パナソニック汐留美術館『マイセン動
物園展』レポート リアルで愛らしい
動物たちが勢ぞろい!

高級陶磁器ブランドとして知られるドイツのマイセンが製作した動物をモチーフとした作品を紹介する『マイセン動物園展』(会期:〜2019年9月23日)が、パナソニック汐留美術館にて開催中だ。
会場エントランス
300年以上の歴史を持つマイセンは、1708年にヨーロッパではじめて磁器の製造に成功し、1710年には王室磁器製作所の設立を王が布告した。
原型制作者:不詳 《スノーボール貼花装飾鳥付カップアンドソーサー》 1820-1920年頃 個人蔵
原型制作者:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー、19世紀後半:エルンスト・アウグスト・ロイテリッツ 《花鳥飾プット像シャンデリア》 19世紀後半 個人蔵

本展はマイセンの動物にテーマを絞り、約120点のうち8割を占める彫像作品や関連資料を通じて、マイセンの造形と装飾をたどるもの。

原型制作者:オットー・ピルツ 《二頭のキリン》 1907-1923年頃 J's collection蔵

パナソニック汐留美術館学芸員の岩井美恵子氏は、本展開催の意義について以下のように説明した。
「マイセンは創業初期や18世紀の作品に光が当てられがちだが、20世紀前半にも高度な技術があり、造形力や色彩感覚に優れた作品が存在する。その中でも動物にテーマを限定したことで、マイセンの豪奢で綺麗な食器に限らず、彫像作品がひとつの芸術作品として成立することをご覧いただく機会になれば幸いです」
一般公開に先立ち催された内覧会より、見どころをお伝えしよう。
表情豊かなマイセンの動物たちが大集合!
岩井氏は、本展のような工芸展を見るにあたり、「展示作品の中で、どれかひとつだけ自宅に飾ってみたい作品を選んでみよう、という気持ちで見ると面白いかもしれません」とアドバイスする。
原型制作者:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 《山羊に乗る仕立屋》 1820-1920年頃 個人蔵
4章構成からなる展覧会の第1章では、神話や寓話の中の登場人物に付き添う動物たちを紹介する。
原型制作者:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 《神話人物群像「ヒッポカンポスの引く凱旋車に乗るネプトゥヌス」》 1820-1920年頃 個人蔵
古代神話を題材にした彫像では、半身半馬の海馬ヒッポカンポスや、ユーモラスな表情をした怪魚が色彩豊かに表わされている。
《神話人物群像「ヒッポカンポスの引く凱旋車に乗るネプトゥヌス」》(部分)
人間を風刺した《猿の楽団》は、マイセン創設初期から作り続けられている人気シリーズのひとつ。擬人化された21体の猿たちの中には、きちんとした身なりでフルートを吹く猿もいれば、娼婦のような格好で楽器を奏でる猿もいる。それぞれ、異なる表情にも注目したい。
原型制作者:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー、ペーター・ライニッケ 《猿の楽団》 1820-1920年頃 個人蔵
自然界を形作る四大元素の「地」、「空気」、「火」、「水」を水差しの形態に表した《人物像水柱「四大元素の寓意」》は、マイセンの圧倒的な技術による優れた造形力が見ものだ。
左:原型制作者:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 《人物像水柱「四大元素の寓意<火>」》 1820-1920年頃 個人蔵、右:原型制作者:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 《人物像水柱「四大元素の寓意<水>」》 1820-1920年頃 個人蔵
愛好家の多い「スノーボール」シリーズから、貴重な個人コレクションまで
第2章では、器に描かれた動物や、器に施された動物たちの作品が並ぶ。その多くを占めるのが、「スノーボール」と呼ばれるマイセンの代表的なシリーズ。手びねりで作られた小さな花を、一つひとつ球体に貼り付けて装飾を施すスノーボールは、徐々に鳥類の彫刻が付け加えられることで、自然主義的な要素が濃くなったそうだ。
原型制作者:不詳 《スノーボール貼花装飾蓋付カナリア付センターピース》 1820-1920年頃 個人蔵
原型制作者:不詳 《スノーボール貼花装飾蓋付カナリア付鶴首飾壺》 1820-1920年頃 個人蔵

《スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥付透かし壺》は、ひし形の透かし彫りの中に黄色い小鳥が入れ込まれ、マイセンの高度な技術を感じることができる。
原型制作者:ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 《スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥付透かし壺》 1820-1920年頃 個人蔵
《スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥付透かし壺》(部分)

第3章では、しなやかな曲線を特徴としたアール・ヌーヴォー様式を取り入れた動物たちが集う。出品作のほとんどが個人蔵であり、「今後出品の機会があるかどうかもわからないので、ぜひじっくりとご覧ください」と、岩井氏。
展示風景
犬や猫を中心に表情豊かに表わされた動物たちの中でも、19世紀に作られた《二匹の猫》について岩井氏は、「目つきも怖くて野良猫のような、人に対して心を開いていない印象がある」とコメント。一方で、20世紀に作られた作品は、「ペットの犬猫としての愛らしさが伝わってくる」と比較する。
原型制作者:ペーター・ライニッケ 《二匹の猫》 1840-1860年 ロムドシン蔵
左:原型制作者:オットー・ビルツ 《二匹の猫》 1934-1940年頃 個人蔵、右:原型制作者:エーリッヒ・オスカー・ヘーゼル 《毛づくろいする子猫》 1917-1923年頃 個人蔵

動物の毛並みや模様に見られる優しい色合いは、「イングレイズ」と呼ばれる技法を導入したことで実現した。釉薬の中に絵の具を染み込ませて閉じ込めることにより、淡く柔らかな発色効果が得られるようになったという。
原型制作者:オットー・ピルツ 《二頭のリャマ》 1905-1923年 J's collection蔵
イングレイズの技術を多用することで、リアルな表情に加えて、曲線美を生かすアール・ヌーヴォー様式を取り入れた動物たちは、愛らしさが増したようにも感じられる。
赤茶色の炻器作品に、カタログやスケッチなどの資料も
第3章の後半では、ゾウやキリンなど大型の野生動物や、シロクマ、ペンギンといった水族館の動物たちが紹介されている。白磁の《ライオンのつがい》について岩井氏は、「色彩を省いたからこそ、オスライオンがメスライオンを見るまなざしや、メスライオンが甘えている顔がよくわかる、大人の愛が溢れている作品です」と解説。
左:原型制作者:オットー・ピルツ 《ヒョウの親子》 1913-1923年頃 J's collection蔵 右:原型制作者:エーリッヒ・オスカー・ヘーゼル 《ライオンのつがい》 20世紀 J's collection蔵
左:原型制作者:オットー・ヤール 《シロクマ》 1903-1923年頃 個人蔵 右:原型制作者:エーリッヒ・オスカー・ヘーゼル 《四羽のオウサマペンギン》 1924-1933年頃 J's collection蔵

さらに、動物の動きや筋肉の使い方を研究していたと思われるスケッチ資料も展示されているので、あわせて楽しみたい。
展示風景
第4章では、20世紀のマイセンを代表する成型師マックス・エッサーによる動物彫刻を展示する。赤茶色の陶磁器であるベッドガー炻器(せっき)で作られたオラウータンやマントヒヒのマスクは迫力満点。
展示風景
ドイツの詩人・ゲーテによる叙情詩『ライネケの狐』を磁器彫刻で表現した《ライネケの狐》は、過剰な曲線や装飾を省いた、マイセンのアール・デコ様式を代表する作品。
中央中央:原型制作者:マックス・エッサー 《ライネケのキツネ》 1924-1934年頃 個人蔵
さらに、エッサーが手がけた《カワウソ》は、1937年のパリ万博でグランプリを受賞している。岩井氏は、「見返り美人のようなしなやかなポーズや、艶やかな体表の表現が素晴らしい名品」と紹介した。
原型制作者:マックス・エッサー 《カワウソ》 1927年 個人蔵
『マイセン 動物園展』は2019年9月23日(月・祝)まで。愛らしくもリアルな動物たちが一堂に会する空間に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
※写真は許可を得て撮影しています。

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