世界中にその名を知らしめた名曲
「ラウンドアバウト」を含む
イエスの傑作『こわれもの』
天才リック・ウェイクマン
本作『こわれもの』について
ハウのギターワークは前作で見られたようなカントリーリックはあまり出さず、あえてクラシック的およびスパニッシュ的な要素を前面に押し出しているのだが、これがアルバムの統一感を醸し出すのに大きな役割を担っている。おそらく、これはウェイクマンの助言をハウが受け入れたからだろう。また、バンド編成の「ラウンドアバウト」でのコーラスは完全にCSN&Yのコピーと言っても過言ではないが、この曲のサウンドイメージに過不足なく合っている。アンダーソンのヴォーカルを多重録音した「天国の架け橋(原題:We Have Heaven)」を聴けば、アンダーソンがビートルズ的なコーラスを目指していることが分かるだけに、CSN&Y風のコーラスを取り入れたのはハウのアイデアだと思われる。
イエスの曲の中でも「ラウンドアバウト」は異色のナンバーだ。これまでになく、ブルフォードのタイトで重厚なドラムとスクワイアのヘヴィなベースが絡み合い、ウェイクマンの考え抜かれたシンセサイザーの多重録音と、曲の間を縫うように張り巡らされたハウの緻密で大胆なギターワークが混じり合い、まさに神がかった演奏が繰り広げられている。イントロとアウトロでのハウのギターや後半のウェイクマンの熱くドライブするオルガンプレイなど、何度聴いてもゾクゾクするような陶酔感を味わえる名曲中の名曲に仕上がっている。
最後にロジャー・ディーンのことに触れておきたい。本作でアルバムデザインを手がけたディーンのファンタジーなイメージは『こわれもの』のサウンドを表現するのにぴったりで、その意味ではディーンはイエスのメンバーの一人と言っても良いかもしれない。ディーンは本作以降もデザインを手がけることになるが、最高作は間違いなく『こわれもの』のデザインである。ただ、CDはLPのような豪華な感触が再現できないのが残念だ。
TEXT:河崎直人