デビュー10周年のふくい舞が「アイの
うた」のヒットから時を経て今新たな
出発と共に歌う愛の歌とは?

映画「恋空」の主題歌として「アイのうた」を大ヒットさせ、その後紆余曲折の活動を経て、現在は独立しその歌を伝え続けているふくい舞。その類まれなる歌唱力と、繊細な感情を表現する歌は随一。現在プロデューサーに小川智之を迎え、新たに配信シングルをリリースするとあって、現在のふくい舞とこれからを本人とプロデューサー二人に迫った。
――去年、デビュー10周年迎え、独立してから5年。今回改めて、配信リリースされました。約1年ぶりに今回シングルとして配信リリースですけど、かなりの再生回数もいっていますが、今の率直な気持ちを教えてください。
ふくい:独立してから、いくつかの楽曲を出しているんですけど、それと比べても多くの方に聴いてもらえているようで、すごく嬉しいです。びっくりしました。
――そうですよね、結構リリースされていますよね。
ふくい:そうですね。3枚位は5年のうちに出しました。その時はそこまで反響があったわけではなかったので、公開して今の再生回数は、「あれ、なんか壊れた?」って思って。
一同:(笑)。
ふくい:でも嬉しかったです、それくらい。
――何か今回の配信で、変えたことってあるんですか?
ふくい:プロデューサーが小川さんにかわりました。
小川:今回の数字を僕が何かしたということではないのですが、ただ今まではYouTubeにPVをあげていなかったので、そういう試みだったりは変化があると思います。。
――なるほど。
ふくい:今までは、かなりの部分を自分でやっていた活動でした。例えばラジオとかもお世話になっている知り合いのDJさんに出していただいたりはしていたんですが、プロモーションという意味での映像などは作っていなかったんです。そんな中今回は、素敵なイラストのPVを作ってもらって、あと作家さん、プロデューサーさんにも良い曲をいただいて、また季節にも合ったものを出せたりと、色々なものが変化しました。今までは、ただ単に「良い」と自分が思う曲を出してきたんですけど、今回はそれ以外のことや、タイミングとか、どうしたら人に届くんだろう?というのを意識しました。
そこはこだわりました。歌入り前の一小節の空間を
ふくい舞
――PVもイラストを使っていて今っぽさも感じます。曲としてはどちらかと言うと、わりと王道と言うか、直球のラブソングと言うか。あえてこの曲で、11年目を飾ろうと思ったのは何だったんでしょう。
ふくい:本当の私のルーツは、洋楽のポップスとかロックだったりするんです。でも自分の過去を振り返ってみると、今も大切に歌わせてもらっている『アイのうた』がやはりすごくほっこりするんです。他にもアルバム曲で、自分の好きなジャンルの曲とかもいろいろやらせてもらってますけど、やはり日本人らしいものにはひかれます。というのも私の祖父母の家がお寺なので、仏教的な、法話的なことを聴いて育ったんです。それもあってか『アイのうた』や、今回の『それでも私は恋をする』に共通する、愛を押し付けないで、人や相手に、すごく優しく、だけど前向きに、日本らしい花火を見て進むっていうあの気持ちが、やはり私にはこれだ!って思ったんです。
――なるほど。そういう和な曲に、ふくいさんの、洋楽ぽい歌い回しや、節が、逆に良いですよね。
ふくい:ミスマッチな感じですね。ありがとうございます。嬉しいです。
――更に、この曲はイントロ、めちゃくちゃいいですよね。
ふくい:本当に。あの「和」の感じで入ってるものと、エレクトリックな音が混ざって、日本らしさと同時に、モダンさも感じると言うか。そのアレンジも気に入っています。
――曲入りはとても大事ですよね。何かが起きそうな感じがじます。
ふくい:はい、そこはこだわりました。歌入り前の一小節の空間を。
――そんな楽曲のPVの方ですが、一番最初にティザーが入ってから本編に入るみたいな作りになってるんですけど、あれは何か狙いがあったんですか?
小川:最近の流れでもあるとは思うのですが、手前に15秒のCM用みたいなので、先にサビ聴いていただいて興味を持ってもらいたいなと。また、あそこの「あの日を思い出してしまうのも「恋」ですか?」というキャッチを、PVの本編に入れられなかったからというのもあります。あれを流すことによって年代を超えて、60の人だって恋してもいいんだって、思い出すことも恋なんだみたいな、そういうところも含めてあのキャッチを入れたいなとは思いました。
――あの作りがすごく良くて、「ああこの曲、こんな感じの曲なのかな」って想像してから入るから、逆にやっぱ、Aメロが入ってくるんです。クライマックスを見せられた状態で一回おあずけ食らうみたいな。
ふくい:すごい考えてました、それ狙ってました(笑)。
一同:(笑)。
ちょっと前の恋愛を思い出している大人の女性っていうのをイメージして歌いました
ふくい舞
――過去音源というか、独立されてからの曲も、他の曲も聴かせてもらいましたが、アップテンポなものからモダンなものまでありますよね。本来のふくいさんは声質的には洋楽っぽいと言うか、アラニス・モリセットとか、あっちの方向の声だなと。でもその中で『アイのうた』から何年も経って、今回の曲が新たな王道のバラードになったときに、、すごいマイルドになった印象がありました。
ふくい:多分大人になったんだと思います。それは色々な人に言われました。あと歌ってるときに、切ない主人公の気持ちに、すごくなれちゃったんです。その時に「大人になったな」って自分でも思いました。
――歌っててもそう思うんですね。
ふくい:自分でもびっくりしました。違うカラーの私を見つけたなと。
小川:元々がメッセージ性をすごく持ってる歌い方するので、逆に本気で歌うと、ちょっとドッシリきすぎる時があったんです。ラクして歌ったぐらいがちょうどいいかもね、とかいろいろ話していて、今回そういった所を音源で体言できた感じはあったかもしれません。あまり心の奥を狙い過ぎず、ちょっと手前くらいにポンと置いて、あとは、チョイスはリスナーさんに任せるみたいなくらいが丁度いいのかな、というのは話していました。
――出来上がって聴いてみて、どうですか。
ふくい:すごく気に入ってます。今回自分で仮歌を録って挑んだんですけど、結構やっぱり、人に作っていただいた歌って、女優さんと入り方が似ていると言うか、キャラクターの気持ちとかに、本当になれないといけないんで、初めて聴いたときは、自分の少し前の恋愛、ちょっと前の恋愛とかを思い出して、今の気持ちに「ああ、これね」ってなっちゃうんですよ、私。だけど、過去の月日もそれなりに経ってて、過去の恋愛でもう振り切っていってるっていう、ちょっと大人の女性があのころの、恋を思い出してしまうのも恋ですか(※「あの日を思い出してしまうのも「恋」ですか?」)、っていうキャッチフレーズがあるように、ちょっと前の恋愛を思い出している大人の女性っていうのをイメージして歌いました。
――それが良いんですよね。R&Bや海外の強い歌を歌える人って、えぐるじゃないですか。歴史も社会も背負って歌っていることが多いから、えぐってくるんですけど、ちょっとえぐられたくないときが結構あるんですよね。
ふくい:そうですね(笑)。
――日本のリスナー、えぐられたくない人が多いから、ポンて置かれてる感じがすごくバランスがいいなと思いました。一番ズバっときたのが、「餞(はなむけ)の調べ」っていうのが、なんかいいですよね。過去への清算みたいなのも感じつつ、でも、そのあとの「甘い恋の知らせ」で再出発を感じさせる。
ふくい:「甘い恋の知らせ」、すごくいいですよね。ちゃんと「甘い恋の知らせ」的な、ハープの音が後ろに入ってるんですよ。編曲者の福田貴史さん素晴らしいですっておもいました。これは甘い恋の音だ!となりました。
みんな、肩を張って生きてると思うので
ふくい舞
――時に今回は作詞作曲は小川さんということで、ふくいさんもシンガーソングライターとして楽曲をかく方だとおもいますが、今回は結構シンガーに寄ったっていうイメージですか。
ふくい:そうですね。完全にシンガーに寄りました。今までも『Can Can』と『Lucky』以外、2枚目、3枚目、あと配信限定の『希望のうた』以外は全部作家さんに書いていただいています。やはりプロの方って私の声の引き出し方を知っていますから。でも自分で作る曲も、何か起こったときに、アルバムに写真を収めるじゃないけど、なんかそういう記念的な、儀式的なものなので、本当に何か無いと書けないんです。リアルをそのまましかできなくって。リアリティあることをリアリティに表現することが、あんまり得意じゃないんだと思います。それだと結構時間がかかっちゃうので、今回もお願いしました。
――じゃあやっぱりその、もちろん作ることは作ることで、自分の何かを投影するって大事なことだけど、やっぱり歌うことの方がプライオリティは高いですか?
ふくい:プライオリティとかは考えてないんですけど、ずっと常に(曲を)書いてますし。だけど、人の歌を歌うって言うのは、旅をした感じと言うか、自分の幅を広げられると思うので、どっちもしていきたいなと思います。自分の言葉で歌うのも好きなので。
――そうですよね。自分の言葉を持ってらっしゃるし、SNSなど拝見すると、思いがある方だから。
ふくい:。みんな、肩を張って生きてると思うので、ちょっとでも気持ちが解放されたら嬉しいなって気持ちになります。
――なるほど。素敵ですね。
ふくい:私自身が、そうだったので。音楽にそうしてもらったので。
小川:みんなが何かの役に立ってると、結果、自分も満足をもらえますよね。
ふくい:そうですね。もう本当、私はただ音楽が好きなんです。それこそ寄り添う、伝えるということには、いろんなやり方があると思うんです。ボランティアで寄り添ったり、話聞くことで寄り添ったり。そんな中で、私は自分という存在をアピールするルーツが音楽なので、好きなことで届けたい。押し付けたい気持ちは無いので、喜んでもらえたら嬉しいなと思っています。
すごく初心に返れたんです。そんな時『アイのうた』の歌詞が一番響きました
ふくい舞
――この10年様々な縁が連なってきたものだと思うんですが、ポイントがいろいろあるのかなと思っていて。例えば『アイのうた』のころ、『約束の場所』のころ、名前の表記を変えたころがあって、レーベル移籍後、『ゴーイングマイウェイ』を書き下ろしてやって、今に至るみたいな話だと思うんですけど、自分で振り返ってみていかがですか?
ふくい:本当に、この過去の10年は、いろんなご縁があった、それこそ良い縁の方がほとんどですけど、もちろん親友との別れもあったし、だけどやはりこれ以上いけないかもしれないっていうプレッシャーと戦っていました。それで修行しなきゃと思って、お世話になったエイベックスさんと事務所を自ら卒業して、羽ばたいて、飛び込んで。だけどそこからが、やっぱりいろんな、何て言うかなぁ、うん……本当の意味で、そこで私の足が地に着いたっていう感じがしました。
――不思議ですね、羽ばたいたのに、地に着いたって。
ふくい:うまい。何というか、すごくフワフワしてたんです。もう私は音楽を背負うっていう友達との約束、『約束の場所』のあれじゃないけど、結構自分だけがもっと頑張らないとという風に肩を張って、(FF XIII-2の)ライトニングじゃないけど、愛のために戦わなきゃみたいな、女戦士みたいな感じの気持ちでいたんですけど、本当にうまくいって、いろんな楽しい音楽ができたのは、本当に周りの人たちのおかげさまだということがわかったんです。当たり前にやってもらっていたことが、当たり前じゃなかったというか、ちゃんとそういうことに本当に気づけたんです。
――そうして色々とあった中で、今の一曲なんだろうなというのが見えて、この曲には感動していました。
ふくい:何か、凄く、今が一番幸せですね。いい環境をまた頂けていて。
――でもなんか、凄いですね。立ち上がり続けてるじゃないですか。環境が変わっても。
ふくい:すごく初心に返れたんです。そんな時『アイのうた』の歌詞が一番響きました。「あなたがいて そばで笑う それだけでいい」っていう歌詞が『アイのうた』にあるんですけれども、すごい、どこかで、もっともっと頑張らなきゃって思ったんです。ちょっと話が脱線しますが、仏教に和顔愛語(わげんあいご)って言葉があるんですけど。お寺って、結構いろんな人が「私はこの歳になって、何もできない。あれもできないしこれもできないし」という風に嘆いている人がすごく来るらしいんですけど、そんなこと嘆く必要はなくって、普通にいて、ありのままでいて、人と笑う、かなしいこともあるけど笑ってみるってことだけで、本当に隣の人が安心するし、すごいことなんだよって、そんなに自分を責めなくていいんだよっていう言葉なんです。そのルーツって『アイのうた』は和顔愛語のことなんだなって気づきました。だから、初心に戻れたと言うか、そういう気持ちになれたんです。
――なるほど。
ふくい:だから何か、優しい音楽だなって思って。優しい音楽を歌えてきたなって思えて。どんどん、ありのままで本当にいいんだなって思える歌を届けていきたいなって思えた10年でした。
――なるほど。10年あったからそこにいけてるんだと思いますし、ありのままでいいと思うんです。でも多分、何も持ってない人がありのままでいると、空気のように流れていくので。
ふくい:あはは、いや本当、そうでした。
――この10年いろんなことをしてきた、いろんなことを思ってきた人が歌ってるありのままっていうのが、良いなって。だからありのままじゃないんですよ。だからフックになってるって言うか。何も持っていない人のものはフックにならないから、それが良いと思います。積み重ねたありのままと言うか。
ふくい:そうですね。積み重ねたい、もっと。
10年の轍(わだち)を歌ってくれた歌のような気がしています
ふくい舞
――この記事を見てくれた方とか、もともとファンの方とかも、これからどういう風に活動していくんだろうって、多分気になってらっしゃる方もいると思うんですけど、どんな風にしていきますか。
ふくい:そうですね。今後は、実は2か月おきに配信を1曲ずつ考えていて、ちょっとマイペースにやりすぎてしまってるんで、次がいつかはまだ正確には決まってないのですが、遅くても9月末か10月の始めには出そうと思ってます。そして11月にまた1曲出して、12月にはアルバムを。まだ曲数は決まってないんですけど、出そうと思っています。
――良いですね。本当に、リスタートのアルバムになりそうですね。
ふくい:そうですね。はじめ、出してからっていうのがわかったんで、1曲ずつ1曲ずつ、積み重ねていこうと思います。
――次の曲とか、どんな感じとか決まってるんですか?
ふくい:そうですね、『あなたなんだ』っていう曲なんですけど、歌詞が今回も小川智之ブシですね。構成が、すごく気に入ってますね。めちゃめちゃ自分に刺さった歌なんです。
――それはどんな風に。
ふくい:先ほど語った10年……10年の轍(わだち)を歌ってくれた歌のような気がしています。きっと、みんな自分の旅をしてると思うので、すごくいろんな人がまた共感できる曲だと思います。
――なるほど。楽しみですね。どういうジャンルかは聞かないようにしましょう、今のところ。
ふくい:言えるのは、今回(『それでも私は恋をする』)は王道なんですけど、(リリース前の新曲は)王道とは違うかもって感じですね。
――良いじゃないですか。王道出して、次は何かね、ちょっとこういうクセあるよっていう。
ふくい:はい、クセモノな感じです。エッジ効いてますね。こうしていろんな歌うたっていきたいです。
取材・文=秤谷建一郎 スチール撮影=三輪斉史

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