【祝・新作発売コラム】スリップノッ
ト、マスクで紐解く衝撃の歴史

闇のサーカス集団。99年にセルフ・タイトルを冠した1stアルバム『SLIPKNOT』のジャケに映ったメンバー9人の姿は、まさにそんな印象であった。グロテスクなマスクと真っ赤なジャンプスーツに身を包み、聴覚と視覚からダブル・ショックを与え、メタル/ラウド好きを一瞬で虜にした彼ら。音楽性もさることながら、そのマスクの衝撃は今なお揺ぎないアイデンティティとして常に話題をさらっている。本稿ではバンドのキー・ビジュアルでもある「マスク」にフォーカスを当てて、彼らの歴史を追っていきたい。

95年に米アイオワ州デモインで結成されたスリップノットを瞬く間に印象づけたマスクは、コリィ・テイラー(Vo)の提案で映画『ハロウィン』の殺人鬼ブギーマンにヒントを得たそうだ。頭からドレッドヘアが数本飛び出したコリィ・テイラー、顔面にぴったり張り付いた黒ゴムのジム・ルート(G)、黒い鉄仮面のミック・トムソン(G)、豚マスクのポール・グレイ(B)、白塗りマスクのジョーイ・ジョーディソン(Dr)、ハリネズミ・ヘルメット頭のクレイグ・ジョーンズ(サンプラー)、天狗マスクのクリス・フェーン(パーカッション)、ピエロ・マスクのショーン・クラハン(パーカッション)、ガスマスクのシド・ウィルソン(ターンテーブル)と個性豊かなマスクがずらり。ポップだが不気味というギャップを孕んだビジュアルは音楽面との親和性も高かった。ちなみにこの1stアルバムの頃は豚マスクがよりリアルな豚に変貌したり、ガスマスクの色違いもある。


▲スリップノット(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)


>>>メンバーソロ画像<<<
▲スリップノット(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)


>>>メンバーソロ画像<<<


そして、グラインドコア、デス・メタル、ブラック・メタルなどアンダーグラウンドなメタルの要素を積極的に取り入れ、過激化を推し進めた2ndアルバム『IOWA』を01年に発表。この頃になると、悪魔の象徴とされる逆五芒星(ぎゃくごぼうせい/ペンタグラム)が刻印され、より凶暴化したピエロ・マスクが目に止まる。また、シェイプ化を図ったハリネズミ頭、白塗りマスクから血が垂れていたり、豚マスクは口の部分がなくなるなど、より猟奇性に拍車をかけたビジュアルもインパクト大であった。


▲スリップノット(2ndアルバム『IOWA』)


>>>メンバーソロ画像<<<
その後は度重なるツアーにより、メンバー間の不和が報じられ、解散説も飛び出したものの、無事に3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』を04年に完成させる。リズムをより強化し、コリィ・テイラーの別バンドであるストーン・サワーの影響も大きいのか、メロディアスな側面が急浮上。マスクについてはフロントマンのコリィに変化が生じている。溶けたような皮膚に大胆な縫い口が施した、おどろおどろしいマスクとなった。さらに血糊が付いた包帯ピエロや、シンプル化した豚マスク、ガスマスクというよりメカニカルなサイボーグ風マスクなど、小さなリニューアルが目に付く。


▲スリップノット(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)


>>>メンバーソロ画像<<<


そして、4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』においてはアコギを用いた壮大なナンバー「Snuff」に顕著だが、より歌メロに軸足を置いた曲調が増えていった。この頃は再びコリィに変化があり、長髪から短髪へ、目と口だけが強調された無機質なマスクを被っている。また、血糊の包帯から黒革ピエロと変質しているところも注目だ。


▲スリップノット(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)


>>>メンバーソロ画像<<<
◆コラム(2)へ
10年に入ると、オリジナル・メンバーの一人であるポール・グレイ(B)が薬物の過剰摂取で死去、13年にはジョーイ・ジョーディソン(Dr)脱退という危機に直面する。オリジナル・メンバーであり、メイン・ソングライターも担う2人の損失はあまりにも痛かった。しかし、バンドは14年に5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』をリリース。本作はオリコン週間アルバムランキングでバンド史上初の初登場1位を獲得した。「The Devil In I」、「Custer」を筆頭にヘヴィネスとキャッチーのバランス感覚に長けた良質曲が目白押しであった。ここでもコリィはマスクにアレンジを加えており、目鼻立ちがはっきりとした人間に近い表情へとシフトしている。


▲スリップノット(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)


>>>メンバーソロ画像<<<
それから今年3月にクリス・フェーン(パーカッション)が脱退、新パーカッションの名は現在のところ明らかにされない中、前作から4年10カ月ぶりになる6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』が遂に世に放たれる。このタイミングでコリィはまたもや新マスクを着用し、既にライヴでもお披露目済み。『ALL HOPE IS GONE』期を彷彿させる無機質かつ不気味なマスクが特徴的だ。さらにシド・ウィルソンは限りなく人間に近いマスク(?)になっており、これにも驚きを隠せない。


▲スリップノット(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)


>>>メンバーソロ画像<<<


気になるサウンド面にも触れておこう。ジム・ルートは「これまでの中でもっとも作詞作曲とレコーディングに時間をかけたアルバムだ。今の音楽業界はとにかくシングルを出して稼ぐ方向に傾いているけど、俺たちスリップノットはひとつの作品として完成している、アルバムでしか味わえない体験を届けたかった」と語っている。確かに前作とも、いや、過去の全作品と比較しても、今作は新たな境地に到達した魅惑の楽曲が揃っている。ヘヴィネスやメロディアスに磨きをかけつつ、ダークなグルーヴ感に引きずり込まれるような興奮を覚える。緻密に練り込まれたアレンジも効果的であり、何をやってもスリップノット節に聴かせる懐の深い作品と言えるだろう。歌唱力と演奏力、そのどちらも「数段」と付け加えたくなるほどレベルアップを遂げている。

楽曲単位で見ると、MVで新マスクを大体的にフィーチャーした「Unsainted」は鐘の音が鳴り響き、ミサ風の女性コーラスが印象的。そこにコリィ・テイラーは祈りに似たメロディアスな歌唱と憤怒のスクリームを使い分け、動静の起伏激しいドラマ性を作り上げている。また、MVでは暴力的な描写も赤裸々に映し出した「Solway Firth」は、起承転結のストーリー性を帯びた曲展開で聴く者をグイグイと惹き付けてくる。


さらにナイン・インチ・ネイルズのようなインダストリアルな響きをたたえた「Spiders」、映画のサウンドトラック的な荘厳さを感じる「My Pain」なんて、これほど明るめのサウンドはなかったのではないかと思うほど。実験と挑戦の末に獲得した真新しいサウンドに触れて、今は冷静でいられない状態だ。時間をかけて練りに練った楽曲の出来映えは、右から左へ素通りさせない楽曲クオリティを提示している。これは何度も何度も繰り返し聴くことで、その全貌を露にするような凄味を帯びた傑作と断言したい。なお、日本盤ボーナス・トラックには歌詞の一部が今回のアルバム名に引用された「All Out Life」を収録。こちらは従来路線を受け継いだスリップノットらしさが光る好ナンバーだ。
来年は3月20日、21日の2デイズに渡り、スリップノット主催のダーク・カーニバル<KNOTFEST JAPAN 2020>が4年ぶりに再上陸する。今作がライヴでどんな表情で迫って来るのだろうか。想像するだけで胸騒ぎは収まらない。今から震えながら、その時を待つのみだ。

文◎荒金良介

  ◆  ◆  ◆

■アルバム『We Are Not Your Kind / ウィー・アー・ノット・ユア・カインド』

2019年8月9日発売
¥2,300+税/WPCR-18229

M-1.Insert Coin / インサート・コイン
M-2.Unsainted / アンセインテッド
M-3.Birth Of The Cruel / バース・オブ・ザ・クルーエル
M-4.Death Because Of Death / デス・ビコーズ・オブ・デス
M-5.Nero Forte / ネロ・フォルテ
M-6.Critical Darling / クリティカル・ダーリン
M-7.A Liar's Funeral / ア・ライアーズ・フューネラル
M-8.Red Flag / レッド・フラグ
M-9.What's Next / ホワッツ・ネクスト
M-10.Spiders / スパイダーズ
M-11.Orphan / オーファン
M-12.My Pain / マイ・ペイン
M-13.Not Long For This World / ノット・ロング・フォー・ディス・ワールド
M-14.Solway Firth / ソルウェイ・ファース
M-15.All Out Life(* BONUS TRACK) / オール・アウト・ライフ(* BONUS TRACK)

関連リンク

▲シド・ウィルソン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲ジョーイ・ジョーディソン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲ポール・グレイ(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲クリス・フェーン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲ジム・ルート(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲クレイグ・ジョーンズ(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲ショーン・クラハン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲ミック・トムソン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲コリィ・テイラー(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.1)
▲シド・ウィルソン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲ジョーイ・ジョーディソン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲ポール・グレイ(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲クリス・フェーン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲ジム・ルート(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲クレイグ・ジョーンズ(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲ショーン・クラハン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲ミック・トムソン(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲コリィ・テイラー(1stアルバム『SLIPKNOT』ver.2)
▲シド・ウィルソン(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲ジョーイ・ジョーディソン(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲ポール・グレイ(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲クリス・フェーン(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲ジム・ルート(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲クレイグ・ジョーンズ(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲ショーン・クラハン(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲ミック・トムソン(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲コリィ・テイラー(3rdアルバム『VOL.3:THE SUBLIMINAL VERSES』)
▲シド・ウィルソン(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲ジョーイ・ジョーディソン(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲ポール・グレイ(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲クリス・フェーン(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲ジム・ルート(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲クレイグ・ジョーンズ(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲ショーン・クラハン(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲ミック・トムソン(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲コリィ・テイラー(4thアルバム『ALL HOPE IS GONE』)
▲シド・ウィルソン(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲クリス・フェーン(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲ジム・ルート(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲クレイグ・ジョーンズ(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲ショーン・クラハン(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲ミック・トムソン(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲コリィ・テイラー(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲アレックス・ヴェンチュレラ(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲ジェイ・ワインバーグ(5thアルバム『.5:THE GRAY CHAPTER』)
▲シド・ウィルソン(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲ジム・ルート(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲クレイグ・ジョーンズ(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲ショーン・クラハン(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲ミック・トムソン(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲コリィ・テイラー(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲アレックス・ヴェンチュレラ(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲ジェイ・ワインバーグ(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)
▲新パーカッショニスト(6thアルバム『WE ARE NOT YOUR KIND』)

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