【藤津亮太の「新・主人公の条件」】
第10回 「HELLO WORLD」堅書直実

(c) 2019「HELLO WORLD」製作委員会※編集部注:本作鑑賞後に読むことをお勧めします
 主人公は成長する。その時、基準として使われる存在のひとつに「師匠」がある。修行を積んだ主人公が師匠以上の力を示す時、あるいは、師匠を倒した敵を倒した時、主人公の成長は誰の目にもわかるものとして示される。切ない恋愛要素がクローズアップされがちな「HELLO WORLD」だが、実はこの「師匠もの」という側面も大きい。というか「HELLO WORLD」がドラマ的に盛り上がるところはたいがい「師匠」に絡んだシーンなのだ。
 2027年の京都。普通の男子高校生・堅書直実の前にひとりの男が現れる。男は2つの驚くべき事実を告げる。まず「2027年の京都は量子記憶装置<アルタラ>に記録されたものであること」。もうひとつは男の正体が「2037年の“現実”から2027年にダイブしてきた、10年後の直実であること」。
 大人のカタガキナオミの目的は、花火大会で雷に打たれてしまう恋人・一行瑠璃が助かるように記録を書き換えてしまうこと。そこでナオミは直実の先生となって、直実が瑠璃とちゃんと付き合えるようにサポートすると同時に、かつ直実が瑠璃を救えるように特別な道具・“神の手(グッドデザイン)”を使いこなすコーチをすることになる。
 “神の手”とは、<アルタラ>のデータそのものを書き換えることができるツールで、作ろうと思えば手のひらの上で太陽もブラックホールも作り出すことができる。ただしそのためには、修行をつまなくてはならない。
 というわけで「HELLO WORLD」の前半は、恋愛の進展とパラレルで、直実が“神の手”を使いこなせるようになるまでの過程が描かれる。修行は、水を作り出すといった簡単なレベルから始まり、銅や鉄などだんだん複雑な物資になっていき、ついに直実はミニ太陽を作り出すまでになる。ミニ太陽が生まれた瞬間の強烈な光の表現は、「おお、核融合に成功した!」というインパクトが見事に表現されていた。ここで直実は先生であるナオミの背中にようやく追いついてくる。
 ついに直実は、瑠璃を雷から守ることに成功する。だがその瞬間、ナオミの真の目的が明らかになる。ナオミの目的は、瑠璃を落雷から救うことではなく、助かったその瑠璃のデータを活用することだったのだ。そのためナオミは直実の目の前から瑠璃を奪い去っていく。ここでナオミは先生から直実にとっての「敵」へと立場を変える。
 「HELLO WORLD」のおもしろいのは、ここで敵になっただけで終わらないことだ。この後、直実はナオミと再会をするが、そこで直実はナオミを一発殴る。直実が一発殴るだけですましたこと、それをナオミが甘んじて受け入れたことで、2人の関係は敵対関係から「師匠を残り超えた弟子」へとまた大きく変わる。そしてクライマックスは、「師匠を残り超えた弟子」らしく、“神の手”を駆使した大アクションが展開することになる。
 クライマックスでは直実のサポートに回っていたナオミだが、しかし最後に大きな決断をする。驚く直実。その瞬間、ナオミと直実は再び、出会ったばかりのころのような「先生と弟子」の関係に戻るのである。この循環する師弟関係こそ「HELLO WORLD」の核にあるものなのだ。
 師匠に憧れ、師匠を超え、しかしやっぱり師匠は師匠であると納得する。そういう葛藤を生きたのが直実という主人公なのだ。

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