【竹原ピストル・山人音楽祭 2019】
40分・11篇の歌が物語った竹原ピスト
ルの真髄

山人音楽祭 2019【赤城ステージ】 竹原ピストル
前橋グリーンドーム、滞在4時間にして「もう帰ってもいいかな」「この気持ちを抱えて帰りたい」と思ってしまった。単独武道館公演も、念願のフジロック出演も果たし、いずれも素晴らしいステージだったと聞く。そして9月4日にリリースした5thアルバム『It’ s My Life』は音楽的充実も素晴らしく、歌の表現力も立派でーー何が言いたいのかというと、自分がライブを見ていない間に竹原ピストルという存在は恐ろしく巨大になっていたということだ。しかしライブはそんな空白を一気になかったことにしてくれる。自分がどう生きていたかを問われる、決して傍観できないライブだからだ。
竹原ピストル
本番さながらのリハから5分ほどして本番のステージに戻ってきた彼の傍らには、G-FREAK FACTORYから進呈された深緑色のだるまが鎮座する。マイクに覆いかぶさるように「おーい!おーい!」を歌い始め、1曲終わる頃にはすでに頭頂から顔面まで汗まみれだ。場内で定位置を決めた観客はその後、身じろぎひとつできないほどに竹原の歌に打ちのめされている。いや、自分自身がそうだった。精神を病んだであろう知人の描写が優しい「LIVE IN 和歌山」、加齢による情熱の減退を認めないという、心強いような叱咤されているような「Forever Young」。ボブ・ディランもかくや、ラップと言えばラップにも聴こえる「Gimme da mic!!」。そう。マイクを離すな、この命綱たる自分の武器の拡声器を離すな、そんな風に突き刺さる。
竹原ピストル
吉田拓郎「落陽」のカバーに溢れる、時代を超えて大人であることの洒脱と苦味の感覚。竹原の歌によってフォークソングはジャンルじゃなくなっていく。それはただ人の気持ちをまっすぐ射抜く矢だ。約20年前と変わらず、どこまでいっても達成を感じないことを突きつける「カウント10」の一字一句の説得力たるや。「“人生に勝ち負けなんてないんだ”という人の人生に心を動かされたことは一度たりとも、無い」と早口でまくしたてる様は、むしろ経験を積むほど確信に変わり、歌という物理の強度を増していたのだ。
持ち時間を目一杯使って11曲を完唱。ちなみに彼は目下来年5月まで続くアルバムツアーで文字通り全国を行脚している。その毎日が二度とない一期一会だ。歯を食いしばって生きるというより、まだ終われない何かがあるなら明日もあなたはあなたのステージに立ってください、そう言われたように思う。

文=石角友香 撮影=HayachiN
竹原ピストル

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