女性看護師保険金連続殺人事件に迫る
~オフィスコットーネプロデュースの
舞台『さなぎの教室』松本哲也×綿貫
凜インタビュー!

​小松台東の松本哲也が手がける舞台『さなぎの教室』の本番が迫っている。オフィスコットーネプロデュース「大竹野正典没後10年記念公演」の第4弾だ。2018年に瀬戸山美咲の演出で好評を得た大竹野正典作『夜、ナク、鳥』へのオマージュとして、松本が書き下ろした新作だ。福岡県久留米市の女性看護師4人による保険金連続殺人事件に迫る本作。人間の狂気と脆さを描くという。作・演出・出演の松本哲也と、プロデューサーの綿貫凜に話を聞く。
◆戯曲を次の世代につないでいく
――大竹野正典さんが残した『夜、ナク、鳥』をモチーフに新たな作品を手がける企画はどのように進んでいったのですか?
松本 何年か前に、綿貫さんからお話をいただいたのがきっかけです。大竹野さんの台本を何作か読ませていただいて、どれもすごく面白かったです。大竹野作品は基本的には男性を主軸に書いたものが多いのですが、『夜、ナク、鳥』は4人の女性が主人公で、そこにすごく興味が湧きました。
綿貫 小松台東を観ていたときから松本さんと何かやりたいと思っていて、お声がけしました。大竹野さんの没後10年企画として、過去の戯曲を上演するだけではなく、大竹野さんの戯曲を次の世代につないでいくことをイメージして、松本さんに新作を書いていただきました。
松本 オリジナルの戯曲を宮崎弁に直すくらいのことだと思って引き受けました。でも書き下ろしだってことが分かって、これは大変だと(笑)。すでにある戯曲をオマージュとしてどう書くかという点は悩みどころでした。森 功さんのノンフィクション『黒い看護婦』(新潮文庫)も読んで、『夜、ナク、鳥』とは違う要素を入れようと思いましたが、使いたい情報がたくさんありました。ただ、それを入れ込み過ぎると事件の再現になってしまうので、情報量を減らしたんです。綿貫さんからは「何を伝えたいか、戯曲で書いてほしい」と言われて、かなり直しましたね。これまでそういう部分を稽古場で俳優たちと共有しながら作るやり方だったので、むずかしかったです。
綿貫 そこはかなり密にやり取りしましたね。けっこう直してもらったから「なんだよ」って思ったんじゃないかな(笑)。
松本 確かに小松台東ではこういう修正はないですけど、大事なことですよね。映像でも、プロデューサーと二人三脚で台本を作りますし、指摘をもらって考え直すことで台本がよくなりますから、必要なプロセスだと思いました。
演出中の松本哲也(右)
◆作品の不気味な世界を観客と体感する
――『さなぎの教室』というタイトルが先行して決まっていたのだとか。
綿貫 瀬戸山美咲さんと創作した『埒もなく汚れなく』のときも、ものすごい数のタイトル案を出し合ったんです。やっぱり、タイトルはものすごく大切ですから。『さなぎの教室』は、大竹野さんの幻の戯曲のタイトルで、西鉄バスジャック事件を題材に書こうとしたものの、発表までいたらなかった作品です。今回の4人の女性の物語と、さなぎという閉じ込められた空間と、教室から看護学校をイメージしたらピッタリだなと。奥さまの許可をいただいて、『さなぎの教室』にしました。
松本 こういうふうにタイトルやモチーフありきで台本を書くことはめずらしい体験でした。僕はわりと直感でタイトルを決めます。ボーッと考えて思い浮かんだものをノートに書いていくことが多いです。
――会場は駅前劇場です。通常の使い方と違い、客席が囲むようにして観られる作りですね。
松本 作品の不気味な世界をお客さんも体感してもらうには、取り囲むような客席の形がいいのではないかと思いました。
綿貫 青山円形劇場のように、座っている場所によって、見える顔と見えない顔があるでしょうね。それも含めて楽しんでいただければ……。
左から松本哲也、新納敏正
◆役の気持ちを隠せる俳優と……
――『さなぎの教室』を事件簿のように描くのではないと思いますが、白衣の天使と言われる4人の女性看護師がどうして殺人に手を染めたのか? 松本さんはどう思いますか?
松本 彼女たちは、それぞれ弱い人たちだったと思います。状況に流されやすい面もあったはずです。出来事としてはものすごい大事件ですが、何かのきっかけで自分たちでも起こり得ることじゃないかなあ。紙一重だと思いますよ。ヨシダジュンコという女性も、本当にそこまでのモンスターだったのか? モンスターになるきっかけはなんだったのか? そういうことをつい考えてしまいますね。
綿貫 ヨシダに従ったほかの3人の女性が、彼女をモンスターのような存在にしてしまったという一面も絶対にあると思いますね。
松本 先日、精神科医の方に稽古場に来ていただいて話を聞きました。事件の発覚の過程を考えると、とてもサイコパスとは思えないと言うんです。ヨシダにはそれだけ激しい感情の起伏があった。完全なサイコパスであれば、周到に準備する冷静さがありますけど、彼女はその点で人間的だったとも言えます。
綿貫 サイコパスって、感情的ではないからね。共感性もないといいますから。
松本 作品では、ただの悪者ではなくギリギリ人間味があるところをどう見せるか考えています。ヨシダの夫も登場しますが、彼の視点からも描きます。もちろん、彼女を救うために書いたわけではないですけど、別の視点があることも示しておきたいです。
松本哲也
――キャスト陣には宮崎弁のネイティブでない人もいます。俳優さんたちに演出するにあたって、松本さんが考えていることを教えてください。
松本 演出に加えて宮崎弁の方言指導もありますけど、正確な宮崎弁をしゃべってもらうのが目的ではないです。方言を語っていることで、方言であることで、田舎町の空気や気質が浮かび上がってくればいいと思います。役者さんには反発を食らうかもしれませんけど、役者はいかに何もしないかが大切だと思っています。持っている役の気持ちを隠せる俳優さんに魅力を感じます。隠そうとすれば漏れてくるけど、その漏れたときにドキッとする人を求めている面がありますね。気持ちを全開にするよりも、少々の照れがあるくらいのほうがいいというか……。
綿貫 何もしようとしないけど、何かが出てくるような役者さんはすごく観てしまいますよね。
松本 台詞を言うよりも、聞いている時間を大切にしてほしいという思いがありますね。ベタな例ですけど「愛してる」という台詞があるとして、意気揚々になる人よりも屈折している人に興味があります。「恥ずかしくて言えないな」「照れくさいな」と思いながら話すときに見えるその人らしさを見たいんです。恥ずかしいと思えるものを俳優さんといかに共有できるか、演出家として大切にしています。
撮影・取材・文/田中大介

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