清春

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【清春 リコメンド】
初のカバーアルバムに見る
25年目の自負心

カバーアルバム『Covers』がついに発売される。他アーティストのトリビュート作品などでカバーを披露することはこれまでにもあったが、清春自身のアルバムとしては初めての試みなだけに、どんな仕上がりになっているのか、ファンならずとも注目の作品集と言える。

どうしてカバーアルバムなのか
それは自身の歌唱力を示すため

 発売が延期されていた清春、キャリア初のカバーアルバム『Covers』のリリース日が9月4日に決まった。完璧主義者の清春のことだから、何か納得できない箇所があって録り直したりしてたんじゃないかなとか思うが、まずは発売日が決まって何よりである。待ち詫びたファンはひと安心であろう。おあずけを喰らった分、リスナーの期待値も高くなっているだろうが、そこも安心していいと思う。ファンの期待を裏切ることがない作品に仕上がっていることは、いち早く聴かせてもらった者として断言しておこう。

 アーティストはなぜカバーするのか。他者の既発曲を歌おうとするのか──。その理由はいろいろあろうが、大きく分けると2種類あるんじゃないかと思う。ひとつは、その楽曲が優れているから自分も歌ってみたいというような、言わば楽曲優先の理由。リバイバルや洋楽のカバーもそれに含まれるだろうし、名曲にもっと陽を当てたいという使命感に似た感情もそこにはあるだろう。Bank Bandの一連の作品はその傾向があると思うし、桑田佳祐の『ひとり紅白歌合戦』もおそらくこちらの理由だと思う。もうひとつは、自身の歌唱力を示すためのカバー。徳永英明の『VOCALIST』シリーズはそうであろうし、演歌の歌手の“昭和歌謡曲集”“古賀メロディーを歌う”といった企画盤もそれだと言える。歌唱ではないが、和楽器が主旋律を奏でるような楽器を全面に出したインストも、大きく分けたらその仲間に入ると思う。今回の『Covers』は後者に当たるだろう。確実にそうだ…とは言い切れないけれども、8割方、9割方当たっていると思う。それは収録曲のタイトルを見れば分かる。チョイスした楽曲は、そのオリジナルの演者にとっての代表曲。しかも、その演者のほとんどが今も第一線で活躍している人たちで、レジェンド級も少なくない。つまり、誰もが知る歌い手の誰もが知る楽曲、名曲中の名曲をカバーしているわけで、少なくとも“これらの名曲をもう1度聴いてみてください”というような理由からではないことは間違いない。

【『Covers』収録曲データ】
M1「傘がない」:井上陽水が1972年に発表したシングルで、アルバム『断絶』(1972年)からリカット。1974年のオフコースをはじめ、多くのシンガーがカバーしている。
M2「悲しみジョニー」:UAの8thシングル(1997年)。2ndアルバム『アメトラ』(1998年)にも収録されている。TVドラマ『不機嫌な果実』主題歌。
M3「SAKURA」:2006年に発表された、いきものがかりのメジャーデビューシングル。メジャー1作目のオリジナルアルバム『桜咲く街物語』(2007年)にも収録。
M4「想い出まくら」:1974年にデビューしたシンガーソングライターの小坂恭子が1975年にリリースしたナンバー。当時、100万枚を超えるヒットとなった彼女の代表曲。
M5「アザミ嬢のララバイ」:中島みゆきのデビューシングル(1975年)。何人かの女性シンガーが歌っているが、内藤やす子や研ナオコのカバーが有名。
M6「月」:桑田佳祐のアルバム『孤独の太陽』(1994年)の先行シングルとして発売された楽曲。和田アキ子や山崎まさよしの他、アジアの歌手にもカバーされている。
M7「MOON」:REBECCAのアルバム『Poison』(1997年)からのシングルカットで、9枚目のシングル(1988年)。途中に幽霊の声が入っているとの口コミが広がった。
M8「やさしいキスをして」:DREAMS COME TRUEの31枚目のシングル(2004年)。2000年代に発売されたドリカムのシングルで最大の売上を記録した。
M9「接吻」:田島貴男のソロユニット、ORIGINAL LOVE通算5枚目のシングル。1993年に発売された。この曲をカバーしたシンガーたちは枚挙に暇がないほど。
M10「恋」:1980年1月にリリースされた松山千春、8枚目のシングル。1980年代のフォークソング代表する一曲と言っても過言ではないはず。
M11「木蘭の涙」:スターダスト☆レビューのアルバム『SOLA』(1993年)に収録され、同年7月にシングルカットされた。バンド最大のヒット曲。

 『Covers』を“自身の歌唱力を示すためのカバー”としたのは、決して当てずっぽうなわけでもない。2018年2月に発表された前アルバム『夜、カルメンの詩集』リリース時のインタビューで清春は以下のようなことを言っている。聞き手である筆者が『夜、カルメンの詩集』の感想として、清春のシンガーとしてのスタンスは尾崎紀世彦や布施 明といった昭和の歌謡曲を彩ったシンガーに近いのかもしれないといったことに対する返答である。

 “何を歌ってもその人の温度や匂いに包まれる人。カバーをするとそれが如実に分かるタイプ。それは僕もしかり…ということですね。まぁ、僕らはそうじゃないとデビューできなかったギリギリの世代ですから。玉置浩二さんとかB’zの稲葉浩志さんとかもそうだと思うんだけど、やっぱり一発でその人だと分かる人、僕はそれがプロだと思ってたんで。…歌って難しいんですよ。簡単に歌ってるように思われているかもしれないけど(苦笑)”

 この時、すでに『Covers』の構想があったのかどうかは分からないけれども、奇しくも“カバー”という言葉が使われていることからすると、この時、彼の頭の片隅にはカバーアルバムのアイデアくらいはあったのかもしれない。“何を歌ってもその人の温度や匂いに包まれる人”“一発でその人だと分かる人”。それがプロのシンガーであって、清春自身もそうだと言っている。暗に自分より下の世代のヴォーカリストをディスっているように感じられるのが何とも清春らしいところではあるが、決して長くはない受け答えの中に歌い手としての自負、プライド、矜持といったものが感じられる。
清春
アルバム『Covers』【初回限定盤(DVD付)】
アルバム『Covers』【通常盤】

OKMusic編集部

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