3つの「日本沈没」サウンドが甦る「
小松左京音楽祭」開催~オーケストラ
から金属恵比須まで多彩な顔ぶれが集

「小松左京音楽祭」が2019年11月30日(土)16:00より、成城学園 澤柳記念講堂で開催される。SF作家・小松左京(1931 - 2011)の代表作『日本沈没』原作のラジオ、テレビ、映画、3つのサウンドトラックを復元するなど、貴重な演奏の数々によって音楽面から小松ワールドを味わい尽くす趣向のイベントだ。演奏を、オーケストラ・トリプティーク(指揮:松井慶太)、そして、プログレッシヴロックバンドの金属恵比須が務める。
■音楽を通して小松左京の作品世界に思いを馳せる
今年2019年は小松左京の生誕88年。彼の企画展示「小松左京展―D計画」が2019年10月12日から12月22日まで世田谷文学館で行われる。「D計画」とは『日本沈没』の作中で遂行されるプロジェクト名。
「SFとは文学の中の文学である。そして、SFは希望である」(小松左京)──この言葉は、今あらためて注目を集めている。小松左京の膨大な作品群の中には、映像化やラジオドラマ化された作品もあり、それらの作品は、様々な形でムーブメントを起こしてきた。それらの思い出深い作品を彩った音楽とともに、小松左京に思いを馳せるオーケストラコンサートこそ、11月30日に開催される「小松左京音楽祭」だ。
破格の想像力と、巧みな筆致、それらを支える細かなデティールとリアリティー。小松左京の世界観に影響をうけたクリエイターは少なくない。今回、その「音楽祭」立ち上げに集ったのは、映画『日本沈没』(2006年版)の監督であり「シン・ゴジラ」でも知られる樋口真嗣監督、映画評論家であり映画監督である樋口尚文、そして音楽プロデューサーの西耕一だ。
ラジオ、映画、テレビと様々な形で作られた『日本沈没』。そのインパクトはストーリーや映像だけでなく、音楽にも大きな魅力がある。それらの音楽を作曲したのは佐藤勝、田中正史、広瀬健次郎など、いずれも日本の映画・テレビ界を支えた巨匠作曲家。これらの作曲家に光を当て、小松左京の想像力から派生した音楽を集めて、その音楽祭を行うべく有志が集った。そこへ小松左京のマネージャーであった乙部順子が加わり、音楽祭への新たな「D計画」が動き出したのだ。
■ラジオ、テレビ、映画、3つの『日本沈没』を彩ったサウンドを復元
1964年から9年かけて執筆された『日本沈没』は、1973年に刊行され、大ブームとなった。同年10月からラジオドラマが放送され、同年末には映画公開、翌年にはテレビシリーズと次々に展開された。大迫力のオーケストラサウンドが災害の恐ろしさを描き、危機に瀕してもあきらめない人類の強い意志が、希望のメロディーで支えられる。愛のため、恋人のため、家族のために生きるものたちを勇気づけた音楽だった。それらは、今聴いても色褪せることなく、心に響き渡る。これらを作った作曲家は、日本映画界に欠かせない作曲家たち=佐藤勝、田中正史、広瀬健次郎だった。
グルーミーなスコアによる映画版『日本沈没』は佐藤勝(黒澤映画、岡本喜八映画、ゴジラや特撮映画でも知られる)の音楽。ラジオドラマ版『日本沈没』の音楽は『黄金バット』『サスケ』『妖怪人間ベム』といったジャジーな名曲を生みだした田中正史 。ダイナミックなリズム感とセンチメンタルなメロディラインのテレビ版『日本沈没』は広瀬健次郎(ガメラ、若大将シリーズなどの音楽だけでなくアニメ『ど根性ガエル』の音楽でも知られる)。いずれの『日本沈没』の音楽も日本作曲界の巨匠の作品でありながら、これまで、なかなか生で聴く機会のできなかった。というのも『日本沈没』の楽譜は散逸してしまっていたからだ。
そこで今回、執念の耳コピ復元により、日本の名だたる映画監督が認めた佐藤勝、田中正史、広瀬健次郎のサウンドを復活させることとなった(楽譜復元:吉原一憲、今堀拓也)。
演奏は松井慶太指揮のオーケストラ・トリプティークと金属恵比須。オーケストラ・トリプティークは樋口真嗣監督が「メロディーが刺さり音圧に感情をぐわんぐわん揺さぶられます」と絶賛するエネルギッシュな演奏が人気であり、テレビ、ラジオなどで特集された楽団。金属恵比須は近年、頭脳警察や髙嶋政宏らとも共演を重ねる、新世代プログレッシヴグループだ。今回は、オーケストラサウンドとロック&プログレサウンドの融合となる注目のコンサートとなる。
小松左京の元マネージャー乙部順子さんは下記のようにコメントする。「『小松左京音楽祭』の実現は、『日本沈没』という、小松左京が9年の歳月をかけて「日本」および「日本人」への思いを込めた名作を、音楽で表現してくださった多くの名曲が甦ることを意味します。楽譜と音が後世に残せるのです。日本の音楽史的な意義は大きいと思います」
■東宝スタジオで使われたピアノ「メイソン・アンド・ハムリン」を使用
なお、このコンサートでは、映画『日本沈没』でも使われた伝説のピアノが使用される。そのピアノは、1957年、東宝スタジオ録音センター(現ポスト・プロダクション・センターII)がピアノを納入する際に、映画『ゴジラ』の作曲家・伊福部昭が直接その選定に関わったというピアノ「メイソン・アンド・ハムリン」。実際に東宝の映画音楽に長年使用されてきたものだ。同器はニューヨーク・スタインウェイに次ぐアメリカの名器と呼ばれ、日本には数台しか存在しないと言われる。そして現在ステージで演奏可能な状態で復元・調整されているのは、今回使われるピアノだけ。映画音楽ファン、SFファンに、「あの頃」の東宝スタジオだけでしか聴くことのできなかった貴重な「メイソン・アンド・ハムリン」の音を聴くことができる。これに因み、伊福部昭『ゴジラ』の音楽も特別に演奏されることも予定されている。
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■関係者プロフィール
樋口真嗣 Shinji Higuchi
1965年9月22日生まれ。東京都出身。特撮、アニメ、実写と幅広く活躍する映画監督。高校卒業後、「ゴジラ」(84)に造形助手として参加。84年からガイナックスでアニメ制作を経験し、アニメ映画「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(87)では助監督を務める。92年、ガイナックスを退社した前田真宏らとともにゴンゾの設立にも携わった。特撮監督を務めた「ガメラ 大怪獣空中決戦」(95)で、日本アカデミー賞特別賞特殊技術賞を受賞する。庵野秀明監督の大ヒットTVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(95~96)には、脚本や絵コンテとして参加。庵野監督とは親交が深く、同作の主人公・碇シンジの名前は樋口真嗣からとられたとされている。05年、実写映画「ローレライ」で監督デビューし、その後「日本沈没」(06)、「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」(08)でメガホンをとる。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズ第1弾「序」(07)と第2弾「破」(09)では、絵コンテやイメージボードなどを担当している。犬童一心監督と共同でメガホンをとった「のぼうの城」(12)で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した。 監督をつとめたTVアニメ『ひそねとまそたん』が第22回文化庁メディア芸術祭アニメ部門優秀賞を受賞した。
樋口尚文 Naofumi Higuchi
映画監督、映画評論家。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中に映画評論家 としてデビュー。以来『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」 70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『女優と裸体』『女優水野久美 特撮・アクション・メロドラマの妖星』『万華鏡の女 女優ひし美ゆり子』『テレビ・トラベラー 昭和・平成テレビドラマ批評大全』『テレビヒーローの創造』『「月光仮面」を創った男たち』など単著多数。近著に『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』。文化庁芸術祭、芸術選奨、キネマ旬報ベスト・テン、毎日映画コンクール、日本映画プロフェッショナル大賞、日本民間放送連盟賞、藤本賞、優秀外国映画輸入配給賞などの審査員を委嘱される。また、大学卒業後、電通に入社し、クリエーティブ・ディレクターとして30年にわたって膨大な数のTVCMを企画制作。2013年、オールスターの劇場用映画『インターミッション』で映画監督デビュー。2019年、川端康成原案の新作映画『葬式の名人』(主演:前田敦子、高良健吾)が公開。
西耕一 Koichi NISHI
日本の作曲家を専門に企画・プロデュース・執筆を行う。これまでに放送局、大学、研究機関の依頼による企画協力や、プロオーケストラのプログラム解説執筆で評価される。 近年の主な仕事として、日本の管弦楽曲100周年、伊福部昭百年紀シリーズ、芥川也寸志生誕90年、渡辺宙明卆寿記念、佐藤勝音楽祭、菊池俊輔音楽祭、渡辺岳夫音楽祭、黛敏郎メモリアル、チャーケストラなどをプロデュース。代表的執筆はヤマハ「日本の音楽家を知るシリーズ 黛敏郎、團伊玖磨、芥川也寸志」解説など。スリーシェルズ代表。
乙部順子 Junko Otobe
1950年3月東京生まれ。桐朋学園女子高等学校より成城学園大学経済学部入学。1972年卒業後、学習院大学法学部助手に就職。加藤秀俊秘書の後、小松左京秘書として34年間務める。92年より小松左京が映画「さよならジュピター」制作のために設立した会社(株)イオを継承。『小松左京マガジン』50巻、『小松左京全集』50巻を刊行。
オーケストラ・トリプティーク
2012年、旧奏楽堂にて日本の弦楽オーケストラ曲を集めて第1回コンサートを開催して評価を受ける。第2回、第3回演奏会は、朝日新聞文化財団の助成を受け浜離宮朝日ホー ル(朝日新聞社内)で開催し、いずれもCD化され新聞、音楽誌他で好評を得た。2014年は伊福部昭百年紀の公式オーケストラとして、NHKや新聞の取材 も受け、3回の公演を成功に導く。2015年は、生誕90年の作曲家特集として、芥川也寸志と渡辺宙明の個展を開催して好評を得る。フルオーケストラ、弦楽オーケストラ、アンサンブル、小編成まで様々な形態で日本の作曲家の音楽をアーカイヴすべく活動している。リリースされたCDはタワー・レコード やamazonのチャートで1位も記録している。トリプティーク(三連画)とは、前衛、近現代音楽、映像音楽という三本の柱を持ち活動する意思の表明でもある。常任指揮者は水戸博之。これまでに齊藤一郎、松井慶太、髙橋奨、藤岡幸夫、渡辺宙明、渡辺俊幸、山崎滋、西田幸士郎らの指揮者と共演を重ねている。
金属恵比須 (きんぞくえびす)
1996年、髙木大地によって結成されたプログレッシヴ・ロック・バンド。メキシコで行なわれている世界最大のプログレ・フェス”Baja Prog 2006″に日本代表として出演。最年少出場。「”プログレ”というジャンルにとらわれた幅狭い音楽」をモットーに、70’ s British Prog rock / Hard rockに根差しながら、横溝正史などの世界観を加味し、和洋折衷の世界観を目指す。メンバーから数々のプロ・ミュージシャンを輩出する実力派の演奏には定評がある。

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