『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』野外最
後の開催「この季節にこの場所で」ー
ー15年分の「思い」「意志」「ストー
リー」が交錯した2日間

『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』2019.9.7(SAT)、8(SUN) 大阪・泉大津フェニックス
2005年に始まったこの野外イベントは、15回目となる(そのうち2011年と2018年は台風の影響で中止になったので、正しくは13回目だが)今回をもって終了する、「夏に」「野外で」「イベント」を開催するのはこれで最後にする。ということが、前もってアナウンスされた上での開催だった。
『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』
なぜそう決断したか、いかなる考えでその結論に至ったかについては、このフェスの主催・企画制作の清水音泉のボス、清水番台のブログ『音泉魂風呂具』に、何度かにわたって、ていねいに、かつ正直に書かれているので、ご存知ない方はまずそれをお読みください。
こちらです。https://note.mu/onsenbandai
簡単に言うと、要は気候の問題だ。現在の日本の夏の「台風やたら来る」「異常に暑い」という状況の中で、野外で続けるのはもう無理と判断した、ということだ。
「しかしこの15年、いやそれ以前から変わりいく気象条件に『野外で大きな音を出せること』が必ずしも一番の価値とは思えなくなり、今年を最後に野外でイベントを開催するのは諦めることにしました」
今年の入場者に配られたスケジュールカードの『開催によせて』で、清水番台はそう書いている。
という、この判断に関しては、国内において『OTODAMA~音泉魂~』が先駆けだった、ということになるのではないかと、僕は予測している。これから10年くらいの間に、各地の真夏の野外フェス(暑さよりも雨が大変な『FUJI ROCK FESTIVAL』と、北海道の『RISING SUN ROCK FESTIVAL』や『JOIN ALIVE』は除く)が、屋内に移ったり季節をずらしたりするようになる、それにいち早く踏み切ったのが、『OTODAMA~音泉魂~』だった、という。
別に清水番台を持ち上げたいわけではない。どちらかというと持ち下げたいくらいだが、最初にそう決断し、そう動いたというのは事実なので、しょうがない。だってこれ、フェスの運営に携わる人も、その周辺で仕事している人も(末端の業者である僕とかも含む)、とっくに疑問に思っていたことだもん。もちろんお客さんも、アーティストやそのスタッフも、そうだろう。たとえば、「夏の甲子園、球児たちのために、もうこんなクソ暑い時にやるのやめようよ」とか、「2020年の東京オリンピックなんて暑すぎて無理じゃん」とか思うたびに、「でもそれ言ったらロック・フェスがいちばんそうだよなあ」と複雑な気持ちになる、とか。
『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』
たとえば、『ARABAKI ROCK FEST.』(4月)や『朝霧JAM』(10月)に行って、「うわ、過ごしやすいなあ」と思うたびに、「あれ? じゃあなんでクソ暑い時期に野外でがまんしてるんだっけ?」と疑問に思う……とか。それらのフェス、「寒いっ!」って年もあるんだけど、それでも、この寒さと夏のクソ暑さだったらどっちが身体にこたえる? 後者だなとか。
で、その『ARABAKI ROCK FEST.』や『朝霧JAM』以外にも、夏以外の季節に野外でフェスが行われるのが普通になり、「野外フェスは夏でしょ」という既成概念が崩れたのも大きいと思う。つまり、清水番台は誰もが思っているけど、いろいろあってなかなか実行に移せなかったことを、いち早くやったということだ。
もちろん寂しい。今後も場所や形を変えて『音泉魂』が続くとしても、今のあの会場にも、あの開催のしかたにも、とても愛着がある。たとえば近い将来に、新しい場所で開催が決まりました、今度は駅からシャトルバスに乗る必要ないです、歩けますよ、となったとしましょう。それはもちろん「便利になった」ことではあるけど、でも同時に「シャトルバスの中で流れる清水音泉“男湯”田口氏のカラオケを聴いて爆笑できなくなる」ということでもあるわけですよね。
今年の本番終了3日後にアップされた『音泉魂風呂具』で、清水番台は、「暑くて日陰が無いから少しでも笑って気晴らしにして貰う為にしょうもないことも一生懸命やってきました」と書いている。
そういう理由で、毎年「プロレス」「スーパーマーケット」「サラ金」などのコンセプトをイベントにくっつけて、それに則ったボケの数々を会場やオフィシャルサイトや広告やグッズなどにちりばめてきたのだとするのなら、もし今後、「日陰ある」もしくは「暑くない」イベントとして生まれ変わったら、ああいうノリがなくなって、もっとシュッとしたイベントに生まれ変わっちゃうかもしれないし……いや。ならないか。どうあってもボケようとはするか、ああいう体質だから。
しかし。そんなふうに寂しくはあっても、この「今年で終わる」という判断は正しい、と言わざるを得ないことが、昨年と今年でさらに証明されたとも言える。
まず昨年。台風の影響で、会場である泉大津フェニックスが「ほぼ壊滅」状態で、開催不可能になった。テレビのニュースでステージを見た時のショックは忘れられない。で、今年。台風13号と15号の接近に二度にわたって怯えながらも、結果的にどちらもそれて、快晴の中、開催できたのはいいのだが。
『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』
快晴過ぎた。めちゃめちゃ暑かった。いくらなんでも!と言いたくなるほど、暑かった。特に2日目。夏の野外フェスの暑さには慣れているつもりだった僕でも、ちょっと言葉を失うほどの暑さだった。ライブを観ている時に、「あ、今俺の首筋、焦げてる!」と感じるレベルの猛暑。
ご存知のように泉大津フェニックス、地形的に、日陰がない。あの日、あの会場に開演から終演までいて、「晴れたじゃん、このくらいの暑さなら平気じゃん、来年もこのままやればいいじゃん」と心から思えた人、いただろうか? 絶対にいなかった、とは言えないが、「暑い、しんどい……台風来なくても、この暑さじゃなあ……」という人の方が、大多数だったのではないか。
本多スイミングスクール
去年が「台風で開催中止になって継続の難しさを知る」だったとするなら、今年は「開催できた時のしんどさを体感して継続の難しさを知る」年だったという言い方もできる。
と考えると、このフェスを愛する参加者のみなさんにとって、ある意味、「悲しい、でも納得」「寂しい、でも同意」に、限りなく近い年だったのかもしれない、この最後の2年は。
ゆえに。出演アーティストたちも、この季節、この場所では最後の『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』への思いを、それぞれのやりかたで形にしながらステージに立つ、そんな2日間になった。
1日目(『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』の『‘18』の方の日)、昨年の中止で出られなかったアクトがみんな揃ったが、横浜スタジアムのワンマンと当たってしまい出られなかったSuchmosに、トリのOKAMOTO’ Sはサウンドチェックで「STAY TUNE」を捧げた。
FISHMANS 撮影=ハヤシマコ
FISHMANSは、原田郁子、永積崇、蔡忠浩、角舘健悟が総登場したラストに、「感謝(驚)」を持ってきた。
FISHMANS 撮影=ハヤシマコ
そのFISHMANSで「MAGIC LOVE」を歌った永積崇は、その前の時間は自身のステージで7曲、そのあとの時間は東京スカパラダイスオーケストラで2曲半出演した。5時間の間に、三回ステージに立ったことになる。あ、「2曲半」というのは、スカパラの音にのっかって「今夜はブギー・バック」のラップをちょっとやってから、「Jamaican Song」と「追憶のライラック」を歌ったので、そうカウントしました。
フラワーカンパニーズ 撮影=渡邊一生
2日目。一回目の2005年から出演、2014年にはトリを任せられたり、2010年にはミスター小西の「ジャンピンク乾杯事件」を起こしたりと、このフェスと共に歩んできたフラワーカンパニーズは、1曲目を「深夜高速」にすることで愛と感謝を示した。
四星球 撮影=渡邊一生
毎回清水番台をパフォーマンスに巻き込む四星球は、今年は「音泉魂とUSJ、チケット代ほぼ一緒」という理由からUSJのキャラを(主に段ボールで)多数ステージに出し、「清水番台にETの段ボールお面をかぶらせて康雄&お客さんと一緒に客席エリア練り歩き」という方法で、それを実行した。
サンボマスター 撮影=渡邊一生
ライブで毎回TPOに合わせたコール&レスポンスを行うサンボマスター山口隆は、「清水音泉はカネがない、みなさんの支援がないと社長の清水さんバイトしなきゃいけなくなっちゃう」と、本日のコール&レスポンスを「バイト!禁止!バイト!禁止!」に定め、超満員の参加者にご唱和させた。
奥田民生 撮影=河上良
「ひとり股旅」スタイル=弾き語りで歌っている最中に日が沈み、あたりが夕陽で照らされていく、という最高のシチュエーションだった奥田民生は、「『音泉魂』は俺、梅雨にやればいいと思ってるんですよ。雨が降ってなんぼのフェス。土砂降りフェス。来年僕は6月開催を願っています」と言い、拍手を浴びた。で、「あれ? これで拍手もらえるもんなんですね」などとのたまってから、「ユニコーンの曲をやります、夏っぽいやつ」と「雪が降る町」を歌った。
キュウソネコカミ 撮影=河上良
露天風呂ステージのトリ、キュウソネコカミは、サウンドチェックでSuchmosをやったというのもあったが、それ以上に、「出演した」という事実自体に、『音泉魂』への思いが表れていたと言える。なんせ彼らはこの日、栃木の『ベリテンライブ2019』に10:30から出演し、出番を終えるや否や泉大津まで移動して、19:35に露天風呂ステージに立ったのだ。普通断るでしょ。でも断りたくなかったんでしょ。という話だ。
クリープハイプ 撮影=渡邊一生
そして、大トリを務めたクリープハイプは、MCのたびに『音泉魂』への、清水番台への感謝の言葉を口にした。自分では納得がいかなかったライブでも、いつも清水さんは「よかったです」と褒めてくれる、それが不思議だった時もあったが、今回こんな大事な大役を任せてくれたことで、本気で褒めてくれていたことがわかった、と。さらに、終演時には、大阪での初めての大会場ライブ、3月22日大阪城ホールワンマン(もちろん清水音泉仕切り)を、発表した。
クリープハイプ 撮影=渡邊一生
それから「ストーリーはセールスに勝つ、ということを知ってしまった」というのは、2014年、フラワーカンパニーズとSCOOBIE DOをトリにした『音泉魂』の後に、清水番台が書いていたことだが、今年もいくつものストーリーが描かれる2日間でもあった。最後だから特に、というのもあっただろう。
たとえば、そのフラカンとSCOOBIE DOの両方が、出演していること。あるいは、一回目の2005年に出ていたPOLYSICS、奥田民生、サンボマスターも、顔を揃えていること。
10周年にあたる今年(2019年)に初めての日本武道館ワンマンを成功させたOKAMOTO’ Sが、『音泉魂』で初めてトリを飾ったこと。
2012年に初出場したクリープハイプが、その7年後にこうして大トリを務めたこと。
現在もライブ活動を続けている、その大きな後押しのひとつになったのが、この『音泉魂』からの強力なオファーだった(と言っていいと思う)FISHMANSが今回も出演したこと。
(今年はなかったが)「SET YOU FREE」テントに出たのがきっかけでこのフェスと共に歩んできた四星球の康雄は、「SET YOU FREE」のフラッグをマントのように羽織り、「『音泉魂』と十三ファンダンゴと「SET YOU FREE」に捧げます」と「出世作」を歌った。あと、今月に食道がんの手術を控えている、はる(大木温之/Theピーズ)へのエールとして、Theピーズの「生きのばし」をカバーし、そこに飛び入りしたトモ(TOMOVSKY)が、予定外にボーカルをとるさまに落涙した。
サンボマスター山口隆は、闘病の末、4月に亡くなった、『音泉魂』の重要な関係者、神戸「太陽と虎」松原裕の名前を何度も口にした。
BAZRA 撮影=阪東美音
今年宴会場テントのトリで出演し、すさまじいステージングで観る者の度肝を抜いたBAZRAは、一回目=2005年のトップに出演したバンドだ。そのバンドが最後に出るというこのブッキングにもこだわりが見える。
ガリガリガリクソン 撮影=渡邊一生
さらに言うなら、2日目の「入浴宣言」を務めたガリガリガリクソン。2016年に例の件で逮捕→謹慎、テレビもラジオも劇場も、まるで最初からそんな人いなかったみたいな扱いになる中、その年の『音泉魂』の「店長挨拶」の文章の中で、清水番台は彼のことに触れ、前説ではガリクソンTシャツを着て「飲酒運転は絶対にやめてください!」と叫び、拍手喝采を浴びた。そのガリクソンが今年入浴宣言をしに帰って来たのも、いくつもあるストーリーのひとつだったと言える。
で、「僕たちの失敗」(森田童子)にのせてその事件のことを歌うも、ウケなくて曲を止めておられました。で、「ラブホテル」(クリープハイプ)にのせて「客のせい 客のせい」と歌って、今度はウケておられました。
『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』
「来年以降白紙ですが、『OTODAMA~音泉魂~』というタイトルは引き続き(?)、なんらかの形で続けていこうと思います」──9月11日アップの『音泉魂風呂具』には、そう書かれている。これまでのパターンからいくと、『OTODAMA』関連の発表がある時は、清水音泉の大晦日のイベント『KINDAMA~謹賀魂~』でアナウンスされることが多いと、ABCラジオ『よなよな』木曜担当 鈴木淳史に聞きました。そこになるのか、もっと先かはわからないが楽しみに待ちたい。今回のこの決断は、「終わる」だけではなく、「何かが始まる」ことでもあるわけなので。
取材・文=兵庫慎司 
『OTODAMA'18-'19~音泉魂~』PHOTO 
THE BAWDIES 撮影=渡邊一生
never young beach 撮影=渡邊一生
ハナレグミ 撮影=河上良
レキシ 撮影=渡邊一生
東京スカパラダイスオーケストラ 撮影=渡邊一生
OKAMOTO'S 撮影=河上良
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ 撮影=ハヤシマコ
YAJICO GIRL 撮影=渡邊一生
ZOMBIE-CHANG 撮影=阪東美音
ステレオガール 撮影=阪東美音
あっこゴリラ 撮影=河上良
The Wisely Brothers 撮影=阪東美音
CHAI 撮影=河上良
iri 撮影=渡邊一生
フレデリック 撮影=ハヤシマコ
Yogee New Waves 撮影=ハヤシマコ
レイザーラモンRG 撮影=渡邊一生
夜の本気ダンス 撮影=河上良
My Hair is Bad 撮影=ハヤシマコ
climbgrow 撮影=河上良
The Vocoders a.k.a. POLYSICS 撮影=阪東美音
Hakubi 撮影=ハヤシマコ
FERN PLANET 撮影=阪東美音
マカロニえんぴつ 撮影=河上良
TOMOVSKY 撮影=ハヤシマコ
ヒトリエ 撮影=渡邊一生
bonobos 撮影=ハヤシマコ
崎山蒼志 撮影=河上良
SCOOBIE DO 撮影=河上良
超能力戦士ドリアン 撮影=ハヤシマコ
ネクライトーキー 撮影=阪東美音
ヤバイTシャツ屋さん 撮影=ハヤシマコ
撮影=渡邊一生、河上良、ハヤシマコ、阪東美音

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