LOST IN TIME・海北大輔 × the she
s gone・兼丸 面識すらなかった2組
はなぜ共振し、対バンを行うまでにな
ったのか

2019年9月29日(日)下北沢CLUB Queにて、LOST IN TIMEthe shes goneを招き、『クリーニング屋の招き猫』と銘打った対バン企画を行う。同じレーベル(UKプロジェクト)の所属だが、逆に言うとそれくらいしか共通項はないし、そもそも面識もなかったという。にもかかわらずなぜオファーをかけたのか、なぜそれに応えたのか、どんなふうに共振しているのか、などについて、海北大輔と兼丸に語ってもらった。

■シズゴの曲は、「あ、俺が辿ってきたところにない言葉たちだな」っていう感じがあって(海北)
──海北さんがthe shes goneに対バンをオファーしたのは──。
海北:最近、弾き語りだったりとか、いろんな現場で、自分たちより若い世代のミュージシャンと出会うことも多いんですけど、バンド同士っていうところでは、そのへんの代謝みたいなのが、滞っちゃってる感じがずっとあって。っていう時に、縁あってシズゴが同じレーベルに来て。音源を聴かしてもらって、すごくいいなと思って、ダメもとで声をかけさせてもらって。面識もなかったんですけど。
──音源、どういうところが気に入って?
海北:たとえば、LOST IN TIMEのことをリスペクトしてくれてる若いバンドで言うと、Hump Backだったり、KOTORIだったりとかの歌って、なんとなく自分が辿ってきたところと同じ線上にある感じがするんだけど。なんか、シズゴの曲は、「あ、俺が辿ってきたところにない言葉たちだな」っていう感じがあって。それが何なのかわかるには、一緒にライブやれたらいちばんてっとり早いかな、っていうのもあって。
──兼丸さんは、LOST IN TIMEを知ったのは、UKプロジェクトに入ってから?
兼丸:そうなんですよ。僕自身は、ライブハウスに入り浸るようなタイプじゃなくて、テレビに出てるアーティストぐらいしか知らないような人間だったので。で、LOST IN TIMEを知って……僕、back number好きなんですけど、ボーカルの清水依与吏さんがLOST IN TIMEに影響を受けている、というのを知って。憧れてた人が憧れてたバンドが、先輩でいるんだ、というのが驚きで。それで鶯谷のワンマン(2019年6月15日、東京キネマ倶楽部)に行かせていただいて。僕がback numberをリスペクトしている部分……「ここがいいなあ」と思うMCだったり、ちゃんと歌が軸にあって、メンバー全員が曲のために演奏しているとか、そういうのを自分の中で勝手に噛み砕いて解釈したときに、「ああ、僕はback numberを好きだったけど、それを通してLOST IN TIMEを勝手に知っていたのかな」っていう気持ちになりました。
──back numberは、どんな感じではまったんですか?
兼丸:失恋したときに……失恋する前から知ってたんですけど、「わたがし」って曲の歌詞とか、「わたがしを口で溶かす君は わたがしになりたい僕に言う」って、一瞬気持ち悪いとも思える表現があるんですけど。自分が失恋してみて、back numberのいろんな曲を聴いて、「ああ、こういうことを言ってたのか」って、ちょっとわかるようになって。そのときに、自分もバンドをやるなら、人に寄り添うというか、自分が助けてもらったように、ちゃんと側にいれる音楽を作りたいなと思って。
LOST IN TIME・海北大輔 撮影=AZUSA TAKADA
──清水依与吏さんは、失恋したときにカーステでLOST IN TIMEを聴いて事故った、という有名な話がありますが。
海北:(笑)。有名かどうかわからないけど、依与吏くん本人から僕が言われたのは、ふられて、悲しくてしょうがないときに、たまたまラジオでLOST IN TIMEの「列車」って曲が……「教会通り」だったかな? ラジオでかかって、それで完全にもらっちゃって「涙で前が見えない!」って、そのままT字路につっこんで、クルマを一台オシャカにしたと。
兼丸:うわ!(笑)
海北:「あんたのせいで僕、事故ったんですよ!」って言われましたね、初対面で。でもそこで、誰かに寄り添えるような音楽をやりたいっていうのは、すごくいいよね。あの、僕はわりと亜流というか、最初は青春パンク・シーンの中から出てきたけど、そこに対してカウンターでいたいと思ってたし。主流とか王道みたいなものに対して、避けて歌ってきちゃってる感じがあるんだけど。シズゴには王道感があるんですよね。たとえば、日中のギラッとした太陽じゃなくて、夕焼けみたいな……夕焼けを見るとちょっと寂しい気持ちになるのって、誰から教わったわけでもないのに、みんななんとなくそんな気持ちになるでしょ? the shes goneの言葉って、そういう感じがあるんだよね。初めて聴いた人も、前から好きな人も、歌詞を読んだりメロディを聴いたときに、同じ方向に心が向くというか。そういう作用を持っているバンドだな、と、俺は思います。
兼丸:ありがとうございます! とても嬉しいです!
──バンドをやっていく上で、これを機に先輩に訊いてみたい、的なことってあります?
兼丸:そうですねえ……UKに入って、リリースをして、初めて自分たちのお客さんがいるっていうことを知って。で、曲ごとに、作った意味をライブに来てくれた人にちゃんと伝えたいっていう思いが、沸々と出てきたんですけど。海北さんの場合は、ライブごとにタイトルを付けるじゃないですか。今回の僕らとの2マンもそうですけど。そこが僕は、なんて言うんですかね、まだ考えられる頭のキャパがない、っていうか。ツアーをやっているときも、『✕✕ツアー・東京編』ぐらいにしか思っていない自分がいたり。このアルバムが主役でツアーを回ってるのに、それじゃダメだよな……っていうことに、出番直前に気がついて、急に「うわあ……」って思ってしまうんですよ。
海北:うわ、めっちゃちゃんとしてる。
兼丸:ちゃんと、自分で意味を持たなきゃ、お客さんに失礼だな、と思うところもあって。そこで海北さんは、どういうことを思って、ワンマンにテーマ性を持たせて、MCで言葉を発したりしているんですか?
海北:いや、ライブの直前にそういうことを感じちゃったという、その延長線上でしかないと思う。一緒だよ、だから。そこに対しての準備が、ちょっとずつできるようになっていってるだけで。そうやって、「ああ、今、ツアー何本のうちの一本っぽい感じでステージに立っちゃってるなあ」と思ってしまった、ということがあったとしたら……そこに気がついてるっていうことと、それすら考えずにステージに立つっていうことは、決定的に違うから。だから、そういう一個一個に気がつくことができていればよくて。そこに対して、あまりへこむ必要はないと思う。へこむとさ、それもステージに出ちゃうじゃん。
兼丸:出ました。
海北:はははは。
LOST IN TIME・海北大輔、the shes gone・兼丸 撮影=AZUSA TAKADA
■「かかって来いよ!」とか、僕も言いたいんですけど……(兼丸)
兼丸:あと、自分の中で、MCで決まり文句を言うのとかがイヤで。僕らがやるべきことは、「楽しんでいこうよ!」とかじゃないんだろうな、と思っていて。
海北:そこはほんと、難しいとこだよね。でも、あるよね。盛り上がりたい反面、でもそういうんじゃない、っていう。
兼丸:はい、はい。
海北:そこにはすごいシンパシーを覚えますね。最初の頃、パンク・バンドに交じってライブやってたから。モッシュ、ダイブ上等なバンドばっかりのところで、「あの頃はよかったなんて言いたくはなかったのにな」(「列車」)とか歌って、みんなドン引き、みたいな。
兼丸:(笑)。はい。
海北:でも、今でこそ思うけど、お客さん、立っててもいいんだよ。座っててもいいんだよ。結局さ……LOST IN TIMEのとっておきを、いま伝えるとすると、一対一だよね。
兼丸:うん、うん。
海北:僕対大勢じゃないんだよ、お客さんて。1万人集まろうが、500人だろうが、5人だろうが。それは1対1が5通りある、500通りある、1万通りあるってことでしかない。っていう気持ちでステージに立てば、あとは全部解決じゃないかな。僕はきみに言ってるんだよ、きみの隣の人に言ってるわけじゃないんだよ、っていう。その形を捕まえられれば……LOST IN TIMEのライブでもたまにあるんだけど、両手挙げてウワーッて一緒に歌ってくれてる子の横で、シクシク泣いてる人もいる、みたいな。
兼丸:はい。
海北:まあ、アンセムにはしづらいけどね、そういう曲って。みんなでシンガロングしてる方が、盛り上がってる感が出るけど。
兼丸:そう、そうなんですよね。
海北:でも、そこじゃないじゃん。
兼丸:そうですね。「みんなで一緒に歌ってくれ!」って曲とか、拳を上げる曲もほしいんですけど、そういう曲を作ろうと思って作っても、お客さんはいいなと思ってくれないし、自分たちがそれをいいって思えずにやったら、絶対よくないんで。でもかっこいいんですよね、そうやって盛り上がれるバンド。「かかって来いよ!」とか、僕も言いたいんですけど……がんばって最近言えたのが、「来い!」って言葉なんですよ。
海北:はははは。
兼丸:がんばってそれぐらいなんですよね。まわりは、「拳上げなきゃライブハウスじゃないだろ?」みたいなバンドもいたり。決まり文句があったり……漠然としていて、誰に伝えてるかわかんないようなMCだったり。それでかっこいい人もいるんですけど。でも、自分の言葉じゃなくて、バンドをかっこよく見せようと思って言ってるような──。
海北:テンプレート化してる感じはあるよね。
兼丸:っていうのを、ライブハウスにめちゃめちゃ通ってはいなかった人間だからこそ、思うことがあって。だからこそ、さっき海北さんのように、一人一人に、あなたに向き合う気持ちがないと……「今日はみんなありがとう!」みたいに言っちゃうんですよ、やっぱり。頭の中で「ああヤバい、やっちゃった。『あなたのために歌いに来ました』って言いたいのに」って思うこととかいっぱいあって。
海北:その気持ちで使う「みんな」って、もう充分「あなた」になってると思うよ。
the shes gone・兼丸 撮影=AZUSA TAKADA
──ちなみにこのライブの『クリーニング屋の招き猫』っていうタイトルは?
海北:これは、オフィシャルサイトにも書いたんですけど、シズゴを聴いてると思い浮かぶ景色があって。10代の頃上京して、国分寺の街外れっていう、上京したのかどうかも怪しいとこに住んだんですけど。とはいえ、初めてのひとり暮らしで。銭湯とクリーニング屋が併設されてる、どこにでもあるようなコインランドリーを使っていて。コインランドリーの外に軒があって、その下にイスが並べてあって、そこで洗濯が終わるまでタバコを喫ってボーッとしてるのがすごく好きで。「ああ、ひとり暮らししてるなあ」みたいな。その景色を妙に思い出すんですよ、シズゴを聴くと。国分寺の街外れのコインランドリーの、雨が滴る軒の下で、クリーニング屋の前でうずくまってる猫を見ている自分を。っていうのがひとつと、あと9月29日ってクリーニングの日で。しかも調べてみたら、招き猫の日だってこともわかって。
兼丸:ああ、3つも揃ったんですね。
海北:それでこういうタイトルにしました。だから、僕らのファンの人たちにも、そういう聴き方をしてもらえるんじゃないのかな、っていうのが、すごく楽しみなんですよ。
──当日、一緒に何かやったりはしない?
海北:やりたいですね。でも、日にちも迫って来ちゃったから、早めに決めないとね。
兼丸:1曲やれるとしたら、「グレープフルーツ」を──。
海北:あ、歌ってほしいなあ。
兼丸:この曲は……自分が恋愛詞を多めに作ってるのもあって……言葉の選び方とかが、聴く人の年代を問わないっていうか。そこで、「ああ、こんなに普遍的な言葉で、いろいろなふうに捉えられる歌詞を書けるのは、海北さんがここまで積み重ねてきたからだろうな」と思って。ここまで行かなきゃダメだな、と思ったんです。
海北:いやいや。でもこの歌も、聴く人によって、作用がほんとにそれぞれなんだなっていうのを、最近体験したことがあって。ちょっと歳上の先輩に、「あの不倫の曲、めっちゃいいよね」って言われて。
兼丸:はははは。
海北:「大人になると、『いいな』って思っても、家庭があったりすると、言えないよね」って。そういうところにもすげえ刺さる、って言われて。まあ、確かに……初恋はレモンみたいなもの、っていう表現、よくあるじゃない? 大人になってからの恋ってもっと苦味がきついな、という意味で、「グレープフルーツ」にしたんですけど。
──じゃあ「グレープフルーツ」やります?
海北:やりましょうか。
兼丸:はい!

取材・文=兵庫慎司 撮影=AZUSA TAKADA
the shes gone・兼丸、LOST IN TIME・海北大輔 撮影=AZUSA TAKADA

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