結城萌子。声優と歌手、ふたつの顔を
持つからこその魅力に溢れた初ライヴ

今年1月に劇場アニメ「あした世界が終わるとしても」で声優デビューした結城萌子が、歌手として全4曲入りのシングルEP『innocent moon』をリリースした。川谷絵音がすべての曲を書き下ろし、「さよなら私の青春」は菅野よう子、「散々花嫁」をTom-H@ck、「幸福論」を川谷と同じくゲスの極み乙女。のメンバーであるちゃんMARI、「元恋人」をクラムボンのミトがアレンジを担当(ちゃんMARIは川谷と共同で作詞にも関わっている)。それぞれの色をもったゴージャスなサウンドと、アニメをルーツに持つ結城だからこその、声色にある異次元的時間軸や、キュート且つ繊細で儚い美しさのマッチングが生む、不思議な温度感にファンタジーを感じる作品だ。

今回は、そんな同作のリリースイベントであり、以前に別名義で歌手として活動していたことはあるが、結城萌子としては初ライヴとなる。貴重な参加券を手に入れたファンで満席となった会場。この日のために用意された詩の朗読と、アコースティックギターとピアノとヴォーカルのみのシンプルな編成による全4曲を交互に展開した。


Photo_Raita Kuramoto
Text_Taishi Iwami
青い光がそっと灯るステージに結城が静かに登場し、「夜の帳がすっかり下りて、星たちは、やさしい瞬きを繰り返す」と、詩の朗読からスタート。“私”はアルバムタイトルにある月にいて、地球に生きる“彼女”を見つめる情景を読み上げ、「元恋人よ」を歌う。その声の魅力が生々しく響き、物語の始まりを告げる、優しくも緊張感のあるパフォーマンス。曲が終わると、誰かの息を飲む音が聞こえてくるほどに静まり返る場内、そして次の瞬間大きな拍手が湧いた。
“私”が“彼女”を見て感じた、“単純明快の、その反対。複雑怪奇で曖昧模糊“な世界のなかで、”私は私、そう簡単には変えられない“(一部抜粋)と読んでの2曲目は「散々花嫁」。詩と曲中のヒロインがリンクし、自分らしさについて考えさせられる。続く詩でも、マイペースでいることに対する疑問を投げかけ、自分を演じることとの狭間で揺れる「さよなら私の青春」へ。そして周囲の存在と自意識に苛まれわけがわからなくなった状態を読み、さらにその心情を深堀りするように「幸福論」での締め。断定的なタイトル通り、答えはなくとも強く生きていける、そんなメッセージを感じた。
シンプルな編成による演奏と朗読で、言葉と歌によりフォーカスしたパフォーマンス。互いのエモーションを分かち合う音楽ライヴとはまた異なる、声優と歌手、ふたつの顔を持つからこその、舞台劇ようなステージで、彼女の音楽から溢れる魅力を体感した約30分間だった。曖昧模糊を受け入れ、冷静と衝動の間を往来しながら幸せを探すその旅はまだ始まったばかり。彼女が表現者としてどう変化し進化していくのか、この先が楽しみで仕方がない。
結城萌子 オフィシャルサイト
結城萌子 twitter

結城萌子。声優と歌手、ふたつの顔を持つからこその魅力に溢れた初ライヴはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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