【インタビュー】百足、圧倒的ボキャ
ブラリーと華のあるキャラクターで飛
躍が期待されるNo.1ラッパー

高校年代のフリースタイルMCバトルの頂点「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」で、平成最後の第15回大会を制したのは東京、武蔵小山代表のラッパー百足(むかで)だった。並みいる強敵をストロングスタイルでなぎ倒して見事初出場初優勝を飾ったその圧倒的ボキャブラリー、韻の固さ、勝負師の凄み、何たって華のあるキャラクターで今後の飛躍が期待されるNo.1ラッパーだ。動画配信サイトにアップされた新曲「FREEDOM」に続き、制作中のミニ・アルバム(*タイトル/発売日未定)について、ラッパーとしての過去と未来について、誰もが知りたい百足のプロフィールにぐっと迫ってみよう。

■バトルイベントにはみんなビクビクしながら行ってました
■でも、でっかい舞台に何回か立ってビビりはなくなったです

──あらためて「第15回高校生RAP選手権」の全バトルを見直したけど凄かったですね。プロレスで言うストロングスタイルというか、堂々と相手の技を全部受けた上で倍にして返すみたいな。これはマジ強いなって感じました。

百足:「選手権」って野球で言う甲子園みたいなところがあって、出たら有名になれる感じなんですね。俺は期待されていたみたいなので、そういう戦い方をするべきだって感じでした。

──しかも初出場初優勝でしょ。

百足:13回、14回も受けていて、13回に関しては受かっていたのに諸事情で出られなくなった。14回はリスナーが”百足を出せ”みたいな感じだったんですけど出してくれなくて。期待されてる人って受かんないみたいな、訳のわからない何かの意図みたいなのがあって13回と14回は出られなくて、やっと15回で獲ったみたいな。元々は13回、14回に出てた奴より有名だったんですよ、MCバトルでは。その前にも「00世代王者決定戦」みたいな大会で優勝していたんで。だから15回で初出場なのに風格があったみたいな。

──やっぱり「高校生RAP選手権」を獲ったのはでかい?

百足:いやー全然違いますね。ステイタスになるというか。“〇〇大会優勝”と言われてもみんなピンと来ないけど、“高校生RAP選手権で優勝した”って言ったら、地元のラップを知らない子たちも“マジ!?”ってなるから。メディアに出るってすごいですね。一気に知られる。自分も「選手権」見てMCバトル始めたんで、高校2年生ぐらいの時に。

──え、そんな最近なんだ。それまでラップやってなかったの?

百足:やってなかったです。

──何それ。天才じゃん。

百足:ずっと見てはいたんですけど。オーディションは11回ぐらいから行っていました。

──ラップに出会うまではどんな少年だったんだろう。

百足:3歳から水泳をやっていて、全中(全国中学校競技大会)とかに出たりしてたんですけど、スランプ入っちゃって。プラスめんどくさがりだし、一個夢中になると他ができなくなっちゃうんで。それこそサイファー(路上フリースタイル)ばっかしていて、学校に行きたくねえってなって、そのまま勢いで辞めちゃった。

──元々音楽は好きだった?

百足:そうですね。母がパンクロックが好きで家にCDがいっぱいあって、中2ぐらいの時にHi-STANDARDさんを聴かされて、Green Dayとかメロコアにめっちゃハマって。バンドをやりたかったんですけど、同世代にメロコア好きがいなくて、みんなSEKAI NO OWARIさんとかRADWIMPSさんとかを聴いてたんで、バンドを諦めてラップやっちゃおうという感じでした。

──ラップ好きは周りにいたんだ

百足:MCバトルが好きな子たちがいて、みんな8小節切れないけどとりあえず有名な人のヴァースを言って“ウェーイ”みたいな(笑)。ビートさえあればどこでもできちゃうんで、路上でやったりカラオケボックスの中でやったり。スピーカーからビート流してマイク1本で交代でやってるみたいな、カラオケサイファーで(笑)。歌わないで2時間いてサイファーして出ていくみたいな。

──そりゃ楽しい。その頃は誰が好きだったの。

百足:AKLOさんです。ずっと聴いていました。にわかのラップの友達に、AKLOさんのヴァース蹴って“フリースタイルだよ”とか嘘ついて自慢したりして(笑)。あと聴いてたのはSALUさんとかWILYWNKAさんの変態紳士クラブとか。それこそBAD HOPさんもずっと聴いていた。品川区民からしたら、かけ離れすぎてる生活というか、こんなの日本にあるのか?みたいな。
──品川と川崎は全然違う(笑)。多摩川一本越えるだけで。

百足:ここらへん(品川区)には不良がいないせいで、逆にそういうリリックに憧れちゃってたみたいな。品川区は全然何もないです。子供、おじいちゃん、おばあちゃん、みたいな感じです。公園と児童センターがたくさんあって。

──サイファー仲間も不良仲間って感じじゃなく。

百足:みんな真面目な子で、塾帰りに来るみたいな(笑)。バトルイベントに行くとなったら、クラブだから、みんなビクビクしながら行ってました。でもそうやって気持ちが強くなったというか、ビビリなところがあったんですけど、でっかい舞台に何回か立ってビビりはなくなったです。

──学校辞めたけど、もう一つの学校みたいな感じでもあるのかな。

百足:そうですね。Familyっていうお世話になってる渋谷のクラブは、学校というか塾みたいな感じです。毎週金曜に先輩がイベントをやっていて学校に遊びに行くみたいな感じ。

──クラブで怖い目に遭ったことは?

百足:ベテランの人とバトルして、終わったあとに“てめえ、裏に来いよ”みたいな(笑)。俺はないですけど、そこはバトルが強くて良かったです。バトル弱い子とか空気を読めない子って、ベテランの人に“おまえの音源聴いたけどクソダサかった”とか言っちゃって、そういうことじゃなくて違う攻め方があるのに、不器用な子は全部言っちゃうから。“おまえヒップホップわかってねえな”ってことになっちゃって、あー可哀そうみたいなことはありましたけど。

──バトルだから何言ってもいいって考え方もあるじゃない? 何が正しいんだろうね。

百足:難しいですね。バトルだから何言ってもいいという意見もわかるけど、普通にヒップホップの延長線上と考えたら、何言ってもいいわけじゃない。自分は相手にディスというよりは、“俺が百足だよ”というラップをするんで、全然巻き込まれたことはないです。これは言っちゃいけないなということは、なんとなく把握してます。

──スマートだねえ。

百足:画面越しのMCバトルしか見てない中学生とかが夢を持ってクラブとかに来ると、そういうことが起きやすい。そうやって学んでいくのかなって。今有名な人も昔の動画を見たら超クソガキみたいな感じだし(笑)。

──百足くんはもう高校世代ではないけど、これからバトルはどうするの。

百足:今までバトル、バトルという感じだったんですけど、曲を出し始めてから、バトルを見てるリスナー、曲を聴いてるリスナー、バトルも曲も聴くリスナーとにけっこう分かれてることに気づいて、本当に音楽を聴いてる人の評価がちゃんとほしい。百足という名前のPVが上がっていたら、やっぱりバトルを知ってる人が見るわけじゃないですか。それが悪いというわけじゃないですけど、百足のバトルを知った上で聴く人は中高生が多いし、インスタライブをしていても、“今一番戦いたい相手は誰ですか”みたいな質問がくるんですが、別に常に戦いたいと思ってるわけじゃないし(笑)。アンチの奴らもだいたいバトルしか見てないし、そういうコメントを見ると鬱になっちゃう。バトルの百足よりも曲の百足として見てほしいのに、そういう色眼鏡ついちゃうと困るんで、バトルは年に1、2回くらい出て、“百足がバトル出るんだ”みたいな空気になれればいいかなって。それこそRude-αくんとか、今は曲でがっちりやってるけど、1年に1回くらいバトルに出るんですよ。今までバトルばっかり出てたRudeくんなのに、“え、Rude-αが出るの? 見に行こう”みたいな特別感が出る。バトル出すぎちゃうと特別感もないし、ライブをしてもバトルMCのライブっていう見られ方になっちゃうんで、今までバトルでお世話になったオーガナイザーさんが何人もいるんで、その人たちのためにちょっと出つつも、減らして、最終的には1年に1回くらいでいいんじゃないかなと思っています。バトルに出すぎちゃうと、バトルの客層しかつかないんで。

──賢いなあ。

百足:「選手権」に出ていても、今マジで何してんの?っていう人がけっこう多いんで、そうはならないように。

──ということは、ラッパーとしての今後の人生設計はけっこうはっきりしてる。

百足:そうですね。あとに戻れないところもあるし、一番やっていて楽しいことを仕事に変えられるのがヒップホップなのかなと思うんで。最終的に売れなくなったとしても、ずっとヒップホップに関わっていたいというのはあります。たとえば水泳って個人競技だからタイムを切らないと始まらない。ずっと一人の戦いなんですけど、ラップは繋がりがあるし、ヒップホップをやっていなかったらこんな怖いおじさんと絶対話してないだろうとか、いろいろあって(笑)。すごいなと実感しますね。失礼な言い方ですけど、バカでもできるというか一夜でヒーローになれるし大逆転があるのがヒップホップだと思うので。それこそ「選手権」とかに無名の子が一回目に出て優勝して一夜で大逆転みたいな、すごいなと思います。
■“メイク・マネー”とか“ビッチ”とかあんまり言いたくない
■そういうリリックは書けないんですよ(笑)

──音源の話もしたいんだけど、今作ってるのはミニアルバムですね。まだ2曲ぐらいしか聴けてないんだけど、どんな作品になるんだろう。

百足:7曲なんですけど、もう全部完成していてミックスして出すだけです。

──ミュージックビデオが公開されている「FREEDOM」がリードトラックになるのかな。

百足:元々「FREEDOM」の前に3、4曲作っていて、どれか1曲を最初に上げようとしたんですけど、「FREEDOM」ができた瞬間に“これだ”ってなったんで。上がってるのは「FREEDOM」1曲だけど、ライブで他の何曲かをやっているんで、みんなが楽しみにしてる曲も入ると思います。

──「FREEDOM」はインパクトがものすごい曲。いきなりエレキ・ギターのリフが飛び出して、あれ? ロック?みたいな。トラックはタイプライターさんですか。

百足:そうです。“こういう感じの曲作りたくて”と言ったら、その場でトラックを組んで、ミキシングしてくれる人がギターを弾いて、“これ入れとくね”みたいな。5分くらいでなんとなくのトラックができて、“これでフリースタイルしてみて”って感じで、その日にできました。
──ロックっぽいしトラップっぽいしハウスっぽい。めちゃくちゃ明るくてキャッチーだけど斬新な曲。どういうイメージだったんですか?

百足:それこそメロコアっぽい明るさがほしいなと思って、「FREEDOM」の前に作った3、4曲は全部オートチューンをかけてエモい感じのラブソングだったんですけど、やっぱりいろんな層に聴いてもらうには明るい感じのキャッチーなほうがいいかなと思って、キャッチーさ重視で作りましたね。トラックを聴いた時に、友達とライブハウスで騒いでるような、PVがまさにそうなんですけど、そんなシーンが浮かびました。

──あえてJ-POP寄りと言っちゃってもいいかな。

百足:USというよりかは、日本人が受け入れやすいメロディラインを入れて。「高校生RAP選手権」で優勝してすぐ出したんで、時期的にも5月とかで、ちょうどいい感じにフィットしたかなというハマり方でした。

──旅立ちの歌というか、応援歌的なメッセージの曲ですよね。

百足:そうですね。ラッパーって“元から才能あるぜ”っていう感じが多いですけど、自分は全然違って元々才能あったわけじゃない。だけどそんな奴でも一歩踏み出せば簡単にできちゃうよっていう、一般人でもマイク握ったらラッパーになれるっていう感じです。“メイク・マネー”とか“ビッチ”とかあんまり言いたくないんで(笑)。そういうリリックは書けないんですよ。

──そりゃリアリティがない(笑)。18歳で。

百足:札束とかクラブ、女とか、そういう経験がまずないんで。等身大って感じです。

──やっぱりリスナーは同世代を想定している?

百足:やっぱり上の人は聴いてないんで。中高生が“俺にもできるかも”って感じで聴いてくれれば。

──百足くんの世代は、2000年生まれの「00(ゼロゼロ)世代」っていう言い方をされているでしょ?

百足:たまたま2000年生まれにすごい奴らがたくさんいて、なんでかわかんないですけど。元々、藤KooSという奴とONO-Dっていう奴がいて、3人で“同い年?俺ら00だね”とか言ってたのが、“え、Novel Coreも、HARDYも00なの?”ってなってどんどん増えて、00ってすごいねって。00世代だけのMCバトルもあって全員有名な奴らばかりで。

──しかも仲が良いんでしょ。

百足:仲は良いですね。みんなうまいんで、大舞台で会うことが多いんですよ。地方の00の子も、うまいから東京に呼ばれて全国各地の00が何回も東京に来るんで俺んちに泊めたりしてて。母は選手権に出た奴はみんな知っていて、“あーHARDY、韻マンに勝てたね”とか言って(笑)。みんなも俺のお母さんを知ってるみたいな。
──00世代の繋がりは強みになりそう?

百足:高校を途中で辞めちゃった俺の青春というか。同じ世代のいろんな方言の子たちが来て、ずっと一緒に遊びながら“そういえば00とか言ってたね”ってなればいいかなと思いますね。00というジャンルができたことが嬉しいです。リスナーの人も“僕も00世代です”と言ってくれたり、あと俳優の人とか、インスタグラマーの人が“僕も同い年です”とか、常に00と言ってるおかげで年がわかられてるというか、ラッパーの年齢って見た目でわかんないじゃないですか。でも一瞬でわかるんで、そこで会話が成り立つから。

──すごく良いキャッチフレーズ見つけた。

百足:最初に言いだしたのはリスナーなんですよ。藤KooS、百足、ONO-Dの3人に“ゼロが二つ付くね”ということで、藤KooSとONO-DはOが二つあって、百足の百を100にしたらゼロが二つになることをリスナーの誰かが見つけて“うわー00だ”みたいになって。まあ無理やり感はあるんですけど(笑)。リスナーが深読みして俺らも楽しくなっちゃって、みたいな感じです。

──日本のヒップホップの中心になって、ちゃんと売れてください。下の世代に憧れられるように。

百足:最近やっと高校2、3年の後輩が出て来て、先輩面できるのが面白いです(笑)。学校辞めてからも先輩面できる機会が俺にあったんだって。クラブで後輩に会って“おっ、おつかれ”みたいな(笑)。“大丈夫、俺もお前の年にはそうだったから”とか、マウント取っています。

──ニヤついてる(笑)。いいね。個人的な近未来の目標は?

百足:同じジャンルにとらわれずに、“こういうのもできるんだ”っていうことをやり続けたいですね。次のPVも全然ヒップホップじゃなくてフューチャー系だったり、あんまりとらわれないほうがずっと楽しめるかなと思うんで。逆にオートチューンでエモい感じのトラップとかも大好きなんで、驚かれながらいつかスタイルを定着させていきたいです。若いうちにいろいろやっておきたいです。何でもやりたいですね。

取材・文●宮本英夫

百足は、カラオケの第一興商が強力プッシュする8月度D-PUSH!アーティストに決定していて、「FREEDOM」は楽曲配信されており歌唱が可能だ。また「FREEDOM」のミュージックビデオは、カラオケ背景映像に今だけクリップ(期間限定映像)として配信中。さらに、カラオケ演奏の合間に放映される音楽情報コンテンツ「DAM CHANNEL」内のD-PUSH!コーナーにゲスト出演し、パーソナリティとのトークを楽しませてくれる。DAM CHANNEL(目次本)D-PUSH!ページでは、ここでしか読むことのできないインタビュー記事とともにアーティスト写真、ジャケット写真が掲載される。そしてリリース情報、インタビュー記事が同社が運営するwebサイト「DAM CHANNEL」(https://www.clubdam.com)でも掲載される。カラオケ店やWEBで、百足との出会いを楽しんでほしい。

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