【特集企画】A New Musical『FACTOR
Y GIRLS~私が描く物語~』The road
to the opening<No.7>剣幸インタ
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ブロードウェイの新進気鋭ソングライティング・コンビと日本のクリエイティブチームが、新作ロックミュージカルを共作し、世界に先駆け上演するプロジェクトとして注目を集めるA New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(以下『FACTORY GIRLS』)。
この作品は、劣悪な労働環境の改善と、働く女性の尊厳を勝ち取ることを求めて、19世紀半ばアメリカで実際に起った労働争議を率いた実在の女性サラ・バグリーと、サラと固い友情を結びながらも雇い主との板挟みで苦しむハリエット・ファーリーを主人公に、今の時代にこそ伝えたい「自由を求めて闘った女性達の物語」を、ロックサウンドのミュージカルナンバーに乗せた、迫力の歌とダンス満載のエンターテインメントとして創り出す、日米合作による画期的な新作。
SPICEではこのかつてないプロジェクトで生み出される作品が、開幕するまでの道程に密着。様々な角度から、作品が立ち上がっていく過程をレポートしていく。
■A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』The road to the opening<No.7>剣幸インタビュー
連載第7回は、劇中「ファクトリー・ガールズ」の一人として登場する、ルーシー・ラーコム(清水くるみ)が、作家であり詩人となった40年後の姿であるオールド・ルーシーを演じる剣幸へのインタビューをお届けする。ミュージカル『FACTORY GIRLS』は、剣のオールド・ルーシーが講演会で聴衆(=ミュージカル『FACTORY GIRLS』を観ている観客)に、自分が作家となるきっかけを与えてくれた、若き日に憧れた女性たちについて語る……という二重構造からスタートする。さらに剣は劇中で、自らの母であり主人公サラ・バグリーが暮らすことになる6番寮の寮母ラーコム夫人も二役で演じていて、物語を外側から見ている人物でありつつ、劇中の登場人物としても生きるという作品にとって、極めて重要な役割をその双肩に担っている。
そんな剣に、開幕前、新しいミュージカルの創作に携わって感じることや、カンパニーへの思いを聞いた。(※インタビューは稽古真っ最中の時期に行いました)
作品の中での居方が難しいオールド・ルーシーとラーコム夫人
ーー稽古もいよいよラストスパートという段階ですが、改めてこの作品についてどう感じていますか?
このところ映画等でも、女性の物語が増えてきていると思うんです。女性が逆境に立ち向かっていく姿ですとか、例えば『ドリーム』や『ワンダー・ウーマン』等のように強い女性が描かれているものもよく目にしますよね。そんな中でこの作品はアメリカの産業革命時代に、自分達の労働環境を変えようとして女性たちが立ち上がる物語なので、女性ならではの共感ができると同時に、皆に勇気を届けられる作品だなと思っています。​
剣幸
ーー脚本に接して、アメリカのしかも白人女性でさえもこういう環境に置かれていたのか、と改めて知る思いもしました。
そうなんですよね。ですから同じ時代でも日本の女性等はもっと過酷な状態にあったと思いますし、誰かが声をあげない限りこうした状況は改善されなかっただろうと思います。ですからこの時代に、一番にストライキを起こし「これはおかしい!」と声をあげた彼女たちの力強さと勇気を感じますし、社会に出て働くということだけではなくて、女性って人生の中においてもっと色々「女性はこうあるべき」という四角四面な規範に押し込められていたと思うんです。その殻を破り、自分の生き方を探していく物語として感じて頂けるものが多いですし、さらに親子の愛情ですとか、互いが互いを信頼し、友情という絆で立ち向かっていくというものも織り込まれている素晴らしい作品だと思います。
ーーその中で、作品の語り手であるオールド・ルーシーと、自分自身の若い頃の姿であるルーシー・ラーコムの母親のラーコム夫人を二役で演じられますが、単純に二役と言ってしまうのにもためらいがあるほど、両者の関係性が難しい役柄だなと感じますが。
私一人だけが客席に語り掛ける場面もあって、お客様との垣根がない部分があるんです。オールド・ルーシーは「私の若い頃はこうだったんです」とお客様にストーリーをお伝えする語り部な訳ですが、さらに作品の中で自分の母親だったラーコム夫人を演じるので、二人の背景には育った時代の違いがあります。ルーシーたちの世代は「この労働環境はおかしい!」とシュプレヒコールを上げて改革をしようと立ち上がるのですが、母であるラーコムは「女は結婚して子供を生み育てれば良い」と思い込まされている世代で、女性の生き方に選択肢がなかった時代の象徴として作品の中にいます。その両者が全く別の役割の二役であれば別なのですが、ラーコムとしてもお客様に語りかけたりもしてしまうので(笑)。​
ーー「ついてこられてるかしら? 話を進めるわね」とラーコム夫人としておっしゃっていますね。
そうです(笑)そこが難しいところで、自分がどこにいたら良いのかをまだ探っているところです。お客様はプロセニアムの中の物語をご覧になっているのですが、私はそこから一歩出てきてもいて、でも中の人物でもあるという立ち位置が非常に難しいので、ここからの全体の通し稽古の中で、自分の居方を見つけていきたいです。特にそこまでたくさん出番がある訳ではありませんから、出た瞬間に役割をわかって頂けないといけないので。
ーー演技力に高い定評のある剣さんだからこそ、任せられたポジションですね。
そんな! とんでもないですが、現場にいて若い方達のパワーはひしひしと感じます。全員で立ち向かっていく圧や、歌からも踊りからも「時代はこうやって動いていったんだ!」という高い熱量が伝わります。歌えて踊れる人たちが揃っていますし、その色の濃い女子たちに対して、男子たちもそれぞれのキャラクターを駆使した、面白い役作りをして際立っている。一方で戸井ちゃん(戸井勝海)のようなベテランが、しかも「人の好い役しかやったことがないでしょう?」という人が、凄いワルだったという描かれかたもとても面白いです。全員に自分の色を出せる場面があって、日本初演で板垣(恭一)さんが脚本を書き下ろしたならではの「あてがき」感が生きていますね。
音楽の力によってサラリと大切なことが伝えられる
ーー楽曲も、大変魅力的で多彩で、また歌われる方達にもピッタリですね。
元々あった楽曲だけでなく、板垣さんが日本で私達が上演するにあたって書かれた台本の為に新たな曲をアメリカ側に発注してくださったりと、日米合作の作品が日本初演で立ち上がっていくんだなという実感があります。そうした成り立ちの違う楽曲がきちんと作品の中に融合していますし、とても難しいリズムだったりもするのですが、そのどこかいびつなリズムや、不思議な音形によって、皆の底力が感じられるんです。そこが本当に上手く作ってあるなと。こういう時代を描いた作品って、牧歌的な感覚のある楽曲が出てくることも往々にしてあると思うのですが、そうではなく新しい音楽に聞こえながら、伝わるものの大きい素敵な楽曲ですね。しかもそれを皆がとても上手に歌っているなぁと思って、いつも聞いています。​
ーーその中でラーコム夫人にも大きなソロがありますね。
なんでここにこれが入ってくるの!? という(笑)ストーリーにはほぼ関係ない穏やかなワルツなんですが(笑)、ラーコムが農夫と出会ってルーシーが生まれて、という話をすることによって、自分の時代はこうだったけれども、今ルーシーの母として、6番寮の寮母として、今の時代を生きる人たちには自分の人生を自由に生きて欲しい「あなたの人生はあなたのものなのよ」と母性豊かに歌っている歌でもあるので。
剣幸
ーーラーコム夫人のバックボーンが現れる訳ですね。
唯一ここで、という感じなのですが、物語の主軸はあくまでも新しい時代の女性たちが、改革を目指しているところなので、あまりラーコムが「でも私の時代はこうだった」と言い過ぎてしまっても違うと思うので、そこをサラッと1曲の歌にしているところが良い塩梅なのかなと。
ーーそれはミュージカルならではの効果ですね。
ミュージカルがお好きでない方がよく「なぜいきなり歌うの?」とおっしゃいますが、歌になるからこそ心に刺さるものがあるし、歌によって別の次元にお客様も一緒に飛ぶことができるのが、ミュージカルの良さだと思うので、それを是非感じて欲しいです。
ーー今、佳境に向かっている稽古場で感じることはどうですか?
とてもエキサイティングですし、皆がとにかく一生懸命で、脚本からそれぞれのキャラクターが立っているのを、日々工夫して、色々なやり方を試して積み上げて、磨き上げていくんだなという様子を、まさに寮母のように(笑)私は見ています。
ーー宝塚の後輩になる、柚希礼音さん、実咲凜音さんについてはいかがですか?
お二人共これまでご一緒したことはなかったのですが、柚希さんは、真っ直ぐでピュアで、それでいて皆を従えていく姉御的な感覚がピッタリですね。それでいてちょっと繊細なところもある彼女のキャラクターが生きていて、日々本当にサラ役を生き生きと演じているので、きっと劇場のお客様もぐいぐいと引っ張っていける力を持っている方だと思います。実咲さんは宝塚の娘役さんの中でも大人の女性ができる方なんだなと感じていて。彼女が演じるアビゲイルもファクトリー・ガールズの中の先輩格として描かれているのですが、決して力ずくではなく、しっとりした魅力で皆のお姉さん的な役柄を演じていて、二人共土台がしっかりしているなと思います。
剣幸
ーーご自身の若い頃であり、お嬢さんでもある清水くるみさんは?
くるみちゃんはとにかく可愛いです! 成長したらこうなるの?(と自分を指さして)と思うんですけれども(爆笑)、今、お互いに歩み寄ろうとしています。はじめはくるみちゃんのルーシーに、オールド・ルーシーの演技を寄せてみることも試したのですが、それだとちょっとコメディみたいになってしまって(笑)。それでくるみちゃんの方から「眼鏡をかけてみようかな?」というアイディアを出してくれて、小さい頃から本をよく読んでいて、最終的には作家になるという役柄だから「そっちに持っていってみます」等、試行錯誤して創り上げてくれている最中なので、本番の舞台では「あぁ、この二人がつながっているのね」が匂うところがあると良いなと思っています。​
ーー板垣さんの演出についてはどうですか?
役者の思いをちゃんと受け留めてくださって、「もっと自由に動いてみて」と枠を広げて待っていてくださる方です。その中でひとり一人の手綱は持っていて下さいますし、最終的に絵としてここにピタっとハマれば良いという大きな目で、優しく見てくださるので、信頼してなんでもご相談ができます。「どうしたいですか?」とも訊いてきてくださって「それいいですね! いただきです!」とおっしゃることも多いですし「それは、こっちの方が良いかもしれないね」と全体を統括して見てくださいます。役者ってどうしても自分の役に芯を通したいし、ここでこうしたから、こう感じたから次につながるということを自分の役だけの流れとして考えてしまいがちなのですが、それを最終的にひとつの作品にまとめる為に様々な腐心をしてくださるので。何よりもやはりこの時代のことを深く調べて把握していらっしゃるのは板垣さんなので、その中で新しいものを創ろうとしている板垣さんの熱い想いを意気に感じて、皆が団結できているので、初日に向けてさらに高め合っていきたいです。
ーーそのカンパニーの母のような存在として、剣さんがいてくださることに更に期待が膨らみますが、では改めて、間近に迫った開幕を楽しみに待っていらっしゃるお客様にメッセージをお願いします。
日本初演の作品で、しかもアメリカで出来た作品を日本版として初演するということではなく、板垣さんが考えて書き下ろし、皆さんの力を結集して創り上げている作品です。ここから時代が変わっていったということを皆さんに観て頂きたいですし、今につながっている女性の闘い、もちろん女性だけではなく、前例や因習と闘っているすべての人に勇気を持ち帰って頂ける、今につながる物語ですので、是非楽しみに観にいらして頂きたいと思います。

剣幸

剣幸(つるぎ みゆき)
<プロフィール>
富山県出身。1985年に宝塚歌劇団月組男役トップスターとなり、『ミー&マイガール』日本初演で高い評価を得る。90年に退団後女優としての活動を開始。93年『蜘蛛の巣』主演で第18回菊田一夫演劇賞、2007年『カーネギーの日本人』で東京芸術劇場ミュージカル月間個人優秀賞、09年『この森で、天使はバスを降りた』『兄おとうと』で第17回読売演劇大賞優秀女優賞、13年『ハロー・ドーリー』で第21読売演劇大賞優秀女優賞と、多数の受賞歴を誇る。近年の主な舞台作品に『ドリアン・グレイの肖像』『繻子の靴』『Indigo Tomato』『ビューティフル』『エリザベート』等があり、自身のコンサートやテレビ番組のMC、CD作品のセルフプロデュースと、多岐に渡る活躍を続けている。11月『Indigo Tomato』再演への出演が控えている。

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