劇団ジャブジャブサーキットが新作『
小刻みに 戸惑う 神様』で、名古屋〜
大阪〜東京ツアー公演を敢行

劇作家・演出家のはせひろいち率いる岐阜の劇団ジャブジャブサーキットが、7月25日(木)から名古屋・大須の「七ツ寺共同スタジオ」で開幕する名古屋公演を皮切りに、9月末に大阪、10月半ばには東京と、新作3都市ツアー公演を行う。
〈地方都市のとある葬儀場〉を舞台に展開する今作『小刻みに 戸惑う 神様』は、1997年の初演時にシアターグリーン賞と若尾松原記念演劇賞を受賞するなど高い評価を受けた劇団代表作『非常怪談』と表裏をなす作品として、はせが「もう一つの葬儀性を描きたい」と書き下ろした作品だ。劇作家としてそうした思いに駆り立てられた創作の経緯について、また演出面で重視した点などを伺うべく、稽古場へ足を運んだ。
劇団ジャブジャブサーキット『小刻みに 戸惑う 神様』チラシ表
── この作品は“『非常怪談』と表裏をなす作品”とのことですが、創作に至った経緯というのは?
以前から『非常怪談』のB面みたいなことをいつかやりたいな、と漠然と思っていたんですが、僕もだんだん自分の死というか、どういう風に終わっていくんだろう? とかいろいろ考えていたこともあって、そろそろ書いておこうかなと思ったんです。それで文化庁の助成金申請書類に記載するあらすじに、つい勢いで「劇作家が亡くなった」という設定を書いちゃった。その時から、これは書くのしんどいな、自分のことみたいになるだろうし手強いことを書いちゃったな、と思っていたんですけども、誰かが亡くなった後の最後をどうするか、ってのは、ある意味、普遍的な演劇的テーマみたいなところがあって、そう考えると、ちょっと荷が重いけど頑張ろうかな、と。
そんな中、親交のあった平野勇治さん(1月に逝去した「名古屋シネマテーク」の支配人)や火田詮子さん(5月に急逝した名古屋のベテラン女優)が立て続けに亡くなって、葬儀や通夜に出席しながら、余りに近いし、葬儀ネタ自体を先送りに出来ないかな、と悩んだりしたこともあったんです。せめて、亡くなったのが演劇人じゃなくて、小説の大家だったり映画監督だったり、そこをすり替えることは簡単だと思いもした。でも、もうひとつの話の柱として〈葬祭ディレクター〉という存在を考えていて、いろいろ調べていくうちに、葬儀でよくわからないことについて葬祭ディレクターが答える動画のサイトを見つけたんです。その人の言葉に死生観も含めて共感するところがあって、プロの葬儀屋が“葬儀の時にやるべきこと”と、自分の演劇に対する向かい方の方法論や“演劇でしか出来ないこと”には意外と接点があるな、と思った。葬儀の運営も、過度な演出をしてもしょうがないし、各人の亡くなった方との距離感がそれぞれあるわけだから、それを総括するようなものを段取り良く進めていくことが一番の弔いである、みたいな基本姿勢に共感しまして。それで腹をくくって、「やっぱり演劇人が亡くなった話でいくべきだ」と背中を押してもらって書き切った、という感じですね。
稽古風景より。
── 構想はいつ頃から考えていらしたんですか?
『非常怪談』は、何回も再演していたり他所でもやってもらったりしている作品ですけど、あれは田舎の、いわゆる「家通夜」の台所だけを切り取った話なので、もうちょっと今的なというか、昨今はやはり葬儀場の方で執り行われることが多い中、もうひとつ違った側面が書けないかな、と思って。
── 最近は家族葬が増えたり、葬儀の形態や規模も多種多様になりましたものね。
家族葬の方が実は香典が集まらなくて赤字になるとか、そういうケースもいっぱいあるみたいで、経済原理だけで費用が安ければいいということで本当にいいのか、みたいなこととや、ブラックな葬儀屋の話とかいろいろあって。そんなことをちゃんと書いた葬儀モノがもう一作あってもいいかな、と思いました。最初の構想は5~6年前かな。それこそ大事な人たちの葬儀に行って見聞きしたり感じたことの集大成で、なんだかネタにしているようで非常に心が痛いんだけど、やっぱり芝居にできるといいな、とはずっと思っていましたね。
でも、劇団の主宰者が亡くなる話なので、最近よく冗談で言ってるんだけど、もし僕が2年後ぐらいに急逝したりすると、きっと「あそこであんな芝居を書いてあの人は…」みたいな遺書的に取られるよなぁ、とかね(笑)。自分の劇団のそれこそ終活を描いているような後ろめたさとか、自分ネタを書いている小っ恥ずかしさとか、そういうものと戦いながらやってます(笑)。
稽古風景より
── 稽古を見させていただいて、なんだかいつにも増して不思議な感触の芝居になっているように思いました。
最近ホントに起承転結とか、観客を伏線とかで引っ張り込んでおいて、ここでこう見せよう、みたいなのが嫌で嫌で。「この人、生きてませんからよろしく」とか、さっさと見せようって(笑)。
── 生者と死者の存在が、よりフラットに描かれているんですよね。
死んだ劇作家本人が一番飄々としてしているのは面白いかなと思って。僕とは全然違うタイプの劇作家ですね、あれは(笑)。まぁでも、現実で近しい人たちの死があったから、逆に「死」そのものからの距離は置いて書けたかな、というのはあります。当初はもっと直接的な感情の部分も書こうと思っていたんですけどそれには頼らなかったですね。一番若い女優をお婆さん役にしたのなんかも、無意識に距離感からチョイスしているような気がします。
これまで以上にフラットな視点で生と死を見つめ、そこで織り成されるリアルな人間模様をつぶさに描いた本作。過去に『非常怪談』を観ている方は同作も振り返りつつ、今作との差異にも注目して鑑賞してみては? 尚、公演各都市でゲストを招きアフタートークも開催予定なので(詳細は公演情報を参照)、こちらもお楽しみに。
稽古風景より
取材・文=望月勝美

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着