【特集企画】A New Musical『FACTOR
Y GIRLS~私が描く物語~』The road
to the opening<No.3>ワークショ
ップレポート

ブロードウェイの新進気鋭ソングライティング・コンビと日本のクリエイティブ・チームが、新作ロックミュージカルを共作し、世界に先駆け上演するプロジェクトとして注目を集めるA New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(以下『FACTORY GIRLS』)。
この作品は、劣悪な労働環境の改善と、働く女性の尊厳を勝ち取ることを求めて、19世紀半ばアメリカで実際に起った労働争議を率いた実在の女性サラ・バグリーと、サラと固い友情を結びながらも雇い主との板挟みで苦しむハリエット・ファーリーを主人公に、今の時代にこそ伝えたい「自由を求めて闘った女性達の物語」を、ロックサウンドのミュージカルナンバーに乗せた、迫力の歌とダンス満載のエンターティンメントとして創り出す、日米合作による画期的な新作。
SPICEではこのかつてないプロジェクトで生み出される作品が、開幕するまでの道程に密着。様々な角度から、作品が立ち上がっていく過程をレポートしていく。
A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』The road to the opening<No.3>ワークショップ
連載第3回は、8月半ばに行われた、演出家・板垣恭一によるキャストたちとのワークショップの模様をレポートする。
この日はキャストの一人谷口ゆうなのバースデーを祝って、サプライズのケーキが登場! 主演の柚希礼音から、谷口にオシャレなケーキが手渡され、谷口の笑顔も幸せいっぱい。キャストと板垣が揃っての記念撮影も和やかで、やはりただ記念写真を撮ろうと集まっても、役者たちのポージングは絵になるなぁと感心している中、ワークショップがはじまった。
まずウォーミングアップで、キャストたちが稽古場を円になってぐるぐると歩く。板垣の号令で、回る、止まる、走る、が繰り返され、単純な動作でありつつゲーム感覚もあり、キャストの表情がどんどんほぐれてくるのがわかる。
そこから「お酒が好きな人」「恋している人」「恋したことがある人」「殺される! と思ったことがある人」など、板垣が次々とお題を出していき、該当者だけが走るという流れに。誰? は控えるが、走り続ける人、立ち止まり続ける人と様々で、互いにその光景をワイワイ言いながらの、ランニングが続く。
さらに、スローモーションの動きにとなったところで、板垣から「息を止めないで! 目線は自分の目の高さに!」という指示が飛ぶ。確かにスローモーションの動きだと、息を詰めたり足元を見たりしてしまいがちだろうが「お客さんは役者さんの呼吸にシンクロするから、呼吸は自然に。これは理屈じゃなくそうなるから!」という説明に、深く納得するものがある。
続いて板垣から「指定した色のものに触れて!」という指示が。子供の頃に“高いところに昇る”とセーフになる鬼ごっこなど、何もないところでもちゃんと遊んだな……を思い出すような光景の中「青!」「グレー!」「黒!」と指示が飛ぶたびに、我先に色に触れにいく役者たちの笑顔が弾ける。グレーでは原田の履いていたスウェットに何人もが触れて、動けなくなった肝心の原田が「グレーの人来て!」と救いを求めたりと賑やかな声が飛び交った。
次々とお題が変わって、「怒ると怖そうな人は?」では板垣と稽古場代役の日髙麻鈴で二分したり、「パートナーの前でデレデレしてそうな人は?」「心に闇を持っていそうな人は?」と、瞬時に誰とは言いにくい設問には「印象だよ! 遊びだよ!」と板垣も笑いながら話し、今度は全員が車座になり、ホワイトボードを使って、これまでの流れの意味を少しずつ解きほぐしていく。

「『歩く』という演技はないけれども『行く』という演技はある。その違いは『目的』。『ムカついた』には目的はないが『ムカついたから殴った』には目的がある。芝居の動きはすべて目的で成り立っている。ただ歩くでは芝居ではないけれども、大雨が降ってきて走るなら芝居」と、ぐるぐると歩いていたことが、どう芝居につながるかの説明が非常にロジカルだ。
「言葉は区別する為にあるもの。『グレー』でも『青』でも実はとても広い幅がある。でもその多彩な色を『グレー』という言葉で瞬時に判断できる。だから言葉が大切になる。劇場でお客さんが使えるのは視覚と聴覚だから、役者はそこに訴えかけなくてはいけない。役者の動きをお客さんは観る。そして役者は、何かの出来事があり、感情があふれ、目的が生じたから動いている。ここが大切な循環。先輩に殴られた→殴り返したい→でも先輩だから殴れない→その葛藤のあとにどういう行動に出るか? そこにドラマが生じる。やりたいことについてやれない人、困っている人に対して人間の目は自然に向く。だからこそ葛藤を抱えている人が美味しい役になるし、当然ながら困らせる人がドラマには絶対に必要になる」

そう板垣が立て板に水の如く説明してくれることで、ウォーミングアップの一見遊びにしか見えなかったことの意味が浮かび上がると共に、『FACTORY GIRLS』の柚希礼音演じるヒロインのサラ・バグリーとファクトリー・ガールズたちが直面する困難。別のサイドから問題の解決を模索するソニンのハリエット・ファーリー。さらに、彼女たちに立ちはだかる原田優一のアボット・ローレンス、戸井勝海のウィリアム・スクーラー等々の、作品での役割がくっきりした像を結んでいく。

中でも興味深かったのは「観客が使える聴覚の部分に訴える台詞は『言葉』と『音』で構成されているけれども、ミュージカルは大切な部分が歌になる分、音が決まっているので、そこで演技が決まってしまう面がある」という話で、ストレートプレイのように音が自由でない分、演技が混乱することがあるから、注意が必要という点だった。「そこに演技を預けてしまうと、その歌を歌う役者は誰でも良いことになってしまう。『機械のように』(この作品のファクトリー・ガールズが働く姿を象徴的に表したナンバー)歌の奴隷になってはいけない」との言葉に、感情が高ぶって歌になるミュージカルのカタルシスが抱えるもうひとつの側面を見る想いがした。キャストたちも真剣な面持ちで板垣の話しに聞き入り、メモを取る姿が多く見られた。
そんな風に極めて論理的に「演技」「芝居」というものを説明しつつも「役者さんが自分で演技を考えてくれることが嬉しい。『そういう表現があるんだ、面白い!』と思いたい。整理はもちろんするけれども、芝居をつけたくはない」という「演出家・板垣恭一」のスタンスが伝わり、いま、数多くの作品を次々とこなす大人気演出家である板垣の魅力と、芝居作りへの信念が見えてくる想いがした。
そこから、再び身体を使ったワークショップになり、無作為にキャストが二列になって向かい合う。「これ以上近づかれたくない、というところで止まって自己紹介をしてください」という指示で、プリンシパルもアンサンブルも全く区別なく参加しているワークショップだけに、それぞれの距離感が如実に表れる。ほぼぶつかりそうな位置までOKの組み合わせがあるかと思うと、一歩を踏み出すと、無意識に一歩下がるという距離感の組み合わせもある。ところが自己紹介をすませると、ほとんどの組み合わせが、もう一歩、二歩、近づくことができるようになった。「近づく時には不安でも、相手を知ると今度は別れる時に寂しくなる。この二人の距離は、役柄の関係性をお客さんに表すのにとても大切です」との説明に、なるほどと思わせられる。
ひとつずつズレて、片方が「おはよう!」と声をかけ、その言葉が届いたら手をあげるという掛け合いに。相手に言葉が届くのはつまりお客さんに届いたということで、「届いた!」「まだ届かない!」と向かい合った役者同士で、「今何点だった」と話し合う。次に感情を伝えるハードルが上がって「好き!」が届くか? というところで、互いの反応に床を転げ回ってしまう役者たちもいて、誰かを演じていない状態で感情を演じることの大変さが伺える。
さらにもう一段ハードルが上がり「死ね」という言葉を投げる段で、神様のイタズラか柚希と実咲凜音がコンビに! 元宝塚男役トップスターで上級生の柚希と、同じく元宝塚トップ娘役で下級生の実咲の間で、この感情の受け渡しをするのはあまりにも困難で、柚希から「死ね」と言われた実咲が「カッコいい! カッコいいですよね!!」とすっかり娘役モードでむしろ大喜びなのに、全員が爆笑。さらに実咲から柚希に「死ね」と言う前に、実咲が平身低頭謝りまくるといった、宝塚を知る人ならば「これは大変だよ!」がストレートにわかるだろう光景が展開されていった。
けれども「役を演じるということでは『好き』も『死ね』も同じ感情の発露なのが役者という職業のハードルだし、カーテンコールではキラキラして、お客さんは楽しい、演じるのは大変、それが役者なんだよ」との板垣の説明に、すべてがつながっていく思いがした。
何よりも、このワークショップの時間を通じて、キャスト全員の距離がぐっと近づき、和気藹々感が飛躍的に高まったのが感動的で、「主人公が目的を持って行動し、障害にあって葛藤し、そこから成長していく、そのドラマです」という『FACTORY GIRLS』の魅力を解き明かす、板垣マジックに包まれた時間だった。

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