A Hundred Birds ダンスミュージッ
ク・オーケストラはいかにして生まれ
、どこへ向かおうとしているのか

70年代、黄金期のディスコやソウルヒットを中心に、テクノやハウスさえも呑み込んで、ストリングスやホーンを擁する大編成の生バンドでゴージャスにスウィングさせる――。日本が世界に誇るダンスミュージック・オーケストラ、その名はA Hundred Birds。地元・大阪で毎年開催されているクリスマスライブはすでに20回を超え、毎回多彩なゲストボーカルを招き、ハッピーな聖夜のイベントとしてすっかり定着した。9月27日にはライブアルバム『A Hundred Birds feat. Natasha Watts - “Live in OSAKA’ ’ 』が全世界配信され、12月24日のライブを盛り上げる準備は万端。グループの成り立ち、ライブの歴史、そして未来への展望について、グループの首謀者でありライブの指揮者も務めるDJ YOKUに話を訊いた。
クラシックのオーケストラは音楽を演奏して生活できてる。ダンスミュージックも100年経てばクラシックになるから、その礎を作れたらと思ってます。
――クリスマスライブは、もう20年以上になりますか。
今年で23回目なんですよ。
――最初から、こんなに長く続くイベントにしようと?
最初は、1回だけの企画ものやったんですよ。ニューヨリカン・ソウルが出て来て、「Runaway」という曲がヒットして、これを生演奏でやったら面白いんじゃないか?というのがきっかけです。当時、梅田にQooというお店があって、1000人ぐらい入るデカいハコで、客席の一部をつぶして「オーケストラを入れてやってみいひん?」ってお店の人に話したら、「おもろいな」と。一緒に曲を作っていたロビン・リーという男が、当時は大阪に住んでいて、イギリスにいる兄貴と一緒にフェイズ・アクションというユニットをやっているんですけど。ストリングスのアレンジもできるし、ベース、ピアノ、チェロも弾けるマルチなプレイヤーで、「こういうことをやりたいから手伝ってくれへん?」「ええよ」ということで、お店がお金を出してくれて、ミュージシャンを集めることになった。当時、僕はFM802で、毎週水曜日にコーナーを持ってまして、ハウスの曲をかけて、マーキーさんという関西で有名なパーソナリティの方と、曲の解説をしていたんですよ。「マーキーさん、今度こういう企画をやるんですけど。バイオリンを弾ける人とか、どうやって集めたらいいんですかね?」って相談したら、「よし、公募してみよう」と。ラジオで。
――あはは。いきなり公募。
マーキーさんが「呼びかけたら来るかもしれんやんけ」と言うので(笑)。で、次の週のラジオで、「YOKUがこんなことやるんやけど、バイオリン、ビオラ、チェロを弾ける人、FAX送ってください」って、FAXの時代なんで。そしたら2通、来たんですよ。
――おおー。素晴らしい。
しかも「バイオリン、ビオラ、チェロ弾ける人」って言った時に、マーキーさん、「ビオラって何や?」って。オンエア中に(笑)。僕も「ビオラって何ですかね?」「ビオラ分かる人、FAX送ってください!」って。
――面白すぎます(笑)。
そしたら「ビオラはバイオリンより五度低い」ってFAXが来ました(笑)。それくらい、何も知らなかったんですよ。その時応募してくれたメンバーは、今はいないですけど、大学の先輩とか、いろんな人を呼んできて、今のメンバーになっていった。とりあえずロビン、僕、僕の高校の先輩の吉田の3人で曲を作っていこうということで、僕と吉田の母校が「東百舌鳥高校」なのでその“百”と“鳥”をとってA Hundred Birdsという名前を付けてたんですが、オーケストラでやるのは1回だけだろうと。でもやってみたら「おもろいな」ということになって、「来年もやろう!」と店も言ってくれて、翌年また違うメンバーが加わって、どんどん腕利きが集まりだした。そういうのって、関西っぽいじゃないですか。みんな「しゃーないなー。まあ行くわ」みたいなことを言いながら。
――ぽいですね(笑)。
そんな感じで集まって、Qooが主催してくれてたんですけど、3回やった時にお店が閉まることになって。なんとか続けようという話にはなったんですけど、ロビンもイギリスに帰ってるし、指揮者どうする?という時に、僕は楽器もできないし、「余ってるからおまえやれ」みたいな(笑)。そこから指揮をやることになったんですけど、指揮者が一番わかってないような状況でしたから。トロンボーンのTommyさんから、「指揮はちゃんとやらなあかん」って、棒の振り方を教えてもらって、「おまえがちゃんとやれば、みんな思い切ってやれる。演奏もどんどん良くなる」と言われて、「なるほど!」って、そんなこともわかってなかったんで。そうやって、みんなに教えてもらいながら、未だに指揮をやらせてもらってます。はい。
――音楽性は、当初から「70年代のソウルやディスコを生演奏で再現する」というコンセプトだった?
そうです。70年代のディスコ、ファンク、ソウルの音源は、オーケストレーションが使われているものが多いんですね。そのへんの音楽をカバーして演奏したら面白いんじゃないか?と思った時に、特にサルソウルの存在は大きくて、ストリングス、ホーンの住み分けもわかりやすいし、それで70年代後期のディスコ音楽に特化していこうということになった。それと、もう一つ大きかったのがテクノで、僕らの代表曲で「Jaguar」という曲があって、デトロイトテクノの曲なんですけど、それを聴きながら“この音をストリングスに変えたら面白いな”と思って、4回目のクリスマス、僕が初めて指揮をやった時に選曲に入れたんです。やってみて“ええ感じやなー”と思ったのと、ちょうどその時、ニューヨークのWAVE MUSICというレーベルにフランソワ・Kという人がいて、僕らの「Batonga」という曲を気に入って、リリースの話が進んでいたんですけど。4回目のクリスマスライブの録音をフランソワに送ったら、「これを出しましょう」ということになり。
――どんどん繋がった。
元々ストリングスやホーンが入っていないものを、自分たちで解釈して作っていくのも面白いなと思って、フランソワの助言もあり、テクノやハウスもやっていこうということになったんですね。その後、2005年から2008年まで、フォーライフと契約していた時期があるんですけど、そこでは集中してオリジナルを作ってました。ただ、40数人のA Hundred Birds Orchestraで出す場合、曲を作って、ストリングスをシンセで入るわけにはいかない。全部生でやらなきゃいけないから、制作費がかかるんですね(笑)。フォーライフとの契約が切れて、自分たちのレーベル「100records」を作って、1年1曲みたいな感じで作ってきたんですけど、正直、まあ大変ですね。
A Hundred Birds Orchestra
――最近は、40人を超える大編成のオーケストラ形態はクリスマスライブで、その他のライブはもっと少人数の編成でやることが多いです?
そうですね。AHBトリオという3人編成、6人のAHBセクステット、ストリングス4人、ホーン4人、コーラスも加わって、全体で20数人編成ぐらいのオーケストラ編成もあります。もんたよしのりさんが企画してるイベント『俺らだけのヒットパレード』もそうだったんですけど。去年はもんたさん、南佳孝さん、沢田千可子さん、城南海さんの曲のバックをやるみたいな、そういうこともやってます。
――そこも聞きたかったんですよね。ディスコ、クラブから生まれたグループが、ロック、ポップスのバックをやるのは、相当に柔軟というか、良い意味でこだわりがないというか。
ああ、それは、2011年のクリスマスコンサートで初めてゲストを呼んで、桑名晴子さんに出てもらったんですね。晴子さんの曲ではなくて、ダイアナ・ロスの「THE BOSS」というディスコの曲をカバーしてもらったんですよ。そしてその翌年に、お兄さん(桑名正博)が亡くなられた。実はA Hundred Birdsという名前が初めて世に出たのは、正博さんの曲のリミックスなんです。だいぶ前の話ですけど、その時から面識があったんで、晴子さん、正博さん、もんたさん、上田正樹さんとか、ソウルフルな感じで、毎年続けていけたらええなと思っていたところへ、AHBのベースの中島克來が、もんたさんのバンドのベースもやってて、「ちょっと聞いてみて」って言ったら「ええで」って返事をくれて、2012年にもんたさんが出てくれることになった。でも、もんたさんが出て来て、「ダンシング・オールナイト」をやらへんわけにはいかへん。
――そりゃそうですね(笑)。
それとこの年(2012年)にちょうど、東京のほうではC4(Club and Club Culture Conference)とか、朝まで踊れなくする風営法の規制に反対する運動があって、大阪でもそういう運動をしてほしいというので、ラッパーのSHINGO★西成くんが会長になって、ハウス系は誰かおらんか?ということで、僕が副会長になった。それで、もんたよしのりさんに「ダンシング・オールナイト」という曲を歌ってもらうこと自体が、今いいんじゃないか?と思ったんですよ。
――なるほど! 踊れなくする法律に対抗して、ダンシング・オールナイト。そんな意味があったとは。
もんたさんにもそれを伝えたら、ステージでその話をしてくれて。そんな時期でしたね。
――クリスマスライブのゲストボーカルは、これまで桑名晴子、もんたよしのり、佐藤タイジbirdAFRA、SHINGO★西成、ニューヨークからバーバラ・タッカー、等々。
だんだん呼べる人が少なくなってきて、大変ですけど(笑)。オーケストラになって、メンバーや準メンバーや、代わりに入ってくれる人や、いろんな人が関わってくれてるんですけど、これだけ大きなバンドだと、そうそう仕事はないんです。でも、もんたさんの企画をはじめ、僕らのやり方を面白がってくれる場所も徐々に増えてきたし、ヨーロッパでは、ダンスミュージックをオーケストラ編成でやってみる動きも、この4~5年ですごく出てきてる。そもそも、A Hundred Birdsを始めた頃からのキーワードで“孫の代まで”というのがあるんですね。
――いいですねえ。
今、現状が大変やから、あとのことは任せてしまえということでもあるんですけど(笑)。ただ、クラシックのオーケストラは、音楽を演奏して生活できてる。それのダンスミュージック版というか、ダンスミュージックも100年経てばクラシックになるじゃないですか。
――かっこいい。そうだと思います。
そういうオーケストラとして、息の長い、僕が死んでも残るような、大袈裟ですけど、その礎を作れたらと思ってます。僕の場合、音楽をやっている立場というよりも、運営するほうの考え方も大きいので、だからみんなに社長と呼ばれてるんですけど(笑)。何年か前、福井でSOIL&“PIMP”SESSIONSと一緒になったんですけど、「社長!」って呼ばれて、「はい?」って、二人が振り向くという(笑)。
――あはは。ソイルにも社長いますからね。でもそれこそ、昔のテレビの歌番組でも、オーケストラをバックに歌うのが基本だったわけで。クラブだけじゃなく、そういう活動もしていけば、長く活動できますよね。
そうですね。それと、僕自身も、丸くなってきたんでしょうね。ハウスやディスコのことしか考えていなかったのが、正直、食っていくためにはいろんなことをやらなきゃいけないのと、これだけいろんなミュージシャンが集まっているなら、「これ」と決めれば何でもできる。自分らの可能性は自分らで広げるようにしておいたほうがいいし、実際やってみて、楽しいんですよ。歌謡曲やポップスをやるのは。“沁みるな~”というのがありましたね。関西に住んでいて、桑名正博、もんたよしのり、上田正樹の三大スターと、いつかやりたいと思っていた夢も、なんとか叶ったし。
――今年のクリスマスライブは、サルソウル・レーベルの曲だけを演奏することが、すでに発表されてます。
サルソウルは、いつかやりたいなとずっと思っていたので。毎年やっているカバーの中に、サルソウルの曲は毎回入っていて、楽譜も20曲以上ある。今なら行けるなという、ようやくその時期が来たんだと思います。
――なんだかんだ、みんな知ってますよね。「Runaway」も、あと電気グルーヴでおなじみの「Spring Rain」も。
「Spring Rain」をやるなら♪KISS KISS KISSって、コーラス入れて。あれは元々ドイツの人で、サルソウルはライセンスで出してると思うんですけど。まだ、何の曲をやるかは言えませんけど、たぶんやるんじゃないかな。
――やっぱり、サルソウルの時代の曲は、ずっと新鮮ですか。
サルソウルは、僕らにしても昔の曲なんですよ。僕らは打ち込み世代で、それのネタ元になっていたのがサルソウルで、ネタを探して、“これ、むっちゃヤバイやん”と思ったけど、リズムの感じとか全然違うから、DJでかけるのは難しい。でもこの柔らかい感じがいいんだよなとか、どんどん好きになっていった。最初のクリスマスコンサートで、「Runaway」を、生のストリングスとホーンでやった時の感動は、今でも忘れないです。いろいろ大変ですけど、まず面白いです。ミュージシャンも、面白がって集まってきてる人ばかりなので、最初の新鮮さは失われてないですね。

――その前に、すごくタイムリーなタイミングで、ライブ盤が出ます。デンマーク出身、イギリスやヨーロッパで活動しているスーパーボーカリスト、ナターシャ・ワッツを全面的にフィーチャリングした『Live in OSAKA』。3月11日、ビルボード大阪でのライブ録音です。
これは、元々メンバーだったロビン・リーとナターシャが知り合いで、僕らの演奏の映像を何かで見たナターシャが「彼らとライブレコーディングしたい」と言ってきたって、すぐにロビンから連絡が来て。僕はその時、ナターシャ・ワッツを知らなくて、あらためて聴いて“めちゃ歌うまいやん”と。そして去年の11月に、沖野修也さんとの仕事でナターシャが日本に来た時に、大阪で打ち合わせして、まず「Runaway」はお互いに大事な曲だからぜひやりたい、そして、ナターシャの曲をA Hundred Birdsでカバーしてほしいと。それから会場選びに入って、ビルボード大阪さんが「やりましょう」と言ってくれて、一気に動き出しました。だから、完全にナターシャ発信の企画です。逆ナンみたいな感じですね(笑)。
――あはは。あんなパワフルなお姉さんに迫られたら、イエスと言いますよ。
そしたらユニバーサルさんに「出しましょう」と言っていただいて、本当にありがたいです。だからA Hundred Birds feat. Natasha Wattsになってますけど、逆かもしれんなって、僕らは思ってるんですけどね。ほぼナターシャの曲やから。
――今回のクリスマスライブのゲストボーカルには、そのナターシャさんも来てくれる。
はい。それとA Hundred Birdsにはボーカルが4人、ラッパーが一人いて、今回もう一人、JAY’ EDさんに入ってもらいます。JAY’ EDさんは、うちのボーカルのSweepの知り合いで、「いい男子ボーカルいない?」って聞いて、紹介されて。まさかLDHの人とは思ってなかったんですけど。
――どんどん広がって行く。まさに有機体。
さっきも言いましたけど、孫の代まで、メンバーが入れ替わってもA Hundred Birdsやというふうに、なっていくようになればなと思います。つぶれないように頑張ります(笑)。
――クリスマスライブ、楽しみにしてます。最後に、みなさんへのお誘いの言葉をぜひ。
今年で23回目の『Dance Music Meets Orchestral Unit On Christmas』となりますが。今年は「Play Salsoul」と題して、サルソウルというレーベルの音源だけで演奏します。これはもう必聴必見ですので、12月24日、ぜひなんばHatchのほうへ来てください。お願いします!
取材・文=宮本英夫 撮影=iwa
A Hundred Birds/YOKU 撮影=iwa

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