玉三郎がシネマ歌舞伎 特別篇『幽玄
』を語る~玉三郎×鼓童が醸す世界を
再び

2019年9月27日からシネマ歌舞伎特別篇として、坂東玉三郎と太鼓芸能集団 鼓童の共演作『幽玄』が、東劇はじめ全国57館で上映される。玉三郎が2000年に鼓童と出会ってから20年。この『幽玄』は歌舞伎、和太鼓に能の要素を加えるという新たな表現世界に挑戦したもので、2017年の上演時は大好評を博した。今回上映される『幽玄』は2017年に博多座で撮影された公演の映像で、映像編集・監修には玉三郎自身が当たっているほか、玉三郎と鼓童の軌跡を辿る特別映像も収録されている。初演から2年を経て、ふたたび公開される『幽玄』の世界。このほど玉三郎が当時を振り返りながら、その思いを語った。(文章中敬称略)

■「和」を求め能の世界に挑んだ『幽玄』
歌舞伎のみならず世界的な音楽家や映画監督、モーリス・ベジャールをはじめとするバレエの振付家などと共演・共作し、自らも映画監督として活躍するなど、幅広い分野で活動を続ける坂東玉三郎。2003年には『鼓童 ワン・アース・スペシャル』で初めて鼓童公演で演出を手掛けたのち、2006年『アマテラス』では神話世界を舞台に、鼓童との初共演を果たした。そして2012年から2016年には鼓童の芸術監督を務め、『鼓童 ワン・アース・ツアー』と題する舞台5作をクリエイトし、世界各地で上演を行ってきたのである。
「鼓童には和太鼓奏者である以前に、打楽器奏者であってほしいと思っていた」と考える玉三郎は、『鼓童 ワン・アース・ツアー』を通して和太鼓のみならずドラムや西洋楽器を取り入れ、打楽器の可能性を追求してきた。「和太鼓は2拍子か4拍子で、笛以外のメロディがないからおのずと曲のヴァリエーションに限界が出てくる。そこで和太鼓以外の楽器にふれ、そして改めて和太鼓に立ち戻ることで、和太鼓の持つ2拍子や4拍子におこる変化を期待したんです」という。
そうしたなか「和物をやりたい、という声が鼓童から上がってきた。そこで『幽玄』では能の大鼓・小鼓なども取り入れることにしました」と振り返る。
撮影:谷内俊文
■能から選んだ3演目。歌舞伎・和太鼓・能が醸す和の世界
その「和物」を上演するに当たり、選んだ演目が『羽衣』『道成寺』『石橋』だ。『羽衣』は有名な、三保の松原を舞台とした天女の羽衣の物語で、いわば「静」の演目。能の「幽玄もの」といわれる代表的な作品を、玉三郎と鼓童による『羽衣』は打楽器は締太鼓のみで演じられる。ずらりと並んだ太鼓奏者が奏でる「ドロロロロロ……」と響く均一のリズムが、しかし玉三郎扮する天女の舞との融合で、実に幻想的な「美」を醸し、厳かな儀式のようにも感じられてくる。
(c)岡本隆史
続く『道場寺』は歌舞伎演目の『京鹿子娘道成寺』にも通じ「歌舞伎らしい味わいも出そうということで選んだ演目」と玉三郎。『羽衣』が「静」ならば、この『道成寺』は「動」に当たる。歌舞伎、能、和太鼓が融合した世界が展開するのも見どころの一つだ。
最後を締める『石橋』は文殊菩薩の使いの獅子の精の舞で、玉三郎や花柳壽輔ら5人が獅子の精に扮し毛振りを披露する。華やで慶賀的ムードも感じられ、『羽衣』『道成寺』から続く幽玄美の世界を華麗に締めくくる。
(c)岡本隆史
「和物というが、バリ舞踊にも能楽そっくりなものがあるなど、文化はどこかでつながっているのでは。また能も、野外で上演していた戦国時代のものと江戸時代のものとはまるきり違っていると思う。歌舞伎、和太鼓、能と、それぞれの演者・奏者が慣れ親しんだものを使い、きちんとしたものをつくりあげたときに、『和』となるのかもしれませんね」と玉三郎は話す。
■自ら映像を編集。和太鼓特有の低音の響きを再現した臨場感あふれる映像
(c)岡本隆史
こうして舞台で演じられた「和」の世界の映像化に際し、玉三郎は自ら映像編集に当たった。「実は映像や録音では和太鼓の音の再生は非常に難しい。本作ではできる限り、本物の低音の響きが出せるように調整しました」と語る通り、この映画からは身体がびりびりと振動するような和太鼓の響きが感じられ、臨場感が伝わってくる。
また太鼓をたたくとき、撥が皮に当たった瞬間、奏者は撥を握っていてはいけないのだという。「つまり撥は宙に浮いた状態になっているんです。横から見るとその様子がわかるので、シネマではそこも注目してみてください (笑)」と玉三郎。さらに映画だからこその寄りで衣装の美しさ、残像が見えそうな舞など、「誰が見ても納得するものになったのでは」と自信をのぞかせる。
玉三郎は「能や歌舞伎も通りすがりの人が『あれ? 素敵』と思ってくれなければ続かない。そういう意味では『幽玄』というタイトルも、あれ?と思うところかもしれませんね。シェイクスピアだってそう。英国人ですが、見たこともないヴェニスを舞台に『ヴェニスの商人』という戯曲を書き、観客に『あれ?』と思わせたのではないでしょうか。世阿弥もそうした点では、『あれ?』と思わせる舞台演出家だったのかもしれません」とも語る。
和太鼓と歌舞伎、和太鼓と能、雅な衣装など、何か一つ「あれ?」と気になるところがあったら、ぜひシネマ歌舞伎を見に足を運んでいただきたい。
取材・文=西原朋未

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