になってます(笑)。でも、ようやく自分のなかで、“これはやりたい” “あれは違う”っていうのがわかってきた気がするから、なるべく自分がやりたいことで、ちゃんとみんなにも響く、意味のあることができたらいいなと思います。
――ちなみに、ロザリーナさんが“自分はミュージシャンとして生きていくんだ”って決意を固めた瞬間ってあったんですか?
進路を迷ってるタイミングで家族に相談したんですよ。“マッサージ師か歌手になりたいんだけど、どっちがいいかな?”って。そしたら、マッサージ師は、本当になりたければ、何歳になっても目指せると思う。でも、歌手はきっといましか目指せないから、もしもやれるんだったら、そっちをいまやったらって言ってくれたんです。
――すごい的確なアドバイス。
そう。でも、何年か経ってその話をしたら、“あのときは頭がおかしいと思った”って言われましたけどね(笑)。
――ふたつの職業に共通点を探すなら、どちらも人を癒す仕事ではあるのかな。
そうそうそう。そうだと思ってます。私は面倒くさがり屋だから、とにかく大学に行ってまで勉強をしたくないなっていうのもあったんですけどね。

――では、ここからは先日、配信リリースされたバラード曲「百億光年」の話も聞かせてください。アニメ『歌舞伎町シャーロック』のエンディングテーマ曲ですね。
これは、けっこう昔からワンコーラスだけあったんですよ。それこそ「サラマンダー」を作ったぐらいに、自分が悩んでたことを書いたんです。初めて曲っぽいのができたかもしれないっていう手応えはあったけど、最後まで作り上げることができなくて。“もうこの曲は完成しないだろうな”ってあきらめてたんですけど、今回タイアップが決まったときに、この曲が合うかなと思ったんです。
――そこからアニメに寄せて作り進めていったんですか?
はい。原作がないオリジナルアニメだから、分厚い脚本みたいなものを読んだんです。そしたら、すごく面白そうだなと思って。次々に問題を解決していくんですけど、それを読んで、誰でも何かしら悩みを抱えているっていうのが共通点だなと思ったんです。この曲で、昔、悩んでいた自分のことを書いたのは2番以降なんですね。
――“どうしようもない僕も 願いを叶えたい僕も やめたい僕も どれも本当の僕だな”というところですね。
そう。そこから広げて、現在の自分のことも書いていった感じですね。基本的にメロディも歌詞も全部私が書いてるんですけど、途中で(プロデューサーの)亀田さんが、Dメロをつけてくれたんです。それを聴いて、“明確な答えのない道を~信じ続けられるかな”っていう、いまの私が思っていることを入れたくなったんです。
――この部分にはロザリーナさんのミュージシャンとしての決意も感じます。
そうですね。ちょっと長い曲になっちゃったんですけど、ちゃんと言いたいことを書けたと思います。プロデューサーが亀田さんで、バンドは椎名林檎さんのサポートをしているような方たちで。すごく豪華なんです。
――亀田さんとお会いしたのも、今回の制作が初めてだったんですか?
そう。会う前はすごく緊張してたんですけど、優しい人でした。
ロザリーナ 撮影= 菊池貴裕
――ロザリーナさんにとって、亀田さんがプロデュースしているアーティストとして思い浮かぶのは誰ですか?
やっぱり椎名林檎さんとか東京事変さんですね。あと、「ap bank fes」のDVDを見たりもしてたので、Bank Bandのベーシストっていうイメージも強いです。
――実際に亀田さんとお話したことで覚えていることはありますか?
最初に打ち合わせをしたんですけど、そのときに声を褒めてくれたんですよ。この曲のデモを聴いて、“この声の人と仕事をしたいと思った”って言ってくださって。うれしかったですね。
――他に、曲の方向性について話し合ったりもしましたか?
“私はデジタル音が好きです”っていうのは伝えましたね。
――あ、そうなんですか。でも、そんなに機械っぽくないですよね。むしろストリングとピアノが全面に打ち出されてて。
ほんの少しだけデジタルな感じを入れてもらったんです。ただ、亀田さんのやりたいようにしてもらいたいっていうのはありましたね。もっとコーラスラインを聴かせようか迷ったんですけど、“これ以上大きくするのはダメだよ”っていう話し合いをしたりとか。そういうやりとりはありました。
――自分では完成してみて、どんな曲になったと思いますか?
うーん……夜っぽい曲になったなと思います。“最終電車”っていう言葉も入ってるし、帰り道ひとりで街頭に照らされている影を見ながら、その数をかぞえてる。ちょっと根暗な歌詞なんですけど、でも、がんばろうと思いますね。
ロザリーナ 撮影= 菊池貴裕
もうこの世にはないのに、100億光年っていう距離を経ていまの人間の目に届いてる。自分がいなくなったあとにも、誰かに届き続けるのがすごいなって。
――「百億光年」という言葉が出てきたのは、何かきっかけがあったんですか?
これは、オリオン座でいちばん明るく光ってる星(ベテルギウス)はもう消滅してるっていうところからです。もうこの世にはないのに、100億光年っていう距離を経て、いまの人間の目に届いてる。そういう星がたくさんあるんですよね。たとえば、ゴッホとかも死ぬまでは1枚しか絵が売れなかった。それでも死んじゃったあとに有名になって、いまはゴッホを知らない人はいないじゃないですか。それが正解かはわからないけど、自分がいなくなったあとにも、誰かに届き続けるのがすごいなって思ったんです。
――なるほど。あと、“溶けたチョコ”という言葉で、自分の心のなかにある大事な信念のようなものの比喩として使ってるのも、ロザリーナさんらしいです。
最初は“チョコ”ってフレーズを入れようかは悩んだんです。急にかわいい言葉が出てきちゃうから。“溶けたチョコ”みたいに、“心の火”は消えかけてるけど、もともとあった火と変わらないっていうことを歌いたくて。
――かたちを変えて歪みながらも、それを抱きしめて生きていくっていう想いですよね。とてもきれいなものに置き換えられてはいるけど、これがロザリーナ節だよなあ、と思います。すごく人間っぽい。
そう、私の曲はファンタジックと見せかけて、リアルなんです。基本リアルしか書いてないんですよね。でも、たぶんシャイだから比喩にしちゃうんです。
――では、最後に、来年4月には二度目のワンマンライブが開催されるということで。少し先になりますけど、ライブに向けての話も聞ければと思います。
はい。
――今年の4月が初ワンマンでしたけど、そこではどんな手応えを感じましたか?
それまでは対バンが多かったんですけど、心の持ち様が全然違いました。対バンだと、他のアーティストさん目当てのお客さんも多いし、ロザリーナのお客さんもいるかなあ、ぐらいの感じだったから、ホームではなかったんです。でも、ワンマンはロザリーナを知ってくれてる人しか来てないから、仲間だなと思いました……何て言うんだろうな。
――温かい気持ちになるというか?
うん、愛を感じる。
――ああ、いいですね。
もともとすごく緊張するタイプなんですけど、その緊張の種類も違いましたね。自分の音楽を聴いてくれる人たちに対して、ちゃんと感謝したいなと思いました。
――そういう経験を踏まえて、今後のライブではどんなことをしたいですか?
前回のツアーで大阪のチケットを完売できなかったから、そこはいっぱいにしたいです。シングルで出す「百億光年」のカップリングには、ぜひライブで歌いたいなっていう曲が入るので。みんなでひとつになれたらいいなと思います。
――ロザリーナさんにとって、ライブはどういう場所でしょう?
唯一、お客さんとコミュニケーションをとれる場所だなと思います。ちゃんとお客さんの顔を一人ひとり見ることができるし……それで緊張もしちゃうんですけど(笑)、実際に握手会で話したりすると、“こういう人が見にきてくれるんだ”っていうのがわかるんですよ。ロザリーナの曲を聴いてくれる人は、私と人種が似てるなと思うんです。そういう人たちが“ひとりじゃないな”って思える場所がライブなんですよね。
――それはライブだけに限らないかもしれないですね。心に寂しさを抱えてる人たちの癒しになるのが、ロザリーナの音楽でもあるんだろうし。
そう、きっとみんなも孤独だと思うんです。
取材・文=秦 理絵 撮影=菊池貴裕
ロザリーナ 撮影= 菊池貴裕

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着