デーモン閣下が新ソロアルバムを経て
行き着いた「裏切らずして裏切る」境

デーモン閣下と劇団☆新感線……両者の仲は深く、その蜜月具合は四半世紀近くにも及ぶ。閣下は同劇団に数々の舞台主題歌や挿入歌の歌詞を提供。時にはそれを自ら舞台で歌ったり、客演したりもしてきた。
そんな閣下提供の劇団☆新感線のこれまでの劇中歌たちを集めた盤が、この度、閣下のニューソロアルバムとしてリリースされる。とは言え、この盤はこれまでの閣下のソロ作品とはかなり趣きが違ったもの。提供した楽曲のセルフカヴァー的な存在にして、今回新しくフルコーラスにて蘇ったものも多く、各曲自作自演ながらそのモチーフは提案/提供されたものと、特殊な楽曲ばかりだ。
そんな今作『うた髑髏 -劇団☆新感線劇中歌集-』は閣下自身にとっても、これまで超えたくても超えられなかった聖飢魔IIの最高傑作に、ソロとしてある意味肩を並べられたと豪語する1枚。けしてこれまでのファンの期待を裏切ることなく、これまでになかった新しい側面を魅せることに成功した、まさに「裏切らずして裏切った」理想的な1枚。そんな今作についてのメカニズムをいま閣下が解き明かす。

Photography_Keichi Ito
Text_Ikeda Scao Kazuhiro
「修羅と極楽」MUSIC VIDEO公開

今作がこれまでと大きく違うのは、自分
で書いた歌詞ながら自分が歌う為に書か
れていないところ

――今回の『うた髑髏 -劇団☆新感線劇中歌集-』は閣下のソロ作品とは言え、提供楽曲のセルフカヴァーの趣きや、元々の題材ありきの制作、原曲を月日を経てビルドアップさせたものと面白い立ち位置の作品ですね。

デーモン閣下 : おかげさまで、吾輩としてもとても新鮮だった。今まで経験したことのなかった新しい体験をしたような感じだった。

――ちなみにどのような経緯で今回の作品内容に至ったんですか?

デーモン閣下 : 元々は劇団☆新感線の最新作の『髑髏城の七人〜Season月』と最後の『修羅天魔〜髑髏城の七人Season極』と2作に渡り5~6曲づつ歌詞提供の依頼があって。今までも長年の付き合いがあるにせよ、そんなに1枚のアルバムにまとめるほど曲数の依頼はなかったし、加えてこれまでは全てワンコーラスの曲ばかりだったので、わざわざアルバムにするまでに至っていなかった。そんななか今回、「せっかくだからこれまで新感線とコラボレーションをした楽曲をまとめて1枚のアルバムにしても面白いのでは?」との提案が吾輩のプロデューサーからあって。それは面白そうだゾと。

――元々芝居の中ではワンコーラスしかないものばかりだったんですよね。

デーモン閣下 : その通り。なので基本的には劇団のほとんどの楽曲を作曲している座付きの作曲家の岡崎司氏に改めて依頼をした。その各楽曲の世界観をそのまま補完するためにはやはり岡崎氏が最適任者だろうと。

――その分業具合も面白かったです。閣下は歌詞に専念されて、岡崎氏がほぼ全ての楽曲を丸々作曲しアレンジも行う。だけどアルバム全体的には不思議な統一感やストーリーがキチンとあったのも興味深い。

デーモン閣下 : そう。今回いつもの吾輩の楽曲たちと大きく違うのは、自分で書いた歌詞ながら、それらのほとんどはそもそも自分が歌う為に書かれたものでないところで。つまり、全ての曲がストーリーが先に決まっており、その場面内でそこに出ている役者が歌う。それを前提に書いていた面だった。

――自分が書いた歌詞にして、誰かに捧げられている、みたいな?

デーモン閣下 : まさにそう。だけど、が故に凄くためになったこともあって。

――それは?

デーモン閣下 : 自分自身の為に書いていないぶん、これまで自分が使ったことのない語彙を用いたり、女性の心情を歌ったりと、表現的にもこれまで自分や聖飢魔IIとしても歌ったことがないテーマや内容のものが書けたことで。「絶対に死なないで生き残って会おうぜ!」「明るい太陽の下でもう一度逢おう!」なんて歌は、これまで吾輩は歌ったことがなく。逆に「死ね」とか「悪魔」や「地獄」等を歌ってきたので(笑)、それとは全く逆のことを歌にしなくてはならない際とかが新鮮で。自分で歌ってみてもまた新鮮だったし。その辺りがこれまでのソロアルバムと全く違う面かなと。

――では、かなり作家的な役割だったんですね?

デーモン閣下 : 完全に作家だね。「このようなものを書いて下さい」と依頼され、その期待以上の内容で返す。そんな気概で臨んでた。自分の中から自分の作品では浮かばないものが浮かび、それを起用出来る新鮮さ…。吾輩からこんな表現や言葉が出てくるなんて…といった発見は、何か自分の新しい引き出しがどんどん開けられていくようで楽しかった。

新感線の芝居のテイストと吾輩がこれま
でやってきた音楽性に近いが故の不思議
な統一感

――ちなみにその歌詞を書いていくプロセスはどんな感じだったのでしょう?

デーモン閣下 : もう着々と稽古が進み、音楽が先にそこに合わせて作られていく中、稽古場まで演出のいのうえ氏に会いに行って、そこでざっくりと、「この曲はこの役者さんがこういった場面で歌う曲で」「こういった気持ちを歌にしてもらえるとありがたい」的なものを各曲依頼されて。合わせて「詳しくはこの台本の何ページのこのセリフの感じが…」みたいな説明も受け(笑)。なので毎度明確でとても書きやすかった。台本の単語を拾って作ったりもしたし。

――先方も閣下に依頼するからには、閣下のオリジナリティとの融合も期待されていると思しきですが?

デーモン閣下 : もちろんそうでしょう。そこは出し過ぎず、出さなさ過ぎずで。特に最近は吾輩の近作でも重要視している韻を踏んだり、戦国時代が設定なので英語は使わないとか。まっ、24年前の初提供の曲には入ってはいるが(笑)。あと雅やかで和な感じ。その辺りは意識したかな。

――曲調はタイプ様々なれど、どの曲も愛と死、正義と悪、美しさと儚さ、哀しさ等、何か共通したものを感じます。

デーモン閣下 : 内容上、ほとんどの曲で「生きる」「死ぬ」は出てくる(笑)。全て戦(いくさ)がテーマの劇だから避けて通れない(笑)。

――全体的に不思議な統一感を宿していますよね?

デーモン閣下 : その辺りはこれまでの新感線の芝居のテイストと吾輩がこれまでやってきた音楽性に近いが故とも感じていて。馬が合うというか。でも、その統一感があるからこそ、一つ一つは全然違う芝居だし、時代や場面、曲調や内容は違えど1枚の作品中に収め切れたのだろうと。

――今回は古くは24年前の初提供曲も収まっており、その際の歌詞も今回書き足したとお聞きしました。

デーモン閣下 : そう。当時、自分も出演していたし、その稽古が大阪だったりして、かなり時間がタイトな中で作っていたことも手伝い、今聴き直すと、「ここが甘かった」等、色々と自身で指摘したい箇所も見つかって。しかも24年経ったから、そのぶんベテランにもなってるし。そんなベテランの吾輩が24年前の吾輩にダメ出しをし、気になる箇所を直し、英語の文法や表現も吾輩の配下のアメリカ人にチェックしてもらい書き直してから全て新たに歌った。

――24年前には1番しかなかった楽曲にも今回2番以降を付け足し、フルコーラスに仕上げたと聞きました。24年を経て楽曲を補完していく作業はいかがでしたか?

デーモン閣下 : 24年前の若い自分とコラボレーションしている感じかな。1番を書いた若い自分に対し、時を経てベテランになった現在の吾輩が2番を書き足す。やはり時を経たぶん色々なことを経験してきたので、その間の経験や時代背景の経過を活かして挑んだ曲もあったり。

経験を全て活かした上で、かなり新しい
ものを作れたことが最大のポイント

――やはり昔の曲も今の感性や経験値も踏まえ書き直したくなりそうなものですが、それをキチンとその当時をそのまま踏襲し、且つ2番以降は今のエッセンスを加味しているのも興味深いです。

デーモン閣下 : 新感線のファンでも吾輩のファンでも、24年前にその芝居を観た人もいるわけで。その諸君の大切な想い出を壊しちゃいけないなと。「えっ、全然違った曲になっちゃったじゃん」とガッカリさせたくはなくて。逆に、「ああ懐かしい」「けど新しい」って気持ちで聴いてもらいたい。そういった想いは大事にした。なので必然的によほど気になった箇所以外は手を加えてない。

――かなりの細心だったんですね?

デーモン閣下 : そう。その辺りは吾輩が歌ったのではなく、劇では違ったキャストが歌ったものを今回吾輩が歌い直したのも理由としてはあった。違う歌い手でキーも違う。だけど、そんなに違和感なく受け入れてもらえるように、なるべくその劇中で歌ってくれた人を想い歌った。なりきるまではいかないけど、雰囲気や観者が大切に持っていたその歌、いや、その場面に対しての印象を壊さないように気をつけたかな。もちろん今回2番を作るにあたっても、その場面のイメージを壊さないことを心がけて作った。何を書いたっていい中、あえて観てきた人々を裏切らない最善を目指したのだ。

――その辺りはかなり制限のある中での創作活動だったんですね?

デーモン閣下 : 大半がミュージカルではなく演劇の挿入歌なので、歌でストーリーを説明する類いのものではなかったし。オープニングやエンディングだったら、その芝居の総体的なところや全体的なことを広く書けばいいけど、場面の歌に関しては、その場面以上のものを歌っちゃうとネタバレになっちゃう。それらを思慮するとどうしても言葉が限定される。いわゆる説明過多にしないようにすると1番を作るだけで充分にネタを出し尽くして。なので2番を作る際はかなりの出がらしで(笑)。まさか時を経て2番が継ぎ足されるなんて、当時は思ってもみなかっただろうから。割とフルスイング状態でいってしまっていて(笑)。なので2番以降の歌詞は正直苦労した。でも、「劇団☆新感線のファンは2番以降の登場を楽しみにしている方も多い」なんて話を当初から聞いていたし。

――それは?

デーモン閣下 : いつも劇では1番で終わっちゃうから2番以降キチンと聴かせてもらえる機会ってこれまでなく。しかも「これをちゃんとフルコーラスの状態で聴いてみたい」とのファンの声も多いらしく。

――では「この後こうなってたんだ!?」との意外性や新発見も含め、ようやく今回、全貌が明らかになるわけですね。ちなみに閣下から見た今作の最大のポイントは、どこに当たりますか?

デーモン閣下 : 聖飢魔IIとしてデビューして今年で34年になるけど、そこまでの経験を全て活かした上で、かなり新しいものを作れたことが最大のポイントかなと。音楽性としては、自分がずっとやってきたものとそんなにハズれてはいなく、むしろドンピシャ。なのに全く新しい感じがする。そんな新鮮で不思議な感覚の1枚。

――分かります。なんか裏切りを意識せずして気づいたら自然と裏切っていたみたいな。

デーモン閣下 : まさにそう。裏切らないぞという思いで作り、結果いい意味で裏切ってる。それ、伝え方は違うけど、今作の「刃よ明日に向かえ」という曲でもそのようなことを歌っていて。新しいことをやるとか、今までになかったことにチャレンジするということはある種、どこかで今までついてきてくれた連中を裏切らなくちゃならない。でも、その連中の期待に応えつつ、キチンと新しいことが出来たと思う。それが今作にはある。それをずっと目指していた気がするし、それが難しくてなかなか実現に至らなかったけど、今回はその辺りも実感できてる。

――裏切らないと裏切るは真逆な行為でもあるわけで、その共存は基本的に難しいですよね?

デーモン閣下 : 聖飢魔IIも解散前は、「おいおい、こんなタイプの歌を歌っちゃうの?」って曲も沢山あったけど(笑)。でも、その辺りの「意識して変化させたもの」とか、本質から逸れた形ではなく新しいことがやれた感覚が今回は凄くしていて。更に言うと、自分以外の聖飢魔IIの構成員(メンバー)もずっと思っているであろう、「ソロで聖飢魔IIを超えたい!!」との密かな想い。ある意味で教典類と肩を並べる作品がここに出来たとの自覚もある。言い換えると脱皮できたアルバムだなと自負しているのだ。

――遂には劇団☆新感線とここまで来ましたが、今後はいかがですか?

デーモン閣下 : これからも互いに元気である限りは関係性は続いていくであろう。また歌詞の依頼があれば喜んで応えるし、是非自分の求められている仕事は今後も一緒にしていきたい。演者としてもいつでも声かけを待ってるし、なんなら歌も歌おうかなと(笑)。

――これを機に今後はしっかりフルコーラスを作り、舞台毎にサントラみたいにリリースしていきましょうよ。

デーモン閣下 : 時間を経て、苦労して2番以降を書かなくても済むように(笑)?いやいや、1芝居回の劇中歌では曲が足りないし、やはりどうしても自分が歌うと似合わないものも中にはあるし。裏切らないで裏切るが今回ようやく出来たけど、そこまで(自分が歌うと似合わないことを)やっちゃうと今度はまあまあ裏切ることになっちゃうんで(笑)。「うた髑髏」が秀作なのは、やはり24年間の蓄積からの選りすぐりだからね。そう簡単にすぐ次も、というわけには行かない、世の中そんなに甘くないさ。

〈リリース情報〉

2019.10.16
『うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-』

【「修羅と極楽」音源先行配信】
https://aoj.lnk.to/Jw62xWN


デーモン閣下 公式サイト

デーモン閣下が新ソロアルバムを経て行き着いた「裏切らずして裏切る」境地はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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