【特集企画】A New Musical『FACTOR
Y GIRLS~私が描く物語~』The road
to the opening<No.6>二幕歌稽古
~ブロック稽古レポート

ブロードウェイの新進気鋭ソングライティング・コンビと日本のクリエイティブチームが、新作ロックミュージカルを共作し、世界に先駆け上演するプロジェクトとして注目を集めるA New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(以下『FACTORY GIRLS』)。
この作品は、劣悪な労働環境の改善と、働く女性の尊厳を勝ち取ることを求めて、19世紀半ばアメリカで実際に起った労働争議を率いた実在の女性サラ・バグリーと、サラと固い友情を結びながらも雇い主との板挟みで苦しむハリエット・ファーリーを主人公に、今の時代にこそ伝えたい「自由を求めて闘った女性達の物語」を、ロックサウンドのミュージカルナンバーに乗せた、迫力の歌とダンス満載のエンターテインメントとして創り出す、日米合作による画期的な新作。
SPICEではこのかつてないプロジェクトで生み出される作品が、開幕するまでの道程に密着。様々な角度から、作品が立ち上がっていく過程をレポートしていく。
A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』The road to the opening<No.6>二幕歌稽古~ブロック稽古レポート
連載第6回は、いよいよ稽古場に生バンドが入り、バンドとの歌稽古と確認、それを終えてから数場面ずつ行われるブロック稽古の様子をレポートする。
この日は第二幕の稽古が続いていて、各メディア向けに公開された第一幕の稽古場とは全く異なるシーンが展開される。上手にバンドメンバー、演出の板垣恭一、音楽監督の大崎聖二、歌唱指導の安倉さやかも揃って、熱気とピリっとした緊張感に稽古場が包まれている。
はじめは、ハリエット・ファーリーのソニンが、理想と現実の狭間にいる苦しみを歌うミュージカルナンバー『ペーパードール』の歌稽古からスタート。ファクトリー・ガールズたちが寄稿して作る文芸誌「ローウェル・オウファリング」の編集長に抜擢され、「女性による、女性のための発言の場」を輝かせることで女性の能力や権利を認めさせようとするも、いつしか「女性の尊厳を大切にする進歩的な工場」という、会社側の都合の良い広告塔を務め続けることに苦しむハリエットの重要なナンバーだけに、ストリングスやリズムセクション、ギター、キーボードなどで構成されたバンドとの歌合わせを終える度にソニンが入りにくい箇所、聞こえにくいパート、サビ部分はもう少しアップテンポにして欲しいと要望を出すなど、板垣や大崎、バンドマスターとの意見交換が重ねられる。この歌稽古は3回繰り返される入念さで、ソニンから納得の笑顔が出たところで、芝居をつけた動きと共に今度は稽古場中央で転換も含めた稽古が。打ち合わせを重ねたことで、バンドとソニンの歌がピタリと合い、胸をしめつけられるような場面の切なさが、見事に立ち上がった。
続いてもうひとつ先のシーンの、主に女性キャストたちのナンバーが。それぞれがある重大な想いと悲しみを秘めて歌われるナンバーだけに、安倉の指導にも熱が入る。特に曲がメジャーコードなので、メロディーの美しさだけで歌い出すと違うものに聞こえる危険性があるから、気持ちを十分にこめて、尚歌い出しはきっちりと揃える。台詞から歌になる時に、もちろんできている人も多いが、ここから「はい、歌です」と切り替わってしまう人もまだいるので、台詞にたまたま音符がついていると思って、という指示を誰もが他人ごとに思わず、真摯に聞き入る姿にこちらの背筋まで伸びる想いがした。
芝居をつけての返しでは、板垣からこの曲で想っている人の姿をちゃんと客席の遠くに見るように、という指示もあり、美しいメロディーのナンバーに込められた深い思いが届けられた。
ここで一端短い休憩を挟んで、今度は二幕の時系列に添った形で、ミュージカルナンバーのバンド合わせ、それら数曲をつなぎ、芝居も転換もつけての稽古が続いていく。女性の置かれた環境を変えようと、全く違う手法を取りながら「これはチャンス、逃すことはできない」と互いが歌いあうサラとハリエットのデュエットナンバー『自由の国の娘たち』の歌稽古では、自分のソロからはじまるソニンが曲全体を俯瞰して要望を出し、それによって確かに柚希とのデュエットの盛り上がりが際立っていく。一方の柚希は歌稽古の間、ほとんどバンドの前という定位置から動かず、全身を耳にするように演奏を聞きながら、口の開け方、声をどこにあてるかの基本を繰り返し研究していて、双方の努力が「ペンの力で世の中を変えようとする」この作品の重要なテーマを浮かび上がらせていく。
ここから、二幕冒頭のバンドによるロックの畳みかける迫力にドキドキさせられる『アントラクト』(幕間にインストゥルメンタルで演奏される間奏曲)から、芝居もついたブロック稽古に。オールドルーシーの剣幸が、登場人物たちが置かれている現状を静かに語りかけたあと、性別による差別のない社会を求める柚希礼音のサラたちが「10時間労働の実現」(※この時代の女性工員たちは13時間~14時間の労働を余儀なくされていた)を求めて署名活動に奔走するローウェルと、男性社会の中に添いながら女性の地位を向上させようとするハリエットが、工場のPRの為に女性の手による文芸誌として世界的な注目を集める「ローウェル・オウファリング」の顔としてキャンペーンに回るフィラデルフィアやニューヨークが、空間を縦横に使った舞台芸術ならではの手法で、共に描かれていく。
署名運動を展開しようとするサラに賛同し、アビゲイルの実咲凜音、ルーシーの清水くるみ、グレイディーズの谷口ゆうな等が署名集めに奔走する中、クビになるのを恐れて距離を取ろうとするマーシャの石田ニコル、へプサベスの青野紗穂、ルーシーが矢面に立とうとすることに大反対する母ラーコム夫人の剣などが、サラの力強いリーダーシップに、明らかに引き込まれていく様に得も言われぬ説得力がある。この効果は、柚希礼音が放つ強烈な全員を率いていくパワーがあったればこそで、柚希の宝塚歌劇退団後の、揺るぎない代表作になるのではないか? という予感が膨らんでくる。
一方、州議会議員スクーラーの甥でありつつ、ハリエットを利用する叔父の思惑を超えて彼女を愛するベンジャミンの猪塚健太が、苦労知らずの男性が無意識にする純粋な態度の中にも、心からハリエットを案じている心情をにじませて惹きつけ、あくまでも笑顔であるだけに恐ろしい原田優一のアボットが、ハリエットに平然と要求する今の時代であればパワハラそのものの言動との対比が鮮やかに浮かび上がる。稽古を重ねたサラとハリエットが歌う『自由の国の娘たち』の歌唱まで、一気呵成な流れに息をするのも憚られるような緊張感と感動が立ち上る。
ここでもう一度休憩で、場の空気が和やかにほどけたあとも、今の場面のあの手の取り方はどうだったか? など、役者たちはそれぞれの確認に余念がない。演出の板垣も飄々と稽古場を縦横無尽に動きながら、各セクションとの話し合いを続けていた。
そこからいよいよサラたちが実力行使に至るまでの展開の稽古がはじまる。だが女性たちの訴えは容易に社会を動かすことはできない。勝ち誇るスクーラーの戸井勝海と、アボットの原田が、この場ではちゃんと嫌な奴に見えるのも役者の力量のなせる技。一度は撤退を考えたサラが、アビゲイルやグレイディーズの説得で思いとどまり、遂に労働新聞「ボイス・オブ・インダストリート」の編集長、平野良のシェイマスの勧めで、改革の為の記事を書くことを決意する。ペンを手にした柚希の表情が力強く、女性が発言権を持つことを容認するシェイマスの平野の、よく通り信念をストレートに伝える声と演技が目を奪う。役者たちの手によるセットの転換も、人と人の思いをぶつけあう作品に似つかわしい。

ペンの力による「言葉の戦争」のナンバーでは、サラの柚希が高みに位置し、実咲を中心とした芝居とダンスと歌が続く。劇中で後からサラのいる6番寮に入寮するフローリアの能條愛未も加わり、へプサベスの青野も決意を込めて歌うなど、ボルテージがさらに上がっていく。こちらから見るともう十二分の迫力だと思えたが、歌唱指導の安倉から裏拍のリズム打ちにもっと地をえぐるような強さが欲しいというオーダーが。ここで白羽の矢が立ったのが『1789~バスティーユの恋人たち~』や『マリー・アントワネット』で革命を多く経験しているソニン。「私、いま、それを封印しているんだって」と言いながらフロアに出てきたソニンが、足で裏打ちを刻んだ途端、その迫力と鋭さに稽古場から「おぉ~!!」という喝采の声と拍手が。「こっち系(の役)が多かったから」と照れたように言いながら、「自分がベースになっているつもりで」というソニンの即興裏打ちと歌唱指導で、ミュージカルナンバーは更にグッと引き締まる。その迫力を楽々と掌握する柚希の存在も見事で『闘え、闘え、闘え!』と、歌うナンバーが、稽古場全員による総力戦で磨き上げられていく様は感動的だった。

何よりもこの時を忘れて見入っていた稽古の途中で常に、演出助手の守屋由貴が「いま、バンドセクションの確認をしています。キャストの皆さんは楽に待っていてください」など、広い稽古場の隅々の動きを的確に判断し、いつ稽古がはじまるかわからずに、役者たちがずっと待機していなければならないというような事態を、滑らかに回避していく見事さが印象的。こうしたスタッフワークとキャストの総力戦が、いよいよ劇場へと飛び出していく作品を高みに押し上げていく様がまざまざと感じられる時間だった。

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