清春だけが醸し出すオーラの特権、何
もかも壮絶なまでに自身の曲にしてし
まう表現者としての圧倒的存在感

東京・大阪ホール公演「Covers」

2019年8月13日(火)メルパルクホール東京
清春が8月13日、メルパルクホール東京にて『東京・大阪ホール公演「Covers」』を締めくくった。
「みんな明日から仕事でしょ? 僕も頑張ります。頑張りつつ、ちょっと遊んで。嫌なことがあったら、楽しいこともあって、また上手くいかないことがある。その繰り返しでしょ? それで、楽しくなるために(ここに)来て。だって、いいことばっかだったらライブに来ないもんね。僕は、その巡回している感じがいいなと思うんだよね。ガーンと落ち込んだらちょっと楽しいことがあってさ。こんなこというと、曲とかけ離れてて俺のイメージに合わないけど(照笑)。凸凹なのが人生だから。僕も頑張るから、みんなも頑張って。とはいいながら、頑張ってる俺をもっと褒めて(笑)」
茶目っ気たっぷりの言葉で客席に呼びかける清春。今年(2019年)デビュー25周年。黒夢、sads、ソロ、形は変わろうとも、インディーズの頃から一貫して音楽を通して芸術性の高い美学を追求する姿勢を更新し続けてきた清春。ステージでの圧倒的なカリスマ性、暗闇をまとい、ファッショナブルでエレガントに色気をかもしだす存在感でライブ空間を支配していくのはいまも変わらず。それでも、今年51歳の誕生日を迎える彼は、自分を愛するファンにライブ中、こんな表情も見せるようになっていた。そして、何よりもこのライブで驚いたのは、どんな曲をカバーしようが、清春という表現者の手にかかると何もかも壮絶なまでに清春の曲になってしまうということだった。
清春 撮影=柏田芳敬
発売前の清春初のカバーアルバム『Covers』をタイトルに掲げての今回のツアー。上下ブラックの衣装を着た中村佳嗣(Gt)、大橋英之(Gt)、YUTARO(Ba)、FUYU(Dr)というバンドメンバーに続き、ディープな紫色の照明を背中にあびながら、ペイントがほどこされたエッジーな黒いロングシャツを着こなした清春が、裾を揺らしながら登場。足元は裸足。そうしてゆっくりとセンターに構える。その立ち振る舞いだけで、ホールの2階席まで余裕で場内の空気を自分色に染め、ゆったりと溶けていくような時間を作り、観客を支配する。これは、清春だけが醸し出すオーラの特権だ。
ライブは「UNDER THE SUN」で幕開け。<太陽の下で>と清春がリフレインすればするほど、ステージからはじわじわと薄暗闇が押し寄せてくる。続いて披露したのはアルバム『Covers』からUAの「悲しみジョニー」。ブルージーなギターフレーズが場内に響き渡ると、清春は強烈な歌い回しで、どこまでも悲しくメランコリックにバウンスさせて自分の歌のようにこの歌を歌い上げてみせる。その哀愁をさらに拡大していったスパニッシュな「アモーレ」の激情、清春の歌う主メロと中村のギターが奏でるメロディが絶妙なテンポで踊り子のようにステージ上で絡み合うエモーショナルな「罪滅ぼし野ばら」。激しいサウンドをむやみに使わなくても、場内を煽らなくても、観客が歌い踊り狂わなくても、観るもの全員を、清春の美学に彩られた大人の気高さえ感じるロックな歌の世界へ導いていく。その姿は貫禄さえ感じさせる。

当初ツアー前に発売する予定だったアルバムが、ツアー終了後の9月4日にまで押してしまったことについて「僕のなかではこれが王道」といいながら「一生懸命レコーディングしました」と伝え、そのあとアルバムからいきものがかりの「SAKURA」をアクト。桜の花びらがひらひらと舞い散るオリジナルとは異なり、清春が歌う「SAKURA」は花びらが重苦しいほど濡れていて、なんとも儚く響いてきた。そうして、揺れるタバコの煙、顔の前にかざす手のひら、テンポを激しく刻み続けるお立ち台にかけた足元、そんな動き一つまでもが演出のように思えてしまう「シャレード」でどんどん濃厚な清春の世界へと誘ったところで放たれた「夢心地メロディー」、「影絵」で、静謐なる清春ワールドを丹念に描き出していく。そうしてライブ後半はバンドに加え、自らもアコギを演奏しながら<どうか届いて>と歌うメロディックな「loved」、大きなつばのハットをかぶり、清春ならではのスタイリッシュかつエレガントなスタイルで闇を操る「I know」、そうして本編最後にソロナンバーのなかでも深い意味合いを持つ「輪廻」、「MELODIES」を、想いを魂にのせて全力で歌い切ると、観客の中には頬を伝う涙をぬぐう人もいた。
観客の拍手に呼ばれ、アンコールは再び『Covers』からの選曲で、井上陽水の「傘がない」をパフォーマンス。ここでは、都会に雨は長らく降り続け、そのなかで清春の歌と重たくブルージーにひきずるサウンドが、傘がないこと、君に会いにいかなくちゃいけないことがどれだけ深刻な問題なのかを刻々と表現していった。その雨を吹き飛ばすように客席にはクラップが広がった「MOMENT」、清春がストラトキャスターを弾きながら歌うキャッチーな「FAIDIA」、「海岸線」というアップチューンでアンコールは場内を沸き立たせ終了。
しかし、その後もオーディエンスの熱気に押され、再びステージに引きずり出された清春は、「EMILY」をプレイ。途中、手にしていたマイクが滑り落ち、再度この曲を冒頭からやり直すというハプニングに観客は大喜び。「途中の“カウボーイ”の声、ちっちゃいよ」といいながら、再演すると、今度は客席一丸となって叫ぶ“カウボーイ”が場内に響き渡った。ここでグッとテンション高まったなかに「heavenly」、「ミザリー」を畳み掛け、ライブは最後に薄暗闇に差し込む光をきっちりと観客に見せて終わるという素晴らしい流れで、終演を迎えた。「また逢いましょう」、さらっとそう告げた別れの挨拶までもが大人で美しい幕引きに見えた。
清春 撮影=柏田芳敬

清春はこの後、9月4日に初のカバーアルバム『Covers』を、また9月18日には『Covers』のなかから8曲分のMVを収録したDVD『Covers Music Clips』をリリースする。さらに、毎年恒例となっている清春のバースデーライブ『The Birthday』を10月30日に東京・マイナビBLITZ赤坂にて開催することが決定。また年末には、東京・渋谷ストリームホールにてカウントダウン公演を含む『‘19FINAL』と題した5公演のツアーを行なうことも発表している。デビュー25周年も後半戦へ突入し「この先どこまでやったらいいのか、みんなと会議しようと思って(笑)。ライブという概念を飛び越して」などと冗談交じりに笑いながら観客に話しかけていた清春。リアルタイムで観られるいまのうちに、その美しきライブを、歌を味わってもらいたい。
取材・文=東條祥恵
清春 撮影=柏田芳敬

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