リミックス制作の先駆者として
知られる才人・ニルソンの
傑作『空中バレー』
ニルソンのデビュー
本作『空中バレー』について
この2曲だけでなく、本作に収録された楽曲の13曲はどれも高水準で、スタンダード的な雰囲気のものやノスタルジックなものを中心に、どこかブリティッシュポップスの香りも感じさせる。ソングライティングとヴォーカルの両面でニルソンの才人ぶりがよく分かる傑作だと思う。バックを務めるのはロック寄りのミュージシャンも多く、ドラムにはジム・ゴードン(デレク&ザ・ドミノスなど)、キーボードにはラリー・ネクテル(後にブレッド)、サックスにはジム・ホーン(レオン・ラッセル、ジョー・コッカー、ジョージ・ハリソンらのバックで知られる)、ギターにデニス・バディマー(著名なセッション・ミュージシャン)ら、名手たちばかりである。
ニルソンと言えば7thアルバム『ニルソン・シュミルソン』に収められた「ウィズアウト・ユー」(71年リリース。米、英、オーストラリア、カナダなどでチャート1位)が最もよく知られているが、僕はノスタルジックかつ実験的なサウンドで勝負していた初期のニルソンこそが彼の真骨頂だと考えているので、本作『空中バレー』、4作目の『ハリー』(‘69)、5作目の『ニルソン・シングス・ランディ・ニューマン』(’70)あたりがお薦め作品となる。
なお、6作目のアルバム『エアリアル・パンディモニアム・バレー』(‘71)は、『パンディモ二アム・シャドウ・ショウ』と『空中バレー』の2枚のアルバムを再構成し新たにミックスし直した作品で、世界最初期のリミックス作品だと言える。
余談であるが、エアロスミスというグループ名は、ドラマーのジョーイ・クレイマーが本作を聴きながら思いついたそうだ。
TEXT:河崎直人