【コラム】ブライアン・メイ作「ドラ
ゴン・アタック」、謎の“彼女”の正
体を考察する

1978年頃に撮られた(といわれている)1枚の写真がある。そこには、革ジャンを着たブライアン・メイと、上機嫌に笑うトニー・アイオミ、そして煙草とグラスを持ったエディ・ヴァン・ヘイレンが写っている。それはロック好きなら胸が熱くなること間違いなしの舞台裏の1枚だ。だってこの3人は、文字通り“自らの手で”ロックの歴史を切り開いたのだから。

ところで、私はあの写真を見るたびに思うことがある。あの写真のブライアン、なんだか具合が悪そうなのだ。いやその、隣のアイオミが頑健さを絵に描いたような人物だから相対的に窶れて見えるのはあるが。

そんなことを考えながら、クイーンのローディーを務めていたピーター・ヒンス氏の著書『クイーンの真実』を読んでいたら、「ヴァン・ヘイレンのパーティーに行ったブライアンが酒飲まされて潰れて転んでさあ大変」というエピソードを見つけた。

1970年代の暮れのその日、ブライアンが酔い潰れて額を切ってしまったか、はたまた無事に帰宅したのか。それは私の預かり知るところではない。ひとつだけ言えるとすれば、お酒は程々に、ということくらいだろう。

多くの人がイメージするロックスターといえば、酒に煙草にドラッグに。何故貴方は身体を壊さないの、といった具合だが、ブライアン・メイにはその印象が無い。アイオミの著書に登場するブライアンは、「お喋りしたりジャムったりするために遊びにくる親友」だ。茶飲み友達そのものだが、そんなこと言うと「ジャム」が美味しい方のそれに聞こえてしまう。

しかし面白いことに、クイーンの楽曲の中で特にハードなものは大概ブライアンの作である。1992年の<フレディ・マーキュリー追悼コンサート>には随所にアイオミが登場するのだが、よく考えたら「アイオミが随所にサポートとして登場」って何だという話だ。しかもアイオミはどこからどう見てもいつもの調子でご登場し、いつもの調子で歪んだ重低音をグワングワンと鳴らしまくる。だが音を聴いてみると、これが意外に素晴らしくマッチしている。まあクイーンとしては音が重すぎるんだが。

これはクイーンの楽曲の器が広いというよりも、そもそもブライアンが重い音を想定して曲を作っていることがあるように思う。だからこそブライアンはソロバンドにコージー・パウエルやニール・マーレイを呼んだのではなかろうか。

さて、そんな感じにヘヴィ&ハードがお好きなブライアン・メイの楽曲の中で、私が特に好きな1曲がある。それが「ドラゴン・アタック」だ。アルバム『ザ・ゲーム』(1980年)の2曲目に収められたこのクールなナンバーは、次曲「地獄へ道づれ」のメガヒットの陰にこっそり隠れた秀作である。ライブでは、現在でもたまに演奏されるらしい。確かにアダム・ランバートの声質ともよく合いそうだ。

この曲を聴いた時、多くの人は印象的なリフに心を奪われることだろう。クイーンは歌メロのバンドといっても過言ではないほどにリフ主体の曲が少なく、「ドラゴン・アタック」程に単一のリフが前面に押し出された曲はあまり無い。曲全体を支配するリフは実に硬質で、変形も少ない。それを際立たせるように音作りはストイックなものとなっており、純粋なバンドサウンドを楽しめる。

「ドラゴン・アタック」は展開的にも単純な楽曲だ。サビというサビもなく、ギターとベースの強力なリフの合間にヴォーカルパートが入り、各自のソロパートを過ぎた後半には僅かなCメロがあって、そのままリフで終わる。たったこれだけ。クイーンの特徴である分厚いコーラスワークも、Cメロの装飾に少しだけつけられているばかりである。

それなのに歌詞だけはやたらめったら難解なのが、ブライアン・メイの曲の面白さだ。メイ曲の歌詞は母親を縛り付けたり尻が大きかったりする一部の例外を除いて、基本的に文学性が高いことで知られている。小難しいけれど、じっくり読めば美しい。それがメイ曲だ。「'39」なんて予備知識なしに読み解くことはもはや困難だが、きちんと紐解けばとんでもなく壮大な作品だとわかる。

だが、「ドラゴン・アタック」の難解さは「'39」の比ではない。何故かってこの曲、他の曲には存在する読解の手掛かりがほぼ見当たらないのだ。簡単に言えば、“示唆に富んでいる”というよりは“示唆しか無い”。「ボヘミアンラプソディにはボヘミアンラプソディって歌詞がない」問題が可愛く思えるほど「ドラゴン・アタック」には何もないのだ。

だってまず出だしから「赤が赤く見える部屋に連れてってくれ」である。どこだってそうだろう。そして前触れなく唐突に出てくる「彼女」の存在。貴女いったいどこから来たの? しかも最後は「自分の道を行きたい」。帰ってこい。

この曲の主流な解釈はふたつある。ひとつはこれがドラッグソングであるというものだ。確かに狂気的なまでに反復が多いし、歌詞中の赤や緑、黒や白といった色はドラッグの幻覚と解釈することができる。その上、「ドラゴン」という単語は麻薬の一種の隠語にも使われているらしい。

ならばそれが正解かと思いきや、この解釈ではビジネスを持ってきて人質を取らない「彼女」の存在が宙に浮いてしまう。そこを解決するためにできたのが、「この曲は浮気ソングである」という解釈だ。そうすると「彼女」は浮気相手となり、「赤い部屋」「緑の部屋」はラブホテル的なイメージとなる。ただしそうなると今度は「アイデアを出す」「マック」辺りの歌詞が浮く。更にこの歌詞は、浮気相手である「彼女」を「卑劣」「面倒ごとを押し付けてくる」と罵るのである。

ちなみに「ドラッグをやりながら浮気に溺れる曲」という複合的な解釈もあるが、最後に相手を盛大にフってしまうところが、どうもブライアンらしくない。しかもこの歌詞において、「俺」を軌道に乗せてくれるのは「彼女」ではなく、あくまで「マック」なのだ。

このマックという人物が誰であるかはハッキリしている。当時クイーンのプロデューサーを務めていたラインホルト・マックだ。つまりこの謎めいた歌詞は、ある程度現実世界とリンクしていると考えられるのである。

さあ、ここからが問題だ。結局「ドラゴン・アタック」は何を歌っているのだろう。ドラッグソング。浮気の歌。よく言われている解釈は、どれを取ってもどこかに謎が出る。更に邪魔をするのが、ブライアンのパーソナル的な部分だ。ドラッグをやらず、極端に酒に強いわけでもない。ならば単純に女遊びの歌かと言えば、歌詞に出てくる「彼女」に対して好意的ではないところが引っかかる。

たとえばこれがザ・ローリング・ストーンズやブラックサバスなどの曲ならばドラッグソングか浮気ソングでQ.E.D.となりそうだが、ブライアン・メイが書いたものとなると、何かが隠されているような気がする。

マジに半年くらい悩んでいた私は、リフ神ことトニー・アイオミに救いを求め、彼の自伝を開いた。困ったらアイオミの自伝を開くのは平均的なサバスオタクの習性である。そうしたら、あることに気がついた。

このリフ神、別府温泉の湯の如く湧いて出てくるリフをテープに録り、それを何百何千という単位でしまい込んでいるのだ。そういえば「ドラゴン・アタック」の歌詞の中にも、「溜め込んだスタックを出す」というものがある。この「スタック」という単語は「アイデア」と解釈されがちなのだが、ひょっとして録り溜めたリフそれ自体のことを指すのではなかろうか。そうなると、その前後はこんな感じに解釈できる。

「マックっていう腕利きのプロデューサーが来た。彼に協力して貰って、使わないで取っておいていたリフをトラック(収録曲)に使おう。いいアイデアが浮かんで背中が熱くなる」

これは詞中の「ドラゴン」という単語を「ドラッグ」と結びつけず、「アイデア」と結びつける解釈だ。こうすれば、4段落めのタイトルコール部分は「興奮で背中が熱くなる。まるでドラゴンの一撃を受けたみたいだ」となり、衝動的に曲を書き上げる描写と取れる。

作曲のことを歌っていると考えると、3段落目もすっきりと解釈できる。「音が溢れている部屋」という謎めいた表現は「ディスコ」のことだ。「白が黒に、黒が白に」というのは、黒人音楽と白人音楽が混じり合ってできた音楽に乗せられ、さまざまな人々が踊っている描写。「音を食らってやる」は、「ブラックミュージックを吸収して新たな表現を身につけてやる」といったところだろうか。実際、80年代のクイーンはブラックミュージックを取り入れているし、この曲もだいぶファンクっぽい。

ところで、一段落めに登場する「赤い部屋」と「緑の部屋」については、結局のところよく分からなかった。ただ、この曲のリフを聴いたとき、赤や緑のネオンがギラギラ輝くアジアの繁華街の風景が浮かんでくるのは、きっと私だけではないだろう。

ここまで来たら残る謎は5段落めから急に登場する「彼女」の存在のみだ。改めて歌詞を読むとこの「彼女」、存在感はあるのだが、実に脈絡なく登場し、その割には好意的にも言われていない。いちおう「俺にビジネスを与えてくれる」とは言われているが、その他の場面では「無慈悲」「卑劣」と冷たくあしらわれている。さらに、最後の段落では「帰れ」「新しい客を探せ」と言われてしまっていて、ちょっと可哀想だ。

ミュージシャンにビジネスを与えてくれる女性というと、マネージャーが真っ先に浮かぶ。オジー・オズボーンの妻シャロンなんて、超強力な女性マネージャーとして有名だ。ものすごく強い。

つまりこの「ドラゴン・アタック」は、女性マネージャーへ文句を言う歌なのか。そう言われるとなんとなく違う気がする。再び思考の迷宮に迷い込んだ私は、またアイオミの著書を開いた。ブラックサバスのファンというのは、困ったらアイオミの言葉を頼るものなのである。そうしたら、あることに気がついた。

ブラックサバスには、「スウィート・リーフ」という楽曲がある。もうタイトルからしてストレートもストレート、笑っちゃうほどド直球なドラッグソングである。これはマリファナへの愛を歌った曲なのだが、実はこの曲、マリファナに対して「You」という三人称を使っているのだ。

改めて「ドラゴン・アタック」の歌詞を読む。ひょっとして、この「彼女」とは「ドラッグ」あるいは「麻薬の売人」を意味するのではなかろうか。「彼女」に対する「無慈悲、卑劣」という言葉や、お終いの「俺は自分の道を行きたい」という突っぱねは、忍び寄るドラッグ汚染から決別しようという意味。「ビジネス」が浮くように思えるが、辞書によるとこの単語には「厄介ごと」という意味があるらしい。ブライアンがドラッグに否定的ということを考えると、この解釈はそう無理なものでもなさそうだ。

また、この歌詞に登場する「龍(ドラゴン)」は、“背中に張り付いている”のではなく、“背後に立っている”“背中にもたれかかっている”イメージとも考えられる。そして龍(ドラゴン)は麻薬の隠語のひとつである。それを解釈に組み込むと、「背後に龍」は「麻薬が背後に立っている」、つまり「ドラッグ汚染の波がすぐそこまで忍び寄っている」となる。

さあ、解釈が一周して「ドラゴン」が「麻薬」の隠語に戻ってきた。ここまでを総合すると、「ドラゴン・アタック」はドラッグソングではあるが、ドラッグを否定するタイプ、つまりブラックサバスのそれとは正反対のものとなる。この解釈の内において、最後の段落で「俺」はドラッグの誘惑と決別し、音楽だけで自らを奮い立てることを宣言する。それはブライアンのドラッグに対する考えと一致している。

この曲が書かれた1980年頃、音楽界は激動の時代を迎えていた。新しい音楽の台頭と、様々なバンドの崩壊や、偉大なミュージシャンたちの死。ドラッグ汚染、プレッシャー。クイーンは保守と革新の岐路に否応なく立たされ、さまざまな選択を迫られた。

冒頭で言及した写真は、ロック好きならば誰でも心躍る1枚だろう。しかし、ブラックサバスのドラッグ汚染が表面化し出したのはオジー・オズボーンが脱退したころ、つまりあの写真が撮影された1978年頃のことである。写真の中でトニー・アイオミは上機嫌に笑っているが、バンドの状況は笑えるようなものとは思えない。

デビューした当時のクイーンは、しばしレッド・ツェッペリンやブラックサバスと比較され、「なりそこない」と貶されていた。だが、その僅か数年後には「ブラックサバスは崩壊。クイーンは成功の道を駆け上がる」と書かれるようになる。1970年代、80年代の音楽業界とは、なんと恐ろしい世界だろう。あの写真では誰よりも華奢にみえるブライアン・メイは、その中で自分の意志を貫き通した。彼の強さは、ヘヴィな楽曲とサウンドになって、クイーンの音楽を包み込んでいる。

さて、つらつらと語ってきたが、こんな解釈はあくまで私の意見でしかないことを必ず覚えていてほしい。あなたにはあなたの、私には私の解釈がある。だから、この文章を真に受けて「この曲はこういう曲なんだ!」と思い込まないでいただきたい。

ところで、リフ神ことトニー・アイオミは自著でブライアン・メイをベタ褒めしているのだが、ブライアン・メイの好きなリフメーカーはジミー・ペイジらしい。ジミー・ペイジといえば、あのクールなドラゴンスーツ。ひょっとしてこの「ドラゴン・アタック」というのは、「ジミー・ペイジみたいなリフ」という意味だったりしないだろうか──。

ほら、もう違う解釈が出てきた。まあ、真相はブライアンの頭の中である。

文◎安藤さやか(BARKS編集部)

■WOWOW『「ボヘミアン・ラプソディ」
放送記念!クイーン大特集』

【番組情報】
『ボヘミアン・ラプソディ』
10/19(土)よる8:00[WOWOWシネマ](字幕版)
10/20(日)午後1:00[WOWOWプライム](吹替版)
伝説のロックバンド“クイーン”と、45歳で世を去ったその伝説的ボーカリスト、F・マーキュリーの熱い足跡をたどり、2018年、社会現象級の反響を呼んだ大ヒット作。

『フレディ・マーキュリー:キング・オブ・クイーン』
10/19(土)よる6:45[WOWOWシネマ](字幕版)
10/20(日)午後3:20[WOWOWプライム](字幕版)
映画「ボヘミアン・ラプソディ」の世界的ヒットで再注目を集めた、伝説のロックバンド“クイーン”のボーカリスト、F・マーキュリーの生前を振り返ったドキュメンタリー。

『クイーン Music Video Collection』
10/20(日)午前8:15[WOWOWプライム]
クイーンの輝かしい軌跡をミュージック・ビデオで一挙放送。3時間半以上、50本以上の珠玉の映像の数々をお届けする。

『洋楽主義~QUEEN Special~』
10/20(日)午後0:00[WOWOWプライム]
イギリスの伝説的ロックバンドQUEEN。映画『ボヘミアン・ラプソディ』も大ヒットを記録し社会現象を巻き起こした。再評価の熱が高まっているQUEENを特集。

『クイーン オデオン座の夜 ~ハマースミス 1975』
10/20(日)午後4:30[WOWOWプライム]
「ボヘミアン・ラプソディ」9週連続1位のさなかに行なわれたUKツアーの最終日のライブ。壮大な名盤『オペラ座の夜』でUKチャートを初めて制圧、黄金時代の幕が開く。

『クイーン ライブ・アット・ウェンブリー・スタジアム 1986』
10/20(日)午後5:40[WOWOWプライム]
最高のライブ・バンド、クイーンのすべてがここにある。魂を焦がすフレディ・マーキュリー、ロンドン最後の雄姿、オリジナル・メンバーでのラストツアー。

『フレディ・マーキュリー アントールド・ストーリー』
10/20(日)よる7:00[WOWOWプライム]
映画『ボヘミアン・ラプソディ』で社会現象を巻き起こしたフレディ・マーキュリー。メンバー、肉親、友人、恋人など映画でも登場した人物たちが、彼の魅力をひもとく。

『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々-PART1』
10/20(日)よる8:00[WOWOWプライム]
『クイーン ~デイズ・オブ・アワー・ライブス 輝ける栄光の日々-PART2』
10/20(日)よる9:00[WOWOWプライム]
クイーン結成40周年を記念して制作されたドキュメンタリー。ブライアン・メイ、ロジャー・テイラーの全面協力のもと、貴重な映像でクイーンの真の姿が浮き彫りとなる。

【特集サイト】
https://www.wowow.co.jp/special/015319

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