ウィーンフィルとベルリンフィル、人
気を二分する人気オーケストラが同じ
週に大阪にやって来る!

世界に君臨する2大オーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。クラシック音楽専門誌のファンによる人気投票でもつねに人気を二分してきた二つのオーケストラが、この秋、同じ時期に来日公演を行う。
西日本で唯一両方のオーケストラを、なんと1週間の間に聴くことが出来るのが、大阪中之島に在る音楽の殿堂、フェスティバルホールだ。
仮に年末年始、ヨーロッパに二つのオーケストラを聴きに行くとすれば……、実際このツアーは根強い人気で、定番の商品として専門の旅行社が売り出しているのだが、それによるとベルリン・ウィーン8日間のツアーでお一人様650,000円ほど。もちろん、現地で聴くことが出来るのは、ベルリンフィルのジルベスターコンサートや、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートではなく、通常のコンサートだ。
ウィーフィルと云えば、テレビでもおなじみのニューイヤーコンサート! C)Terry Linke
両オーケストラの大阪公演のチケット代金は、ウィーンフィルのS席は37,000円、A席は32,000円に対し、ベルリンフィルはS席43,000円、A席38,000円と、なかなか容易には手を出し難い値段だが、ヨーロッパに行くことを思えば……などと、お金の話から入るのは些か野暮なハナシだが、そこは筆者が関西人のことなのでお許し頂きたい(笑)。
実際に両オーケストラの出演者やプログラムなどを考察していくと、大変魅力的なプログラムを携えて、本気モードで日本公演に臨んでいることがわかる。
■ウィーンフィル大阪公演
まずは第57回大阪国際フェスティバル2019の一環でコンサートが行われる、ウィーンフィルから見て行こう。
シェフを置かないことで知られるウィーンフィルの日本公演のうち、大阪公演を指揮するのは、今年のニューイヤーコンサートでお馴染みのクリスティアン・ティーレマン。ベルリンに生まれ、これまでのキャリアからも、ドイツ・オーストリア音楽の伝統を受け継ぐ指揮者としてウィーンフィルと密接な関係を築いている。
世界中の主要オーケストラを指揮するティーレマン (c) Roman Zach-Kiesling
演奏曲目を見ると、「これぞウィーンフィル!」と叫んでしまいたくなりそうな3人のシュトラウスの音楽で組み立てられた盤石のプログラム。
今年没後70年を迎えるリヒャルト・シュトラウスの代表作、交響詩「ドン・フアン」、「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」と、オペラ「ばらの騎士」組曲で、ワルツ王ヨハン・シュトラウス二世のオペレッタ「ジプシー男爵」序曲と、その弟ヨーゼフ・シュトラウスのワルツ「神秘な魅力(ディナミーデン)」を囲む、絢爛豪華なプログラム。
魅力的なシュトラウス・プログラムは大阪と東京だけ! (c)Matthias Creutziger
アニバーサリーイヤーの今年、在阪のプロオーケストラ4団体も共同企画「とことんリヒャルト・シュトラウス」を立て、こぞって彼の作品を取り上げている事でもわかる通り、彼の作品は現代のオーケストラレパートリーの中核をなしている。
今回のプログラムで興味深いのは、ヨーゼフ・シュトラウス「ディナミーデン」とR.シュトラウスの「ばらの騎士」組曲を続けて演奏する事。
「ばらの騎士」組曲の中の「ワルツ」は、「ディナミーデン」をもとにして作曲されたという説もあり、その2曲を聴き比べられることは大変興味深い。
日本オーストリア友好150周年という記念の年に、ウィーンから宝石のような煌めきに満ちた音楽が届けられた。
ウィーンフィルと録音したベートーヴェン交響曲全曲集の評判は頗る良かった C)Terry Linke
■ベルリンフィル大阪公演
そして、ベルリンフィル。
指揮をするのはベルリンフィルと50年以上に及ぶ関係を築き、今年2月には名誉団員の称号を与えられた巨匠ズービン・メータ。彼の名前は、日本のクラシックファンにとっては特別なものではないか。2011年4月、東日本大震災による原発騒動で海外からのアーティストのキャンセルが続出していた最中、本人の強い意志で来日を果たし、ベートーヴェンの「第九」をNHK交響楽団と演奏したのがメータだった。彼の行動と音楽に励まされたファンは多かったのではないか。その彼が、ベルリンフィルを率いてやって来る。
ベルリンフィルから名誉団員の称号を与えられたメータ (c)Terry Linke
ベルリンフィルの来日公演は今回が23回目。そして6年ぶりの大阪公演の舞台はもちろんフェスティバルホールで、なんと2ステージが予定されている。
プログラムは1日目がブルックナー畢生の大作、交響曲第8番。朝比奈隆と大阪フィルでブルックナーの名演が数多く生まれて来た大阪・フェスティバルホールに鳴り響く、メータとベルリンフィルのブルックナー交響曲第8番は、今後のブルックナー演奏のメルクマールとなる最高峰の演奏が聴けるはず。これは聴き逃せない。
ベルリンフィルを指揮するメータの雄姿を見られるチャンスだ (c)Marco Brescia
そして2日目は、やはりこちらもリヒャルト・シュトラウスで交響詩「ドン・キホーテ」と、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」という、ファン垂涎モノのプログラム。
ソリストを務めるのは、ベルリンフィルの第1ソロ・ヴィオラ奏者のアミハイ・グロスと第1ソロ・チェロ奏者のルートヴィヒ・クヴァントという、共に楽団の内外でこれまでもソリストも務め、名声を博してきた人物。互いを知り尽くした関係だからこそ生まれるR.シュトラウスの名曲に期待が高まる。
ベルリンフィルの第1ソロ・ヴィオラ奏者 アミハイ・グロス (c)Sebastian Hanel
ベルリンフィルの第1ソロ・チェロ奏者 ルートヴィヒ・クヴァント (c)Sebastian Hanel
そしてメインは、ベートーヴェン交響曲第3番「英雄」。ベルリンフィルで「エロイカ」!と言えば、ラトル、アバド、カラヤンに、ベーム、クーベリック、フリッチャイ、シューリヒト、クリュイタンス…と名盤の宝庫だけに、DVDやレコードで耳にして来た愛聴盤と聴き比べてみてはいかがか。
ベルリンフィルは今回が23回目の来日公演。 (c)Stefan Hoederath
いずれにせよ最高の指揮者と最高のオーケストラが奏でる最高の音楽を、最高のホールで聴く絶好のチャンス。この日くらいは、いつもより少しお洒落に決めて、音楽の殿堂フェスティバルホールに出向いてみることをお勧めする。
思い切って購入したチケットは、頑張っている自分へのご褒美。非日常の心地よい緊張感がこれから起こる魔法のようなひと時へと導いてくれる。感動は保証されたも同然。ただ、マエストロがオーケストラから紡ぎだす音楽に身を任せていれば良い。演奏が終わり、嵐のような拍手と歓声の中、嗚呼、来て良かったと心底思うはずだ。
あなたはウィーンフィル派? それともベルリンフィル派? いずれにしても、この機会を逃すのは本当にもったいないと思うのだが。
客席数2700席を誇る音楽の殿堂フェスティバルホール
文=磯島浩彰

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