日本のAORファンに
熱狂的に支持された
ボビー・コールドウェルの
『イヴニング・スキャンダル』
本作『イヴニング・スキャンダル
(原題:Bobby Caldwell)』について
収録曲は全部で9曲。ポップソウルの軽快なリズムと華美なストリングスをメインにした冒頭の「スペシャル・トゥ・ミー」は、伸びやかなコールドウェルのヴォーカルにマッチしたナンバーで、ディスコでも大ヒットした。間奏のサックスが夜の都会を見事に表現していて、彼の代表曲のひとつとなった。「ラブ・ウォント・ウエイト」も同傾向の曲。彼を代表するというかAORを代表する「風のシルエット(原題:What You Won't Do for Love)」は日本のニューミュージックにも大きな影響を与えたナンバーで、彼の黒っぽいヴォーカルが生かされたキレの良いミディアムテンポの名曲。「マイ・フレイム」「カム・トゥ・ミー」「テイク・ミー・バック・トゥ・ゼン」などのバラードは彼の端正なヴォーカルを味わうにはもってこいの楽曲群だろう。ラストの「ダウン・フォー・ザ・サード・タイム」はシンプルな構成で、どこかスティーリー・ダンを思わせる仕上がりになっている。
この年、ジョン・トラヴォルタ主演の映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が日本でも封切られ、ディスコの人気が高まりつつあった時期でもあるので、本作も日本のディスコファンに大いに愛された。しかし、ディスコブームが終わっても彼の音楽は聴き継がれ、今でも多くのファンが彼の歌を愛している。彼は、単に流行だけを追いかけたのではなく、確かな音楽性に裏打ちされたヴォーカルテクニックとソングライティングのセンスが素晴らしかったからである。
TEXT:河崎直人