SIRUP アルバム『FEEL GOOD』がもた
らす自由なダンスフロアーー初のライ
ブツアー大阪公演

6月28日金曜日。大規模なサミットに伴い厳重な警備が敷かれ、いつになく人通りの少ない大阪の夜。開放的な週末を求める人々は、梅田クラブクアトロに集まっていた。今夜ここに粋なダンスフロアをもたらすのは、地元凱旋となるSIRUP。2017年以降、シングルとEPのリリースと精力的なライブ活動を重ね音楽ファンの間で着実な人気を得る彼が、ファーストアルバム『FEEL GOOD』を引っさげて行う初のライブツアーの初日である。ミラーボールが回る中、DJブースから彼の盟友Mori Zentaroがディスコティックなナンバーを送り出し、主役の登場を前にフロアはすでに心地良い熱に浮かされていた。
Mori Zentaro
ステージにバンドメンバーが姿を現すと、超満員の観客たちは拍手で迎えた。この日のライブを支えるのはKen-T(Sax/Flute)、RaB(Dr.)、Funky-D(Ba.)、Akiee(Key.)、HISA(Gt.)、Shin Sakiura(MNP/Gt.)。SIRUPも含め全員が関西に深い縁のある、盤石の布陣だ。ミラーボールが止まり暗転すると、ステージに置かれたふたつのネオンライトが「SIRUP」「FEEL GOOD」という文字を浮かび上がらせる。そして赤やオレンジといった暖色の光が次々と灯り、ミドルテンポのグルーヴィーなイントロが始まった。Ken-Tの情熱的なサックスソロに誘われるように、SIRUPがステージに駆け込む。「Everybody!!」 彼が笑顔で叫ぶと、人々は両手を上げて応えた。オープニングを飾る「PRAYER」では真っ白な光が点滅し、SIRUPは葛藤の先に見出す明日を力強く歌い上げる。<笑ってやれ!未来なんて生きてやれ!Baby!!>最後のサビでは神々しいほどに伸びやかなフェイクが響き、どよめきの混じった歓声が会場を満たした。
「地元大阪一発目、楽しみです!」 その一言とともに、間髪入れずに続く「Why」。冒頭から深みと浮遊感のあるシンセサイザーが包み、サビに入ると一転しソリッドな歌声と演奏が塊となってフロアを圧倒した。曲の終盤、ステージに立つ7人の影を寒色の照明が怪しく浮き彫りにする。
バンドによるミステリアスなブリッジがセクシーなミディアムナンバー「バンドエイド」へと繋ぎ、ピンク色の明かりへと変わると歓声が沸いた。後半はライブならではのダンサブルなアレンジを効かせ、ゆったりとした音に抱かれた観客たちは恍惚とした表情で体を揺らした。
SIRUP
「自由に踊っていいねんで。始まったところやで!」 最新EPのリードナンバー「POOL」のイントロが聴こえ、フロアが一段と熱を帯びる。ラップに入ると腰を低くし、挑発的ともとれるような目でひとりひとりを見据えながら練り歩くSIRUP。サビでは誰もが思い思いに手を上げ、ステージとフロアは「Oh」「Ahh」「Oh」「Ahh」と声を交わした。この曲でも躍動感溢れるライブアレンジを挟み、最後にはSIRUPの迫力あるフェイクが炸裂した。
「Last Lover」の優しげなイントロに乗せ、SIRUPは「今日は裏でG20という大きいイベントをやっていますけど、来てくれてありがとう」と笑いを誘う。ピースな空気感で1曲届けたあと、この日初のMCへと移り、「ついに始まりましたね、『FEEL GOOD TOUR』。楽しみにしていて、ずっとニヤニヤが止まりませんでした」と目を細めた。「初めて僕のライブに来る人もいっぱいいると思うけどルールはないので、「どんな感じかな?」と思っている人も、今感じてる通りに楽しむのが正解です。引き続き盛り上がっていきましょう!」
SIRUP
RaBによるタムが会場いっぱいに鳴り渡り、SIRUPのすべてが始まった代表曲「Synapse」へ。<宇宙船みたいに I can’ t feel the gravity>ミラーボールが眩しく輝く中響くそのしなやかな歌声に、フロアの人々も解き放たれたように声を上げ、<Da-da-da-ta-da-ta><Tu-lu-tu-tu-tu-tu>今やお馴染みとなったフレーズでは大合唱が起きた。会場は束の間涼しげな雨音に包まれ、続く「Rain」。梅雨を迎えた季節に聴くこの楽曲はこの上なく魅力的だ。「もういっちょ盛り上がっていきましょうか、Everybody!!」 そして、この日ギタリストとしてステージに立つShin Sakiuraとともに手がけた「CRAZY」では、澄ました表情で繊細なファルセットを聴かせた。バウンシーな「Maybe」では、SIRUPの歌声に<Boom boom aah>と合いの手を入れる観客たちに、バンドメンバーたちの笑顔も弾ける。
「今年はたくさんのアーティストとフィーチャリングで共演してるんですけど、今日は大阪に来ているのでアレをやろうかなと思いまして…」 SIRUPがそう切り出すと、チルなパーティーチューン「STAY feat. SIRUP」のイントロが流れ、どよめきの中大阪のラッパーWILYWNKAがステージに踊り出る。「調子はどうですかクアトロ!!」 この日限りのコラボレーションに人々は歓喜した。特徴的なロウボイスで聴かせるクールなバースと堂々たる佇まいで大いに盛り上げ、1曲ながら確かな存在感を示したWILYWNKAは、SIRUPが「Give it up for WILYWNKA!」と称えると「みなさん楽しんで。I love you Osaka!」と一言残し颯爽と去って行った。
SIRUP
WILYWNKAを見送ったあと、ステージ中央に持ち出したマイクスタンドにマイクを収めるSIRUP。「前半突っ走ったので、そろそろ休憩したいですよね」 サックスの柔らかなリフが、彼のライブで随一の人気を誇るバラード「LOOP」の始まりを告げた。序盤はAkieeのキーボードと対話するようにそっと言葉を紡ぐ。サビでも淡い質感はそのままに、厚みのあるコーラスで歌詞の切なさを増幅させた。終盤では「Sing it」と促すSIRUPにうっとりと聴いていた観客たちも「Yeah…Yeah…」と歌い、楽曲が終わるとため息にも似た感嘆の声がフロアを満たした。
「フィーチャリングといえば、今日はShin Sakiuraがいます!」 Shin Sakiura名義で共演した「Cruisin’ feat. SIRUP」では一斉に左右に手を振り、会場が一体となる。鮮やかな緑のライティングで「Evergreen」を届け、「一瞬」が続いた。HISAによるメランコリックなアコースティックギターの音色に乗せ感傷的に歌う様子は、まるで部屋にたった一人きりのSIRUPが自らに語りかけているように見えた。コーラスが加わりドラマティックに広がるサビでは、夕焼けのような真っ赤な光が淋しげな詞世界を彩った。
「もう後半戦。みんなが日々いろんなストレスを抱えていると思うけど、最後まで思いきり発散しよう!」 「No Stress」では歌詞の一節を<騒がしいOsakaの夜を...>に変えて沸かせ、リラックスムードのまま続いた「SWIM」では、「Good music!」「We love it!」というコールアンドレスポンスでフロアとステージが音楽への愛を確かめ合った。その日の梅田クラブクアトロが満員であることを忘れるほど気ままに、それぞれが自由に音に身を委ねていた。
SIRUP
SIRUPは「最後の曲です。嫌やなぁ……俺も一緒です」と名残惜しそうに前置きし、RaBの軽快なビートに乗せてバンドメンバーを紹介していく。各々がスキルフルなソロで魅了し、そのまま「Do Well」へと突入した。赤、オレンジ、緑といったミュージックビデオを思い起こさせる色彩が交錯する中、骨太なベースライン、キレのあるギターのカッティング、華麗なフルートなど、バンドメンバー全員の個性がステージ上で融合し極上のダンスナンバーを織り成す。その上を自在なフロウで乗りこなしながら、フロアの人々とアイコンタクトをとり一人残さず踊らせていくSIRUP。サビを迎えると激しく光る照明の中、熱く演奏するステージの面々と飛び跳ねる観客たちは持てるエネルギーを爆発させた。「Do Well!!」「Feel Good!!」「SIRUP!!」最後にコールアンドレスポンスで会場を一体にし、再度バンドメンバーたちを労ったあと「ありがとう!最高の1日になりました!!」と口にしてSIRUPは立ち去った。
7人全員の姿が見えなくなるや否やすぐさまアンコールが起こり、バンドメンバーとともにステージに戻ったSIRUPが「帰ってきたよ大阪!」と笑顔を見せると観客たちは「おかえり!」と暖かく迎えた。アンコールとして、ANIMAL HACKとともに発表したエレクトロナンバー「Days Gone By feat. SIRUP」を、生音を活かしたバンドアレンジでしっとりと披露した。「本当にありがとう。最後の曲、最高に楽しもうぜ!」 最後に贈られたのは「LMN」。気負わず肩の力を抜き、ありのままの自分で毎日を楽しもうという、SIRUPが音楽で発信するメッセージを凝縮したような1曲だ。人々は終演を惜しみながらも、この空間に居られる幸せを噛みしめながら左右に大きく手を振った。「今日はぎゅうぎゅうの中、踊ってくれてありがとう。これからもずっと踊ってください」SIRUPがそう語り、出演者全員がステージに並び一礼する。7人がステージを後にしても、この夜に浸っていたい観客たちからの拍手は鳴り止まなかった。
SIRUP
初めてのライブツアーを目撃して確信したのは、場所や規模に関わらず、SIRUPが音楽を運ぶ場所には誰もが自由に体を揺らせるダンスフロアが生まれるということだ。「これからもずっと、踊ってください」 このシンプルな言葉に、彼の意志が見えた気がした。
取材・文=Natsumi.K

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着