松本白鸚「いまのラ・マンチャが一番
愛おしい」 ミュージカル『ラ・マン
チャの男』東京公演初日会見レポート

2019年9月に大阪で開幕、宮城、愛知を巡演し、喝采を浴びたミュージカル『ラ・マンチャの男』の東京公演が、いよいよ帝国劇場で開幕する。10月4日(金)の初日開演を数時間後に控えた松本白鸚、瀬奈じゅん、駒田一が、報道陣の前で意気込みを語った。
いまのラ・マンチャが一番愛おしい
白鸚ははじめに、50年前、ここ帝国劇場で初日を開けたことを振り返り「夢のようです」「多くの皆様、一緒に出てくださる方々、裏方さん、表方さん、家族、友人、先輩、今は亡き方々、そして何より劇場に足を運んでくださったお客様のおかげです」と感謝の言葉を述べた。
特別な思いのある公演を問われると、「僕が大事に思うのは、いま。瀬奈さん、駒田さんと共演するいまのラ・マンチャが一番愛おしいです」と笑顔を見せた。
隣に並ぶ瀬奈と駒田は、公演にかける気持ちの強さの表れか、やや緊張の面持ちにも見えた。しかし白鸚のこの言葉に二人は表情を和らげ、それぞれに深く頷いた。
松本白鸚
苦しみを勇気に、悲しみを希望に
歌舞伎俳優として第一線で活躍しながら、当時、歌舞伎俳優としては異例ともいえるミュージカル『王様と私』の主演に抜擢され、その後『ラ・マンチャの男』を半世紀も続けてきた白鸚。
続いた理由を問われると「他にすることがなかったんですよ」と冗談めかして笑いを誘いつつも、自身の俳優としての思いを次のように語った。
「消して楽ではありませんでした。苦しみや悲しみもありました。しかし苦しみをそのままにせず、なんとか勇気に。悲しみをなんとか希望にかえてがんばってきました。それが自分の俳優としての仕事だと思ってやってまいりました」
「旦那様」とともに24年
駒田一は、劇中で、セルバンテス(白鸚)の従僕役、そしてドン・キホーテ(白鸚)の従順な家来サンチョを演じる。本作に参加し24年、そのうち10年をサンチョ役で出演してきた。
「旦那様(白鸚)とやらせていただき24年。本当に長いですが、日々が修行です。旦那様のおっしゃったとおり、『いまが大切』を痛感しています。今日何ができるか。今日やれたことをどう明日につなげるか。それをラマンチャで、日々学んでまいりました」
劇中に限らず白鸚を「旦那様」と呼んでいるという駒田。白鸚に向ける目線は、すでにサンチョそのもの。
「はじめは『幸四郎さん』とお呼びしていたんです。でも『白鸚さん』に変わられまして、『旦那様』と呼ぶようになりました。そのほうが間違えずにすむかなと(笑)。それに僕にとっては本当に旦那様ですから」
駒田一
緊張感のもと「充実感と勇気を」
大阪、宮城、愛知公演は「毎日ありえないほどの緊張感だった」と語るのは、瀬奈じゅん。
「舞台は毎公演、これまでに経験したことがない位の緊張で始まります。ですが終演後は、(ストーリー上)悲しいはずなのに充実感と勇気をもらい、『明日も頑張ろう!』という今までにない充実感を感じます」
白鸚とは初共演の瀬奈。白鸚と舞台に立った感想を聞かれると、「いけないことかもしれませんが」と一言おいた上で、「とても安心感があります。その中で自由に演ずることができています。感謝しかありません」と語った。さらに「50年の歴史があるこの舞台、私が足を引っ張ってはいけないという緊張感のもと、それを温かく見守ってくださる皆様に感謝しています」と思いを明かし、本作に関わるすべての方への感謝を述べた。
瀬奈じゅん
夢は口にせず、ぐっと胸に秘めて
『夢』について問われた白鸚は、劇中の言葉に触れつつ、思いを明かす。
「ドン・キホーテは『事実というのは、いつも真実の敵だぞ』とか『もっとも憎むべき狂気とは、あるがままの人生にただ折り合いをつけてしまい、あるべき姿のために戦わないことだ』というんです。これはドン・キホーテだから言えること。僕らには気恥ずかしい言葉。だから、普段は決して口にしない」
とはいえ夢は「見たり語ったりするだけのものではない」ともいう。「夢は口にはしないけれども胸に秘め、日々働く」こと。そして、そのようにして働くすべての方々が「なんて素敵なんだろうと思える」「『ラ・マンチャの男』はお客様にそう思っていただける作品」と白鵬は感慨深げに語った。
染五郎を名乗っていた1970年。白鸚は、ブロードウェイで全編英語の台詞で本作の主演を果たした。高麗屋という歌舞伎の家に生まれ、初舞台から注目を浴びていた白鸚にとって、その経験は「無名の潔さを味わう」機会になったという。さらに幸四郎時代には、1000回公演の節目に、スペインを旅し、ラマンチャ地方にある風車の前で取材を受けたことを振り返る。やはり夢について問われた時、口を出たのは「男、60過ぎてからみる夢が本当の夢」という一言だったという。
喜寿を迎えた今、あらためて、今の夢を問われると、前述の自身の言葉に重ね「(夢とは)胸にグッと秘めておくものですから、ここでは言えませんが」と笑顔でかわしつつも、「長男(現・松本幸四郎)は高麗屋である歌舞伎の道を、長女(松本紀保)は、シアターナインスで手掛けてきた小劇場の道を、次女(松たか子)は、ミュージカルや映像の道を、それぞれ進み、そういう意味で『夢』は叶ったとも言えます」とコメント。最後は「1か月、みなさんとラ・マンチャをやり遂げようと思います」と力強く締めくくった。
手すりの向こう(ステンドグラスの下)には、ドン・キホーテの大きなパネルが見える。

10月19日(土)17時の部では、上演回数1300回を達成する予定だ。尚、SPICEではこの後、東京公演初日の模様をレポートする。

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