「天気の子」は全方向に振りきった“
今見るべき”攻めた作品 最速上映鑑
賞レビュー

世界最速上映に参加!(c) 2019「天気の子」製作委員会 新海誠監督の3年ぶりとなる最新作「天気の子」。国内の累計観客動員数1928万人、興行収入250.3億円、全世界の累計興収約400億円(いずれも2018年12月時点/全世界興行収入は東宝調べ)のメガヒットを記録した前作「君の名は。」をうけ、上映劇場359館448スクリーン、東宝初の試みとなる19日午前9時からの上映館初回一斉上映が実施されることも話題です。一斉上映に先がけて行われた、午前0時からの最速上映に参加した「アニメハック」編集部員Gが、物語の核心にふれない範囲で一足早く感想をお届けします。
 新海作品の醍醐味のひとつが、キラキラと輝くような背景美術。新海監督の作品を見て、普段見慣れた風景がこんなにも美しいものだったのかと感じた方は多いはずです。「天気の子」では、「君の名は。」で大きくフィーチャーされなかった雨と雲がさまざまなアプローチで描かれているほか、繁華街の裏路地やネットカフェ、主人公の帆高が働くことになる、元スナックを居抜きで使っている編集プロダクションなど、猥雑(わいざつ)な場所も舞台になっています。深夜だと終電を逃した人が多くいて、どこか淀んだ空気がただよっているイメージのあるネットカフェでさえ、「天気の子」では、自分だけの秘密基地であるかのようなワクワクした空間に見えてきます。これこそが新海作品ならではの“マジック”です。
 主人公が編プロで働く場面では、本田翼演じる年上のセクシーな先輩がいるファンタジー(?)をふくめ、雑然とした室内やデスクまわりまでもが魅力的に描かれていて、過去に何社か小さな出版社に勤めていたことのあるGは、そのマジックぶりに驚かされます。実際、出版社は綺麗なオフィスよりも紙にまみれた雑然とした感じのほうが落ち着くし、居心地がいいんですよね。予報(予告)でも印象的に描かれていた鳥居のある廃ビル屋上のシーンでは、みるみる晴れていく空だけでなく、つたの絡まった錆びた手すりや、陥没してところどころに雑草が生えているコンクリートまでもが美しく映ります。天気のように様々な顔を見せる繁華街の影の部分でさえ“朽ちた美学”を感じさせる魅力あるものとして見せてしまう。そんなマジックを随所で体験することができます。
 映像を見るとき、「これまで見たことがないもの」を見ることができて、「見ていてダレないこと」を個人的に重視している自分としては、前者はここまで述べてきたように存分に堪能でき(ヒロインの陽菜がかわいいのも素晴らしいです)、後者についても15分に一度笑えるようなポイントを用意したと新海監督がインタビューで語っていた緩急の妙によって113分の上映を楽しむことができました。新海作品の得意技ともいえる背景美術は、美麗だからといって背景ばかりを見せてしまうと、場合によっては映像的にダレてしまう怖れもあります。そこを突破している大きな要素が、「君の名は。」に続いてタッグを組んでいるRADWIMPSの音楽です。初期プロット段階から新海監督と密にコミュニケーションを重ねてつくられた楽曲群で登場人物の心情を代弁し、観客のボルテージを上げていく映像と音楽によるコラボレーションの無双ぶりは、通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃になるチートな深夜アニメのヒロインのように感じました。
 フィルモグラフィーを振り返ると、映像面だけでなく物語でも攻めてきたのが新海作品の特徴だと思います。それまで切ない別れや悲恋を描いてきた新海監督だからこそ、「君の名は。」でのハッピーエンドが往年のファンに意外性をもってうけとめられた部分もあったはずです。一方、「君の名は。」は過去作品のいいところどりの“ベスト盤”的な言われ方もされてきました。そんな前作をうけて、はたして「天気の子」ではどんな物語をとどけるのか。空前の大ヒットで、本来であれば新海作品を見ない観客にまで“誤配”され、絶賛から厳しい声までさまざまな感想にふれてきたであろう新海監督は、「天気の子」で賛否が別れるであろう“攻めた”結末を用意しています。その結末をどう受け止めたかを、仲間うちやSNSなどで語りあうところまでが本作の楽しみで、何回か見直すことで結末の受け止め方も変わってくるかもしれません。
 ……と、ここまでの文章は映画公開前に披露されたスペシャル予報(https://youtu.be/DdJXOvtNsCY)を見つつ、「天気の子」を特集した各雑誌やメディア向けプレスを読んで、「こんな感想をもてる作品だったらいいな」と思い浮かべたことを書いたものでした(いわゆる予定稿というやつです。スミマセン)。最速上映を見て感想が変わったら全面的に書き直すつもりでしたが、事前に期待していたものが十二分に詰まっていて、ほとんど修正していません。映像、物語、音楽、観客に伝えたいであろうこと――それらを全方向に思いきり振りきった、今見るべきエンタテインメントになっていると感じました。情報量がとにかく多くて見落としているところもある気がしていて、個人的にもう1回見ることは決定済みです。少しでも気になっている方はぜひ劇場へ! と強くお勧めします。(文:五所光太郎/アニメハック編集部)

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