哀愁あるメロディーを轟音で料理する
ダイナソーJr.のメジャー移籍第一弾
『グリーン・マインド』
ダイナソーJr.の結成
85年にニューヨークのインディーズ、ホームステッドレコードからデビュー作『Dinosaur』をリリース、前述した2ndアルバム以降のような楽曲の完成度はまだ見られないが、マスキスのニール・ヤング的な哀愁を帯びたヴォーカルが注目された。そして、87年には前述したようにサーストン・ムーアの紹介でSSTレコードから名盤『You’re Living All Over Me』をリリースする。プロデュースをソニックユースやへルメットなどを手がけたことで知られるウォートン・ティアーズが担当しているせいか、楽曲や演奏レベルが格段に向上している。80年代後半の混沌としたオルタナティブロック界にあって、マスキスの書く曲とヴォーカルは圧倒的な存在感を示したと言える。続く『Bug』(‘88)でも前作同様の安定感を見せるが、アルバム全曲マスキス作になってしまい、彼のワンマンぶりにバーロウは我慢できず、グループを脱退する。
本作『グリーン・マインド』について
バーロウが抜けたため、ベースにはドン・フレミングがゲスト参加。マーフのドラムがマスキスのお気に召さず、アルバムに収録された10曲中7曲をマスキスが叩いている。本作では前作までの轟音は少し減って、内省的なシンガーソングライター作品のような仕上がりとなった。サウンドが落ち着いてしまった感はあるものの、マスキスの音楽性からするとこちらのほうが合っているとも思う。本作でも彼のソングライティングは衰えを見せず、メロディーメイカーぶりは健在である。
本作はとても充実した作品になっているが、91年はオルタナティブロックが大いに飛躍した年である。ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』、パールジャムの衝撃的なデビュー作『テン』、サウンドガーデンの『バッドモーターフィンガー』の3枚がこの年にリリースされており、オルタナティブロックというかグランジが世間に広く認知されたのが、この91年であった。そして、そのグランジに火をつけた先駆が、ダイナソーJr.の『ユーアー・リビング・オール・オーバー・ミー』と『バグ』の2枚のアルバムなのである。
4枚目にしてグランジから撤退したマスキスは、この後アメリカで静かなブームとなるオルタナティブカントリーに目を向けていたようだ。2006年にリリースされた本作のボートラ付きCDで、グラム・パーソンズの「ホット・ブリトウ No.2」のカバーが収録されていたことで、その推測は確信となった。
冒頭に書いたが、本作はダイナソーJr.の最高傑作とは言えない。しかし、彼らのアルバムをどれか1枚と言われれば、僕は本作を推す。それは、このアルバムにはダイナソーJr.のエッセンスが分かりやすく詰まっているから。彼らの入門作として『グリーン・マインド』はもってこいの作品だと思う。
TEXT:河崎直人