TVアニメ『あひるの空』と共にリスタ
ートした saji インタビュー 「ツバ
サ」は僕らなりのファンソング

2019年7月に「phatmans after school」から「saji」にバンド名を改名したボーカル・ギターのヨシダタクミ、ギターのユタニシンヤ、ベースのヤマザキヨシミツの3人。改名の理由は?そしてTVアニメ『あひるの空』のエンディングテーマ「ツバサ」について、さらに改名後初のワンマンライブについて訊いた。
――やっぱり最初に聞くのはなぜ改名したのかというところだと思うんですが。
ヨシダ:はい、僕たちは元々「phatmans after school」という名前で8年ほど活動していたんです。僕とヤマザキは同じ音楽学校の同級生で、ユタニが1学年上のギター専攻。「phatmans after school」という名前の由来も、僕たちが授業終わりの放課後にスタジオ練習を行っていたことにちなんで「after school」、それにネットスラングでカッコいいという意味の「phat」という言葉をつけたんです。
――そして2011年にメジャーデビューされました。
ヨシダ:そうですね、僕たちもいろいろな経験を経てきた中で、今回『あひるの空』のお話をいただきました。そのタイミングで環境が大きく変わったんです。環境が変わるのであれば僕ら自身もリスタートしようということで、メンバーとバンド名を変えようかという話をしました。
――では、なぜ「saji」という名前に?
ヨシダ:ユタニから「saji」はどうかなと言われました。初めは「匙を投げる」とか、見放すとか見捨てるっていう意味で使われるマイナスの意味が思い浮かんだのですが、言葉の成り立ちとしてはそもそも薬をすくうための道具なんですよね。
――確かにそうですね。
ヨシダ:僕らって10年くらい音楽をやらせてもらっているなかで、今回はセカンドチャンスなわけじゃないですか。リスタートするんだったら、今度は自分たちの人生は自分自身ですくいあげていこうと。スプーンの意味と、ダブルミーニングで救出の救(すくう)という字ですよね。自分の人生を自分で“すくっていこう”という意味を込めてsajiというのは非常に今の自分たちにあっているんじゃないかなと思って決めました。
――なるほど、周りの反応などはいかがでしたか?
ヨシダ:いろんな仲がいいアーティストに、候補をパッと伝えたときに、ほぼ満場一致で「saji」いいじゃん!と。意味はわからないけどシンプルだし、改名っていうこと考えたらギャップはすごいけど、いちばんスッとくるわって話になって。提案から決定するまではシンプルでしたね。
――ユタニさんとヤマザキさんのお二人は、バンド名が変わることに関してはいかがでしたか?
ユタニ:僕が挙げた中のひとつなんで、自分の意見というか案が通ったのはうれしいんですが、まだ自分たちで名乗る機会が少ないので今のところ実感はないかなといった感じですね(笑)。 でも、自分的には気に入っています。
ヤマザキ:最初に聴いたときは「マジかよ……」と思ったんですけど(笑)。 5~6年phatmansをやっていたので、改名したら何にしても違和感はあるなとも思いましたね。候補がいっぱい上がってきたなかでも、sajiがいちばん自分のなかでもしっくりはきていたので。まあでもこれは慣れでしょうね。「sajiです」っていう機会もまだあんまりないので(笑)。
――端的にパっと字面だけを見るとphatmans after schoolよりも読みやすいといったら変なんですけど。
ヨシダ:初見殺しはなくなりましたね。今まではちゃんと読まれないことが多かったんで。
ヤマザキ:「ファ……?これ何て読むの?」ってね(笑)。
ボーカル・ギター:ヨシダタクミ 撮影:福岡諒祠
――改めてTVアニメ『あひるの空』のエンディングテーマになっている新曲「ツバサ」を聴かせていただきまして、MVも拝見しました。最初に聴いた印象は「恐ろしいほどさわやかだな」と思ったんです。『あひるの空』という作品に対してのアプローチもちゃんと感じたんですが、原作を読み込んで作られたんですか?
ヨシダ:僕は個人の仕事でもアニメに携わらせていただくことがあるんですが、基本的にどの作品も、プロットや原作本を全部拝見しています。『あひるの空』に関しては、僕はそもそも小中(学校で)ずっとバスケをやっていたんですよ。
――そうなんですね。
ヨシダ:なので昔から大好きなマンガの曲を担当できるっていうのが、まず最初にすごくうれしかったですね。この作品の主題歌をバンドとしてどう作れるか、一度自由にやらせて下さいと先方のチームにしたら、先方も聞かせてほしいと言ってくださって。
――じゃあヨシダさんのイメージをまずは伝える感じになったと。
ヨシダ:はい、僕なりのファンソングじゃないですけど、『あひるの空』の主題歌だと思って書いて、仮タイトルが「ツバサ(仮)」だったんです。それをデモでお渡ししたら、一発OKをいただいて。自分のなかでもわりとスムーズにいきましたね。歌詞のなかにもキャラクターとか物語にあった言葉をいれたり、ある種アンサーソング的な部分も入れています。かなり愛を持ってやらせていただきましたね。
――お二人の印象はどうでしたか?
ユタニ:僕もめっちゃ爽やかな曲だなあと思って。それにどう自分のギターを入れて行こうか考えましたね。いちばん悩んだのはイントロですね。やっぱり音楽を再生して一発目に聴こえるところなんで、どうギターを入れようかなってかなり悩みましたね。その結果があのイントロになりました。
ヤマザキ:僕はそうですね、一発OKされただけあるなって……上から目線なんですけど(一同爆笑)。 本当にベースも、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビのアイデアがパッと浮かんだんです。
――MVも公開されていますが、すごく鮮やかな“別れ”を描いていらっしゃるじゃないですか?けっこうシチュエーションによって聴き方が変わる楽曲だなって思ったんです。
ヨシダ:それはもう、けっこう狙いました。コンセプトとしてもちろんアニメの楽曲というのもありつつ、たとえばアニメを全く見ていない人が巷でたまたま耳にしたときに、歌詞を見ても「あ、わかるな」と思っていただける曲にしようというのはありましたね。
――アニメに寄り添いつつも、もたれ掛かりはしないというか。
ヨシダ:僕自身がマンガやアニメが大好きなんですけど、アニメの曲ってリフレインして聴くので思い出になるじゃないですか。だから思い出になってもほしいなと思いつつ、でも僕らはバンドなので、アニメをまだ観ていなくても耳にした人が「好きです」って言ってもらえるものにはしたいと思ったんですよね。MVの監督さんとも女の子っていう記号を付けたいっていう話をして、ストーリーも一緒にディスカッションしながら作りました。だからMVはアニメには関係のないアナザーストーリーになっています。
――その判断はすごく良かったと思いますね。
ヨシダ:ありがとうございます。って、僕は別に何もしていないんですけど(一同笑)。 がんばってくださったのは演者さんと監督ですからね。
――同じ様に収録曲も聴かせて頂きました。「猫と花火」もすごく印象的でしたね。四畳半の恋愛の歌かなと思ったら2番になると見え方が変わって、これはこれでエンディングにはめてもおかしくないくらいの楽曲だと思いました。タイトルも印象的ですよね。
ヨシダ:「ツバサ」は夢じゃないですか。でもこの曲は本当にごくありふれた若者たちの恋愛模様を書きたかったんです。タイトルに関しては、女性コーラスも入る曲なんで、女の子が歌っていても面白いようなタイトルをあえてつけたいなと思っていました。
――「まだ何者でもない君へ」も含めて3曲を通して聴いた印象なんですけど、全部どこかに人生の忘れ物がある主人公だと思ったんです。名残というか。
ヨシダ:ああ、そうですね。
――それをリフレインして聴いていると、改名してリスタートするsajiとしての一発目という部分もどこかしら感じてしまったんですね。まったく意識しないで作られてこういう形になったんですかね?
ヨシダ:僕自身がそもそもうまくいかないこと続きの人生だと思うんです。もちろんいいこともあるけど、音楽で大成しているわけでもないし……。音楽をやっていると先輩たちも含めてしんどくなって途中で辞める方が非常に多いんですよ。10年近くやっていると、途中で降りちゃう人もめっちゃ増える。だから先輩がどんどん減っていって。後輩が逆に増えていく。
――それは音楽だけではなく、演劇の世界とかでもある話ですよね。
ヨシダ:途中で夢を手放しちゃう人って非常に多くて。逆にまだ降りずに駆け続けている僕らは何だろうと思ったときに、やっぱり何か自分自身に期待しているんだろうなって。降りなければ可能性はずっとある。今回の話もキングさんからお話をいただきましたが、その少し前にバンドを続けていくかどうかっていうのを考えたことがあるんです。その時期せずしてこういう話をいただいたのも、やっぱりそれは僕ら自身がこれまで続けてきたからこそのめぐりあわせだと思っているんです。
――降りなかったからこそ、チャンスも来た。
ヨシダ:途中で降りるタイミングは何回もありましたしね。それに僕はマンガでも映画でも、バッドエンドが大嫌いなんですよ。救いのない話がすっごい嫌いで。重たくても良いし、エグいことを言ってもいいけど、最後は希望で終わる作品であればいいっていうのが自分のなかである。だから歌詞のなかでも物語の最後は希望で締めることにしていて。
――そうですね、そういう印象はあります。
ヨシダ:『あひるの空』自体がそもそも、主人公も含めて物語に出てくるやつがみんな挫折しまくるんですよ。人生って基本的に挫折であったりとかそういうものの連続だと思うので。結果的に最後まで自分に期待できたやつが勝つような気がするんですよね。
ギター:ユタニシンヤ 撮影:福岡諒祠
――ユタニさんとヤマザキさんは、降りることを考えた時期ってあったんですか?
ユタニ:考えた時期はもちろんありましたけど、自分の人生を楽しいこと中心に進んできて、望んでこうなっていているし、今ももちろん楽しいので、音楽をやって行こうってすぐ考え直しましたね。
ヤマザキ:僕は2回「辞める」って言いましたね。
――けっこう具体的な(笑)。
ヤマザキ:1回目は札幌に住んでいるときにしんどくて辞めるって言って。2回目は違うバンドを組みたいって言って2回ですね。
――それでも今も続けているというのは。
ヤマザキ:やりきってないなとも思ったし。本心かはわからないですけど、引き止めてもくれたので(一同笑)。
――そこは本心だったんじゃないですか?
ヤマザキ:これはもう引き下がれないなって2回目以降は思っていて、続けるかどうするかの話合いの時も辞める選択肢はなかったですね。音楽はやっていきたいし、そのなかでバンドっていうものがいちばん好きでやりたいことなので。sajiっていうバンドが続けられるなら続けたいっていう思いもありました。
――まあ辞める辞めないで言うと、続けていく中で生活が変わってくるっていうのもありますよね。
ヨシダ:守るべき順序がやっぱり変わるらしいんですね。いわゆる無鉄砲に生きられなくなる人もいますし。でもべつに仕事しながら夢を追いかけたって別にいいわけじゃないですか。昔はたしかに“都落ち”って言って若いうちにメジャーの契約が切れたら終わりだっていう感じの考えはあったんですけど。今は逆に長くキャリアを続けていても、途中でポンと売れる人もいるし、逆に新しいことをはじめたらブレイクする人もたくさん出てきて。バンドの夢の見方が変わってきたと思うんです。年をとったからといってダメではなくなったし。自分が良いと思って出し続けていれば日の目を浴びることが多くなってきたので。
――そうですよね。サブスクリプションもあって、聴く機会は身近になった気がします。
ヨシダ:そうですね。うちで言えばsajiというバンドが売れれば、ほかの人にとってのチャンスにも見えるじゃないですか。いろいろなことやって、改名して売れたら、ほかのバンドを説得する材料になるじゃないですか。「でも考えてみ?あの人たちあれだけやって、あのタイミングで突然売れたじゃん、だから俺らもわからないじゃん」って言える材料になれる。けっこうそういうのが希望になったりするんですよね。キャリアが長かった先輩が売れたときって、俺らも良かったなって思うし、頑張ろうとも思えますし。
――今回のリスタートに関してのお気持ちを伺ってきていますが、ずっと応援してくれたファンの方に対しては思うことがあったりしたんでしょうか?
ヨシダ:当たり前ですけど、そこの葛藤はありましたね。phatmans after schoolって当時顔出しをしていなかったんですよ。そういうのも含めてお客さんがどう思うかだとか、どこまでギャップを感じるかとかに不安もあるわけですよ。
――不安はそうですよね。
ヨシダ:改名って、お客さんからしたらいちばんセンセーショナルな出来事じゃないですか。でも名前が変わってリスタートするけど、やることは変わらないよっていう姿勢は見せようと思ってます。「ツバサ」もphatmans after school時代から知っている人が今の所違和感なく受け入れてくれていますし。曲や活動の姿勢で安心してもらえるような形でやっていきたいですね。
ベース:ヤマザキヨシミツ 撮影:福岡諒祠
――そして、12月には代官山UNITでライブも予定されています。
ユタニ:やっとというか、お待たせしました!という感じですね。sajiになってからのちゃんとしたライブハウスでのお披露目というのが初めてなので。自分的には興奮していますね。
――もちろん、過去の楽曲もやられると思うんですけど。
ヨシダ:そうですね、phatmans after school時代の曲もたくさんやる予定です。
――どういうライブにしたいか考えはあるんですか。
ユタニ:そうですね、僕はけっこう煽ったりする担当みたいな感じなので(笑)。その辺もブラッシュアップしてsajiって面白いんだなってもっと言われるようにしていきたいですね。
ヤマザキ:たぶん役割が各々あると思っていて。俺はたぶん盛り上げるとかっていうよりは、曲の表現のほうが得意だと思うので。各々の役割をパワーアップして見せられたと思いますね。
ヨシダ:この環境でいちばん自由に生きてるのは君だけどね(笑)。 お菓子めっちゃ食べるし!僕らの話聞いてないし!(笑)
ヤマザキ:聞いてる聞いてる、いちばん聞いてるって!(笑)
――ヨシダさんはライブについてはいかがですか。
ヨシダ:皆さんphatmans after schoolとsajiは何が違うのかっていうのを確認しに来ると思うんですよね。なのでみんなが良いと思ってくれていたものはそのままに。ただ、面白いことも積極的にやっていきたいですね。ユタニだって見た目がロックバンドの人ではないじゃないですか(笑)。
――そうですね、ウルトラジャパン行きたかったのかなっていう。
ヨシダ:そうそう(笑)。 だからそのエンタメ性みたいな部分は新しくスタッフ陣と考えながらやりたいなと思っていますね。
――最後にsajiとしてのリスタートについてそれぞれファンの皆さんにコメントを頂ければなと。
ヤマザキ:リスタート……スタートダッシュするにはいい曲が出来たというか。この3人が集まってベストなものを出すことがバンドとしての武器だったり「僕ららしさ」になったりすると思うんです。そういう意味では個人的に「らしい」ものができたので、今後もご期待ください。
ユタニ:本当にこの「ツバサ」という曲は最高のものができたと思っているので、この曲を武器に、本当に言葉通り羽ばたいていきたいと思うので、楽しみに待っていてください。
ヨシダ:sajiとして初めましてで出会う人が増えると思うんです。phatmans after school時代との一番の違いとして、僕らはメディア系の露出がほとんどなかったんですけど、今いろいろ出させていただいているので、初めましての出会いも大切にしていきたいですね。せっかくリスタートできるので、昔から応援してくれている方も、『あひるの空』という作品入ってくれた方も、「良いね!」と言ってもらえたら嬉しいです。
撮影:福岡諒祠
インタビュー・文:加東岳史 撮影:福岡諒祠

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