GOATBEDとは何者なのか? 多彩で特
殊な表現を繰り出すユニットの正体に
迫る

cali≠gariのボーカル・石井秀仁と、彼の実弟である石井雄次によるユニット・GOATBEDが約2年ぶりとなる全席指定のライブ『PARADISOPARODY』を8月13日(火)、14日(水)に品川 クラブeXで開催する。一言でいえばテクノ、しかしその枠だけでは収まりきらない多彩で特殊な表現を繰り出すGOATBEDとは何者なのか? 『PARADISOPARODY』の構想と併せて訊いた。
物事に対して、あんまり入り込めるタイプじゃないんで。常に俯瞰でいるというか。いつでも我は覚えてます(笑)。
――今回のインタビューですが、「GOATBED入門者向けになるものを」というのがテーマとしてありまして。じゃあ、何も知らない人はまず“GOATBED”と検索するだろうと思って調べたところ……例の有名なサイトには、“ニューウェイヴエレポップバンド”って書いてあったんですね。
だいぶ間違ってますね(笑)。10年前ぐらいはそうだったかもしれないですけど、それぐらい前の情報ですね。
――ただ、そこに補足されていて、以前は“80年代ニューウェイヴ歌謡ロック”、今は“ミニマルミュージック寄りのテクノ”と。その形容は正しいですか?
まあ、さっきのやつよりは近いかな。
――石井さん自身がGOATBEDの音楽を端的に言い表すなら?
GOATBEDは、テクノだって言ってますね。ベーシックは2人でやっていて、トラックは打ち込みで、曲を作る際に使っている楽器もいわゆるテクノのベーシックなものなのと、エレクトロなどのいろんなジャンルをテクノのフォーマットに落とし込んでいるような作り方をしている……っていうところなんですよね。だからあえて、そういう風に言っておこうかなというぐらいで。
――もしかすると“テクノ”という響きだけで、どこかハードルの高さや自分とは縁のない世界の話だなと感じるリスナーもいるのかなとも思っていて。
だとしたら、それはいけないですね。
――当事者としてはハードルを高くしてるということはないでしょうけど。
その逆のつもりなんですけどね。例えばライブに関して言うなら、常に1本のライブの情報量をものすごく多くしていて、初めて来た人にも1回でGOATBEDのやってることが理解できるものにしようと思ってるんですよ。それが逆効果になってるところもあるかもしれないですけど。
――濃すぎてしまうかもしれないと。ただ凝縮されている分、GOATBEDが何者なのかは、一度観てもらえれば話は早いという。
そうですね、話は早いです(笑)。
――それと、活動歴の長いアーティストはバックカタログも多いので、どこから手を出していいか分からない人も多いはずなんですよね。
その辺の心配はいらないですね。俺にとってまず音源というのは、リセットはしてないけど、出すたびに更新をしていっているつもりでなんですよ。だから、直近のものが今のGOATBEDですし。ライブも同じで、いつでも最新のものを観てもらえれば、それが最もGOATBEDが伝わる形になっているはずです。そうじゃない企画モノのようなライブもあるんですけど、それはそれとして。
――であれば、過去作を特に気にする必要はないと。そういえば僕も以前、GOATBEDのこれまでの作品を探ろうと思ってホームページを覗いたんですが、作り的に普通じゃない、ただならぬ雰囲気があるじゃないですか。
フフフ……ただならぬ(笑)。
――そうです(笑)。言ってしまえば、そんなに親切じゃないというか。
うん、親切ではないですね。説明とか文章は、それで陽動できてしまうというか……何ていうんだろうなぁ……“これはこうなんだ”っていうことを絵で見せつつ言葉で補足するんじゃなくて、結局みんな文字を読んで、それがすべてになっているところがある。例えば、美術館に絵を見に行ったとして、そこに何も説明はないですよね。タイトルしか書いてないわけで。ホームページとかの作りは、そういうものと少し近いところがあると思いますね。
――ああ、なるほど。一方で、実のところGOATBEDの音楽は、それほど聴き手を選ばないものだと思うんですよね。
たぶん、ボーカルがあるというところですよね。
――そうなんです。しかも、その歌はメロディアスだし、とっつきにくさはなくて。「GOATBEDと cali≠gariは完全に別物」と以前から公言してましたが、それにより食わず嫌いをしてしまったらもったいないなとも感じているんですよ。
ああ……ダメじゃないですか(笑)。
――(笑)もちろん別物ですけど、石井さんの確固たる存在感自体は変わらないんですよね。cali≠gariもEX-ANSもセッションで参加するようなものも含めて、そこにある歌や声は絶対に揺るぎなくて。だからGOATBEDの音楽も、届くべき人に、広く届いて欲しいものですし。
確かに最近はね、そう思ってるんですよ。昔は全然そんなことは思わなかったんですけど。好奇心からいろんなやりたいことがあって、自分の好き勝手やっていて、自分が求める世界が作れたらそれだけでいいや、みたいな想いがあったんです。だから人に聴いて欲しいとか、知らない人に届けたいといった気持ちがそんなにはなかった。音楽をやっていれば当たり前の欲なんでしょうけど、最近はそういうことを思いますよ。
――そこは大きな変化ですね。
曲を作って音源を残してライブをやったりするわけですから、今はたくさんの人にライブに来てもらいたいですし、聴いてもらいたいなと。みんなが普通に思うことを思うようになった、っていうだけですけどね。何でですかね? 長くやってきたからですかね、自分のなかで人に聴いて欲しいと思うようなものを、ようやく作れるようになったというか。昔はすべてのことをもっと簡単に考えてたとか、そういうところでしょうね。
GOATBED
――その心境の変化が、音楽にもさらに影響を与えてきてます?
どうだろうな……昔より、音楽的にしっかりした部分があるものを作りたいなと思ってはいますね。一発芸みたいなものじゃなくて、きちんと構築されているものだったり。でも時に、ものすごく破綻したりするようなものも。頭で全部考えるのも良くはないと思うんですけど、きちんと考えて作る部分と、勢いがある本能的にやってしまうところのバランスが良くなってきたのかな……昔みたいに何かを狙うのではなくて、本来自分が持ち合わせているバランスに近くなってきた。逆に、自然なまま作っていると似た感じの曲ばかりになっちゃうから、あえてこれはやめておこうということはありますけどね。
――なるほど。それで今現在、ミニマルな2人だけのユニットという形態に着地している理由は?
GOATBEDは解散したつもりでしたけど、もう一度やるとなり、一緒にやる人間を探すとなった時に、そもそもそういった知り合いもいないですし。知らない人を紹介してもらうのも、なんか……そういうんじゃないし、俺(笑)。
――はははは! そういうんじゃない、って(笑)。ゼロから関係性を構築していくことを考えると……。
それだけでもう、全部白髪になってしまいますからね。そういうなかで兄弟がデザインの仕事をやっていて、自分が音楽をやるときにそういった部分が大切な要素として必要だったので、そこを補える人間をメンバーにしてしまえば話が早そうだし、兄弟であればストレスなくできるんじゃないかなと思ったんです。始めてみて、やっぱりしっくりきたし。2人で足りないと思う時があれば、サポートとして誰かに参加してもらう、そういう形が一番自由が効くなと思ったんですよね。この形が一番長く続いているので正解なんでしょうね。俺自身も他の誰かとやる時に、(パーマネントメンバーではなく)“参加”という形であれば全然構わないんですけど。
――自分がメンバーとして名を連ねるバンドは、“あちら”が一つあればいいと。
そうですね……まあ、あちらも、ちょっともう“参加”してる感じなんですけど。
――まあ、そう言わずに(笑)。現在のライブも基本は2人編成になるんですよね。
基本的には2人というベーシックなスタイルがあって、ドラム入りの音源をリリースしたらドラマーに参加してもらったり、特殊なライブ会場でやった時には、舞踏家のような方やピアニストの方に参加してもらうこともありますね。ただ、それが面白くて、そういうものを2年ぐらい前に立て続けにやりすぎた感じがあります(笑)。で、去年ぐらいから、今はまた2人のスタイルで、ベーシックのGOATBEDを更新していこうというところですかね。映像に関しては、いわゆる VJ的な映像とはちょっと違うものを最近みせられているのではないかと思っているんですよ。だから、それぞれのライブが一個一個の独立した空間として楽しめるようなものにできればと。あとはなんか、いい匂いがしてくればいいんですけどね。
――アロマ的な?
例えば……(ライブ制作会社スタッフに向かって)美味しい匂いってあります?(笑)
――(笑) GOATBEDのライブでお腹が空いても妙ですけど。
まあ、観る側も決まったノリやフリとかいうものはまったくないので、好きなように楽しんで欲しいですし。あと、面白い人を見つけたときは、俺にMCでちょっとツッコまれますけど(笑)。ずっと気になるような人には、ちょいちょい何か言いたくなる。
――そんなところは意外に思われるかも。もっとステージと客席が断絶されたような空間で進んでいきそうなムードがあるので。
ああ、そういう時があってもいいと思うんですけどね。でも、いつもそうなると疲れますしね。だから自然体ですよ。俺は物事に対して、あんまり入り込めるタイプじゃないんで。常に俯瞰でいるというか。音楽に乗っかってる感じはあるんですけど、入り込んでる感じはあまりなくて。
――我を忘れて、みたいなことはないと。
そう。いつでも我は覚えてます(笑)。
――新たな石井語録が(笑)。先日のcali≠gariの豊洲PIT公演を観ながら、ふと思ったんですよね。今この瞬間、石井さんは何を思いながら歌っているんだろうなって。
無心は無心だと思うんですよ。それはボケっとしてるってことではなくて、何も意識していないので。例えば、このタイミングで手を挙げて煽ってやろうとか、お前を指さしてやろうとか(笑)、 そういうことは意識してないから。
――純粋にクオリティの高い歌、音楽を届けようということを第一に考えてることも多いのかなとも思ってました。
そうですね。特に歌は、体調がどうであろうと一定のレベルのものをきちんと届けなくてはいけないなっていう気持ちは、ここ数年強まってますね。トラブルや体調のせいで、ワンツアーまともに歌えなかったことがGOATBEDでもcali≠gariでもあって。そういう時にはいろいろ思い知るというか、考え方が覆るようなことがあったんですね。元々俺は、どちらかというと“自分にとって歌なんか別にどうでもいい”みたいな感覚でやってたんです。だから、そうやって歌えなくなった時に、“俺にとって歌はどうでもいいんだから、歌えなくなっても大したことねーだろ”と思って挑んだんですが、まったくダメなわけですよ。何もできねえじゃんって打ちのめされて……ちょっと自分で引くぐらい(笑)。
――実は思っていた以上に、自分にとって大事なものだったと。
そう。“ああ、ごめんなさい。一生懸命やります”って。cali≠gariのツアー中にポリープになったのと、GOATBEDもね、ツアー初日にライブ会場のマイクを使ったら、そこから菌が感染したことがあったんですよ。それでワンツアー全然歌えないことが立て続けにあって、いろいろと自分を顧みる瞬間がありましたね。
――繰り返しになりますけど、その歌心の部分を入り口にしてGOATBEDに入ってきてもいいわけで。
ええ。ライブに来てるお客さんは、俺が趣味で聴いてるような音楽を好きな人ばかりが集まってるわけではないし。cali≠gariが好きだったり、ゲームの音楽を担当した時に興味を持ってくれた人たちとかもたくさんいますから。ただ、元々は歌の部分が好きだった人たちも、ライブに来ているうちに今度はテクノ的な要素に慣れてくるというか。今はワンマンで20曲ぐらいやるとしたら、そのうち5~6曲ぐらいは平気でインストがあって、最初は結構しんどそうだったけど、意外と当たり前のように受け入れてくれるようになっていたりするので……決して大好きではないと思うけど(笑)。
――だとしても(笑)、そこで知るきっかけにはなるでしょうし。石井さんのなかで、自分の血肉となっている音楽を伝えて継承していってもらえたらという想いもあります?
そうですね。それがあるからカバーとかも含めてやってきたんでしょうしね。自己満足だけじゃなくて。
――ちなみに、2人のみのユニットで兄弟であることのやりにくい部分はないですか。
俺は、やりにくさはないですね。(隣にいた実弟・雄次を見て)あるのかもしれないから、聞いてみてください。
GOATBED
――いかがですか?
石井雄次:他でバンド活動とかをしたことがないので、比較対象がないですから。だから今がやりにくいのかどうかも分からなくて(笑)、これが当たり前というか。だけど、特別やりにくいって感じたことはないですね。
――よかった(笑)。こんなにも身近で共鳴し合えて、しかもそれぞれの形で才能を持った、すごい血筋ですね。
それが実は、血筋っていうことでもなくて。その親とか、おじいさんとおばあさんのどこかにそういう人がいたのかというと、びっくりするぐらいまったくいないですから。まあ、俺の場合は子供の頃から……小学3年生ぐらいにはBOOWYとか聴いてましたよね。生まれが群馬県だからっていう部分はあるんですよ。詳しくは分からずとも、ある種ポップスとして、それぐらい群馬県の人には浸透してたので。ただ、自分たちのことを“すごい”とは言ってくれましたけど、そんなに大したものになったわけでもないですからね。
――いや、やっていることは最高にカッコいいじゃないですか。
ホントですか? そう言っていただけたおかげで、今ちょっとしたGOATBEDでの一つの到達点に行けました(笑)。
――やめてください(笑)。石井さんがそういう風に言うと、どこまでがジョークなのか考えさせられるんですから。
いや(笑)、“意外とそうなんだ”って結構思うんですよ。へぇ~と思って。そうやって言われたことを忘れなかったりしますよ。
――おお、であれば良かったです。そして直近では、8月13日と14日に品川にあるクラブeXでGOATBEDのライブが開催されますが、会場を見たら丸いじゃないですか。
丸いですね。なので、円型ステージを中央に設置します。360度のモニターも付いてますから……そこはもう映像担当の方が頑張ってくれるんでしょうと。その日だけの特別な映像とか作ってるんじゃないかなと思います。
――この特殊な形はGOATBEDにハマりそうな予感もしますし。
面白そうですよね。それに、かなりたくさん新曲をやるライブになりますから。そもそも会場で新しいアルバムを先行発売するので、今もずっといろんなものをこのライブに向けて作っていて。誰も聴いたことのない曲を聴けるので、新鮮な会場で新鮮なライブを観られると思います。……ただ、いろんなところに(観客が)いるわけですよね? 普段、後ろを向いて変なことをやってることが多いので気が抜けないですよね。
――しかし、GOATBEDのアクティブな活動の傍ら、cali≠gariも動いていて……。
cali≠gari、何かやってるんですか?
――いや、新しいアイテムが出ますよね?
ああ、その作業はもう終わりました。てっきり、その後にまた何かやってるのかと思って。
――あのバンドの場合、メンバーがこうやって近況を知ることもありえそうですからね(笑)。話を戻すと、最初に話した通り、新曲ばかりのライブから入ったとしても、GOATBEDが何たるかが分かるものになっていると。
そうですね、そこは間違いなく。……それと、まったくその中身とは関係ないグッズもいっぱい出しますけど。グッズが全部プールセットみたいなものになっていて、ライブ会場でグッズをまとめて買ってくれれば、プールに持っていくものの半分ぐらいが揃うはずです。
――……ところで、何でプールなんですか?
え? だって夏じゃないですか(笑)。音楽も含めて、全部真剣に考えてああなっているんですよね。
取材・文=早川洋介

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