「進化する写真展」で体感する"写真
力" 『篠山紀信展 写真力 THE PEOP
LE by KISHIN The Last Show』レポー

2019年9月5日(木)から10月27日(日)の53日間、東京ドームシティのGallery AaMoにて『篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN The Last Show』が開催中だ。2012年から7年間に渡って全国の32会場を巡回し、累計約99万人を動員している『篠山紀信展 写真力』は、この秋の東京凱旋展でラストを迎える。本展は会期中に100万人を達成することが見込まれており、写真展で100万人を突破するのは日本初の快挙となる。以下、プレス内覧会の様子と共に、見逃したくない展示の内容を紹介する。
進化する展覧会
"写真力"と"空間力"、拮抗する二つの力のバトルを目の当たりに

『篠山紀信展 写真力』は当初、三会場での巡回のみが決まっていたところ、人気の展示となったために多くの場所で開催されることになった。本展は写真展という性質上、複製が可能なため、展覧会のために三つのセットを作成し、三つの会場で同時に開催したこともあったそうだ。展示内容は場所によって変えており、巡回先のご当地の有名人を入れるなど、会場によって展示方法をアレンジしている。
篠山紀信
また本展は、「GOD」(鬼籍に入られた人々)・「STAR」(すべての人々に知られる有名人)・「SPECTACLE」(私たちを異次元に連れ出す夢の世界)・「BODY」(裸の肉体-美とエロスと闘い)・「ACCIDENTS」(2011年3月11日-東日本大震災で被災された人々の肖像)の5つのエリアで構成されているが、当初は「STAR」のエリアにあった作品が「GOD」に入ったり、新しい作品が追加されたりと、全く同じ内容の会場はないそうだ。篠山氏は本展を「進化する展覧会」と表現、既に見ていても違う会場へ赴くと新鮮な驚きを味わうことができると強調した。
また篠山氏は本展覧会にあたり、額に入った写真を陳列するのではなく、大きい空間に映える写真を「"写真力" 対 "空間力"の二つの力のバトル」として見せることを目指したという。東京ドームシティのGallery AaMoは、「GOD」は荘重な黒い壁、「BODY」は鮮烈な赤い壁とするなど、観客が作品世界に没入できるつくりだ。幅8メートルを越える作品も含む会場は、写真の力と空間の力が拮抗し、通常の写真展ではなかなか味わえないドラマティックな空気に満ちている。
写真は時代の映し鏡
被写体を通して時代を映し出す写真の数々
本展で被写体になっている人の多くは、誰もが知っている有名人で、アイドルやアーティスト、小説家やスポーツ選手など、人を惹きつける強い個性を持った人々である。篠山氏は彼らの個性やオーラをさらに強調して捉える。黒い水着姿で目を閉じる山口百恵のアンニュイな雰囲気、動く彫像のようなウラジーミル・マラーホフの肉体、はじけるような若さと明るさを発するAKB48などの写真は、世間が彼らに対して持っているイメージを体現するとともに、魅力をより強め、忘れられないインパクトを与える。観客は、時代を代表するアイコンであるスターたちを見て、彼らが活躍していた時代をリアルに思い起こすだろう。
会場に入ってすぐ目に飛び込んでくる三島由紀夫の写真は、「男の死」というテーマで撮られたシリーズの一部だが、もっと数を撮ろうという話になって別れた後、三島由紀夫が自殺する形で終わったという。また、本展のメインビジュアルであり、篠山氏の作品の中で最も有名な写真の一つであるジョン・レノンとオノ・ヨーコの写真は、ジョン・レノンが撃たれて亡くなる約三か月前に撮られたものである。
篠山氏は往々にして、人生の岐路に立っている人を撮影している。これは篠山氏が指名の多い人気写真家であるためだが、篠山氏が時節の動きに敏感で、時代と並走する写真を撮ることができるため、劇的な運命や変化を抱える人と縁が生まれることも一因としてあるだろう。篠山氏は「写真は時代の映し鏡」であり、時代が生んだ面白い人を捉えているのがいい写真だとする。篠山氏の撮るモデルたちは今の時代を反映し、また未来を予感させるように思う。
夢のような非日常と、奪われた平穏な日常
それぞれの世界で生きる人々の姿
「SPECTACLE」のエリアでは、篠山氏によるジョイント写真「シノラマ」を見ることができる。シノラマは複数の写真を結合した作品で、複数の視点が持ち込まれたり、少しずつ時間差があるものをつなげているせいか、どことなく不気味さや虚構性が漂う。後藤久美子のシノラマ作品は、一枚の作品の中に数人の後藤久美子が登場し、シュールな夢の世界のようだ。豊島園プールのシノラマ作品もどこかリアリティがなく、日常的な風景であるにも関わらず、現実と隔たりがあるように思える。歌舞伎の舞台を撮ったシノラマは、そもそも歌舞伎や舞台は現実と違う次元にあるせいか、歌舞伎の舞台の非日常性を増幅している。
最後のエリア「ACCIDENTS」は、東日本大震災の被災地で撮られた写真が展示されている。直前のエリアまではカラフルできらびやかだった写真は、「ACCIDENTS」では静けさを感じさせるモノクロームになり、被写体になっているのは被災するまで普通の日常を送っていた人々だ。篠山氏は笑顔などの依頼をしていないそうだが、会場で見られる人々は、傷ついているような、悲しみを抱えているような、それでいて希望を見出したいと願っているような、カテゴライズできない複雑な表情を浮かべている。震災に関わる写真の中でも、これほどまでに繊細で真摯な人間の表情を捉えた作品は少ないだろう。篠山氏は時代を鮮やかに映し出す写真家だが、「ACCIDENTS」の写真は、まさにこの時期、この場所、この時代の人々の心情を汲み取り、表出しているかのようだ。
篠山氏のスターの写真は、スタイリッシュかつダイナミックで、見ているこちらの気持ちも高揚してくる。また、「ACCIDENTS」も含めて全ての作品を見ると、美しさや愛らしさだけではなく、苦悩や悲哀も含めて人間そのものを肯定しているように感じられた。時代の最先端で写真を撮り続けてきた篠山氏の作品は、圧倒的なエネルギーに満ちあふれており、見ているこちらも活力が湧き、感覚が鋭敏になってくるような気がしてくる。是非本展に足を運び、広い会場で作品と対峙し、人間が持つ奥深い魅力と、写真が持つ無限のエネルギーを余すところなく体感いただきたい。

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