バレエ・アム・ライン初来日公演 日
本人ダンサー中ノ目知章が語る、シュ
レップァー版『白鳥の湖』の魅力

日本初来日となるバレエ・アム・ライン。本公演で上演される『白鳥の湖』は、バレエ団の芸術監督であるマーティン・シュレップァーが演出を手掛けたものだ。音楽と脚本に原典版を採用し、現代風の衣装に登場人物の心理を深く掘り下げた本作品は2018年の初演で大好評を博し、現地ドイツではチケット入手困難なほどの話題作となった。

今回の来日公演はシュレップァー版『白鳥の湖』の、初めての海外公演。日本公演が決まった際に、「え、本当に!?」と思ったという、バレエ団でソリストを務める日本人ダンサー、中ノ目知章がシュレップァー版『白鳥の湖』とバレエ団の魅力について語った。
(文章中敬称略)

■シュレップァー監督就任でドイツ有数のバレエ団へ
バレエ・アム・ラインはドイツのライン川沿いの町、デュッセルドルフとデュースブルグの劇場を本拠地とするバレエ団だ。有名な大都市としてはケルンやボンが70キロほど南に位置し、60キロほど東にはバレエファンには馴染み深い町、ヴッパタールがある。
バレエ団の設立は1956年で、2つの町の劇場付きカンパニーとして活動を続け、2009年に劇場をリニューアル。その際に「21世紀のバレエ芸術のパイオニア」とも称されるスイス出身の振付家、マーティン・シュレップァーが芸術監督に就任したことでカンパニーは大いに飛躍。現在はドイツを代表する有数のカンパニーとして、その名をとどろかせている。

中ノ目知章
中ノ目がドルトムント劇場やキール劇場、ノルウェー国立バレエ団を経て、バレエ・アム・ラインに入団したのは4年前のことだった。その決め手は「スタジオやジムなど、バレエを踊る上での環境が整っていること。そしてシュレップァー芸術監督自らがクラスレッスンの指導をしてくれるというのが大きかった」と語る。また、そのクラスレッスンも「単なるウォームアップとは違う。シュレップァーがダンサーに求める最も重要な要素の一つにダンサー個々の個性による表現があることから、クラスレッスンは筋肉の使い方などを通し、動きの中から自身を見つけることを目的としている。ダンサーの力を引き出してくれる。だから常にこちらも全力で対応しないとならない(笑)」。
(c)Gert Weigelt

■原典版をベースとした“陰と陽”の心理描写が見どころ
(c)Gert Weigelt
バレエ団の現在のレパートリーはシュレップァーの作品を中心にバランシン、ロビンスといったネオクラシックや、ゲッケ、ナハリンなどの現代作品が中心だ。
そうしたなか、シュレップァーが敢えて『白鳥の湖』の演出に取り組む決め手のひとつには、小澤征爾が指揮したボストン交響楽団のチャイコフスキー原典版の録音を聞いたことが大きいという。(原典版とは、チャイコフスキー原典版とは1877年ロシアのボリショイ劇場が世界で初めて『白鳥の湖』というバレエを上演するにあたり、チャイコフスキーが書き上げた最初の楽譜である。)
シュレップァー自身「ドラマを感じるその音楽に、倒れてしまうほどの衝撃を受けた」と語っており、そのため脚本も今現在知られる『白鳥の湖』は1895年にプティパとイワノフによって作られた疎遠版ではなく、1877年の初演台本をもとにして制作に取り組んだ。
では踊り手としてのシュレップァー版の魅力は何だろう。
「ひとつは“陰と陽”の対比。そして『白鳥の湖』という物語の奥深いところを見ることができること」と中ノ目は話す。
(c)Gert Weigelt
初演台本のストーリーでは、オデットが妖精と人間の間に生まれた娘であること、オデットに呪いをかけたのが彼女の継母であったり、オデットは祖父に守られて暮らしているなど、今現在よく知られた『白鳥の湖』とはかなりの相違がみられる。そうしたなかで「例えばオデットを守ろうとする祖父の“陽”の心、オデットに呪いをかける継母の“陰”の心、往時の悩みなど、人の誰もがどこかに持っているであろう心理を描き出しているのが見どころ」という。個々にキャラクターが立っており、オデットとオディールも別人格としてそれぞれのダンサーが演じる。
では初演台本がベースであるということは、クライマックスもアン・ハッピーエンドなのだろうか。中ノ目は「そこはぜひご覧になった方々に解釈していただきたいですね。見終わった後に“考える”という余韻もまた、このシュレップァー版の醍醐味のひとつです」と笑った。
■ダンサーから発するリアルな感情がドラマになる
またこの作品では、ダンサーの個々の表現を何よりも重視するシュレップァーらしく、キャラクターの解釈自身もダンサー個人に求められている。中ノ目いわく、「ダンサー自身の思いや感情を、振付というツールを使って表現していく。例えば僕は継母の側近役を踊っていますが、敢えて悪く見せようという演技をするのではない。僕の中にある“悪”、いわば“陰”の部分を自分の中から引き出し、それを舞台で表現するんです」。
(c)Gert Weigelt
つまりシュレップァー版の『白鳥の湖』は、ダンサー個々、人それぞれが持つリアルな感情を舞台で表現させることにより生まれるドラマ、といえるかもしれない。「だからこそ、キャストによって雰囲気が変わります。ぜひ違ったキャストで見ていただきたい」と中ノ目。
ドイツ以外では初上演となるシュレップァー版『白鳥の湖』。今回の来日公演ではドイツのドルトムント歌劇場の専属指揮者として活躍している小林資典が指揮者として参加するのも注目だ。古典のさらに原典をベースとした新しい「白鳥」のリアルなドラマを、ぜひお見逃しなく。
(c)Gert Weigelt
■中ノ目知章(なかのめともあき)プロフィール
1992年生まれ、神奈川県出身。
児玉克洋、宮本百合子に師事。2007年第18回全日本バレエコンクール、第40回埼玉全国舞踊コンクールに於いてジュニアの部第一位。2008年ハンブルクバレエ学校よりスカラシップを得て2年間留学。ジョン・ノイマイヤー、ケヴィン・へイゲンらの指導を受ける。
同校卒業後、ドルトムント劇場と契約、その後キール劇場、ノルウェー国立バレエ団、そしてハーゲン劇場所属を経て現在ドイツ・デュッセルドルフ/デュイスブルクに拠点を置くバレエ・アム・ライン ソリストとして活躍中。
今秋9月のバレエ・アム・ライン初来日公演 シュレップア―版≪白鳥の湖≫ではオデットの継母の側近役(予定)。

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